わたしの王子の願いごと

高橋央り

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29.今を見て―――

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美菜は泣き顔をゆっくりと振る。

「いや…、無理です……。私…、憲斗の未来がこうでも…、だからって皇真さんにいくなんて…できませ……」

「はははははっ。俺様の愛をなめんな。美菜を手に入れたいんじゃないくて、美菜を幸せにしたいんだよ」

美菜は皇真の言っている意味が、分からず、また頭を揺らす。

「美菜は、憲斗くんに会いに、東京に行くんでしょ!?」

「え?…」

皇真の温かい声に、美菜は顔を上げた。

「ほら、早く乗って。俺様なら、東京まで、5時間弱で送れるから!会いたいんだろっ。行くよ!!」

低めの男らしい声で、皇真が言った。

彼は、美菜の腕を優しく掴んで引く。

そして、皇真は反対の手で、美菜のバーチャルの眼鏡を取り、本物を掛けた。

自分の眼鏡を掛けた瞬間、美菜は皇真の顔が近くにある気がして、ドキッする。

超絶イケメンの唇が動く。

「本当の心で、今を見て―――」

皇真の優しいと声と瞳と表情に、美菜は涙を流す。

涙まみれの目で見ると、超絶イケメン王子が、さっきよりも輝いている気がした。

真っ直ぐ美菜を見つめてくれている皇真の気持ちに、何だか申し訳なさを感じ、美菜は目を瞑って頷いた後、皇真の高級車の助手席に乗る。

ブオォォォォ―――ン!!!

ビュゥゥゥゥゥ―――――…

轟音を鳴らした後、皇真の車は道路を走って行った。

皇真のベンツは、高速道路に乗って、東京を目指す。

飛ばしているのか、普段からこうなのか、分からないが、美菜は皇真の運転の荒さに、目を瞑っていた。

他の車をどんどん抜いていく。

車が揺れる度に、皇真は長い指と腕を、美菜の安全のために伸ばしてくれた。

目を薄っすら開けると、ハンドルを握る皇真の右手の黒く上品な時計が、美菜の目に入る。

皇真は、運転に集中するため、ジャケットを脱いで、今朝と同じ肌蹴たカッター姿になった。

「酔う?大丈夫?…かな」

「ぜ、全然平気です…。ありがとう…ございます…」

皇真は「ちょっとでも気持ち悪かったら言ってね。もうちょい飛ばしてみるから」と言い、アクセルを強く踏み、スピードを上げる。

あまりの速さで、美菜は体が座席に減り込みそうな気がしたが、皇真が自分のためにしてくれていることで、また彼の眼差しが真剣だったので、何だか少し胸が熱くなった。

皇真が好意を抱いてくれているのは、どうやら事実らしいと理解した美菜は、申し訳ない思いがさらに増した。

他の車を追い越していく皇真に向かって、美菜は口を開く。
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