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閉ざされた街
31 絶体絶命
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頭上から振り落とされた丸太のように太く巨大な魔族の腕をアルディアは横に転げることで辛うじて避けた。
正面から力で受け止める選択もあったが、今の自分には身体を護る鎧も愛用のメイスもない。纏っているのは薄絹のガウンだけだ。さすがの彼女も万全ではない状態で力押しに頼る気はなかった。
前回り受け身で距離を稼ぎアルディアは立ち上がろうとする。
だが、敵はそれ許さず、肥大した腕を使って追撃を仕掛ける。鉤爪の生えた指先が彼女の二の腕を切り裂き、血飛沫を舞い上がらせた。
「(峻厳(しゅんげん)なるユラント神よ! あなたの光をここに!)」
傷を負ったアルディアだが、それに構うことなく〝ホーリーライト〟を発動させる。
『あぐぁ!! 小癪な!!』
まともにユラント神の光を受けた怪物は白い表皮を燻らながら、悲鳴を上げて後退する。決定打にならないにしても〝ホーリーライト〟はここでも有効な対抗手段であることが判明する。
そして、その事実はスレイオンの身体が完全に魔族のものとなった証明でもあった。神の光は人体には無害であり、その身を焼くことはないのだ。
その事実にアルディアは様々な感情を昂ぶらせる。完全武装だったのならメイスを振り上げて攻勢に出ていたことだろう。その異形の姿から魔族はまだ完全に力を取り戻していないことは間違いない。今ここで撃ち滅ぼすべきなのだ。
『ユラントの小間使いが! これならばどうだ!』
決め手に掛けていたアルディアだったが、〝ホーリーライト〟は不完全な魔族にとっても痛手だったらしく直接攻撃を避けると魔族化した巨大な腕から卵のような白い球を幾つも零れ落とす。
それは床に落ちると同時に内側から膨れ上がり、質量を増しながら形を変える。僅か数秒で昨夜、自分達を襲撃した人間大の怪物となった。
『その者達は、我が喰らった人間の成れの果てだ! だから、いくらでも創り出すことが出来るぞ!』
脅しを掛けるつもりなのだろう。魔族は自らが創り出した眷属の由来をアルディアに聞かせる。あれ程の数の怪物達がどうやってハミルに現れたのかは一つの謎だったが、こうして本人の口から判明したわけだ。
「きしゃあぁぁぁ!!」
もっとも、この怪物達の正体については既にダレスから推測を聞かされている。今更驚きはしない、アルディアは心を鬼にして自分に群がる敵に奇声を上げながら体術を駆使して反撃に移る。
パンチや蹴りの打撃はもちろん、相手の身体を掴んで投げ飛ばし、踏みつけた。
一度は大多数の敵に不覚をとったが、あれは深夜の闇での出来事だ。明りが充分存在するこの時間ならば、彼女は存分に戦えた。
『ちょっま、お主・・・ユラント神の使いではないのか?! そやつらは、元は人間だったのだぞ!』
たった今創り出した眷属が瞬く間に倒されるのを見せられた魔族は、思念の声で驚きと呆れたようにアルディアに問い掛ける。その正体を聞かせたのも彼女の闘争心を抑制させるつもりだったのだろう。
「だからこそ、魔族の支配から解放させているのです!! うらあぁぁ!!」
魔族の問いに答えながらもアルディアは攻撃の手を緩めることなく、最後である十二体目の怪物を蹴り倒した。
『・・・まあ良い。最後は我の手でその身を引き裂くつもりでいたのだ!』
思惑が外れた魔族だったが、再び直接対決をアルディアに挑む。その動きは先程よりも数段素早かった。
「速い?!」
突き出された巨大な鉤爪を間一髪で避けたアルディアだが、魔族が眷属をけしかけたもう一つの意図を知る。
敵はスレイオンとの融合を進めるために時間を稼いでいたのである。良く見れば左腕も膨らみ始めている。敵は徐々に本来の力を取り戻しつつあるのだ。
『砕け散れ!』
「(神よ・・・)ぐはぁ!!」
再び〝ホーリーライト〟に頼ろうとしたアルディアだったが、魔族の咆哮とともに不可可視の衝撃波を受けて吹き飛ばされる。
床に倒れることは辛うじて気力で耐えたが、敵は追撃の手を緩めることなく、その巨大な手で遂にアルディアの身体を捕える。
もはや魔族は素手のアルディア一人で対抗出来る存在ではなくなっていた。
『ふふふ。仇敵の血族であり、ユラントの使者よ。今こそかつての恨みを晴らさせてもらうぞ!』
「うがあぁぁ!!」
アルディアは不敵な笑みを浮かべて自分の身体を締め付ける魔族に渾身の力で抵抗する。だが、身体中の骨が軋み、呼吸すらままならない。
「(ダレスさん・・・ミシャ・・・)」
アルディアは遠のく意識の中で仲間達の顔を思い浮かべる。そして、いずれ魔族と対決する彼らの助けになるため、少しでも敵に傷を与えようと唯一自由な口で敵に噛み付こうとした。
だが、その瞬間、アルディアは浮遊感と自分を苦しめる全身の痛みと圧迫感が急激に消えたのを知る。
最後の一撃すら許されずに絶命したのではないかと不安になる彼女だったが、知れずに堅く閉ざしていた瞼を意識的に開けた。
「助けに来たぞ! アルディア!!」
アルディアの青い瞳に映ったのは光輝く長剣で魔族の肥大化した右腕を切り落としたダレスの姿だった。
正面から力で受け止める選択もあったが、今の自分には身体を護る鎧も愛用のメイスもない。纏っているのは薄絹のガウンだけだ。さすがの彼女も万全ではない状態で力押しに頼る気はなかった。
前回り受け身で距離を稼ぎアルディアは立ち上がろうとする。
だが、敵はそれ許さず、肥大した腕を使って追撃を仕掛ける。鉤爪の生えた指先が彼女の二の腕を切り裂き、血飛沫を舞い上がらせた。
「(峻厳(しゅんげん)なるユラント神よ! あなたの光をここに!)」
傷を負ったアルディアだが、それに構うことなく〝ホーリーライト〟を発動させる。
『あぐぁ!! 小癪な!!』
まともにユラント神の光を受けた怪物は白い表皮を燻らながら、悲鳴を上げて後退する。決定打にならないにしても〝ホーリーライト〟はここでも有効な対抗手段であることが判明する。
そして、その事実はスレイオンの身体が完全に魔族のものとなった証明でもあった。神の光は人体には無害であり、その身を焼くことはないのだ。
その事実にアルディアは様々な感情を昂ぶらせる。完全武装だったのならメイスを振り上げて攻勢に出ていたことだろう。その異形の姿から魔族はまだ完全に力を取り戻していないことは間違いない。今ここで撃ち滅ぼすべきなのだ。
『ユラントの小間使いが! これならばどうだ!』
決め手に掛けていたアルディアだったが、〝ホーリーライト〟は不完全な魔族にとっても痛手だったらしく直接攻撃を避けると魔族化した巨大な腕から卵のような白い球を幾つも零れ落とす。
それは床に落ちると同時に内側から膨れ上がり、質量を増しながら形を変える。僅か数秒で昨夜、自分達を襲撃した人間大の怪物となった。
『その者達は、我が喰らった人間の成れの果てだ! だから、いくらでも創り出すことが出来るぞ!』
脅しを掛けるつもりなのだろう。魔族は自らが創り出した眷属の由来をアルディアに聞かせる。あれ程の数の怪物達がどうやってハミルに現れたのかは一つの謎だったが、こうして本人の口から判明したわけだ。
「きしゃあぁぁぁ!!」
もっとも、この怪物達の正体については既にダレスから推測を聞かされている。今更驚きはしない、アルディアは心を鬼にして自分に群がる敵に奇声を上げながら体術を駆使して反撃に移る。
パンチや蹴りの打撃はもちろん、相手の身体を掴んで投げ飛ばし、踏みつけた。
一度は大多数の敵に不覚をとったが、あれは深夜の闇での出来事だ。明りが充分存在するこの時間ならば、彼女は存分に戦えた。
『ちょっま、お主・・・ユラント神の使いではないのか?! そやつらは、元は人間だったのだぞ!』
たった今創り出した眷属が瞬く間に倒されるのを見せられた魔族は、思念の声で驚きと呆れたようにアルディアに問い掛ける。その正体を聞かせたのも彼女の闘争心を抑制させるつもりだったのだろう。
「だからこそ、魔族の支配から解放させているのです!! うらあぁぁ!!」
魔族の問いに答えながらもアルディアは攻撃の手を緩めることなく、最後である十二体目の怪物を蹴り倒した。
『・・・まあ良い。最後は我の手でその身を引き裂くつもりでいたのだ!』
思惑が外れた魔族だったが、再び直接対決をアルディアに挑む。その動きは先程よりも数段素早かった。
「速い?!」
突き出された巨大な鉤爪を間一髪で避けたアルディアだが、魔族が眷属をけしかけたもう一つの意図を知る。
敵はスレイオンとの融合を進めるために時間を稼いでいたのである。良く見れば左腕も膨らみ始めている。敵は徐々に本来の力を取り戻しつつあるのだ。
『砕け散れ!』
「(神よ・・・)ぐはぁ!!」
再び〝ホーリーライト〟に頼ろうとしたアルディアだったが、魔族の咆哮とともに不可可視の衝撃波を受けて吹き飛ばされる。
床に倒れることは辛うじて気力で耐えたが、敵は追撃の手を緩めることなく、その巨大な手で遂にアルディアの身体を捕える。
もはや魔族は素手のアルディア一人で対抗出来る存在ではなくなっていた。
『ふふふ。仇敵の血族であり、ユラントの使者よ。今こそかつての恨みを晴らさせてもらうぞ!』
「うがあぁぁ!!」
アルディアは不敵な笑みを浮かべて自分の身体を締め付ける魔族に渾身の力で抵抗する。だが、身体中の骨が軋み、呼吸すらままならない。
「(ダレスさん・・・ミシャ・・・)」
アルディアは遠のく意識の中で仲間達の顔を思い浮かべる。そして、いずれ魔族と対決する彼らの助けになるため、少しでも敵に傷を与えようと唯一自由な口で敵に噛み付こうとした。
だが、その瞬間、アルディアは浮遊感と自分を苦しめる全身の痛みと圧迫感が急激に消えたのを知る。
最後の一撃すら許されずに絶命したのではないかと不安になる彼女だったが、知れずに堅く閉ざしていた瞼を意識的に開けた。
「助けに来たぞ! アルディア!!」
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