聖女はクソです

ぷりん

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 ――迎えた3日後――

 「おはようございます」
 「おはよう。エミリアさん、顔が死んでますね」
 「そうでしょうか。いつもこんなんです」
 「いえ、いつもお綺麗ですよ」
 「ありがとうございます。そんなこと言ってくれるの、パーシー副長官だけです」

 神殿での仕事は、なかに出入りしている職員の人達だけがお互いに顔見せ合うことができる。
 外に出るときはもっぱら顔を見られないようにベールで覆うから、外部の人間は私達のことをで見たことはない。
 
 「早く異動したいですか?」
 「そうですね」 
 「まぁ適任者が後任で見つかればすぐにでも異動させてあげたいのですがね」
 「・・・・」

 パーシー副長官は、いつも仕事始めと終わりにねぎらいの言葉をくれる優しい上司だけど、こういうときは別だ。彼の言葉を聞いて、多分異動させる気なんてないんだろうなと思った私は、帽子とベールをかぶってお辞儀をして、何も言わずに執務室を出た。

 「はぁ・・・・早くお昼になってしまえ」

 嫌な気持ちを抱えて逃げたいと思いながら仕事に向かうと、あとあと確実に追いかけてきて自分を苦しめるだけなのでとりあえず心を無にして修行のごとくやらなければならない。
 自分には魔法の才もなければ癒しの才もない身なので、事務仕事以外にできることと言えば確かにということぐらいなのだろう。

 「悲しすぎ。泣いちゃうよ。でもなぜずっと見習い?誰だ?私の出世を邪魔してる悪い子ちゃんは」

 ブツブツ言いながらいつもの自分の仕事場へと向かっていた私は、扉の前でふと空を眺めた。
 相変わらず空は綺麗だ。
 森に囲まれてるから空気なんて超絶綺麗。なんなら今日は雲一つないし、鳥も飛んでいない。そして何も視界を覆うものがない状態の空を見つめていると、段々と首が痛くなってきた。

 (・・・つら)

 「あ!!!もしかして神官さまですか?」

 (ん?)

 痛くなった首を戻そうと、右手で支えたとき、後から男性の声が突然聞こえてきた。

 「・・・」
 「すいません、ここに入ろうとするのを見てしまって」
 
 ヘラヘラと笑いながら近付いてきたこの男は、少しタッパがある。筋肉質とまではいかないその体型に、なんだか足元がおぼつかないようで私は少し危険を感じてしまった。
 
 「神殿に御用の方でしょうか。だとしたらこちらは違いますので、あの道をとおって石段がある道へお戻りください」
 
 (誰だろう・・・こんな場所・・・間違っても来れるところじゃないのに)

 私が神殿から仕事場までとおるこの道は、この職に異動した者と上官のみが知り得る道であり、部外者は100%知ることができないはず。

 「いや・・・・戻り方が分からないのです。もし良ければ連れて行ってくれませんか」
 「・・・そうですか。そういうことであれば。私についてきてください」

 力のない私では、男に勝てない。何を企んでるのかも分からないから余計に下手に追い返せない。ここは素直に対応して、早くこの男から離れよう。そう思って、彼の横をとおり過ぎて背を向けた。

 「はは・・・神官様・・ありがとうございます」
 「いえ」
 「それにしても、美しい声ですね」
 「・・・・」
 「はぁ・・・・こんな美しい声をした方は・・・どんな顔をされてるのでしょうかね」
 
 (・・・・は?)

 嫌でも耳に入ってくる男の話に不気味さか相まって、早歩きになる。そして今になって背を向けてしまったことを後悔した私は、神殿の入り口に着くまで、ずっと心臓が嫌な意味でドキドキしていた。

 「あぁ、そういえば・・今日は・・・いや、今日もなんですが」
 「・・・・」
 「僕は話を聞いてもらいたくてここに毎日来てるんです」

 (・・・毎日?)

 「僕の声、聞き覚えありませんか?」
 「え?」

 神殿の入り口付近、人が見えたためもう少しだと思ったその瞬間、何故か視界が回転して空が見えた。

 「・・・え」
 「はぁはぁ・・・はぁ・・・あぁ・・・やっぱり貴方だ。いつも僕の話聞いてくれてるよね」
 「・・・・」
 「初めて声聞いたときからずっと・・・気になってたんだ。僕の想像したとおりだ。顔も綺麗だね。これならリア様も嫉妬してしまうのは分かる」

 さっき扉の前で見上げた空は綺麗だった。
 でも今はどうだろ。
 
 (き・・・汚い顔が目の前に)

 顔を覆っていたベールははがされ直にこの男の顔が見える。鼻息が荒くて、口からよだれが出かかっているこの男はさっきから何を言っているのだ。
 興奮した様子で声を荒げたかと思えば、今度はブツブツと呟いたり。

 
 「・・・あの・・・退けてください」
 「ずっと、この声聞きながら・・・僕のモノをしごいていたんです。あの狭い部屋で、音が聞こえませんでしたか?」
 「な、何を言っ・・・・あっ・・・・はっ・・・ん」
 「毎回最後までいけなかったから・・・」

 そう言った男性はいきなり私の首を絞めてきた。茂みの中に引きずり込まれ、草が生い茂った地面に押し倒された私は、抵抗しようにも馬乗りにされているため身動きが取れない。

 「あぁ、凄い良いよ、その顔・・・苦しんでるのに・・・苦しむ息が・・・」
 「っ・・あ・・・くっやめ・・・・」
 「服越しでも分かる?分かるよね?」
 「ふっ・・・・はぁっ」
 

 絞められている首に力が徐々に入ってくるのがわかる。かろうじて僅かな喉元の隙間で息ができている状態だ。

 「こんなことしてるのがバレたら死罪だから」
 「やっ・・・・あ、はっ・・・はっ」


 苦し過ぎて目に涙が溜まっていたらしい。視界が緩んできて、目尻から水滴が流れ落ちたのを感じた。声を出して助けを求めたいけどそれができない私は、パニックに陥る寸前だった。

 (なんで・・・・私が・・・)

 助けてと叫びたい。神殿の入り口の近くに確か人が居たはずだけど、声を出せない今助けを呼ぶには遠すぎる。
脳に取り入れる酸素が不足して、目の前の男が何を言っているのか分からなくなってきた。

 「はな・・・はぁっ・・・はな・・・して」
 
 最後の力を振り絞って、両手で掴んでいた男の腕を押そうとしたけど、ぜんぜん意味がなくて、このままここで死んでしまうのかと思った。段々と視界が黒ずんでいく。もう、これ以上は頑張れない。消えそうな生への思いが意志とは反対に蒸発していき、そして最後は両手から力が抜けるのが分かって、地面に肘から落ちていった。


 「おい!!!――――まえ――なにを―――!!!」

 
 目の前か真っ暗になる前、微かにだったが、どこからか聞こえた怒号のような声は、私の耳に最後まで届かなかった。

 

 
 
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