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最終話
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厳しい帰路になると思われたが、レイガル達は想定していた窮地に陥るようなことは一度も至らなかった。これは一度別れたムーブル達と合流が出来たためだ。彼らは〝神秘の渦〟の広間が崩壊した衝撃を知ると、陣営に関わらず生存者を救助しようと駆けつけて来たのだ。この時、ついでとばかりにアシュマード達も回収している。
生き残った者の胸に秘めた思いは様々であったはずだが、地上に生きて戻るという共通の目的とリシアが健在だったこともあり。彼らは大きな諍いを起こすことなく地上への帰還を果たしたのだった。
結果的にレイガル達にその命を助けられることになったリシアは、これまでの経緯を知るとコリンを糾弾するとともに自分を救ったレイガル達に礼を伝え、褒美を約束した。
父親とアシュマード、更には弟の双方から裏切られ利用された事実は彼女の心にも大きな傷を与えたに違いなかったが、自分を救うことになったレイガル達に感謝を忘れることはなかったのだ。
いずれにしても彼らは地上に戻ることで後始末を片付け、それぞれが負った悲しみや衝撃に向き合う時間を持つに至った。
「・・・リシア、いやリシア様があのムーブルと結婚するそうよ。それにコリンは王都の修道院に入れられることになったみたい。事実上の追放だけど、彼の年齢を考えると妥当な処分よね。そして今まで二つに分けられていた冒険者ギルドを統一して、いよいよ街を巻き込んだ対立に決着を付けるようね」
拠点としている宿屋の食堂を兼ねた酒場でエスティがレイガルに語り掛ける。地上に戻って一週間の月日が流れていたが、彼はメルシアを喪失した痛みを未だに酒の力で薄めようとしていた。
「ムーブルが?・・・いや、あいつなら領主を支える良い夫となるだろうな・・・」
リシアの伴侶となるムーブルはこの街の冒険者からすれば、一番の勝ち馬に乗った存在と言える。それでも彼は妬むことなく祝福する気分でいた。あの小柄な盗賊は影に徹しながらもリシアの身を案じていたし、人間性にも偏ったところはない有能な男と認めていたからだ。また彼にはエスティがいる。
「それで・・・レイガルあなたはこれからどうする?」
納得して頷くレイガルにエスティはさりげなく問いかける。どうやらこれが本題のようだった。彼らはリシアから相当な褒美を賜わっている。これを元手にワイン農園でも購入すれば、命を賭けた冒険とは無縁の安定した生活を送れるだろう。
「そうだな・・・いつまでも・・・酒に逃げるわけにはいかないからな。エ、エスティが良ければ・・・俺達も一緒にな・・・」
「・・・ちょっと・・・嘘でしょ!!」
恥ずかしさから顔を伏せてエスティを口説くレイガルだが、彼女の戸惑いを隠すことのない言葉に期待を裏切られた思いで顔を上げる。まさかこの場面でこれほど拒否されるとは思っていなかったからだ。
だが、エスティの視線は宿屋の出入口に向けられていた。反射的にレイガルもそちらに顔を向けると、そこには粗末なマントを羽織った若い女性の姿があった。
「・・・嘘だろ!!」
レイガルはエスティと同じように口を閉じるのも忘れて叫んでいた。
「あんた、メルシアよね?!」
「どうなっているんだ!あの時、確かに俺はメルシアの遺体を!!」
二人はテーブルから飛び立つようにしてメルシアの姿をした女性を取り囲むと、相次いで質問を浴びせる。騒ぎ立てる彼らを何事かと宿の客や店員が怪訝な目で見るがお構いなしだ。
「えっと・・・実はですね。〝神秘の渦〟を使用する際に・・・私はレイガルにエスティの回復と〝神秘の渦〟そのものの機能停止を願うとお伝えしたのですが・・・直前にもう一つ、自分の姿と記憶を他の守護者の身体に転生するよう・・・三つ目の願いも追加したのです。そして、街・・・いえ遺跡の中で新たな肉体を得て、こうして地上に戻ることが出来ました・・・」
「・・・もう!ちゃっかりしているわね!あんた!!」
「ああ、エスティ!マントの下には何も身に付けていないので、抱き付かれると裸を曝け出してしまいます。私も羞恥心は学んでいますので困ります!」
「なんで事前に伝えてくれなかったんだ!!知っていたら迎えに行ったのに!!」
「・・・私自身も死を覚悟して・・・三つも願いを成就させられるとは思っていなかったのです! 申し訳ありません・・・」
憤ったような声で問うレイガルにメルシアは困ったような表情を浮かべる。
「いや、怒っているんじゃない!!嬉しいんだ!!」
レイガルはエスティと共にメルシアを抱き締める。
「とりあえず、あたしの服を貸してあげるから。今日は再会を祝してとことん飲みましょう!!」
「・・・ありがとうございます・・・エスティ、レイガル!!」
「ああ、浴びるほど飲むぞ!」
レイガルはエスティの提案に同意すると、心の底から湧き上がる喜びを二人の仲間に向けて振り撒いた。
遺跡の街 その地下には宝と名誉そして陰謀が眠っている 終幕
生き残った者の胸に秘めた思いは様々であったはずだが、地上に生きて戻るという共通の目的とリシアが健在だったこともあり。彼らは大きな諍いを起こすことなく地上への帰還を果たしたのだった。
結果的にレイガル達にその命を助けられることになったリシアは、これまでの経緯を知るとコリンを糾弾するとともに自分を救ったレイガル達に礼を伝え、褒美を約束した。
父親とアシュマード、更には弟の双方から裏切られ利用された事実は彼女の心にも大きな傷を与えたに違いなかったが、自分を救うことになったレイガル達に感謝を忘れることはなかったのだ。
いずれにしても彼らは地上に戻ることで後始末を片付け、それぞれが負った悲しみや衝撃に向き合う時間を持つに至った。
「・・・リシア、いやリシア様があのムーブルと結婚するそうよ。それにコリンは王都の修道院に入れられることになったみたい。事実上の追放だけど、彼の年齢を考えると妥当な処分よね。そして今まで二つに分けられていた冒険者ギルドを統一して、いよいよ街を巻き込んだ対立に決着を付けるようね」
拠点としている宿屋の食堂を兼ねた酒場でエスティがレイガルに語り掛ける。地上に戻って一週間の月日が流れていたが、彼はメルシアを喪失した痛みを未だに酒の力で薄めようとしていた。
「ムーブルが?・・・いや、あいつなら領主を支える良い夫となるだろうな・・・」
リシアの伴侶となるムーブルはこの街の冒険者からすれば、一番の勝ち馬に乗った存在と言える。それでも彼は妬むことなく祝福する気分でいた。あの小柄な盗賊は影に徹しながらもリシアの身を案じていたし、人間性にも偏ったところはない有能な男と認めていたからだ。また彼にはエスティがいる。
「それで・・・レイガルあなたはこれからどうする?」
納得して頷くレイガルにエスティはさりげなく問いかける。どうやらこれが本題のようだった。彼らはリシアから相当な褒美を賜わっている。これを元手にワイン農園でも購入すれば、命を賭けた冒険とは無縁の安定した生活を送れるだろう。
「そうだな・・・いつまでも・・・酒に逃げるわけにはいかないからな。エ、エスティが良ければ・・・俺達も一緒にな・・・」
「・・・ちょっと・・・嘘でしょ!!」
恥ずかしさから顔を伏せてエスティを口説くレイガルだが、彼女の戸惑いを隠すことのない言葉に期待を裏切られた思いで顔を上げる。まさかこの場面でこれほど拒否されるとは思っていなかったからだ。
だが、エスティの視線は宿屋の出入口に向けられていた。反射的にレイガルもそちらに顔を向けると、そこには粗末なマントを羽織った若い女性の姿があった。
「・・・嘘だろ!!」
レイガルはエスティと同じように口を閉じるのも忘れて叫んでいた。
「あんた、メルシアよね?!」
「どうなっているんだ!あの時、確かに俺はメルシアの遺体を!!」
二人はテーブルから飛び立つようにしてメルシアの姿をした女性を取り囲むと、相次いで質問を浴びせる。騒ぎ立てる彼らを何事かと宿の客や店員が怪訝な目で見るがお構いなしだ。
「えっと・・・実はですね。〝神秘の渦〟を使用する際に・・・私はレイガルにエスティの回復と〝神秘の渦〟そのものの機能停止を願うとお伝えしたのですが・・・直前にもう一つ、自分の姿と記憶を他の守護者の身体に転生するよう・・・三つ目の願いも追加したのです。そして、街・・・いえ遺跡の中で新たな肉体を得て、こうして地上に戻ることが出来ました・・・」
「・・・もう!ちゃっかりしているわね!あんた!!」
「ああ、エスティ!マントの下には何も身に付けていないので、抱き付かれると裸を曝け出してしまいます。私も羞恥心は学んでいますので困ります!」
「なんで事前に伝えてくれなかったんだ!!知っていたら迎えに行ったのに!!」
「・・・私自身も死を覚悟して・・・三つも願いを成就させられるとは思っていなかったのです! 申し訳ありません・・・」
憤ったような声で問うレイガルにメルシアは困ったような表情を浮かべる。
「いや、怒っているんじゃない!!嬉しいんだ!!」
レイガルはエスティと共にメルシアを抱き締める。
「とりあえず、あたしの服を貸してあげるから。今日は再会を祝してとことん飲みましょう!!」
「・・・ありがとうございます・・・エスティ、レイガル!!」
「ああ、浴びるほど飲むぞ!」
レイガルはエスティの提案に同意すると、心の底から湧き上がる喜びを二人の仲間に向けて振り撒いた。
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