スレイヤー・ギルドの非承認戦闘員

月暈シボ

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その23

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 サージと対峙している不定形生物の正体は〝シェイプチェンジャー〟と呼ばれる怪物であり、魔法技術によって創造された生物兵器である。本体は粘液状の物体で、身体の一部のみならず全身をあらゆる形状に変化させることが出来た。その性質を利用して敵側の兵士に化けて内側からの破壊工作と混乱を担っていたのである。
 人型だけでなく動物型にも化けることが可能だが、戦闘となると今回のように既存の生物の形に拘ることなく多くの触手を生やして攻撃を行う。正体が液体状であるが故に斬撃のみならず、打撃や突刺にも高い耐性を持つ厄介な存在だ。ちなみに宝箱や家具などの無生物に化ける〝ミミック〟とは近縁種の関係にあった。

「ふふふ、本当にそう思うか?!」
 自身に迫る触手を剣で払いながらサージは不敵な笑みを浮かべる。彼にシェイプチェンジャーに関する知識は全くない。そもそもこの怪物は敵対勢力への破壊工作として創造された生物兵器である。個体数も少なく、存在自体が隠蔽対象にあった。
 そんな怪物がどうしてバンパイアの配下にいるのかは不明だが、ジェダの配下にはこの手の魔法技術に長けた者がいるのだろう。人間を糧とするバンパイアと同じく人間の殺傷と捕食を目的に生み出されたシェイプチェンジャーである。相性は良いに違いない。
 未知の敵に二度も攻撃を防がれたサージだが、彼の胸中に不安や焦りなどは存在しなかった。むしろ歯ごたえのある相手として受け取る。それ故に零した笑みだった。サージにとって強敵とはある意味、ご褒美のような存在なのだ。

「だが、後がつかえている。さっさと死ね!」
 三度目の正直とばかりにサージは〝シェイプチェンジャー〟へ横薙ぎに剣を振るう。その見事な一撃によって三本の触手が一度に落とされた。
「ふはは! 何度やっても無駄だ! 学ばない奴め! 我には・・・なっ?!!」
 剣技は冴えるが、学習能力のない低能とばかりにサージ見下していた怪物だったが、自身の身体に起きた異変に気付くと悲鳴を上げた。斬られた触手の断面がいつの間にか炭化していたからだ。良く見れば切り口には白い炎が揺らいでいる。
「なんだこれは?! ばかな・・・き、消えない!!」
 不定形の怪物は呻き声とともに残った触手で炎を消そうと身体を擦るが、白い炎はそれを無視するように淡々と泥水のような身体を燃やし続ける。
 斬り落とされた触手の方にも炎は浸食しており、既にその大半が灰として消え去っていた。これまでのサージの攻撃を無効化していたシェイプチェンジャーだったが、炎には成す術がないようだ。
「斬り殺せないなら、焼き殺すまでだ」
 そう告げるとサージは大上段から白い炎を纏った長剣を振り被って〝シェイプチェンジャー〟を両断する。
「ぐ、ぐぎゃぁ!!」
 この一撃によって中央に開いた大口が真二つに斬り裂かれ耳障りな絶叫がこだまする。もっとも、サージは断末魔に怯むことなく泥水のような身体を更に長剣で細かく分断する。これにより不定形の怪物の存在は完全に焼き払われたのだった。

「大したことはなかったな・・・」
 サージは長剣に纏わせていた炎を消すとがっかりしたように溜息を吐く。この白い炎の正体は彼が魔力で具現化させた魔法の炎だった。物理攻撃に耐性を持つ〝シェイプチェンジャー〟も魔法の炎で焼かれては抵抗する暇もなかったようだ。
 自身の身体だけでなく獲物の長剣も〝錬体術〟の応用で強化させているサージだが、今回は更に応用として剣を注ぐ魔力を炎として具現化させた。斬った部分を決して消えない炎で焼き尽くす恐るべき魔法として。その炎を敵に直接ぶつけるのではなく、武器に纏わせたのはサージの剣士としての矜持だった。

「さてと、邪魔が入ったが・・・本殿だったか? それへの出入口はどこだ?」
 異形の敵を倒したサージはそれまで礼拝堂の隅に逃げていた使用人達に再度問い質す。
「こ、ここです・・・」
 最初にサージに返答した若い女が恐怖で震える身体を自身で抱きしめながら立ち上がると、祭壇まで移動する。しばらく何かしらの操作することで祭壇が前に移動し、下に続く階段が現れた。
「ほう・・こういうのはどこも同じなのだな・・・」
「あ、あの私達は・・・こ、これからどうなるので・・・しょうか?」
 感心するサージに少女は声を震わせながら問い掛ける。彼女からすれば主人であるジェダを裏切っており、これまで同僚と思っていた者の正体はとんでもない怪物で、危うく殺されかけたのである。更には得体の知れない魔法剣士であるサージにバンパイアの配下として討伐される可能性もあり、いっそのこととばかりに問い掛けたのだ。

「・・・好きにすると良いだろう。俺の目的はバンパイアの討伐だ。抵抗する気もないようだし、もうお前達に興味はない。荷物を纏めてここを去るべきだな。・・・この城も最後はぶっ壊して平らにするつもりだ」
「ほ、本当に伯爵さ・・・いえ・・・ジ、ジェダを倒してくれるのですか?!」
 返事を聞いた女は再度確認するように問い掛ける。彼女のみならず、一般常識からすれば真祖のバンパイアを単独で倒す、まして城を破壊するなど一朝一夕で出来る事ではないが〝シェイプチェンジャー〟との戦闘でサージが只者でないことは証明されている。この男なら本当にやってくれると期待が込められていた。
「ああ、そうだ! じゃあな!」
 一方、サージの方はそれで話は終わりとばかりに別れを告げると、地下に向う階段に足を踏み入れる。彼の目的はジェダの討伐であって、バンパイアに支配された領民達の救済ではないのだ。
「・・・あ、ありがとうございます・・・神様・・・・」
 それでも女はその場に跪くと、神々を象った像に向って涙を滲ませながら感謝と祈りを捧げるのだった。
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