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菊桜銀行、古野森支店は平常通り

卑屈満開(4)

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 気疲れが凄い。
 仕事以外に気に掛けることが増えてしまったことが、精神的に結構なダメージとなっている。毎日毎日、すりがねで心臓を降ろしているような痛みに耐えて、仕事を終えている私としては、もうこれ以上負担を増やしたくないのである。

 早く、一か月過ぎろ。早く、本部に帰ってしまってほしい。

 高峰さんのことは嫌いではない。
 むしろ好きだ。

 けれど、私には眩しすぎる。

 なんで、私。
 なんで、なんで。

 ―――高峰さんは、私の姉を知っているはずなのに。
 私の、完璧な姉を知っているのに。

 なんで、私に、好きだというのか。

 逃げるようにして帰宅し、ベッドの上で丸まった。自炊する元気も起きないから、今日はコンビニで買ってきたお弁当を食べた。洗濯が溜まっていることも思い出した。

 ああ、なんて自堕落な女なのか。自分で自覚している。
 私なんかと結婚しても、何のメリットもないですよ。

 誰の得にもなりません。

 高峰さんの幸せを奪いたくないのです。
 お願いだから、そっとしておいてください。

 ぎゅっと目を瞑れば、スマートフォンが揺れた。
 メッセージを開けば

『今度、お姉ちゃんが会社で表彰されるんですって』

 それから、華やかなスタンプが二つほど。
 母からだった。よかったね、とだけ返信した。

 唐突に、母は姉の自慢話をしてくる。よくあることだった。私が一人暮らしをしていなければ、それはメッセージではなく、直接言われてたことだろう。まるで自分の手柄のように。当てつけのように。

 そう考えてしまうのは、私が卑屈すぎるからだろうか。

 卑屈になったのは、それが原因なのではないだろうか。

 自分の性格の原因に、答えは出ているけれど。だから何だというのだ。三つ子の魂百までである。
 卑屈の魂はすでに摩滅してしまって、どこにもない。あるのは名前と肉体のみ。

 生きるだけの人生である。
 合掌。

『そうそう、お姉ちゃんのお見合いが決まったから』

 続けてきたメッセージに、特に何も驚きはなかった。
 歳上の姉のお見合い。
 私とは、人の造りからすべて違う、完璧な姉。
 
 母の気合の入れようが思い浮かぶ。
 よかったね。
 
 と同じ文面で返信する。

『あんた、本当に喜んでるの?』

 ああ、面倒くさい。文面を変え、喜んでいる風を装うのを忘れていた。

 褒められなくてもいい。
 愛されなくてもいいから。

 だから、私に、何も求めないで。
 何も返せないのだから。

 スマートフォンを裏返し、化粧も落とさず眠ってしまった。

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