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閉ざされた街
43 決着
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「ダレスさん!!」
「ああ!!」
今回の主敵たる魔族を滅ぼしたダレスだったが、その余韻に浸る余裕はなかった。アルディアとともに壁に打ち付けられたミシャの元に駆けつける。
一足先にミシャに辿り着いたアルディアが癒しの奇跡を施すが、それで彼女が目を覚ますことはなかった。
「ミシャ!! お、お願い起きて!!」
アルディアは再び神に祈るが、それでミシャの猫のような鋭くも可愛らしい瞳が開き、顔色が良くなることはない。既に呼吸は止まっている。ミシャは死んでいた。
「ユ、ユラント神よ・・・あぁぁ・・・」
更に神に癒しの奇跡を祈ろうとするアルディアだったが、流れ出る涙と嗚咽で〝神代の言語〟はおろか、まともな言葉すら発することは出来なくなっていた。
「大丈夫だ! アルディア! 俺がなんとかする!」
泣きじゃくりながらミシャの亡骸を抱き締めるアルディアをダレスは更に纏めて抱きしめる。
今、彼には神の力が宿っている。この力は決して多用するべき力ではない。だが、ダレスやアルディアのように神から特別な力を与えられたわけでもないのに、魔族との戦いに参戦し、力尽きたミシャを救うためならば、それは許されるはずだった。
『おお父よ! 秩序を齎す光よ! 神々の王たる存在よ!
迷いし人の子を導く者よ! 正義を守護する者よ!
あなたに慈悲の心があるのなら、
この世の正義のためにか弱きながらも戦い命を落とした少女の眼に、
今一度命の輝きを灯らせたまえ!』
ダレスは自身の眼から流れ出る涙をそのままに、父なる神に真摯に訴える。
いくら〝神の御子〟とはいえ死者を生き返らせることは自然の摂理に反することである。ユラント神が認めなければミシャの蘇生は不可能だ。
彼は生まれて初めて一人の信者として父なる神に祈りを捧げた。
「・・・な、なんだ・・・ダレスか? 耳元でうるさいな! うわっなんだ! 顔が近い! 近過ぎるぞ!」
抱きしめるミシャの亡骸が一瞬だけ暖かくなったかと思った時には、ダレスは彼女の声を聞いていた。その生意気で皮肉に満ちた口調は間違いなくミシャのものだ。
ダレスの願いはユラント神に確かに聞き遂げられ、ミシャはその眼を開き、命の輝きを取り戻したのである。
もっとも、本人には生き返った自覚はないのだろう。自身に抱き付いていたダレスを邪険し両手で押しのける。
「ああ、ミシャ!! 良かった!!」
「あ、アルディア様!! ああ・・・そうか、あたしは怪物にやられて意識を・・・ということはもう決着が?!」
ダレスだけでなく主人のアルディアまでもが泣き顔で自分を抱き締めていたことで、ミシャは魔族との戦いが既に終焉したことを悟る。
「ええ、そう!! あなたは・・・」
「ああ、魔族は俺とアルディアで完全に倒した。これを成せたのもミシャ、お前の活躍があったからこそだ!!」
アルディアが詳しい説明をミシャに施そうとするが、ダレスはそれを遮る。〝一度死んだ〟などと言われて嬉しい人間はいるわけはないし、ミシャに貸しを与えたくなかったのである。
彼女が生き返ったのはユラント神がその働きを認めたからである。それで充分だった。
「そ、そうかな! へへへ・・・怪物に壁に叩きつけられた時は死んだと思ったけど、やっぱり、アルディア様の癒しの力は凄いな!」
「ええ・・・ありがとう。ミシャ!」
思っただけでなく本当に死んでいたのだが、アルディアもダレスの意図を理解しそれ以上の明言は避けた。
「ところで、あの魔族はどうやって倒したんだ!! 一番大事なところを見逃してしまった!」
「俺がこの剣の本質を解放して倒した」
ミシャの問いにダレスは〝審判の剣〟を示して簡潔に答える。既に剣は光を失い、業物ではあるが物理的な存在にしか見えない。
「ああ?! まだ力を隠していたのかよ! だったら直ぐに使えよ!!」
「思い出せミシャ、魔族は魔法陣で力を増していただろ? こっちの〝切り札〟を見せて討ち漏らしたら、勝てる見込みがなくなる。出し惜しみしたわけはじゃない! それにしても身体は大丈夫か?」
「・・・まあ、確かにそうだな・・・身体は大丈夫だ・・・心配かけて悪かったよ・・・」
自身が意識を失っていた、正確には死んでいた間の出来事を把握したことで、ミシャは納得する。次いでダレスの問いに照れた様子で答える。
彼の顔には涙に痕がはっきり残っている、それは自分を心配して流した涙に違いない。口では文句を言いながらも、ミシャはそれが嬉しかったのだ。
「じゃあ、地上に戻ろう!! 魔族を倒したが、まだ街の解放と再建が残っているからな!!」
「はい!!」
「おう!!」
ダレスの呼び掛けにアルディアとミシャは満面の笑みで答えるのだった。
「ああ!!」
今回の主敵たる魔族を滅ぼしたダレスだったが、その余韻に浸る余裕はなかった。アルディアとともに壁に打ち付けられたミシャの元に駆けつける。
一足先にミシャに辿り着いたアルディアが癒しの奇跡を施すが、それで彼女が目を覚ますことはなかった。
「ミシャ!! お、お願い起きて!!」
アルディアは再び神に祈るが、それでミシャの猫のような鋭くも可愛らしい瞳が開き、顔色が良くなることはない。既に呼吸は止まっている。ミシャは死んでいた。
「ユ、ユラント神よ・・・あぁぁ・・・」
更に神に癒しの奇跡を祈ろうとするアルディアだったが、流れ出る涙と嗚咽で〝神代の言語〟はおろか、まともな言葉すら発することは出来なくなっていた。
「大丈夫だ! アルディア! 俺がなんとかする!」
泣きじゃくりながらミシャの亡骸を抱き締めるアルディアをダレスは更に纏めて抱きしめる。
今、彼には神の力が宿っている。この力は決して多用するべき力ではない。だが、ダレスやアルディアのように神から特別な力を与えられたわけでもないのに、魔族との戦いに参戦し、力尽きたミシャを救うためならば、それは許されるはずだった。
『おお父よ! 秩序を齎す光よ! 神々の王たる存在よ!
迷いし人の子を導く者よ! 正義を守護する者よ!
あなたに慈悲の心があるのなら、
この世の正義のためにか弱きながらも戦い命を落とした少女の眼に、
今一度命の輝きを灯らせたまえ!』
ダレスは自身の眼から流れ出る涙をそのままに、父なる神に真摯に訴える。
いくら〝神の御子〟とはいえ死者を生き返らせることは自然の摂理に反することである。ユラント神が認めなければミシャの蘇生は不可能だ。
彼は生まれて初めて一人の信者として父なる神に祈りを捧げた。
「・・・な、なんだ・・・ダレスか? 耳元でうるさいな! うわっなんだ! 顔が近い! 近過ぎるぞ!」
抱きしめるミシャの亡骸が一瞬だけ暖かくなったかと思った時には、ダレスは彼女の声を聞いていた。その生意気で皮肉に満ちた口調は間違いなくミシャのものだ。
ダレスの願いはユラント神に確かに聞き遂げられ、ミシャはその眼を開き、命の輝きを取り戻したのである。
もっとも、本人には生き返った自覚はないのだろう。自身に抱き付いていたダレスを邪険し両手で押しのける。
「ああ、ミシャ!! 良かった!!」
「あ、アルディア様!! ああ・・・そうか、あたしは怪物にやられて意識を・・・ということはもう決着が?!」
ダレスだけでなく主人のアルディアまでもが泣き顔で自分を抱き締めていたことで、ミシャは魔族との戦いが既に終焉したことを悟る。
「ええ、そう!! あなたは・・・」
「ああ、魔族は俺とアルディアで完全に倒した。これを成せたのもミシャ、お前の活躍があったからこそだ!!」
アルディアが詳しい説明をミシャに施そうとするが、ダレスはそれを遮る。〝一度死んだ〟などと言われて嬉しい人間はいるわけはないし、ミシャに貸しを与えたくなかったのである。
彼女が生き返ったのはユラント神がその働きを認めたからである。それで充分だった。
「そ、そうかな! へへへ・・・怪物に壁に叩きつけられた時は死んだと思ったけど、やっぱり、アルディア様の癒しの力は凄いな!」
「ええ・・・ありがとう。ミシャ!」
思っただけでなく本当に死んでいたのだが、アルディアもダレスの意図を理解しそれ以上の明言は避けた。
「ところで、あの魔族はどうやって倒したんだ!! 一番大事なところを見逃してしまった!」
「俺がこの剣の本質を解放して倒した」
ミシャの問いにダレスは〝審判の剣〟を示して簡潔に答える。既に剣は光を失い、業物ではあるが物理的な存在にしか見えない。
「ああ?! まだ力を隠していたのかよ! だったら直ぐに使えよ!!」
「思い出せミシャ、魔族は魔法陣で力を増していただろ? こっちの〝切り札〟を見せて討ち漏らしたら、勝てる見込みがなくなる。出し惜しみしたわけはじゃない! それにしても身体は大丈夫か?」
「・・・まあ、確かにそうだな・・・身体は大丈夫だ・・・心配かけて悪かったよ・・・」
自身が意識を失っていた、正確には死んでいた間の出来事を把握したことで、ミシャは納得する。次いでダレスの問いに照れた様子で答える。
彼の顔には涙に痕がはっきり残っている、それは自分を心配して流した涙に違いない。口では文句を言いながらも、ミシャはそれが嬉しかったのだ。
「じゃあ、地上に戻ろう!! 魔族を倒したが、まだ街の解放と再建が残っているからな!!」
「はい!!」
「おう!!」
ダレスの呼び掛けにアルディアとミシャは満面の笑みで答えるのだった。
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