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13.2 (リクールside)
しおりを挟む「口を閉じてください。締まりがない顔はだらしがないです」
「・・・・」
「神殿は聖女の味方ではありません、ということを言ってるのです。勘違いしないように」
(・・・なんだこの人)
「聖女とは、私利私欲を満たすために他者の命を平気で軽んじる強欲極まりないただのクソ女です」
(・・ク・・クソ女)
「返事は?」
「は、はい・・・わ、分かりました」
「よろしい。それが分かれば今日の授業はほとんど終わりのようなものです」
そう言ってイスから立ち上がったパーシーは、イスの背もたれにかけられていたローブを羽織ってゆっくりと歩きながら僕の横をとおり過ぎた。
「それでは中庭に出ましょう。これから貴方の魔力量とコントロールの未熟さを見てみます。今日はもう少ししたら中庭で別の予約があるので手短にいきましょう」
「・・・・」
「返事は?」
「は、はい」
あれ…?さ、さっきほとんど終わりって言ってなかったっけ?
謎が謎を呼ぶ彼の性格は、もちろん一朝一夕なんかでは到底測りきれなかった。父上や兄上がこんな猛者と日々対等に会話をしているのかと、彼らの凄さを改めて認識したと同時に、彼との会話が成立するまで、慣れるのにしばらく時間がかかることは初見で嫌でも目に見えてしまっていた。
(・・・っていうか、この人、僕の魔力量に耐えられるのか)
この時パーシーはまだ幹部ではない平の立場。
それなのになんで父上はこの人を推薦したのか、彼よりも適任者は居るのではないか、そもそもどこで知り合ったのかも何一つとして教えてくれなかったから、最初の頃僕は手探りでこの人と訓練をしなければいけなかった。
◇◇◇
「リクール殿、ここは結界を張っていますから、その指輪を取って魔力を使ってもらって結構です」
彼の後をついて行った僕は、中庭のド真ん中に立たされた。
「こ、こんなところで、ですか」
「・・・えぇ。こんなところで、です」
「・・・・」
「心配しないでください。貴方の兄上も同じように訓練したので」
「そ、そうなんですか・・・で、でも」
不安しかない今のこの状況に、未だに鋭い視線しか送ってこないパーシーは、その立ち姿もピシッと伸びた背筋も、何一つ変わらないままだ。
相手の力量が分からない状態で魔力制限の力が働いているこの指輪を外すのは初めてのことだから本当に気付かないうちにこの男を殺してしまうかもしれない。そう思ってなかなか指輪が外せず躊躇してしまっていた僕に、パーシーはイライラしたのか大きくため息をついた。
「・・・早くしてください。そうしないと別でこの中庭を使う予定の子が居るので、その子が来てしまいます。鉢合わせは確実に避けなければいけないので、今魔力解放をされないのであれば、後日に回します」
(子って・・・子ども?僕のほかにも訓練する子がいるのか?)
「わ、分かりました。今指輪を取ります」
「よろしい」
何も構えを取らないパーシーは、どれほどの男なのだろうか。せめて父上から能力ぐらい聞かされていればと思いながら、親指に付けた指輪を僕は力尽くで引き抜いた。そしてそれを合図に、僕の体の中に閉じ込められていた魔力は僕自身が認識する間もなく一気に体の外へ放出されてしまった。
「っく・・・・」
色々な色が混じった光が結界の中の空間を一瞬にして埋め尽くす。
ありえないほどの眩い光は目を開けていられないほどで、パーシーの姿さえ目視が難しい。
通常、魔力を解放しただけでは周りの人は死なない。それもそうだ。魔力というのはこの世界では、みんな年齢に応じて段階的に増えていくものだからだ。そしてある一定の年齢に達すると、魔力の増加は停止する。大部分の人は日常生活で使える程度の微々たるもので、残りの数パーセントの人は軍に選抜されるほどの魔力量に膨れ上がるが、それでも無意識に周りに影響を及ぼすほどのものではない。
「なるほど、」
ただ、例外はどうしても存在してしまう。
「これは凄まじいです。貴方の兄上とは少し性質は違うようですが」
それがカタルシスの家系だった。幼い体に似合わない爆発的な魔力量は、成長とともにさらに増加し、10代半ばでその増加量は一旦止まる。が、実際問題魔力を体外に放出する過程で起こる壮絶な痛みのおかげで、その魔力量をコントロールすることができない。そのため暴走を起こしたり、何かの弾みで指輪が外れてしまったりすると、周りに居る人は一瞬で灰となる。
ゆえにその痛みと魔力量をコントロールできるようになるため、耐え難い訓練を長い期間こなすことが必要となってくるのである。
「もう少しだけ頑張ってください。貴方のおでこに私の指が触れます。そうしたら今その瞑っている両目を開いてください、いいですか」
「っ・・・・く"」
痛みとともに血管の中を走る血液が沸騰したように全身を駆け巡るから、血管が破裂しそうなその激痛に耐えることで必死な僕は、魔力のコントロールに気を一切向けることができないでいた。
「返事は?」
だけど、この男は何も起きていないかのごとく、淡々と口を開いて話をしている。
「・・・っ・・わ"・・・わかっ・・・た」
「息を止めないでください。死にますから」
そしてパーシーの声が聞こえた瞬間、徐々に体内の痛みが薄れ、おでこに何かが触れているのが分かった。
「・・・・はぁっ」
「目の色は元に戻りましたね」
「目の・・・・色?」
「えぇ」
開けた目をじっと見つめたパーシーは、表情一つ変えず付け加えた。
「貴方が赤ん坊の時から見ていましたが、通常時は、片方は金色でもう片方は水色です。ただ魔力を解放した時・・・というよりかは自分でコントロールができない時といったほうが良いですかね。無意識下で起こる感情の起伏です。水色の瞳が赤に変化していました」
「・・・え」
「今は水色に戻ってます。私が貴方に触れているので、魔力の量が抑えられていますから、普通に話せていることが何よりの証拠です。体の痛みはどうですか。無ではないにしろ、最初よりはかなりマシかと思いますがね」
「あ、・・・あぁ。かなり楽です」
瞳の色が変わる?初めて聞いた。父上も兄上もなのか?
「まぁ、さしずめ殺傷能力120%というところでしょうか。貴方の父上と兄上も凄いですが、貴方の場合は魔力が相手を殺すことに特化しているようです」
「そ、そんなことまで・・・」
「分かります」
ただおでこに指が触れているだけなのに、なぜにこうも楽なのだろう。ふと疑問に思ってすぐに違和感に変わったのは、体内の痛みの流れのせいだった。
「・・・なんか、吸い取られてるような」
「そのとおりです。さて、そろそろ指輪を付けてもらってよいでしょうか。貴方の事はもう分かりましたので、今日の課題は終わりです」
言われたとおり握っていた指輪を再度親指にはめ込んだ。簡単に抜けないよう第一関節が足枷になっているから、自分で意図的に取る時とはめる時は少し苦労する。
「あの・・・」
「はい」
「さっきのはどうやったんですか。どうやって僕の力を・・・」
「先ほど貴方が言ったとおりです。他者の能力を吸収する力とでも言いましょうか」
(吸収?無効化じゃなくて?)
「あぁそれと、」
「なんでしょうか」
おでこから指を離してゆっくりとした足取りでさっきまでいた執務室に戻ろうとするパーシーは、今更思い出したようにこう言った。
「私のことはパーシーと呼んでください。今後私が幹部になってこの神殿で偉くなっても引き続きパーシーと呼んでもらって構いません」
「・・・・」
「返事は?」
「は、はい」
こうして、魔力量のコントロールをするのと同時に体の痛みに対する制御の仕方も兼ねて神殿で訓練するようになってから2か月が経ったある日のこと。
(・・・あれ)
中庭に行く途中の廊下で、窓の外をふと見ると見慣れない人物が一人中庭に居た。
太陽の光に照らされた綺麗な金色の髪が見えて、それが女の子だと分かったのは、パーシーがその子に話しかけた瞬間だった。
「・・・・」
名前を呼ばれたのか、振り返ったその子は、珍しい紫色の目をしていて、服が大きいのかそれとも体の線が細いのか、いずれにせよ体の小さな女の子で、中庭に生えている白い花に水をやっているようだった。
少し困ったような表情をしたその子は、持っていた水やりに使うじょうろを下に置き、口を少し動かしては身ぶり手ぶりでパーシーと会話をしているように見える。
(・・・誰だあの子)
すぐに話が終わったのか、またじょうろを手に抱えた女の子は、パーシーのほうを見上げてにっこり笑った。パーシーの顔は見えないが、何か彼女にとって喜ばしいことを言ったのかもしれない。パーシーは彼女の頭を撫でると、何処かへ行くように促していた。
僕は少し足早に中庭へと向かったが、結局紫色の瞳の子とは出会えず。その代わりにパーシーが仁王立ちしていたので、彼にすぐに話しかけた。
「おはようございます」
「おはようございます、リクール殿」
「あの・・・さっき、中庭に女の子が居たんだけど」
「女の子ですか?」
「うん。髪が金色で、瞳が紫色の」
彼女の名前は何というのだろう。
一目見て気になってしまった僕は、パーシーに聞こうとした。
「誰もいませんでした」
「・・・え」
「勘違いでは」
「いや、でも確かに」
「幻です」
「・・・・え」
「貴方が見たのは幻です」
(え、いや確かに天使みたいに可愛かったけど、幻って)
「なぜ今日は早く来たのですか」
(え・・・・えぇええええぇええ!!!!???!?)
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