9 / 26
9※(本文の〘〙内は羽ペンで書いたものです)
しおりを挟む(当たり前だけど、神殿に居たときとぜんぜん違う)
朝食を終えて時間を確認すると、お昼迄まだまだ時間があった。そりゃそうだ。なんてたって朝の4時に神殿を出たのだから。
(眠たい・・・)
頃合いを見計らって部屋に食器を取りに来てくれたメイドの方を見送ったあと居心地のいいベッドに横になった私は、ウトウトし始め、そのまま布団もかけずに大の字になって眠りについた。
◇◇◇
(・・・・)
パチッと目が覚めると、今いるとこが一瞬どこだから分からなくてガバッと起きて周りを見渡した私は、どこにいるのか把握した途端気が抜けたようにまた大の字になった。
(お屋敷だ・・・)
枕元に置いていた時計を確認すると時間はお昼手前。こんなふかふかなベッドで睡眠を取るのなんて生まれて初めてだ。
起きてすぐだったけど、眠気は皆無だったのでそのまま起き上がると、窓際の方へと足を進めた。そして太陽光をとおす薄さのカーテンがしかれていたため部屋には日の光が入ってきていたけど、窓からの景色を確認したくてカーテンを少し開けてみた。
(・・・でかい)
比べるものがスラムに居たときと神殿に居たときしかないからどうしようもないけど、きっとザ・貴族って感じの風景だ。
私は少しだけその風景を眺めたあと、カーテンをもとに戻した。
「・・・・」
神殿に初めて行った時もそうだったけど、今まで居た場所を離れて新しい場所に来た直後は、前のことばかり思い出してしまう。懐かしむような思い出じゃないし、誰かと共有するものでもない。それに感傷に浸りたいわけでもないのに、心の何処かで寂しさを感じてるから蘇ってくるのだろうか。
(ずっと・・・これから先もあそこで働く予定だったのに)
戻るという選択肢は残されてない。
「・・・・」
多分、パーシー副長官は受け入れてくれないだろうから。
家族という場所の楽しさも、温もりも、安心感も何もわからないから、神殿で死ぬまで働いて、与えられた命を全うしようと思ってたのに。
結局最後はあんな形で突き放されてしまった。
急に優しくなったらそれはそれで気持ちが悪いけど、本当に途中何回かは心から感謝してた。
両親の居なかった私を引き取ってくれて、神殿で文字の読み書きも教わったし、働ける年齢になってしばらくしてようやく一人前になったと思ったら…。
(はぁ・・・・)
視界がぼやけるのは、もうこの際幸せを感じた時だけがいい。
結局その日は、宣言どおりお昼にリクールが様子を見に来て、夜は出された食事を食べながらまた思い出にふけって、お風呂に入ってから就寝した。
◇◇◇
次の日の朝。
今は、リクールと2人で朝食をとっている。
声を出せないから一方的に喋ってるのはリクールだけに見えるけど、私も貰ったペンで空中に書いて会話はしているから、一方通行の会話ではない。
〘そういえば、リクールは何歳なんですか?〙
出された食事は、昨日とは少し違うけど似たような感じだ。リリー先生曰く、ちゃんと栄養を考えて作ってあるから全部平らげてほしいとのこと。私とリクールとの食事内容が違うのは致し方ないけど、お昼過ぎの3時にケーキが出るからそこは我慢だ。
「僕は19です。去年成人したので、去年からこの家の当主をしています」
(やっぱり・・・歳が近い)
ここに来た時からそうだったけど、ご家族を見かけない。お世話になるので挨拶をと思ったけど、紹介される様子もないため、そもそも急過ぎて私をここに連れてくること自体反対されていたのでは?と変な勘繰りをしてしまった。けど…。
(この家の当主…去年から?)
〘そうなんですね。私は今年で18になります。歳が近くてなんだか嬉しいです〙
空中に書きながら正反対の感情が込み上げてくる。
そしてリクールが話してる間私は手元を止めていて、私が空中にペンを走らせてる間、リクールも私の方を見てるから、なかなか食事が進まず予想以上に時間がかかってしまった。
「はい。それではエミリア様の誕生日はお祝いさせてください。欲しいものがあったらおっしゃってくださいね。用意しておきます」
食事の最後の会話、ただの社交辞令でも嬉しい提案に、欲しいものはなんだろうと考えながら頷いた私は、残りのスープをそそって、先に食べ終わっていたリクールと一緒に手を合わせた。
「エミリア様、このまま少し一緒に歩きませんか。屋敷の中を案内しますので」
〘分かりました〙
リクールがくれたペンは、どうやら音を出すと消えて、再度音を出すと勝手に現れる補助魔法も付与してくれているらしい。彼があとからそう教えてくれた。
(お屋敷の中・・・)
それと本人曰く、自身や魔力有りだけの人と居る時は、魔法使用時に音を出さないらしいんだけど、私みたいに魔力がない人が近くにいると、そういう人はびっくりするからその時はわざと音を出すらしい。指パッチンは片手でできるからやってるって。両手を叩いてもいいし、足で床を蹴って音を出してもいいし、本当に何でもいいらしい。
(羨ましい。私も魔力欲しい。使いすぎて1日で枯渇させそう)
指パッチンができない私は、両手を叩いて羽をしまった。そして準備をしてくれたメイドさんにお辞儀をしてからリクールと一緒に私の部屋を後にした。
◇◇◇
「本邸は別にあるのであまり大きくないですが、軽く散歩するにはいい場所かなと思います」
そう言いながら彼に仕えているという執事や、食堂、それに屋敷にある部屋を紹介してくれた。彼が書斎として使ってる部屋や、寝室として使ってる部屋までも何故か見せてくれたから少し戸惑ったけど、こんなカッコいい人の生活してる所が見れるなんてなんかイヤらしいとおかしなことを考えてしまった私は、顔が少し赤かったかもしれない。男の人の部屋なんて、私にとっては未知のものでしかない。
パーシー副長官の部屋には何回か押しかけたことはあるけど、あれは完璧に仕事部屋だったし。
(・・・そういえば、かなり殺風景だったな。飾りっ気がなくて、本当に仕事人間って感じ)
好きな女性とか居なかったのかな。私が働ける年齢になってからも冗談でもそういう部類の話は一切しなかったから、そこら辺は謎に包まれている。聞いとけばよかったと今になって少し後悔。
そして、長い廊下を歩いていると、リクールがある場所で足を止めた。
「・・・・・」
(これって・・・・)
顔を上げて体をそちらの方に向けた彼を見て、私も顔を上げた。壁にかかっていたのは肖像画で、男性3人と、女性1人が描かれている。
「本来であれば、ちゃんと紹介したかったのですが」
「・・・・」
「僕の父と母と、兄です」
肖像画を少し見つめてから目を離したリクールは、私を見て切なそうに笑った。
「父と母は、5年前に亡くなりました。兄は事情があって今は別の国に居ます」
(亡くなってる・・・・)
そうなんですね、実は私の両親も亡くなっているんです、なんて、自分の身の上話をしたところでどうしようもない。お悔やみの言葉を申し上げようとしてペンを握ろうとした時、リクールは続けて話した。
「兄のことはまた機会があれば改めてお話します。それと僕自身は、普段は軍の方で仕事をしているので、何かあればしばらく家を空けることになります。ですが今は落ち着いてるのでここに居ることができますから、エミリア様が嫌でなければ仕事が落ち着いてる間は一緒に食事しませんか」
終始淡々と喋るリクールは、毎日1人で食事をしていたのだろうか。
〘分かりました。私はいつでも大丈夫です〙
「ありがとうございます。1人だとつまらないですし、王家の方々とは息が詰まりそうなので・・・」
ハハッと苦笑いしながら言ったリクール。
話の内容をかき集めると、パーシー副長官が言っていた、異常な魔力量の持ち主とはリクールの家系で間違いなさそうだ。オッドアイの時点でもうほとんど確定事項だったけど、王家の方々との食事なんて、めったに出るワードではない。
(凄い人なのね・・・そしてお父様とお兄様も・・・オッドアイ)
というか、私この人のこと呼び捨てにしてた。今更ながら自分の頬をはたきたくなった私は、ペンを動かした。
〘今までの無礼謝罪させてください。敬称も付けず名前を呼んでいました。申し訳ありません、リクール様。付け加えてですが、私のことは呼び捨てでお願いいたします。《様》は外してお呼びください〙
こんなに凄い人が私のことを匿ってくれるとは…。
(クソだ。私クソすぎてクソだ。カッコいいとか部屋覗けて嬉しいとか思っちゃったけど不純過ぎる。今ここで頭を床に打ち付けたい)
冷や汗をかきながら不自然な笑顔を顔に貼り付けた私は、床に頭を打ち付けるかわりに、頭を下げた。
「・・・あぁ、それは気にしないでください。僕のこと呼び捨てで構わないですよ。というか頭を上げてください」
「・・・・」
「エミリア様が嫌であれば・・・エミリアさんでもいいでしょうか。いきなり呼び捨てだと・・・僕がちょっと」
凍えるようなヒンヤリとした雰囲気は今日は出てきてない。怒ってはなさそうだからホッとしたけど、内心ヒヤヒヤだった。そして顔を何故か赤らめて最後のほうは言葉を濁した彼の態度を見て、お互いによく分からない雰囲気になった所で、屋敷の散策は終わりを迎えた。
◇◇◇
それからはあまり変わらない日常だった。
3日おきの診察に、毎日のリクールとの食事、メイドさん達の仕事を盗み見ては、声が戻った時用に働けるよう持ってきた紙に記録して、そんなことを繰り返して3週間ほどが過ぎた日の夜。
首がどんな様子になってるか知りたくて、お風呂に入る前に自分で巻かれた包帯をとってみた。
(少しだけ・・・・治ってる)
初めてこのお屋敷に来てから3日後に再度診察をしてもらった時、首の様子が気になっていたから、勇気を出して見てもいいかどうかリリー先生に聞いてみると、OKを出してくれたので手鏡で見してもらった。
この時、ドス黒い紫色の血の塊がまるでまとまりついているかのように首一面を覆っていたのを見てこれ以上ないほどにショックを受けた私は、少しばかりその後塞ぎ込んでしまったけど、リクールが毎日部屋に来てくれたおかげで、なんとか気持ちが平常時に戻った。
(あの時は絶望だったな・・・あれはリクールとリリー先生が驚くのも無理ないわ)
少し色が薄くなった首元を手鏡で見て、ホッとしたのと同時に嬉しくなった私は、その日の夜ソファでうたた寝をしていた。
神殿から手紙が一通急報で届き、屋敷が少し騒がしくなったのにも気が付かず、そのまま朝までソファで寝てしまっていた。
ーーーーーーー
訃報
我が神殿に長らく従事していたパーシー副長官がお亡くなりになりました。葬儀は2日後に行われます。参列される場合は、直接神殿へお越しください。
神殿 長官
ーーーーーーー
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【本編完結】召喚? 誘拐の間違いでは?
篠月珪霞
恋愛
「…え」
まず聞こえたのは、成功だー!!といういくつもの歓声。それ以降は幾人もの声が混じりあい、何を言っているのか分からなかった。
私、白井瑠璃は、いつものように、出勤するために自宅のドアを開けただけだった。
いつものように、起床し、準備して、仕事が終われば帰宅し、そうした普通の、変わりない毎日を過ごすはずだった。
過去形になったこの日を、きっと忘れることはない。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる