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20 3日間
しおりを挟む「時間ってあとどれくらい?」
「え?時間か?」
「うん」
「30分くらいだ」
あまり時間を気にしてるようには見えないが、大丈夫なのだろうか。最悪この際提出できるだけでも良しとするしかない。
「大丈夫そうか?」
「うん。そこは問題ない」
「そうか。ならよかった」
動きが止まってたのはいったい何だったんだ。言葉にしてくれないと分からないけど、何でもないのなら俺が無理矢理聞き出すこともできない。
「・・・お前さ」
俺が用紙に文字を書こうと鉛筆の先を紙に立てた時、同時に倉田は手を動かし始めた。流れるような描き方に、躊躇なく色が重なっていく。こんなに大雑把な描き方から始まったのに。だんだんと鮮明になっていくのは何でなんだろう。
(俺の描く手順と真逆だ・・・すげえ)
「大学って何処に行くとか決めてんの?」
「大学?・・・いや、何処かは決めてないけど、国立ってのは決めてる。どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
(・・・?)
ただ聞いてきただけかと思ったけど、倉田の声のトーンが加わって俺の中で意味深な質問にすり替わってしまった。
それ以降、倉田が口を開くことはなく、課題の画を描き終わるまで終始無言。残り時間が本当にあとちょっととなった所で倉田は画を完成させた。
「はぁ・・・よかった。間に合った。お前のおかげだ。っていうかやっぱ凄いな、俺の描いた方まで完成させてくれるって。俺だけだったら壊滅的だったな」
「幼稚園児が描く絵みたいだったもんな」
「・・・・それひどくね?」
美術の先生ことチャッカマンにギリギリで提出出来た。説明文と一緒に画を渡した時、一瞬眉をひそめ『ちゃんと朝倉も手を入れてるんだろうな?』と探るような目つきで言われたからギクッとしたけど、あの言い方は、多分、倉田が画が上手いことを知ってる言いぶりだった。
「怒んなよ」
「怒ってはないよ」
「正直に言っただけだろ」
「おい」
倉田はどうやら飴と鞭の使い分けがなってない。
己の気分のままにというやつか。
「倉田はさ、もうちょっと人とコミュニケーションとる練習しないと、社会に出てもハブられるぞ」
「別にハブられてもいい。俺は最初から人の輪に入る気がない」
「おい・・・そこは頑張れよ」
「じゅうぶん頑張ってるつもりだけど」
教室に戻る途中の廊下、倉田と並んで歩くと人の視線を感じる。ましてやあの倉田とお喋りしながら歩いてるもんだから、女子からの視線が痛い。
(・・・全くもって罪な男だ。このあと女子から呼び出されたらどうすればいいんだ)
起こり得ない心配をしてみたものの、背の高い倉田を少し見上げると特に気にすることもなく前だけを見ている。顔色が悪かった今朝の様子はもう見られない。あの時は納得してしまったけど、1日寝不足だけであんな感じになるのだろうか。
ペアの課題が終わって、しばらく続いた緊張感も心配事もなくなったその日。解放感に支配された俺はいつも早く起きるのに次の日は寝坊してしまい、ホームルームギリギリに学校に着いた。
そして教室に入ると、倉田の姿がない。トイレかどこかに行ってるのかと思って、隣の席を見たけどリュックも見当たらない。
「・・・・」
不信感に眉をひそめた俺の予感は嫌なほうに当たってしまい、倉田は結局姿を見せることなく、この日から3日間、学校を休んだ。
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