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第七話
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「やったぞ。ヒロキ、上手くいった!」
魔法式のエレベーターを降りて塔の一階に降りたったイサリアは両手の拳を握りしめるとヒロキに喜びの声を伝えた。
「・・・俺も喜びたいけど、昨日の約束については命を賭けるとは聞かされていなかったから、単純には喜べないぞ!」
「ああ、あれか!さすがの私も本式の指約束を何も知らない者に迫るほどの悪党ではないぞ。昨日交わしたのは略式のもので死の誓約までは含まれていない。本式は指先を傷つけてお互いの血を混ぜてから誓うのだ。だから約束を破ってもの命までを失うことはない。もっとも、ヒロキが略式では満足出来ないと言うのなら今から本式の指約束を交わしても構わないぞ!」
「いや、それは!そこまではしなくてもいいよ!でもあれ?じゃ、さっきは学院長を騙したってこと?」
「人聞きの悪いことを言わないで貰おう!私はヒロキと交わしたのは略式の指約束だったとは一言も口にしていない。学院長が私の普段の行いや性格から正式の指約束だろうと勝手に推測しただけだ」
「うわ、まじか!・・・まさか、そこまで計算して俺に詳しい説明をせずにあの約束を交わしたのか?!」
「・・・それは否定しない。だが、私も交換条件としてヒロキを送り帰すと約束したろう?略式でも指約束は信頼した相手としかしないのだぞ!」
指約束の隠されていた事実に対して不満を伝えるヒロキだったが、詳しい説明を聞かされると学院長のような重職にある大人さえも騙すイサリアの機知に驚いた。
色々と規格外の人物ではあるが、彼女はそれを自分でも充分に理解しコントロールしている。今更だが、とんでもない人間と関わってしまったと恐れにも似た感情が込み上げて来る。だが、同時にイサリアに惹かれる気持ちがあることも認めなくてはならなかった。
彼女を見ているとなぜかほっとけないような気持ちにさせられるのだ。それに本来なら出合ってから一日も経っていない今の段階で『信頼する』と言われても白々しい気がするだけなのだろうが、この少女が本気で自分を騙すつもりならもっと上手くやるように思えた。
「・・・なら仕方ないかな・・・結果的には上手くいったようだし」
「うむ、そういってもらえると助かる。では、ミーレ・ヒロキ。今更だが〝鷹の学院〟にようこそ!」
数多の感情の渦に身を委ねつつも最後はイサリアを受け入れたヒロキに、彼女はこれまでで最高の笑顔で語り掛けた。
「ここが中央学舎の最上階だ。私も久しぶりに来たが、なかなかの眺めだろう?!」
心地良い風に金髪をたなびかせながらイサリアは、どうだと言わんばかりに問い掛ける。それは午前の柔らかい日差しを受けて輝くような自身の姿ではなく、テラスからの眺望を指しているようだ。
学院長の協力を取り付けた彼らは、次の行動としてイサリアの案内で学院内の施設を見回ることにした。ヒロキに学院の施設配置や構造を理解させるためである。そのためにまずは、全体図を見るのが手っ取り早いとして中央学舎最上階のテラスに足を運んだのだ。
テニスコートほどの広さのテラスは半分程が木製の屋根に覆われているが、残りの半分は陽の下に剥き出しされ二人はそこに立っている。イサリアの言うとおりレース状になった石壁の間から見るそこからの眺めは、黙っていれば天使のように美しい彼女の姿を除いても素晴らしい。
先程の渡り廊下からも見えたように学院の周囲は木々豊かな山に囲まれており、少し離れた位置には湖もあった。山の緑と湖の濃い青そして空の淡い青が見事な絶景を描いていた。
そして、もっと近くに視点を集めると堅牢な石造りで築き上げられた学院の全容を知ることが出来る。
学院の印象を一言で表すならやはり城だ。山の頂点を削って平らにしたような位置に存在し、そこを城壁で囲い三本の塔と幾つかの建築物で構成されている。規模とからすると中央学舎は本丸という位置付けだろう。
南側の斜面は勾配が緩いらしく麓の集落に延びる道が見えるが、それ以外は山肌と城壁に阻まれて出入りは不可能と思われた。それを頼もしいと思う反面、ヒロキは学生を隔離する収容所のようにも感じた。もっとも、日本でも進学校ほどセキュリティーが厳しいので、外部からの刺激を遮断しようとする目論見は〝鷹の学院〟に限ったことではないのかもしれない。
再び城壁内部に目を向けると、それぞれの建物は渡り廊下で結ばれており、区画を分ける壁の役割も果たしているようにも見える。だが、東側に開けた空間が設けられており、庭か運動場として使用しているようだった。
それ以外にも野外部分は観葉植物などが植えられており、殺風景になりがちな石造りの空間を少しでも快適にしようとする意思が読み取れた。
「あれが先程の学院長の塔だ」
下を眺めていたヒロキにイサリアは指で上を示しながら説明を行なう。それは聳え立つ三本の塔の中でも最も高い塔だった。上部に向かうほど先細りになった穏やかな円錐形で、使用されている石材も色が濃く一目で特別だとわかる。
「外から見ると思っていた以上に高いな・・・確かにあれはエレベーターがないときつい・・」
イサリアの話ではあの魔法式エレベーターが用意されているのは学院長の塔だけという。そのような理由もあり二人はこのテラスに階段を使ってやって来ていた。
中央学舎は五階建てだが、テラスは屋上にあるので実質六階分を登って来ている。若いとはいえ、これ以上の高さを階段で上がるにはちょっとした試練と思われた。
「まあ、ミゴールに昇格すれば空を自由に飛ぶことが可能な〝飛翔〟を正式に教えられるから、この世界では優れた魔術士なら高さはそこまで厄介じゃない。ちなみに、あっちの塔はミゴールに専門的な魔法や知識を授ける導師達の研究室がある第一研究塔だ。私がミゴールに昇格したら、ミゴール用の寄宿舎からこの塔のいずれかの研究室に通うことになるな」
「な、なるほど」
個人で空を自由に飛ぶという概念にヒロキは驚くが、イサリアの気軽な発言からすると、こちらではちょっと難しい資格程度のことなのかもしれない。だとしたら高い城壁もあまり意味がないのではと思うが、何かしらの対策はしているのだろうと深くは気にしないことにする。
「ああ、でも今のイサリアはその〝飛翔〟って魔法は使えないんだね。君ならやるなって言われても独学で勝手に覚えそうな気がするけど」
「ふふふ、さすがヒロキだ。指摘どおり私は既に〝飛翔〟を独学で学んでいる。だが、この魔法はミーレの身分では学院内の使用が禁止されているのだ。そのため人前では大っぴらに使用するわけにはいかない。私が早くミゴールに昇格したい気持ちがわかるだろう。窮屈でしかたないよ」
「やはりそうだったのか。ちなみに残る一つの塔は何に使われているのかな?」
悔しそうに溜息を吐くイサリアに対して、ヒロキは残った西側の塔への質問に移る。慣れとは恐ろしいものでこの頃になるとイサリアならそんなことだろうと思うようになっていた。
「うむ、あれも本来は導師達の研究室があった塔で正式には第二研究塔と言うのだが、今では皆が〝禁断の塔〟と呼んでいる。実は十五年くらい前この国で内乱が起った・・・。当時皇帝位にあった公家が、皇帝職を永続的な世襲制にしようと企てて同盟関係にあった家とともに帝国を掌握しようとしたのだ。当然だが、残る公家はその動きに反発し激しい内乱となる。戦いの行く末は現在でも公家の合議による帝政が維持されていることからわかるように、五大公家として残る公家連合側が勝利した。そして、その争いに〝鷹の学院〟も巻き込まれて当時の皇帝派の者達があの塔に立て籠ったらしい。戦いの大局が公家連合側に傾いたことで塔に立て籠もった者達も呼び掛けに応じて投降したのだが、置き土産のように塔の中に様々な魔法の罠を仕掛け、迂闊に入れないようになってしまったのだ。それ以後、学院は塔を丸ごと封印して立ち入り禁止にしたというわけだ」
「・・・この国にそんなことがあったのか・・・でも、なんで罠を解除するとか根本的な解決をしないんだ?」
「私も生まれていなかったので詳しくは知らぬが、なかなか苛烈な内乱であったらしい。おそらくは立て籠もった者達も必死であったのだろう。罠を作りすぎて本人達も解除が出来なくなったそうだ」
「それはアホ過ぎるだろ・・・」
「私もそう思うが、人間は必死になると際限がなくなるのだろうな」
「・・・ま、まあ、立ち入り禁止の場所なら特に気にしなくてもいいってことか・・・」
他人事のように語るイサリアに突っ込みたい気持ちを我慢してヒロキは無難に相槌を打つ。
「ああ、私もヒロキに中を案内してやりたいとは思うのだが、さすがにあの封印は破れなかった。・・・では、学院を上から眺めたことだし、次は中の施設を紹介しよう!」
最後にドキリとするような発言を残してイサリアは屋根のあるテラスに向かって歩き出す。ヒロキは再度突っ込みの台詞を飲み込むとその後に続いた。
魔法式のエレベーターを降りて塔の一階に降りたったイサリアは両手の拳を握りしめるとヒロキに喜びの声を伝えた。
「・・・俺も喜びたいけど、昨日の約束については命を賭けるとは聞かされていなかったから、単純には喜べないぞ!」
「ああ、あれか!さすがの私も本式の指約束を何も知らない者に迫るほどの悪党ではないぞ。昨日交わしたのは略式のもので死の誓約までは含まれていない。本式は指先を傷つけてお互いの血を混ぜてから誓うのだ。だから約束を破ってもの命までを失うことはない。もっとも、ヒロキが略式では満足出来ないと言うのなら今から本式の指約束を交わしても構わないぞ!」
「いや、それは!そこまではしなくてもいいよ!でもあれ?じゃ、さっきは学院長を騙したってこと?」
「人聞きの悪いことを言わないで貰おう!私はヒロキと交わしたのは略式の指約束だったとは一言も口にしていない。学院長が私の普段の行いや性格から正式の指約束だろうと勝手に推測しただけだ」
「うわ、まじか!・・・まさか、そこまで計算して俺に詳しい説明をせずにあの約束を交わしたのか?!」
「・・・それは否定しない。だが、私も交換条件としてヒロキを送り帰すと約束したろう?略式でも指約束は信頼した相手としかしないのだぞ!」
指約束の隠されていた事実に対して不満を伝えるヒロキだったが、詳しい説明を聞かされると学院長のような重職にある大人さえも騙すイサリアの機知に驚いた。
色々と規格外の人物ではあるが、彼女はそれを自分でも充分に理解しコントロールしている。今更だが、とんでもない人間と関わってしまったと恐れにも似た感情が込み上げて来る。だが、同時にイサリアに惹かれる気持ちがあることも認めなくてはならなかった。
彼女を見ているとなぜかほっとけないような気持ちにさせられるのだ。それに本来なら出合ってから一日も経っていない今の段階で『信頼する』と言われても白々しい気がするだけなのだろうが、この少女が本気で自分を騙すつもりならもっと上手くやるように思えた。
「・・・なら仕方ないかな・・・結果的には上手くいったようだし」
「うむ、そういってもらえると助かる。では、ミーレ・ヒロキ。今更だが〝鷹の学院〟にようこそ!」
数多の感情の渦に身を委ねつつも最後はイサリアを受け入れたヒロキに、彼女はこれまでで最高の笑顔で語り掛けた。
「ここが中央学舎の最上階だ。私も久しぶりに来たが、なかなかの眺めだろう?!」
心地良い風に金髪をたなびかせながらイサリアは、どうだと言わんばかりに問い掛ける。それは午前の柔らかい日差しを受けて輝くような自身の姿ではなく、テラスからの眺望を指しているようだ。
学院長の協力を取り付けた彼らは、次の行動としてイサリアの案内で学院内の施設を見回ることにした。ヒロキに学院の施設配置や構造を理解させるためである。そのためにまずは、全体図を見るのが手っ取り早いとして中央学舎最上階のテラスに足を運んだのだ。
テニスコートほどの広さのテラスは半分程が木製の屋根に覆われているが、残りの半分は陽の下に剥き出しされ二人はそこに立っている。イサリアの言うとおりレース状になった石壁の間から見るそこからの眺めは、黙っていれば天使のように美しい彼女の姿を除いても素晴らしい。
先程の渡り廊下からも見えたように学院の周囲は木々豊かな山に囲まれており、少し離れた位置には湖もあった。山の緑と湖の濃い青そして空の淡い青が見事な絶景を描いていた。
そして、もっと近くに視点を集めると堅牢な石造りで築き上げられた学院の全容を知ることが出来る。
学院の印象を一言で表すならやはり城だ。山の頂点を削って平らにしたような位置に存在し、そこを城壁で囲い三本の塔と幾つかの建築物で構成されている。規模とからすると中央学舎は本丸という位置付けだろう。
南側の斜面は勾配が緩いらしく麓の集落に延びる道が見えるが、それ以外は山肌と城壁に阻まれて出入りは不可能と思われた。それを頼もしいと思う反面、ヒロキは学生を隔離する収容所のようにも感じた。もっとも、日本でも進学校ほどセキュリティーが厳しいので、外部からの刺激を遮断しようとする目論見は〝鷹の学院〟に限ったことではないのかもしれない。
再び城壁内部に目を向けると、それぞれの建物は渡り廊下で結ばれており、区画を分ける壁の役割も果たしているようにも見える。だが、東側に開けた空間が設けられており、庭か運動場として使用しているようだった。
それ以外にも野外部分は観葉植物などが植えられており、殺風景になりがちな石造りの空間を少しでも快適にしようとする意思が読み取れた。
「あれが先程の学院長の塔だ」
下を眺めていたヒロキにイサリアは指で上を示しながら説明を行なう。それは聳え立つ三本の塔の中でも最も高い塔だった。上部に向かうほど先細りになった穏やかな円錐形で、使用されている石材も色が濃く一目で特別だとわかる。
「外から見ると思っていた以上に高いな・・・確かにあれはエレベーターがないときつい・・」
イサリアの話ではあの魔法式エレベーターが用意されているのは学院長の塔だけという。そのような理由もあり二人はこのテラスに階段を使ってやって来ていた。
中央学舎は五階建てだが、テラスは屋上にあるので実質六階分を登って来ている。若いとはいえ、これ以上の高さを階段で上がるにはちょっとした試練と思われた。
「まあ、ミゴールに昇格すれば空を自由に飛ぶことが可能な〝飛翔〟を正式に教えられるから、この世界では優れた魔術士なら高さはそこまで厄介じゃない。ちなみに、あっちの塔はミゴールに専門的な魔法や知識を授ける導師達の研究室がある第一研究塔だ。私がミゴールに昇格したら、ミゴール用の寄宿舎からこの塔のいずれかの研究室に通うことになるな」
「な、なるほど」
個人で空を自由に飛ぶという概念にヒロキは驚くが、イサリアの気軽な発言からすると、こちらではちょっと難しい資格程度のことなのかもしれない。だとしたら高い城壁もあまり意味がないのではと思うが、何かしらの対策はしているのだろうと深くは気にしないことにする。
「ああ、でも今のイサリアはその〝飛翔〟って魔法は使えないんだね。君ならやるなって言われても独学で勝手に覚えそうな気がするけど」
「ふふふ、さすがヒロキだ。指摘どおり私は既に〝飛翔〟を独学で学んでいる。だが、この魔法はミーレの身分では学院内の使用が禁止されているのだ。そのため人前では大っぴらに使用するわけにはいかない。私が早くミゴールに昇格したい気持ちがわかるだろう。窮屈でしかたないよ」
「やはりそうだったのか。ちなみに残る一つの塔は何に使われているのかな?」
悔しそうに溜息を吐くイサリアに対して、ヒロキは残った西側の塔への質問に移る。慣れとは恐ろしいものでこの頃になるとイサリアならそんなことだろうと思うようになっていた。
「うむ、あれも本来は導師達の研究室があった塔で正式には第二研究塔と言うのだが、今では皆が〝禁断の塔〟と呼んでいる。実は十五年くらい前この国で内乱が起った・・・。当時皇帝位にあった公家が、皇帝職を永続的な世襲制にしようと企てて同盟関係にあった家とともに帝国を掌握しようとしたのだ。当然だが、残る公家はその動きに反発し激しい内乱となる。戦いの行く末は現在でも公家の合議による帝政が維持されていることからわかるように、五大公家として残る公家連合側が勝利した。そして、その争いに〝鷹の学院〟も巻き込まれて当時の皇帝派の者達があの塔に立て籠ったらしい。戦いの大局が公家連合側に傾いたことで塔に立て籠もった者達も呼び掛けに応じて投降したのだが、置き土産のように塔の中に様々な魔法の罠を仕掛け、迂闊に入れないようになってしまったのだ。それ以後、学院は塔を丸ごと封印して立ち入り禁止にしたというわけだ」
「・・・この国にそんなことがあったのか・・・でも、なんで罠を解除するとか根本的な解決をしないんだ?」
「私も生まれていなかったので詳しくは知らぬが、なかなか苛烈な内乱であったらしい。おそらくは立て籠もった者達も必死であったのだろう。罠を作りすぎて本人達も解除が出来なくなったそうだ」
「それはアホ過ぎるだろ・・・」
「私もそう思うが、人間は必死になると際限がなくなるのだろうな」
「・・・ま、まあ、立ち入り禁止の場所なら特に気にしなくてもいいってことか・・・」
他人事のように語るイサリアに突っ込みたい気持ちを我慢してヒロキは無難に相槌を打つ。
「ああ、私もヒロキに中を案内してやりたいとは思うのだが、さすがにあの封印は破れなかった。・・・では、学院を上から眺めたことだし、次は中の施設を紹介しよう!」
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