スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

文字の大きさ
8 / 56

その8

しおりを挟む
「あのババア、とんでもない敵を押し付けてきやがったわ!」
 珍しくミリアが口汚く罵った。絡んで来たチンピラを叩きのめした時でさえ彼女は悪態を吐くことはなかったが、今回についてはよっぽど腹に据えかねたらしい。
 支部長との面会を終えたサージとミリアの二人は、客室の一つに集まっていた。ギルドが宿屋に擬態しているのはメンバーに充分な衣食住を提供するためでもある。旅路と戦闘で疲れた身体を癒して、次の任務を万全の体勢で取り組んでもらうためだ。
 そして客室は親しい仲間同士で内密の相談をする場所でもあった。秘密組織として結束の固い〝スレイヤー・ギルド〟だったが、それでも人間の集まりである。大局ならば一致しても細かいところでは判断に差が出ることがある。それを発散させる場所が必要だった。

「とんでもないとは〝緋色のジェダ〟のことだな?」
 ミリアの不満にサージは悠然と指摘する。どうやら〝緋色のジェダ〟とは彼女が難敵と認めるほどの実力を持っているらしい。サージとしては願ってもない展開だ。
「ええ、そう。この地方・・・いえ、この国で最も危険な〝混沌の僕〟よ。本来なら候補生の試験で討伐するような相手ではなく、本部とも連絡を取り、支部の総力を挙げて、やっと討伐するような相手だわ!」
「ほう・・・それは楽しみだな」
「悪いけど、そんな単純じゃないのよ。〝混沌の僕〟の中は表向きの立場を持っている者もいるって言ったでしょ! まさに〝緋色のジェダ〟はそれ! こいつはこの国、シュテム王国の貴族でもあるの。表向きにはジェダ伯爵と呼ばれているわ!」
「そういうことか・・・爵位持ちを殺すのは・・・たぶん初めてだ。わくわくするな!」
 ミリアは興奮を隠さないサージを窘めようとするが、むしろ逆効果のようだった。
「サージ、あなたの実力は疑わないけど・・・貴族の称号を持つ者を殺害すれば、ただでは済まないわ! 下手をすると、この王国そのものと敵対する可能性がある。だから、ギルドも迂闊に手を出せないでいたのよ。あのババアもそれを知っているから、あなたと私にギブアップさせて、ギルド加入を断念させるつもりなのよ!」
「・・・ああ、やはりそんなカラクリがあったのだな・・・国一つを潰す覚悟がいるというわけか。ふふふ、それで俺が怖気づくと・・・むしろ、俺からすれば怪物を貴族にするような国など滅んで良いんだがな!」
 サージは理解したとばかり頷くが。改めて考えを曲げる気がない事を宣言する。ギルド加入はともかく怪物相手に折れるつもりはなかったのである。

「やはり、君ならそう出るか・・・その意見には私もある程度は賛成だけど・・・現実問題として王国はジェダの正体に気付いていないの。表向きには有能な領主と見せているからね。もちろん、その正体に関してギルドが国王に秘密裏に接触しているけど、ライバル貴族が流した中傷と思っているみたい。何しろ貴族にとって足の引っ張り合いは日常茶飯事だから」
「なるほど、それは確かにやりにくいな。王国は怪物の台頭を黙認しているわけではないのか・・・では、ばれない様に暗殺するとしよう!」
 ミリアの説明を受けたサージは早々と方針を転換する。王国が丸ごと混沌側に与しているのなら滅ぼすに際しても頓着しないが、さすがにそのような事情があるなら話は別だった。
「・・・何度も否定して悪いけど・・・ジェダの暗殺は理論的に不可能なのよ」
「ん・・・難しいならわかるが・・・理論的に不可能とは?!」
 最善と思われる策さえも否定されたことでサージは再度問い掛ける。だが、自然と腹はそれほど立たなかった。何しろミリアの反応に含みがあったからだ。
「ジェダは不死なのよ! 彼の正体は真のバンパイア、人間としては既に一度死んでいる!」
 ミリアは吐き捨てるように標的となった怪物の正体をサージに告げるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...