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現れた男
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僕が目を覚ましたのは固いソファーの上で無造作にかけられた毛布の中だった。
目を覚まして最初に体中を激痛が襲い、その激痛により、自分に起こったことを思い出した。
自分がまだ五体満足であることに安心し、あの女子社員はどうなったかなんてことも頭をかすめはしたが、いちばん気がかりだったのはここが一体どこなのかということだ。
決して広くない事務所のようなスペースに壁にはロッカーが並び、パソコンの置いてある机がひとつ、あとは僕が寝ているソファーがひとつ置いてある。入り口にはカーテンがかかっており、その向こうからはなにやらザワザワと騒ぐような声が聞こえてくる。
あの二人組の男たちにあのまま連れていかれ、そのねぐらであることも考えたが、おぼろげな記憶の中に、散々僕を痛め付けたあと満足そうに去っていく男達の姿が残っていた。なにより、あの男達がわざわざ僕を運び、ソファーに寝かせるなんてことをするとは思えなかった。
するとここはどこだろう、寝起きの、まだ上手く回らない頭でそんなことを考えているとカーテンが横に滑り、その影から体格のよい髭面の男が現れた。
男は見たところ30代半ばといったところで、体格と髭のせいで強面に見えるがとても優しい、包み込むような目をしていた。何者なのかを判断することができず、警戒する僕にたいして、男は落ち着いた口調で僕に話しかけた。
「今から賄いをつくるんだけど、ついでに何か作ろうかい?」
男に対して警戒する気持ちはあったのだが、さっきまで気にかけていなかった空腹がその問いかけにより僕を襲い、お願いすることにした。男はわかったと言い、カーテンを閉めるとその場を立ち去った。
部屋にはまた僕一人となり、寝起きのぼんやりとした頭も徐々に動き始めると、不安感と恐怖が僕を襲いはじめた、ここがどこだかわからず、今が何日の何時なのかもわからない、もちろん先程の男にも見覚えはなく、持ち物はどこで失ったのかわからないが何も残っていなかった。
大学入学を機に地元を離れ、一人暮らしを始め、そのときにも寂しさや社会に一人放り出されたような感覚を味わったが、今に比べると、なんて安心できる環境だったのだろうと思った。自分はこれからどうなるのか、死ぬまで働かされてこきつかわれるなんてことはまだましで、もっとひどい目に合うのか、考えるだけでここから逃げ出したい気持ちになった。
実際、逃げ出そうと考えたが、カーテンの向こうがわがどうなっているのか検討もつかず、人が何人いるのかもわからないが、時おり聞こえてくるざわめきからしても、かなりの人数がいてることは予想できる。ここで一か八か逃走を計るよりはおとなしくしているほうが得策だという結論に至った。
そうこうしているうちに、いい匂いがしてきて、その匂いと共にさっきの男がやってきた。
「オムライスは好きかい?ソースは好きなものを選んでおくれ、色々聞きたいことがあるだろうけどちょっとだけ待ってもらえるかな?今ちょうど店が忙しくて」
男はそれだけを言うとせわしない様子で去っていった。今の感じからするとここは、なんらかのお店であるらしい、賄いがあることや、このオムライスのクオリティからすると飲食店だろうか、考えても仕方ないので男を待とうと思い、差し出されたソースの中からひとつ選び、オムライスをいただくことにしたが、オムライスはとても美味しく、すぐに平らげてしまった。
僕は満腹になったお腹をさすりながら学校のことやアルバイトのことを考えていた、テーブルの上に置いてあるカレンダーによると今日は月曜日、大学の授業がある日だ。
普段からサボりがちだし誰も気に止めないだろうか、アルバイトに至っては少し前にクビになったばっかりだ。
そんなことをぼんやりと考えているとカーテンの向こうからものが割れる音と誰かの怒号が聞こえてきた、声から察するに先程の男の声ではない。
「てめえ!ふざけてんじゃねえぞ!!」
怒鳴り声はカーテンの向こう側いっぱいに広がっている、僕はその怒声の理由を知りたくてカーテンへ近づいた、その隙間からは向こう側の様子が伺えた。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、いったい何があったんですか?」
さっきの男が怒鳴る男をなだめている、男はここの従業員なのだろうか、しかし怒鳴り男の勢いは止まらない。
「なんだよ!おめえは引っ込んでろ!!、、、」
怒鳴り男は言葉をつまらせた、怒鳴り男に相対する従業員の男を見ると顔は微笑んでいるものの、その目はさっき僕に向けていたものとは違い、威嚇するような鋭い目をしている。
「里中さん、その辺にしときましょうよ、何があったかは知りませんがここは店の中じゃないですか」
男の雰囲気に押されるように、怒鳴り男は落ち着きを取り戻しているようだった。
「あんたが言うなら仕方ねえか、今日はもう帰るよ、お勘定してくれ」
里中と呼ばれた男は、ばつが悪そうにそういうと帰り支度を始めた。
男は少し申し訳なさそうにしながら
「何があったかは聞きません、お越しいただきありがとうございました、またお待ちしております」
と微笑んだ、その微笑みは先程まで里中さんに向けていたものとは変わり、心から微笑んでいるように思えた。
僕はその様子をぼんやりと見ていた、男は周りの客にお騒がせしましたと声をかけると僕の方に戻ってきた。
「食べ終わったかい?食器はそのへんに置いといてよ」
男は何事も無かったかのように話しかけてきた、男がカーテンを開けたため覗いていたときよりも広い視界が広がっている。
僕はあいづちもそこそこに目の前に広がる光景を眺めていた。
カーテンからすぐのところに木のカウンターがあり、僕が立っているここはカウンターの中のようだ、やはり飲食店なのだろう、カウンターの中にはシンクもあり中には食器類が散らかっている。
さっきまで僕がいたところは事務所のような扱いらしい、カウンターの背にはたくさんのグラスと見たこともないお酒が棚に並んでいる。
お酒を出す店であるようだし、オシャレな居酒屋みたいなものだろう、それにしては店のつくりが変わっている、席は区切られておらず、カウンターとその他に背の低い大きな机がいくつか並んでいる、男性四人のグループやカップルのような二人組、あとはガラの悪そうな三人組がその周りの椅子に思い思いに座りお酒を片手に談笑している。
目を覚まして最初に体中を激痛が襲い、その激痛により、自分に起こったことを思い出した。
自分がまだ五体満足であることに安心し、あの女子社員はどうなったかなんてことも頭をかすめはしたが、いちばん気がかりだったのはここが一体どこなのかということだ。
決して広くない事務所のようなスペースに壁にはロッカーが並び、パソコンの置いてある机がひとつ、あとは僕が寝ているソファーがひとつ置いてある。入り口にはカーテンがかかっており、その向こうからはなにやらザワザワと騒ぐような声が聞こえてくる。
あの二人組の男たちにあのまま連れていかれ、そのねぐらであることも考えたが、おぼろげな記憶の中に、散々僕を痛め付けたあと満足そうに去っていく男達の姿が残っていた。なにより、あの男達がわざわざ僕を運び、ソファーに寝かせるなんてことをするとは思えなかった。
するとここはどこだろう、寝起きの、まだ上手く回らない頭でそんなことを考えているとカーテンが横に滑り、その影から体格のよい髭面の男が現れた。
男は見たところ30代半ばといったところで、体格と髭のせいで強面に見えるがとても優しい、包み込むような目をしていた。何者なのかを判断することができず、警戒する僕にたいして、男は落ち着いた口調で僕に話しかけた。
「今から賄いをつくるんだけど、ついでに何か作ろうかい?」
男に対して警戒する気持ちはあったのだが、さっきまで気にかけていなかった空腹がその問いかけにより僕を襲い、お願いすることにした。男はわかったと言い、カーテンを閉めるとその場を立ち去った。
部屋にはまた僕一人となり、寝起きのぼんやりとした頭も徐々に動き始めると、不安感と恐怖が僕を襲いはじめた、ここがどこだかわからず、今が何日の何時なのかもわからない、もちろん先程の男にも見覚えはなく、持ち物はどこで失ったのかわからないが何も残っていなかった。
大学入学を機に地元を離れ、一人暮らしを始め、そのときにも寂しさや社会に一人放り出されたような感覚を味わったが、今に比べると、なんて安心できる環境だったのだろうと思った。自分はこれからどうなるのか、死ぬまで働かされてこきつかわれるなんてことはまだましで、もっとひどい目に合うのか、考えるだけでここから逃げ出したい気持ちになった。
実際、逃げ出そうと考えたが、カーテンの向こうがわがどうなっているのか検討もつかず、人が何人いるのかもわからないが、時おり聞こえてくるざわめきからしても、かなりの人数がいてることは予想できる。ここで一か八か逃走を計るよりはおとなしくしているほうが得策だという結論に至った。
そうこうしているうちに、いい匂いがしてきて、その匂いと共にさっきの男がやってきた。
「オムライスは好きかい?ソースは好きなものを選んでおくれ、色々聞きたいことがあるだろうけどちょっとだけ待ってもらえるかな?今ちょうど店が忙しくて」
男はそれだけを言うとせわしない様子で去っていった。今の感じからするとここは、なんらかのお店であるらしい、賄いがあることや、このオムライスのクオリティからすると飲食店だろうか、考えても仕方ないので男を待とうと思い、差し出されたソースの中からひとつ選び、オムライスをいただくことにしたが、オムライスはとても美味しく、すぐに平らげてしまった。
僕は満腹になったお腹をさすりながら学校のことやアルバイトのことを考えていた、テーブルの上に置いてあるカレンダーによると今日は月曜日、大学の授業がある日だ。
普段からサボりがちだし誰も気に止めないだろうか、アルバイトに至っては少し前にクビになったばっかりだ。
そんなことをぼんやりと考えているとカーテンの向こうからものが割れる音と誰かの怒号が聞こえてきた、声から察するに先程の男の声ではない。
「てめえ!ふざけてんじゃねえぞ!!」
怒鳴り声はカーテンの向こう側いっぱいに広がっている、僕はその怒声の理由を知りたくてカーテンへ近づいた、その隙間からは向こう側の様子が伺えた。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、いったい何があったんですか?」
さっきの男が怒鳴る男をなだめている、男はここの従業員なのだろうか、しかし怒鳴り男の勢いは止まらない。
「なんだよ!おめえは引っ込んでろ!!、、、」
怒鳴り男は言葉をつまらせた、怒鳴り男に相対する従業員の男を見ると顔は微笑んでいるものの、その目はさっき僕に向けていたものとは違い、威嚇するような鋭い目をしている。
「里中さん、その辺にしときましょうよ、何があったかは知りませんがここは店の中じゃないですか」
男の雰囲気に押されるように、怒鳴り男は落ち着きを取り戻しているようだった。
「あんたが言うなら仕方ねえか、今日はもう帰るよ、お勘定してくれ」
里中と呼ばれた男は、ばつが悪そうにそういうと帰り支度を始めた。
男は少し申し訳なさそうにしながら
「何があったかは聞きません、お越しいただきありがとうございました、またお待ちしております」
と微笑んだ、その微笑みは先程まで里中さんに向けていたものとは変わり、心から微笑んでいるように思えた。
僕はその様子をぼんやりと見ていた、男は周りの客にお騒がせしましたと声をかけると僕の方に戻ってきた。
「食べ終わったかい?食器はそのへんに置いといてよ」
男は何事も無かったかのように話しかけてきた、男がカーテンを開けたため覗いていたときよりも広い視界が広がっている。
僕はあいづちもそこそこに目の前に広がる光景を眺めていた。
カーテンからすぐのところに木のカウンターがあり、僕が立っているここはカウンターの中のようだ、やはり飲食店なのだろう、カウンターの中にはシンクもあり中には食器類が散らかっている。
さっきまで僕がいたところは事務所のような扱いらしい、カウンターの背にはたくさんのグラスと見たこともないお酒が棚に並んでいる。
お酒を出す店であるようだし、オシャレな居酒屋みたいなものだろう、それにしては店のつくりが変わっている、席は区切られておらず、カウンターとその他に背の低い大きな机がいくつか並んでいる、男性四人のグループやカップルのような二人組、あとはガラの悪そうな三人組がその周りの椅子に思い思いに座りお酒を片手に談笑している。
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