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消えた靴と学園の謎
その6
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「教師達も管理部から報告を受けて、この事件について注目を始めたようだ」
「うん。さっきモンロー・・・横山先生も注意していたね。ただ、まだ連続した窃盗事件なのか、たまたま靴の紛失が重なっただけなのか、見守っているって感じかな?」
レイの意見に同意しながらもユウジは自分なりの解釈を口にする。既に二人は教室を離れ、体育館に繋がる渡り廊下を歩いていた。放課後となり、約束どおり靴事件の捜査を開始したのである。
女子バレー部に所属する被害者の一人に会いに行く途中なのだが、運動部に所属する生徒は、まずは部室か更衣室に向うので、現在ところ廊下を使用しているのは彼らだけである。そのため、事件について相談をするなら今だと思ったのだろう。レイは壁側に拠ると足を止めてユウジに向き合った。
「ああ、具体的なことは言わずに身辺の警告だけに留めていたな。あるいは下手に詳しく生徒達に教えると模倣犯が出ると判断したのかもしれない」
「模倣犯・・・」
「まあ、ここの生徒か職員に女子生徒の靴を盗むような人間が何人もいるとは思いたくないが、そんな事件が多発していると知ったら真似をする者も現れるかもしれない。学園側は様々な事態を想定しているのだろう」
「なるほど」
レイの補足をしたつもりだったが、彼女はユウジ以上に横山から伝えられた警告の意味を分析していたようだ。
「それと、もう一つ意味があって学園側は既に一連の出来事を把握しているから、これ以上はやるな! という犯人へのメッセージも含まれているのかもしれない」
更にレイは新たな推測を指摘する。
「・・・ああ、確かに事情を知る者からすれば、そういう意味にも取れる。釘を刺したわけだ」
「そうだ。このまま被害が増えるようなことがあれば、学園側も本気で対処、すなわち再犯を防ぐために事件を解決しなければならないが、今の段階では三人の靴が紛失しただけだ。偶然で片付けるのは難しいが、学園レベルで取り上げる問題にはまだ弱いとも言える。犯人が先程の警告の意味を汲んでこれ以上の犯行を断念すれば、稀に起きる紛失として学園内で起った窃盗事件を公にしなくて済む」
「だから自分で・・・いや、俺達で解決するわけだ!」
ここまでレイが考えていたとはユウジにとっては想定外だったが、彼女が今回の捜査を始めた理由の一つは学園側に任せていると、事件そのものを隠蔽される可能性があるかららしい。
「ああ。まあ、醜聞を隠したい学園側の態度も理解出来ないわけではないが、被害者である私としては靴を取り返したいし、何より・・・」
「良い暇つぶしになる?」
「そう! さすがだユウジ。やはり君は私の理解者になってくれそうだ。誘って正解だった!」
ユウジとしては、なんとなくレイが言いそうな台詞を代弁したつもりだったが、彼女は満足そうな笑顔を浮かべる。
レイと友達と呼べるような間柄になったのは昨日からだったが、これまでのやりとりでユウジは〝麻峰レイ〟という人物が持つ一貫した価値観には気付いていた。レイは好奇心の強い変わり者なのだ。
「そんなことないって! へへへ」
例え変わり者でも美少女から褒められて嬉しくないはずはなく、ユウジは顔の筋肉を伸びきったゴムのように緩ませる。
「謙遜することはないぞ、ユウジ。実は私は君が転入してきた時から、なんとなく違和感を覚えていたんだ。君は一見すると平凡な男子生徒だ。特に背が高いわけでもイケメンでもなく、成績も並程度。クラス内で目立ったことはしないが、かといってコミュニケーションが取れないほどの根暗ってわけでもない。どこにでもいる、いわゆる普通の男子。だが、ここまで普通だとワザとその程度に抑えているように思えるんだ。平均より低い者が平均のフリをすることは出来ないが、その逆なら・・・。ふふふ、後は言いたいことがわかるだろう?」
「そんな、買いか・・・いや、良くぞ見抜いた! だが、その勘の良さが身を滅ぼすことになるとは思わなかった・・・のか・・・ははは」
以前から自分に対して注目を向けていたというレイの告白と予想外な指摘にユウジは戸惑うが、機転を利かせて彼女に相応しい冗談を口にする。
「ふふふ。なかなか上手い返しだが、途中で笑ってしまっては台無しだな」
「この辺が俺の限界みたいだ。何しろ、普通程度の男子だからね」
「ん? もしかして気分を悪くしてしまったか? 私としては冗談交じりとはいえユウジに親愛の情を示したつもりなのだが」
本気か冗談なのか区別が難しいレイの指摘だったが、どうやら後者であったことが判明する。何事にも裏があると考える彼女からすると、ユウジのような平凡な生徒は逆に怪しく感じられるようだ。もっとも、本人も自身が裏読みし過ぎることは自覚しており、それを冗談に使ったのだろう。
「いや、ちょっと皮肉っただけさ。俺としてはどんな理由でもあさみ・・・レイに気に入られて嬉しいよ。こんなに早く名前で呼び合える女子の友達が出来るとは思わなかったからね!」
ユウジはレイに誤解であることを告げると、大胆だと思いながらも彼女を下の名前で呼ぶ。既にレイ側は〝ユウジ〟と呼び捨てている。対等な関係を築くにはそれが相応しいと思えたのだ。
「なるほど・・・思春期の男子らしい発想だ。やはりユウジは平凡さに抜け目がないな。そこが面白い。ふふふ」
どうやら裏読みの誤解は完全に抜け切れていないらしく、レイはユウジを見つめながら僅かに口角を上げて含み笑いを漏らす。
ユウジとしてはレイの『平凡さに抜け目がない』という、これまでの人生で初めて聞かされた概念に一瞬だけ気を捕らわれたが、名前の呼び捨てを受け入れてくれた事実がそれを忘れさせた。美少女とそんな仲になれたのである。100メートルくらいスキップしたい気分だ。
「じゃ、そろそろ移動しよう。部活が始まる前に被害者から話を聞きたいからな」
レイとの会話は楽しいが、物事には優先順位が存在する。部活が始まってから話を聞こうとしても邪魔者扱いされるだけだ。迷惑にならないようにするには開始前の僅かな時間を狙うしかない。
「わ、わかった!」
ユウジは内心の興奮を隠しながら既に歩き始めているレイの後に続いた。
「うん。さっきモンロー・・・横山先生も注意していたね。ただ、まだ連続した窃盗事件なのか、たまたま靴の紛失が重なっただけなのか、見守っているって感じかな?」
レイの意見に同意しながらもユウジは自分なりの解釈を口にする。既に二人は教室を離れ、体育館に繋がる渡り廊下を歩いていた。放課後となり、約束どおり靴事件の捜査を開始したのである。
女子バレー部に所属する被害者の一人に会いに行く途中なのだが、運動部に所属する生徒は、まずは部室か更衣室に向うので、現在ところ廊下を使用しているのは彼らだけである。そのため、事件について相談をするなら今だと思ったのだろう。レイは壁側に拠ると足を止めてユウジに向き合った。
「ああ、具体的なことは言わずに身辺の警告だけに留めていたな。あるいは下手に詳しく生徒達に教えると模倣犯が出ると判断したのかもしれない」
「模倣犯・・・」
「まあ、ここの生徒か職員に女子生徒の靴を盗むような人間が何人もいるとは思いたくないが、そんな事件が多発していると知ったら真似をする者も現れるかもしれない。学園側は様々な事態を想定しているのだろう」
「なるほど」
レイの補足をしたつもりだったが、彼女はユウジ以上に横山から伝えられた警告の意味を分析していたようだ。
「それと、もう一つ意味があって学園側は既に一連の出来事を把握しているから、これ以上はやるな! という犯人へのメッセージも含まれているのかもしれない」
更にレイは新たな推測を指摘する。
「・・・ああ、確かに事情を知る者からすれば、そういう意味にも取れる。釘を刺したわけだ」
「そうだ。このまま被害が増えるようなことがあれば、学園側も本気で対処、すなわち再犯を防ぐために事件を解決しなければならないが、今の段階では三人の靴が紛失しただけだ。偶然で片付けるのは難しいが、学園レベルで取り上げる問題にはまだ弱いとも言える。犯人が先程の警告の意味を汲んでこれ以上の犯行を断念すれば、稀に起きる紛失として学園内で起った窃盗事件を公にしなくて済む」
「だから自分で・・・いや、俺達で解決するわけだ!」
ここまでレイが考えていたとはユウジにとっては想定外だったが、彼女が今回の捜査を始めた理由の一つは学園側に任せていると、事件そのものを隠蔽される可能性があるかららしい。
「ああ。まあ、醜聞を隠したい学園側の態度も理解出来ないわけではないが、被害者である私としては靴を取り返したいし、何より・・・」
「良い暇つぶしになる?」
「そう! さすがだユウジ。やはり君は私の理解者になってくれそうだ。誘って正解だった!」
ユウジとしては、なんとなくレイが言いそうな台詞を代弁したつもりだったが、彼女は満足そうな笑顔を浮かべる。
レイと友達と呼べるような間柄になったのは昨日からだったが、これまでのやりとりでユウジは〝麻峰レイ〟という人物が持つ一貫した価値観には気付いていた。レイは好奇心の強い変わり者なのだ。
「そんなことないって! へへへ」
例え変わり者でも美少女から褒められて嬉しくないはずはなく、ユウジは顔の筋肉を伸びきったゴムのように緩ませる。
「謙遜することはないぞ、ユウジ。実は私は君が転入してきた時から、なんとなく違和感を覚えていたんだ。君は一見すると平凡な男子生徒だ。特に背が高いわけでもイケメンでもなく、成績も並程度。クラス内で目立ったことはしないが、かといってコミュニケーションが取れないほどの根暗ってわけでもない。どこにでもいる、いわゆる普通の男子。だが、ここまで普通だとワザとその程度に抑えているように思えるんだ。平均より低い者が平均のフリをすることは出来ないが、その逆なら・・・。ふふふ、後は言いたいことがわかるだろう?」
「そんな、買いか・・・いや、良くぞ見抜いた! だが、その勘の良さが身を滅ぼすことになるとは思わなかった・・・のか・・・ははは」
以前から自分に対して注目を向けていたというレイの告白と予想外な指摘にユウジは戸惑うが、機転を利かせて彼女に相応しい冗談を口にする。
「ふふふ。なかなか上手い返しだが、途中で笑ってしまっては台無しだな」
「この辺が俺の限界みたいだ。何しろ、普通程度の男子だからね」
「ん? もしかして気分を悪くしてしまったか? 私としては冗談交じりとはいえユウジに親愛の情を示したつもりなのだが」
本気か冗談なのか区別が難しいレイの指摘だったが、どうやら後者であったことが判明する。何事にも裏があると考える彼女からすると、ユウジのような平凡な生徒は逆に怪しく感じられるようだ。もっとも、本人も自身が裏読みし過ぎることは自覚しており、それを冗談に使ったのだろう。
「いや、ちょっと皮肉っただけさ。俺としてはどんな理由でもあさみ・・・レイに気に入られて嬉しいよ。こんなに早く名前で呼び合える女子の友達が出来るとは思わなかったからね!」
ユウジはレイに誤解であることを告げると、大胆だと思いながらも彼女を下の名前で呼ぶ。既にレイ側は〝ユウジ〟と呼び捨てている。対等な関係を築くにはそれが相応しいと思えたのだ。
「なるほど・・・思春期の男子らしい発想だ。やはりユウジは平凡さに抜け目がないな。そこが面白い。ふふふ」
どうやら裏読みの誤解は完全に抜け切れていないらしく、レイはユウジを見つめながら僅かに口角を上げて含み笑いを漏らす。
ユウジとしてはレイの『平凡さに抜け目がない』という、これまでの人生で初めて聞かされた概念に一瞬だけ気を捕らわれたが、名前の呼び捨てを受け入れてくれた事実がそれを忘れさせた。美少女とそんな仲になれたのである。100メートルくらいスキップしたい気分だ。
「じゃ、そろそろ移動しよう。部活が始まる前に被害者から話を聞きたいからな」
レイとの会話は楽しいが、物事には優先順位が存在する。部活が始まってから話を聞こうとしても邪魔者扱いされるだけだ。迷惑にならないようにするには開始前の僅かな時間を狙うしかない。
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