翠碧色の虹

T.MONDEN

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第二十七幕:虹の華をつないで

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七夏ちゃんと一緒に昼食を頂いた後、居間で少しゆっくりと過ごす。
のんびりさんの七夏ちゃんに合わせる事は、これから先も大切な事になりそうだから。

七夏「柚樹さん、あまりご無理はなさらないでくださいね」
時崎「え!?」
七夏「えっと、お母さんから聞きました」
時崎「凪咲さん、何か話してたの?」
七夏「柚樹さん、少し慌てて帰ってきたって」
時崎「あ、そういう事か! 七夏ちゃんに午前中には帰るって話してたからね」
七夏「連絡してくれれば、慌てなくても大丈夫ですから☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「はい?」
時崎「アルバムの件で見てもらいたいのがあるんだけど、いいかな?」
七夏「はい☆」
時崎「じゃあ、部屋で待ってるから!」
七夏「用事が済んだら、すぐに伺いますね☆」
時崎「ああ」

自分の部屋で七夏ちゃんを待つ間、写真屋さんで頂いた製本アルバムのパンフレットを眺める。色々な大きさと、デザインが並んでいる。撮影した写真を沢山収録できる方が良いのだろうけど、あまりよくばると、サイズが大きく重たくなってしまう。以前に凪咲さんから見せてもらった「七夏ちゃんのアルバム」と同じくらいの大きさが良いだろうか・・・。そう言えば、あの時のアルバムの七夏ちゃんと比べれば、随分と笑顔の写真が増えたと思う。アルバムの最初の一枚は、七夏ちゃんと初めて出逢った時に撮影した写真・・・決して笑顔とはいえない表情の硬い写真。凪咲さんへのアルバムだと言う事を考えると、この写真がアルバムの最初を飾るのはどうなのかと少し迷うが、俺にとっては、とても大切な一枚だと言えるので、このまま配置している。

トントンと扉が鳴った。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「え!? あ、はい☆」
時崎「いらっしゃい!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、どおして分かったの?」
時崎「どおしてって、七夏ちゃんが来てくれるって分かってたからね!」
七夏「お母さんかも知れないです☆」
時崎「七夏ちゃんだって分かるよ!」
七夏「え!?」
時崎「階段を上がってくる音でね!」
七夏「あ、ごめんなさい! 急いで上ってきたので、音が大きかったですか?」
時崎「そうではなくて、その・・・リズムっていうのかな?」
七夏「りずむ?」
時崎「そう、凪咲さんとは違う足音って言うのかな?」
七夏「くすっ☆ 私だと分かってもらえるのは嬉しいです☆」
時崎「もし間違えたら、ごめんね」
七夏「それでも嬉しいです☆」
時崎「どおして?」
七夏「えっと、お母さんと似ているって事になりますので☆」
時崎「なるほど」

七夏ちゃんのこのような、どっちにしても相手を気遣える答え方が出来る所は、見習いたいと思う。

七夏「えっと、私に見てもらいたいものって?」
時崎「ああ、これ!」
七夏「えっと、これは?」
時崎「凪咲さんへの製本アルバムのデザイン。どれがいいかなって?」
七夏「柚樹さんは、どれがいいと思いましたか?」
時崎「俺?」
七夏「はい☆」

なんて答えよう・・・ここにきて先手を打たなかった事を悔やむ。七夏ちゃんは、俺の選んだデザインを反対するとは思えない。ここはやっぱり、七夏ちゃんが純粋にいいなと思えるデザインを選んでもらいたい。

時崎「どれも良さそうで、目移りしてしまって」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんは、こういうの迷ったりしない?」
七夏「はい☆ 迷います☆」

七夏ちゃんは、製本アルバムのパンフレットを順番に眺めている。俺は七夏ちゃんの表情を注意深く観察していると、一瞬表情が変わったのを見逃さなかった。そして、その時のパンフレットのページを見て、目星が付いた!

時崎「七夏ちゃん! これ! どうかな?」
七夏「あ、私もいいなって思いました☆」

俺が七夏ちゃんに訊いてみたのは「セブンリーフ」のイメージに近いデザインだった。実は、パンフレットを見た時から、このデザインをマークはしていたけど、他に七夏ちゃんがいいと思うのがあれば、それにしようと思っていた。

時崎「セブンリーフみたいだね」
七夏「あ、柚樹さんもそう思いました?」
時崎「ああ。これにする?」
七夏「そうですね☆ あ、でも、ここちゃーと笹夜先輩にも見てもらって、みんなで一緒に選んだ方がいいかな?」
時崎「じゃあ、このデザインは最有力候補としておくよ!」
七夏「はい☆ 最有力なのですか?」
時崎「高月さんはともかく、天美さんは違うのを選びそうだから」
七夏「くすっ☆」

??「ごめんくださーい!」
??「こんにちは♪」
??「いらっしゃいませ、心桜さん! 高月さん! ちょっと待ってくださいね」

玄関の方から声がした。

七夏「あ、ここちゃーと笹夜先輩が来てくれました☆」
時崎「そうみたいだね!」

七夏ちゃんと俺は一階の玄関へと移動した。

七夏「ここちゃー、笹夜先輩! いらっしゃいです☆」
時崎「いらっしゃいませ! ・・・で、いいのかな?」
心桜「お! お兄さん! どうもー!」
笹夜「こんにちは♪ ご無沙汰いたしております」
時崎「二人一緒ってことは、どこかで待ち合わせでもしてたの?」
心桜「いや、ここへ来る途中で、あたしが笹夜先輩に追いついただけだよ」
時崎「そう」
七夏「お昼はもう済みました?」
笹夜「ええ、少し早めに頂きました♪」
心桜「あたしも同じ!」
凪咲「心桜さん、高月さん、ごゆっくりなさってくださいませ!」
笹夜「はい♪ お邪魔いたします」
心桜「あたしも同じく!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んじゃ、早速、お兄さんの部屋でいいんだっけ?」
時崎「ああ。よろしく頼むよ」
七夏「私、お飲み物を持ってまいりますね☆」
時崎「では、こちらへどうぞ!」

天美さんと高月さんを自分の部屋へ招く。やっぱり七夏ちゃんが居ないと、少し落ち着かないな・・・二人は七夏ちゃんと強く繋がっている訳だから。この落ち着かない気持ちは俺と天美さん、高月さんの繋がりがまだ細い事を意味している。二人の様子を見ているとそれぞれの性格が現われてくる。天美さんは机の上に置いてあった製本アルバムのパンフレットに早速気付き、それを見つめている。高月さんは部屋の端に横座りをして、瞳を閉じて休憩している。どう声を掛ければいいのだろうか?

七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん!」

扉の向こうから七夏ちゃんが来てくれた。俺は扉を開けると同時に安心してしまう。

七夏「お邪魔します☆」
時崎「どうぞ!」

七夏ちゃんは、お飲み物と和菓子を乗せたお盆を持っていた。

七夏「はい☆ どうぞです☆」
心桜「つっちゃー!ありがと!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「お兄さん、これ?」
時崎「え?」

天美さんは、製本アルバムのパンフレットを指差す。

時崎「あ、そうそう、アルバムのデザインをどうしようかと思って。高月さんも、良かったら一緒に」
笹夜「はい♪」

二人は、製本アルバムのパンフレットを眺めながら、何か小声で話している。俺はMyPadのデジタルアルバムを表示して、二人からコメントをもらう準備をする。

心桜「これかな?」
笹夜「ええ♪」
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「あたしたちは、これがいいと思ったんだけど」
笹夜「どうかしら?」

俺は二人が決めたデザインを見て嬉しくなった。

七夏「それ、私と柚樹さんもいいなって思ってました☆ ね? 柚樹さん?」
時崎「ああ。みんな一緒の意見で良かったよ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「やっぱ、セブンリーフ好きなら、これ一択でしょ!?」
時崎「天美さんも、そう思ったんだ」
心桜「『も』って事は、お兄さんも?」
時崎「一応・・・」
心桜「うわっ!『お兄さんと一緒』かー」
時崎「嫌なのか?」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「いや、昔、そんなテレビ番組があったなーって」
七夏「くすっ☆」

・・・天美さんの言動も七夏ちゃんとは違う方向で読めない。

時崎「で、これに、二人のコメントを貰いたいんだ」
心桜「どれどれ?」
時崎「高月さんも」
笹夜「はい♪」

積極的な天美さんに対して、高月さんは控えめだ。高月さんは七夏ちゃんや天美さんの先輩だけど、実際、七夏ちゃんと高月さんを牽引しているのは天美さんかも知れない。

天美さんにMyPadを渡す。高月さんも一緒にアルバムの写真を眺め始める。

時崎「その、デジタルアルバムの写真で、思ったことに、二人のコメントを貰いたいんだ。特に天美さんと、高月さんが写っている所に」
心桜「なんでもいいの?」
時崎「ああ。でも、凪咲さんへのアルバムって事は意識しておいてほしい」
心桜「うっ、先手を打たれた!」
笹夜「もう! 心桜さん! すみません。時崎さん」
時崎「いや、多少は弾けてもらった方が楽しくなると思うから」
心桜「お兄さん! なかなか理解あるね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃーのコメントは、ところどころに入ってるんだね」
時崎「そうだね。あ、コメントはこの、ふきだし付箋に書いてもらえると助かるよ」
笹夜「後で、分からなくならないかしら?」
時崎「それは、画像の番号を付箋の裏に書いてもらえれば」
笹夜「なるほど♪」
心桜「つっちゃーも一緒に!」
七夏「はい☆」

三人は、MyPadを眺めながら、思い出話を楽しみはじめた。

心桜「これは?」
七夏「あ、それは柚樹さんと初めて出逢った時かな☆」
笹夜「ここから、始まったのかしら?」
七夏「え?」
笹夜「いえ♪」
心桜「このつっちゃー、あたしは見慣れてるけどさ、つっちゃーのコメントと表情が一致しないんだよねー」
七夏「・・・・・」

天美さんは、ストレートに思った事を話す。俺が思っても、なかなか訊けない事を天美さんは七夏ちゃんに話したりするので、七夏ちゃんの事をもっと知るには、天美さんの助けが必要だ。

笹夜「『初めて撮影してもらいました☆ 少し、とてもドキドキです☆』私は素敵だと思います♪」
七夏「笹夜先輩、ありがとです☆」
心桜「さ、笹夜先輩! そういうのさらっと読み上げますか!?」
時崎「くくっ!」
心桜「あ、お兄さんっ! 笑った?」
時崎「天美さんからは、まず出てこない台詞だなと思って」
心桜「『初めて撮影してもらいました☆ 少し、とてもドキドキです☆』どうだ!」
時崎「おっ! でも、天美さん耳、赤くなってるよ!」
心桜「うっ! つ、次だ次~」
七夏「もう! ここちゃー!」

天美さんの「弱点」が少しだけ見えた気がする。

心桜「おっ! これは! 岬で撮影?」
笹夜「まあ♪ 七夏ちゃん、素敵な表情♪」
七夏「くすっ☆」

俺からは、MyPadの画面が見えないので、どの写真の事か分からないが、天美さんの言葉でなんとなく想像ができた。七夏ちゃんお気に入りの場所で撮影した写真の事だろう。

心桜「これはみんなで、お出掛けした時か・・・笹夜先輩、この時、変な人にナンパされたんだよね?」
七夏「え!? そうなの?」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「あっ、えっと・・・」
時崎「高月さんは、駅の場所を聞かれただけだよ。それを見た俺が、勝手に高月さんが絡まれていると勘違いしただけ」
七夏「そうなのですね☆」
心桜「そ、そうそう!」
笹夜「時崎さん。あの時は、すみませんでした」
時崎「いや、こっちこそ」
心桜「あたしも、ごめんなさい!」
時崎「ほんと、気をつけてよ!」
心桜「(ありがと。お兄さん!)」
七夏「???」
心桜「おっ! 笹夜先輩! 初登場! 遂にアルバムデビューだね!」
笹夜「え!?」

天美さんの話から「夕陽を眺めている高月さん」の写真の事だと分かった。

心桜「笹夜先輩!『初めて撮影してもらいました☆ 少し、とてもドキドキです☆』だね!」
笹夜「まあ!」
七夏「ここちゃー、夕日を眺めている笹夜先輩が、そんな事を話すの?」
心桜「あははっ! 冗談だって!」
笹夜「いつの間にか、撮影されていたのですね」
時崎「すまない」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「あたしが、笹夜先輩の撮影をお願いしたんだよ」
笹夜「そうだったの・・・えっと・・・」
七夏「『素敵な笹夜先輩! これからもよろしくです☆』かな?」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとう♪ こちらこそ♪」
心桜「これは、皆で海に出かけた時だね!」
七夏「はい☆」
心桜「三人決まってるねー! これは殿堂入りじゃない!?」
笹夜「大袈裟です」
心桜「笹夜先輩がパレオをキャストオフれば、間違いなく殿堂入だよ!」
笹夜「心桜さんっ!」
七夏「私、この写真の笹夜先輩、とっても素敵だと思います☆」
心桜「それは認めるよ! 笹夜先輩はホント、白い肌、長い黒髪、スタイル抜群な上にストラッピーでパレオ装備なんて、ラスボスの後に登場する女神様か何かですか!?」
笹夜「褒められてるのかしら?」
心桜「もちろん!」
笹夜「なんだか、複雑です」
心桜「あはは! そんな無敵の笹夜先輩にも、弱点があったんだよねー」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「あの時は、心桜さんと七夏ちゃんにお世話になりました♪」
心桜「いえいえ! でも、弱点が無くなったら、ますます無敵じゃないですかっ!」
笹夜「まだまだ、苦手な事も沢山あります」
心桜「お! これは、浮き輪をキャストオフって泳いでる笹夜先輩! ・・・よりも、つっちゃーの方が目立ってるんだけど」
七夏「えっと、ごめんなさい☆」
心桜「いやいや、面白い一枚だねー。なんてコメントしようかな?」
笹夜「『海で泳ぐ楽しさを教えてくれて、ありがとう♪』かしら?」
心桜「うんうん!」
七夏「くすっ☆」
心桜「これは、皆で花火だね!」
七夏「はい☆」
心桜「ひとだま花火の不気味さが蘇ってきたよ」
笹夜「心桜さん、そういうの好きなのかしら?」
心桜「ま、面白くて楽しければねっ!」
七夏「あ、これは、みんなで線香花火です☆」
心桜「この一枚も、殿堂入りだねー」
笹夜「ええ♪ 七夏ちゃんと凪咲さん、よく似ていて素敵です♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「そういえば、花火で思い出したけど、今度どうする?」
七夏「え!?」
心桜「花火大会!」
七夏「みんなで浴衣がいいな」
心桜「え!?浴衣!?」
七夏「ここちゃー浴衣あまり着ないから・・・」
笹夜「心桜さん、この時は浴衣を着ていますけど」
心桜「まあ、つっちゃーの家の中ならいいんだけどね・・・浴衣で外を出歩くのは・・・」
七夏「くすっ☆」
笹夜「私も心桜さんと七夏ちゃんの浴衣が見てみたいかしら?」
心桜「あたしも笹夜先輩の浴衣姿、楽しみだよ!」
笹夜「でも、七夏ちゃんの家まで浴衣で来るのは・・・」
心桜「だったら、つっちゃーの家で着替えれば? そのままお泊りも!」
笹夜「まあ! いいのかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「よし! またみんなで泊まろう!」
七夏「くすっ☆ 私、お母さんにお願いしてみますね☆」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
心桜「でも、浴衣、家にあったかなぁ」
七夏「私ので良かったら」
心桜「それもいいんだけど、昔みたいなことがあったら」
七夏「あ・・・」
時崎「?」
笹夜「何かあったのかしら!?」
心桜「うん。昔、つっちゃーの浴衣を借りて花火大会に出かけたんだけどさ。その時、屋台の隅で、鎖がからまって身動きが取れなくなっていた犬を見つけたんだ。けど、屋台の買い物で両手がふさがっていたから、足で鎖を解こうとしたら、その犬に噛まれた」
笹夜「まあ! 大丈夫だったの?」
心桜「噛まれたのは浴衣の裾のみで、怪我はなかったけど、驚いて足を振り回した時に裾がビリーッて裂けてしまったんだ。ま、おおちゃくしたあたしが悪いんだけどさ。あの時はごめん。つっちゃー」
七夏「いえ、ここちゃー怪我しなくて良かったです」
笹夜「そうなの・・・では、せっかくですから、心桜さんの浴衣を買いにゆくのはどうかしら?」
心桜「え!? わざわざ買うの?」
笹夜「(心桜さん、七夏ちゃんに協力するって・・・)」
心桜「(あ、そだったね)」
時崎「?」
心桜「よし! では、後日、見にゆく計画としますか!」

その後も三人は、MyPadを見て楽しそうに話しながら、ふきだし付箋にコメントを記してくれた。

七夏「柚樹さん☆ ひととおり出来ました☆」
時崎「みんなご協力、ありがとう!」
笹夜「どういたしまして♪ 私も楽しめました♪」
心桜「だねっ! でも、あたし思ったんだけどさ」
時崎「え!?」
心桜「このMyPadに直接コメントを書いてもよかったんじゃない?」

流石、鋭い天美さん。確かにデジタルアルバムに直接コメントを記してもらったほうが手っ取り早いけど、俺は製本アルバムにはデジタルとアナログを混在させようと計画している。

時崎「そうなんだけど、手書きのコメントも必要なんだよ」
心桜「そうなの? 後で、デジタル入力するんじゃないの?」
時崎「今、デジタルアルバムで見てもらっている写真のいくつかは、実際に現像した写真と置き換える予定なんだ」
笹夜「なるほど♪」
時崎「全ての写真を現像するのは費用がかかるから、印刷と、本物の写真、そしてコメントもデジタルとアナログで色々と詰め込みたいんだ」
心桜「そういう事ね・・・色々と考えてるんだね」
時崎「まあね。写真の現像やアルバムの製本は、3日くらいかかるらしいから、俺がこの街に居る期間よりも少し早めに仕上げなければならなくて」
七夏「・・・・・」
笹夜「七夏ちゃん!?」
心桜「製本依頼をした後に撮影した写真はどうなるの?」
時崎「アルバムの最後に、後から写真を追加できる余白のページを用意してもらえる事になってるから」
心桜「なるほど、流石! 写真の事になると隙がないね!」
時崎「まだ、完成してないから焦ってはいるんだけど」
心桜「ま、あたしたちで出来る事があれば、引き続き協力するから!」
時崎「ありがとう! 心強いよ!」
心桜「笹夜先輩! つっちゃーも同じだよねっ!」
笹夜「ええ♪」
七夏「え!? は、はいっ!」
時崎「デジタルアルバムは、完成したら七夏ちゃんのMyPadにも贈るつもりだから、そっちでも見れるようになるよ」
七夏「ありがとです☆」
心桜「んー! こんな作業をずっと続けると、肩が凝るよねー。体を動かしたくなってくるよ」
七夏「体を動かせる遊び・・・」
心桜「つっちゃー! ラケット持ってたよね?」
七夏「はい☆ お庭で遊びますか?」
心桜「そだね♪ お天気もいいし!」
七夏「柚樹さん! 笹夜先輩も、ご一緒にどうですか?」
笹夜「ラケットって?」
心桜「バドミントンだよ!」
時崎「なるほど、俺は構わないよ!」
笹夜「私にできるかしら?」
心桜「気軽に楽しめると思うよ!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

皆で一階の庭まで移動する。

心桜「うんうん、いい天気! 風も吹いてないから、絶好のバドミントン日和だねっ!」
笹夜「そんな日和があるのかしら?」
心桜「あるある!」
七夏「ここちゃー! これかな?」
心桜「ほら! あった!」
笹夜「『ある』が別の方に繋がって---」
心桜「笹夜先輩! 難しい事考えないで気軽に参りましょー」
笹夜「は、はい!」

天美さんは、七夏ちゃんからラケットを受け取ると、軽く素振りを始める。その動きがとても素早いので、七夏ちゃんや他の人は付いてゆけるのかと思ってしまう。

心桜「うーん・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「やっぱ、普段使ってるのより重いなーと思って」
七夏「これじゃ無理かな?」
心桜「いやいや、ハンデにもなるし、これで丁度いいよ!」
七夏「くすっ☆」

天美さんは、七夏ちゃんから羽・・・シャトルを受け取ると、真上にめがけて打ち放った。

心桜「よっ!」
笹夜「まあ!」

天高く上ったシャトルは、再び天美さんのところに落ちてきた。

心桜「お帰りいてらっ!」
七夏「くすっ☆」

再びシャトルは天高く・・・これは、空を相手に一人でラリーしている事になる。

心桜「いらっしゃーい!」
時崎「凄いな」

俺は、そんな天美さんの様子を撮影した。
シャトルは天美さんと空とを何往復かした後、天美さんはシャトルを優しくラケットで受け止めた。それを見た俺は、天美さんには絶対勝てないなと思った。

心桜「うん、上空も風はないみたいだから、純粋に楽しめるよ!」

なるほど。天美さんの一人ラリーは、風の状態のチェックをしていたわけか。色々と俺の知らない事があって新鮮だ。

心桜「んじゃ、つっちゃーお願い!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃん、大丈夫なのかな?

笹夜「七夏ちゃん、大丈夫かしら?」
時崎「高月さんも、そう思う?」
笹夜「時崎さんも?」
時崎「ああ。だって、さっきの天美さんを見たら・・・」
笹夜「ええ」

俺と高月さんは、縁側に座って、天美さんと七夏ちゃんの様子を眺める。七夏ちゃんが天美さんのように素早くラケットを振る姿は想像できないけど・・・。

心桜「よっ!」
七夏「わぁ!」
心桜「ほいっ!」
七夏「えいっ!」
心桜「ほっ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「それっ!」
七夏「えっと!」

なるほど。天美さんの打ち方を見ると、すくい上げるようにシャトルを七夏ちゃんへ送っている・・・これは、かなり手加減をしている事が素人目にも分かる。けど、七夏ちゃんはとても楽しそうだ。なんだかんだと言いながら、天美さんなりの気遣いが出来ているんだなと思う。その様子を眺めながら、俺は楽しそうな二人を撮影する。しばらくすると、七夏ちゃんがラケットを持ってこっちに来た。

心桜「笹夜先輩!」
七夏「どうぞです☆」
笹夜「え!? 私!? 時崎さんではなくて?」
心桜「お兄さんは、笹夜先輩を撮影!」
時崎「了解!」
七夏「くすっ☆」

高月さんが居た場所に七夏ちゃんが座ってきた。

時崎「七夏ちゃん、お疲れ様!」
七夏「はい☆ 体がぽかぽかです☆」

手で、顔をパタパタと扇ぐ七夏ちゃん・・・これも普段はあまり見られない姿で可愛いと思ったので、一枚撮影させてもらった。

七夏「ゆ、柚樹さん!」
時崎「あ、ごめん」
七夏「私よりも、笹夜先輩です!」
時崎「そ、そうだね!」

心桜「よっ!」
笹夜「まぁ!」
心桜「ほいっ!」
笹夜「えいっ!」
心桜「ほっ!」
笹夜「きゃっ!」
心桜「それっ!」
笹夜「えっと!」

天美さんと、高月さんを見ていると、七夏ちゃんの時と同じような状態だ。天美さんは七夏ちゃんの時よりも、もっと手加減しているように見え、シャトルはふわりと優しく高月さんに届けられている。それでも、高月さんは少し慌てているように見える。高月さんの長い髪とスカートが大きく舞って優美なんだけど、これは身動きが取りやすそうな格好の天美さんに対しても、バドミントンに対しても不利だろう。

七夏「笹夜先輩! 頑張って!」
笹夜「え!? あっ!」
七夏「あっ! ごめんなさい!」
笹夜「いえ」
心桜「笹夜先輩! 試合中によそ見したら命取りだよ!」
笹夜「すみません」
心桜「いやいや、今は試合中じゃないからね! 気楽に楽しみましょう!」
笹夜「はい♪」

しばらく眺めていると、高月さんは次第に慣れてきたのか、動きに余裕が出てき始めた。それはそのまま表情へと現われ、高月さんも楽しそうにシャトルを天美さんへ送っている。俺はそんな楽しそうな二人を撮影する。

笹夜「ふぅー」
心桜「笹夜先輩、お疲れ様! 海で一緒に泳いだ時も思ったけど、飲み込み早いね!」
笹夜「そ、そうかしら?」
心桜「うん。本格的にやれば、いいとこまで行きそうだけど?」
笹夜「でも、既に息が続かなくて・・・」

少し、疲れている様子の高月さんに対して、天美さんは全く疲れてる様子はない・・・そりゃ手加減してるから、余裕なんだろうな。

心桜「んじゃ、次! お兄さんっ!」
時崎「え!? 俺も!?」
心桜「もちろん! 写真機置いてこっちっ!」
笹夜「時崎さん、お願いします♪」
時崎「あ、ああ」

高月さんから、ラケットを受け取る。

七夏「柚樹さん、頑張ってください☆」
時崎「ありがとう!」
心桜「よくぞ、ここまで辿り着きましたな・・・ほいっ!」
時崎「え!? おっと」
心桜「よっ!」
時崎「うっと!」
心桜「ほっ!」
時崎「こう!」

天美さんは、俺に対しても手加減をしてくれているようだ。天美さんからのシャトルをアドリブでなんとか返している状態だ。

心桜「スマッ!」
時崎「うわぁ!」
七夏「あ!」
笹夜「まあ!」

・・・と思ったら、天美さんから鋭い一撃が放たれた。それまでの、ゆるくふわっとしたシャトルとは別物で、一直線に飛んできて俺の横をかすめてゆく・・・その時、シャトルから風を切るような音が耳に届いた。

七夏「ここちゃー!」
時崎「あ、天美さん・・・今のは、スマッシュ!?」
心桜「あはは! ラスボスには手加減無用!!!」
時崎「俺、そういうポジションなのか!? 高月さんは?」
心桜「ラスボス後の女神様だよ!? さっき言わなかった?」
時崎「そ、そうか・・・」
心桜「ごたごた言わないっ! はっ!」
時崎「よっ!」

俺は、いつ飛んでくるか分からない、天美さんのスマッシュに備えなければならなくなったようだ。

心桜「っ!」
時崎「おわぁ!」

・・・天美さんのスマッシュ! これは無理だ。早過ぎる! でも、今ので分かった事がある。天美さんがスマッシュを放つ時は、ラケットの構え方が違う・・・そう、大きな一撃には、それなりの予備動作を伴うのが世の常だ。

心桜「お兄さん! 頑張って打ち返してよ!」
時崎「あ、ああ! すまない」
心桜「ほいっ!」
時崎「よっ!」
心桜「はいっ!」
時崎「おっ! ・・・!!!」

・・・来る! 次は鋭い一撃が来ると分かったので、俺は身構えた!

心桜「スマッ!」
時崎「!!!」

・・・あれ!? シャトルが消えた!? 漫画の魔球とかじゃあるまいし、そんな事が現実にあるのか!?

心桜「あら!?」
時崎「え!?」
笹夜「まあ!」
七夏「えっと」
心桜「あーはは・・・だめだこりゃ!」
時崎「おお! 刺さってる!?」

天美さんのスマッシュによって、シャトルはラケットの網に突き刺さっていた。どおりで消えたように思えた訳だ。

心桜「ガットが、ゆるゆるになってるねー」
時崎「シャトルが消えたかと思ったよ」
心桜「あははっ! 消える魔シャトルだねっ!」
時崎「シャトルがラケットの網に突き刺さるとは・・・凄い」
心桜「競技用のラケットじゃないから、ガットもゆるめなんだよね」
時崎「ガットって?」
心桜「あ、ラケットの網の事だよ!」
時崎「なるほど」

天美さんはラケットに突き刺さったシャトルを丁寧に取りはずして、七夏ちゃんのところへ持ってゆく。

心桜「つっちゃー、頑張れ!」
七夏「え!?」
心桜「今度は、お兄さんと楽しみなよ!」
時崎「え!?」
笹夜「七夏ちゃん、頑張って♪」
七夏「は、はい☆」
時崎「よ、よろしく!」
七夏「で、では・・・えいっ!」
時崎「おっと・・・」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「だ、大丈夫!?」
七夏「ごめんなさいっ!」

七夏ちゃんと一緒にバドミントンを楽しんで分かった事・・・俺と七夏ちゃんの場合、ラリーが殆ど続かないことから、天美さんは、かなり気を遣ってシャトルを相手に送っていたという事になる。

時崎「なんか、うまく打てなくてごめん」
七夏「いえ、私のほうこそ」
凪咲「七夏! ちょっといいかしら?」
七夏「あ、はーい! 柚樹さん!」
時崎「ああ、ありがとう。楽しかったよ!」
七夏「はい☆ ちょっと、失礼しますね☆」

七夏ちゃんからラケットを受け取る。

心桜「お疲れーお兄さん!」
笹夜「お疲れ様です♪」
時崎「天美さんが凄いという事が分かったよ」
心桜「あはは! ありがと。あたし、ラケット片付けてくるね!」
時崎「あ、すまない」

天美さんは、俺からラケットを受け取り、そのまま納屋のほうへ移動した。

笹夜「時崎さん」
時崎「え!?」
笹夜「七夏ちゃんの事、これからもよろしくお願いします」
時崎「それって?」
笹夜「七夏ちゃん、たぶんですけど、時崎さんがこの街から居なくなる日の事をずっと気にしているように思えて・・・その・・・」

以前に、高月さんが話していた七夏ちゃんの影の事だと分かった。確かに、いつまでこの街に居るかという事を七夏ちゃんにも、凪咲さんにも話していない。俺自身、具体的な日付を決めている訳ではないのだが、このままでは良くない事は分かっている。

時崎「ありがとう、高月さん。俺自身、まだいつまでこの街に居るかを決めかねているんだけど、限度は夏休みが終わる一週間くらい前になるかなと思ってる」
笹夜「七夏ちゃんには?」
時崎「まだ、話していない・・・具体的な日が決まったら話そうと思っている」
笹夜「そう・・・」
時崎「高月さん!」
笹夜「はい!?」
時崎「今後も、七夏ちゃんの事で相談する事があるかも知れないけど」
笹夜「ええ♪ わたしで良ければ♪」
時崎「ありがとう!」
心桜「ふー! あれ? つっちゃーは?」
時崎「凪咲さんと、まだ話しているみたいだけど」
七夏「お待たせしました どうぞです☆」
心桜「おっ! 冷茶! ありがとー!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「柚樹さんも、どうぞです☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
七夏「えっと、明日、お泊りのお客様が来る事になりました☆」
時崎「そうなんだ!」
七夏「あと、花火大会の時は、ここちゃーと笹夜先輩のお泊りも大丈夫です☆」
心桜「わーい!」
笹夜「まあ! ありがとう♪」
心桜「明日、お客さんが来るんだったら、今日はこれでお開きにしますか!」
笹夜「はい♪」
時崎「じゃ、二人を送ってゆくよ!」
心桜「いいよいいよ。まだ明るいから大丈夫!」
笹夜「私も大丈夫ですので♪」
時崎「そう?」
笹夜「(時崎さん、七夏ちゃんの事よろしくお願いします)」
時崎「え!?」

高月さんが囁いた事、それは、自分の事よりも七夏ちゃんと一緒に過ごす時間を大切にしてほしいという意味だと思った。

心桜「んじゃ、ささっと帰り支度しますか!」
笹夜「はい」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「お邪魔しましたー!」
凪咲「心桜さん、高月さん、またいらしてね!」
笹夜「はい♪ ありがとうございます!」
心桜「んじゃ、つっちゃーまたね! お兄さんも!」
七夏「はい☆」
時崎「ああ」

玄関で天美さんと高月さんを見送る。

七夏「私、明日のお客様の準備をしますね☆」
時崎「俺も手伝える事があったら声を掛けて!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」

明日は、俺以外のお客様が来る事になった。民宿風水としては、久々のお泊り客という事で、七夏ちゃんも張り切っているようだ。どんな人なのかは分からないけど、皆で楽しく過ごして、良い思い出が残せればいいなと思う。

時崎「俺も頑張らなくては!」

部屋に戻り、天美さん、高月さんから貰ったコメントをMyPadに入力する作業と、七夏ちゃんへのアルバム制作を行いながら、この街への滞在期間の事も考え、より一層、七夏ちゃんとの時間、そして、七夏ちゃんの大切なお友達である天美さん、高月さんとの繋がりも大切にしたいと思うのだった。

第二十七幕 完

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第二十七幕をお読みくださり、ありがとうございました!
「次へ」ボタンで、次回予告です!

次回予告

空はいつも晴れている訳ではない。雨の日だってある。そんな事は分かりきっているはずだったのに・・・。

次回、翠碧色の虹、第二十七幕

「曇り時々虹!?」

雨上がりに虹は現われる。「ふたつの虹」もそうであると信じたかったのだが・・・。
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