その聖女、脳筋につき取扱注意!!

月暈シボ

文字の大きさ
43 / 47
閉ざされた街

43 決着

しおりを挟む
「ダレスさん!!」
「ああ!!」
 今回の主敵たる魔族を滅ぼしたダレスだったが、その余韻に浸る余裕はなかった。アルディアとともに壁に打ち付けられたミシャの元に駆けつける。
 一足先にミシャに辿り着いたアルディアが癒しの奇跡を施すが、それで彼女が目を覚ますことはなかった。
「ミシャ!! お、お願い起きて!!」
 アルディアは再び神に祈るが、それでミシャの猫のような鋭くも可愛らしい瞳が開き、顔色が良くなることはない。既に呼吸は止まっている。ミシャは死んでいた。
「ユ、ユラント神よ・・・あぁぁ・・・」
 更に神に癒しの奇跡を祈ろうとするアルディアだったが、流れ出る涙と嗚咽で〝神代の言語〟はおろか、まともな言葉すら発することは出来なくなっていた。
「大丈夫だ! アルディア! 俺がなんとかする!」
 泣きじゃくりながらミシャの亡骸を抱き締めるアルディアをダレスは更に纏めて抱きしめる。
 今、彼には神の力が宿っている。この力は決して多用するべき力ではない。だが、ダレスやアルディアのように神から特別な力を与えられたわけでもないのに、魔族との戦いに参戦し、力尽きたミシャを救うためならば、それは許されるはずだった。

『おお父よ! 秩序を齎す光よ! 神々の王たる存在よ!
 迷いし人の子を導く者よ! 正義を守護する者よ!
 あなたに慈悲の心があるのなら、
 この世の正義のためにか弱きながらも戦い命を落とした少女の眼に、
 今一度命の輝きを灯らせたまえ!』

 ダレスは自身の眼から流れ出る涙をそのままに、父なる神に真摯に訴える。
 いくら〝神の御子〟とはいえ死者を生き返らせることは自然の摂理に反することである。ユラント神が認めなければミシャの蘇生は不可能だ。
 彼は生まれて初めて一人の信者として父なる神に祈りを捧げた。

「・・・な、なんだ・・・ダレスか? 耳元でうるさいな! うわっなんだ! 顔が近い! 近過ぎるぞ!」
 抱きしめるミシャの亡骸が一瞬だけ暖かくなったかと思った時には、ダレスは彼女の声を聞いていた。その生意気で皮肉に満ちた口調は間違いなくミシャのものだ。
 ダレスの願いはユラント神に確かに聞き遂げられ、ミシャはその眼を開き、命の輝きを取り戻したのである。
 もっとも、本人には生き返った自覚はないのだろう。自身に抱き付いていたダレスを邪険し両手で押しのける。
「ああ、ミシャ!! 良かった!!」
「あ、アルディア様!! ああ・・・そうか、あたしは怪物にやられて意識を・・・ということはもう決着が?!」
 ダレスだけでなく主人のアルディアまでもが泣き顔で自分を抱き締めていたことで、ミシャは魔族との戦いが既に終焉したことを悟る。
「ええ、そう!! あなたは・・・」
「ああ、魔族は俺とアルディアで完全に倒した。これを成せたのもミシャ、お前の活躍があったからこそだ!!」
 アルディアが詳しい説明をミシャに施そうとするが、ダレスはそれを遮る。〝一度死んだ〟などと言われて嬉しい人間はいるわけはないし、ミシャに貸しを与えたくなかったのである。
 彼女が生き返ったのはユラント神がその働きを認めたからである。それで充分だった。
「そ、そうかな! へへへ・・・怪物に壁に叩きつけられた時は死んだと思ったけど、やっぱり、アルディア様の癒しの力は凄いな!」 
「ええ・・・ありがとう。ミシャ!」
 思っただけでなく本当に死んでいたのだが、アルディアもダレスの意図を理解しそれ以上の明言は避けた。
「ところで、あの魔族はどうやって倒したんだ!! 一番大事なところを見逃してしまった!」
「俺がこの剣の本質を解放して倒した」
 ミシャの問いにダレスは〝審判の剣〟を示して簡潔に答える。既に剣は光を失い、業物ではあるが物理的な存在にしか見えない。
「ああ?! まだ力を隠していたのかよ! だったら直ぐに使えよ!!」
「思い出せミシャ、魔族は魔法陣で力を増していただろ? こっちの〝切り札〟を見せて討ち漏らしたら、勝てる見込みがなくなる。出し惜しみしたわけはじゃない! それにしても身体は大丈夫か?」
「・・・まあ、確かにそうだな・・・身体は大丈夫だ・・・心配かけて悪かったよ・・・」
 自身が意識を失っていた、正確には死んでいた間の出来事を把握したことで、ミシャは納得する。次いでダレスの問いに照れた様子で答える。
 彼の顔には涙に痕がはっきり残っている、それは自分を心配して流した涙に違いない。口では文句を言いながらも、ミシャはそれが嬉しかったのだ。
「じゃあ、地上に戻ろう!! 魔族を倒したが、まだ街の解放と再建が残っているからな!!」
「はい!!」
「おう!!」
 ダレスの呼び掛けにアルディアとミシャは満面の笑みで答えるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処理中です...