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Episode 2 【厄廻りディフェンダー】
#14《ルナの師匠のコアのお話》
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アトリエでの生活が始まって三日目。
慣れるまでは自由に過ごしてと言われた瑠璃と碧は昨日から本を借りて読み耽っていた。
読書はまだ途中ではあるが二人は朝から忙しない。
本に書いてある事を実践してみたくなったのだ。
瑠璃が一階へ降りようとしたところで碧とすれ違う。
彼女は何かを両手で持って自分の部屋に入ってしまった。
階段を降りリビング側へ身体を向けると、テレビ前のソファーに座り伸びをするルナの姿があった。
「ねぇルナ、キッチン使ってもいいかな?」
瑠璃は料理本を両手に抱えルナに尋ねる。
承諾を得るとキッチンへ案内され場所の説明を受けた。
奥の廊下のすぐ右側にキッチンはある。
ダイニングテーブルとキッチンをカウンターが隔てる構造だ。
入って左側に業務用冷蔵庫、その右横に電子レンジとオーブン、更にその横にシンクと食器乾燥機、IHコンロが二つと並んでいる。
コンロの上に換気扇が付いており、コンロとシンク台の下には調理道具がたくさん入れられていた。
カウンターの裏側には調理スペースがあり、その下に食器や調味料が入った棚がある。
数人で調理をしても狭くない程よい広さのキッチンだ。
「瑠璃、料理覚えるの?」
「うん。凄く楽しかったから、また皆に食べてもらいたくて。」
「いいねぇ! 皆で集まってご飯を食べるの楽しみだなぁ! ボク、お菓子作りたい!!」
「……ルナは食べられないんだよね?」
「うん。でも、ボクには特製のおやつがあるからそれ食べるの!!」
ダイニングテーブルの椅子に座ったルナはニコニコしながら足をブラブラさせている。
――特製のおやつって何だろう?
瑠璃は疑問に思ったので聞いてみる。
どうやらルナの師匠が見るに見兼ねて彼女専用のキャンディーを創ってくれたという。
「久しぶりに食べたくなってきた!」とルナはご機嫌になった。
――そういえばルナのご師匠さんの事、何も知らないよね……。
魔導具もそうだが数百年も生きているらしいその人の魔力をルナは探している。
その魔力が瑠璃達に宿って今の姿になりこうして出会ったのだ。
いい機会なのでどんな人なのかを聞いてみようと瑠璃は質問してみる。
「えっとね、お口が悪いし怒ったら怖いけど凄い人だよ。ボクには使えない魔法をいっぱい使ってるし、この本館は師匠が魔法で創り上げた物なんだって。ボクの石に魔力を注いでくれたのも師匠なんだ!」
「本当に凄い人なんだね……。そのご師匠さんの魔力がわたし達の中にあるんだよね?」
「そうそう、探せって命じられて……。ホント、犬の姿に変えた後に消えやがってあのババア……今度会ったら打ちのめしてやる……。」
「……ねぇ、確かわたし達って魔力を宿したからこの姿になったんだよね? 逆の場合はどうなるの?」
「え? 魔力を失ったらって事? 本来の姿に戻るだけだっておばあちゃんが言ってた。瑠璃の場合はラピスラズリの天然石に……。」
「そうなんだ……。じゃあ、ご師匠さんの魔力が石から離れてわたし達に宿ったのなら、ご師匠さんの石はどうなったの?」
どうやら瑠璃の疑問が刺さったらしく、ルナは目を見開き固まってしまった。
――どうして気付かなかったんだ……。
一気に焦燥感に駆られていく。
「そうじゃん!! あの時ババアの石に気付いていればボクが魔力を注げたじゃん!! うわーん! ボクの失態だぁ……!!」
今にも泣きそうな顔で「どうしよう」と慌てている。
彼女の師匠が消えてから既に一週間以上経過している。
消えた場所は遠いところにある森の中らしい。
そこに落ちている可能性はまだ十分ある。
ルナは慌てて立ち上がると玄関まで小走りで向かった。
「ボク、探してくる!! 三日くらいで帰ってくるから、それまでは絶対遠出しないでね! 二人にも伝えといて!!」
そう言って大きな音を立てながら扉を開閉しそそくさと出かけてしまった。
瑠璃は急な展開に言葉が出て来ず、暫く呆然と玄関を眺める。
――と、とりあえず、二人にこの事を伝えておいた方がいいよね……。
まずは二階に上がり碧の部屋の扉を叩くのだった。
あれから少し時間が経ち正午に差し掛かる頃、別館の掃除を続ける黒斗は少々不機嫌だった。
――終わらん。一向に終わる気配がねぇ。俺ものんびりしたいんだけど……。
この部屋の床だけは一通り砂埃を取ったおかげでランプを中に入れられるようになった。
二十畳も満たないであろうこの部屋はどうやら物置部屋になっているようで、四段ぐらいの棚がこの部屋一体に張り巡らされている。
入ってすぐ右側に下り階段があるがそこは確認していない。
瑠璃がルナに掃除をさせると言ってくれたからだ。
その物置部屋の突き当たりには扉がある。
扉前の地面には簀子が敷かれてあり、その近くに靴箱と傘入れが置かれていた。
――たぶん、この上に部屋があるんだろうな。
上がりたいのは山々だが砂埃は残ったまま。
掃除はまだ終わっていない。
目の前にゴールがあるのに辿り着けないようなもどかしさに苛立ちが積み重なるばかりだった。
――次はどっから手をつければいいんだ……?
黒斗は悩んでいた。
何処から手をつけても掃除は今日中には終わらない。
本館には及ばないがここもそこそこ広い。
棚に置かれている物を全て掃除するだけでも数日かかるだろう。
「あ、あの……!」
突然呼びかけられ黒斗は驚き叫んでしまう。
声のする方へ視線を向けると碧がモジモジしながら立っていた。
彼女は中に入ろうとしていたので慌てて止めて外に出る。
初日に比べるとマシではあるが黒斗は既に埃まみれだ。
「どうした?」
「あの…私、自分の事終わったから…その…手伝いたいなと思って…。めっ、迷惑だったらごめんなさい…。」
終わりの見えない掃除に気が立っていた黒斗は、碧が助力すると言ってくれた事で少しだけ肩の力が抜けた。
よく見ると彼女は作業用エプロンを両手に抱えている。
――一人で何とかしなければと心のどこかで意地を張っていたのかもしれない。
本心は猫の手も借りたいほどだった。
「マジで!? めっちゃくちゃ助かる…。こんな広い家、一人で掃除やってたらマジで終わんねーよ…。」
「わっ、私に出来ることなら何でもするよ!」
――それじゃあ……。
黒斗は中を覗き頭の整理をしながら考える。
最初に床を掃除した事で奥に入れるようになった。
後は棚全体とのぼり階段付近だ。
最後にもう一度床の掃除をする流れが得策だろう。
「じゃあ、中の荷物を出してくからそれ綺麗にしてくんね?」
「了解であります!」
碧は意気込んだ様子でいる。
ここの棚の最上段は脚立がないと荷物を下ろす事も掃除をする事も出来ない程高い位置にあった。
どのみち荷物は自分にしか降ろせないのであれば、彼女には安全な場所で手伝ってもらった方がいいと踏んだのだ。
「…あ、そうだ。これ付けて鼻と口を守った方がいい。マジでヤバいから。」
黒斗は作業用エプロンの内ポケットから未開封のバンダナを取り出し彼女に渡す。
もしもの時の為に入れておいて正解だったと心の中で呟いていた。
バンダナを受け取った碧はどこか緊張した様子でそれを付けている。
「じゃ、よろしく!」
そう言って黒斗は中に入り奥の荷物から順番に出していった。
出てくる荷物は大小様々。ジャンルは特に分けられていないように伺える。
碧はそれらを玄関前に置かれていた手のひらより少し大きい小型の箒で埃を落とし濡らした雑巾で拭いていく。
そんな地道な作業が二日も続いた。
「あー、終わったぁ……。」
実際のところ掃除が終わったのは七割ほどではあるが、気兼ねなく通れるようになったのでここで終わらせる事にした。
黒斗にはまだ自室を決めて掃除をする作業が残っているのだ。
二人は簀子の上に座り休憩を取っている。
「やっと終わったね! お疲れ様。二階の汚れも酷いようなら私手伝うよ……?」
「……あ、そういやぁ確認してねぇな。見てくるわ。」
黒斗は重い腰を上げて二階へ上がる。
真後ろにある扉には鍵が掛かっていた。
二つある鍵のうちの一つを手に取り扉を開けると、二階へ続く階段があり、登った先には広い廊下が続いている。
右手側の手前側から小さなキッチンと洗面台にお風呂、奥に一つ扉がある。
反対の左手側には扉が三箇所あった。
階段横の扉からはベランダに出られるようだ。
黒斗は汚れを確かめながら全ての部屋を確認する。
――良かった。これなら今日中に終われそうだ。
階段を降り、そこで待っている碧にそんなに汚れていないから大丈夫だと話した。
「本当にありがとう。碧のおかげで掃除の闇から抜け出せるよ……。何かお礼しねぇとな。つっても今の俺じゃ何も出来ねぇけど……。」
「ふふっ、お役に立てて良かった。お互い目覚めたばかりなんだからお礼は気にしなくていいのに。」
「ダメ。俺の気が済まないから。……まぁ何か考えとくよ。」
話が終わると碧は本館へ帰っていく。
いくら魔導テントが快適とはいえ、いつまでもここで過ごすのは精神的に厳しい部分があった。
碧には助けてもらってばっかだな、と考えながら黒斗は荷物と掃除道具を持って二階へ上がる。
今は最小限、自分の部屋と廊下を何とかすればいい。
どの部屋を自室にするかを決めるべく、もう一度扉を開けて再確認した。
左側手前の部屋はおそらく応接室だろう。
廊下側の壁には棚が二つほど、部屋の中心にローテーブルとソファー二つが置かれていた。
内一つのソファーはL字の形をしている。
――来客がある時はこの部屋を使おう。来る事あんのか知らねぇけど。
黒斗は他の部屋も確認する。
応接室以外の内装はどの部屋も同じだった。
「ん――……、あの部屋にすっかぁ……。」
そう呟くと左奥の部屋の扉を開け荷物を置き最後の掃除を開始する。
ものの二、三時間で片付きようやっと解放された黒斗は、ベッドに倒れるように横になるのであった。
ルナがアトリエを空けて二日。
風魔法を発動させ一日も満たない間にあの場所に到着し、一日かけて必死に探し回った。
師匠と別れた場所だ。
瑠璃の推測通りであればこの場所の何処かにあるはず。
だがいくら探しても見つからない。
魔力感知能力を発動させてもそれらしいものは見当たらない。
いくら魔力を放出させていたとはいえ、一週間と少しの期間で魔力の残り香が消えてしまう程弱い魔力の持ち主ではない。
近辺を探し回っても見つからないのだ。
「どうしよう……。」
ルナは焦っていた。
魔力を全て見つけたとしても、師匠の石がなければどうやって会えばいいのかわからない。
――あの時、気付いていればこんなことには……。
自責の念に駆られる。
これだけ探しても見つからないのなら、魔獣か何かが持ち去った可能性が高い。
もしそうだとすれば無闇に探し回っても仕方がないのだ。
「……帰ろう。」
落ち込んだ様子でルナは帰路につく。
今の彼女には保護した皆を守る役目がある。
長期間アトリエを空けるわけにはいかないのだ。
――ボクは魔女になるんだ。こんなところで挫けていられない……。
不安を振り払うようにルナは走り続けるのだった。
慣れるまでは自由に過ごしてと言われた瑠璃と碧は昨日から本を借りて読み耽っていた。
読書はまだ途中ではあるが二人は朝から忙しない。
本に書いてある事を実践してみたくなったのだ。
瑠璃が一階へ降りようとしたところで碧とすれ違う。
彼女は何かを両手で持って自分の部屋に入ってしまった。
階段を降りリビング側へ身体を向けると、テレビ前のソファーに座り伸びをするルナの姿があった。
「ねぇルナ、キッチン使ってもいいかな?」
瑠璃は料理本を両手に抱えルナに尋ねる。
承諾を得るとキッチンへ案内され場所の説明を受けた。
奥の廊下のすぐ右側にキッチンはある。
ダイニングテーブルとキッチンをカウンターが隔てる構造だ。
入って左側に業務用冷蔵庫、その右横に電子レンジとオーブン、更にその横にシンクと食器乾燥機、IHコンロが二つと並んでいる。
コンロの上に換気扇が付いており、コンロとシンク台の下には調理道具がたくさん入れられていた。
カウンターの裏側には調理スペースがあり、その下に食器や調味料が入った棚がある。
数人で調理をしても狭くない程よい広さのキッチンだ。
「瑠璃、料理覚えるの?」
「うん。凄く楽しかったから、また皆に食べてもらいたくて。」
「いいねぇ! 皆で集まってご飯を食べるの楽しみだなぁ! ボク、お菓子作りたい!!」
「……ルナは食べられないんだよね?」
「うん。でも、ボクには特製のおやつがあるからそれ食べるの!!」
ダイニングテーブルの椅子に座ったルナはニコニコしながら足をブラブラさせている。
――特製のおやつって何だろう?
瑠璃は疑問に思ったので聞いてみる。
どうやらルナの師匠が見るに見兼ねて彼女専用のキャンディーを創ってくれたという。
「久しぶりに食べたくなってきた!」とルナはご機嫌になった。
――そういえばルナのご師匠さんの事、何も知らないよね……。
魔導具もそうだが数百年も生きているらしいその人の魔力をルナは探している。
その魔力が瑠璃達に宿って今の姿になりこうして出会ったのだ。
いい機会なのでどんな人なのかを聞いてみようと瑠璃は質問してみる。
「えっとね、お口が悪いし怒ったら怖いけど凄い人だよ。ボクには使えない魔法をいっぱい使ってるし、この本館は師匠が魔法で創り上げた物なんだって。ボクの石に魔力を注いでくれたのも師匠なんだ!」
「本当に凄い人なんだね……。そのご師匠さんの魔力がわたし達の中にあるんだよね?」
「そうそう、探せって命じられて……。ホント、犬の姿に変えた後に消えやがってあのババア……今度会ったら打ちのめしてやる……。」
「……ねぇ、確かわたし達って魔力を宿したからこの姿になったんだよね? 逆の場合はどうなるの?」
「え? 魔力を失ったらって事? 本来の姿に戻るだけだっておばあちゃんが言ってた。瑠璃の場合はラピスラズリの天然石に……。」
「そうなんだ……。じゃあ、ご師匠さんの魔力が石から離れてわたし達に宿ったのなら、ご師匠さんの石はどうなったの?」
どうやら瑠璃の疑問が刺さったらしく、ルナは目を見開き固まってしまった。
――どうして気付かなかったんだ……。
一気に焦燥感に駆られていく。
「そうじゃん!! あの時ババアの石に気付いていればボクが魔力を注げたじゃん!! うわーん! ボクの失態だぁ……!!」
今にも泣きそうな顔で「どうしよう」と慌てている。
彼女の師匠が消えてから既に一週間以上経過している。
消えた場所は遠いところにある森の中らしい。
そこに落ちている可能性はまだ十分ある。
ルナは慌てて立ち上がると玄関まで小走りで向かった。
「ボク、探してくる!! 三日くらいで帰ってくるから、それまでは絶対遠出しないでね! 二人にも伝えといて!!」
そう言って大きな音を立てながら扉を開閉しそそくさと出かけてしまった。
瑠璃は急な展開に言葉が出て来ず、暫く呆然と玄関を眺める。
――と、とりあえず、二人にこの事を伝えておいた方がいいよね……。
まずは二階に上がり碧の部屋の扉を叩くのだった。
あれから少し時間が経ち正午に差し掛かる頃、別館の掃除を続ける黒斗は少々不機嫌だった。
――終わらん。一向に終わる気配がねぇ。俺ものんびりしたいんだけど……。
この部屋の床だけは一通り砂埃を取ったおかげでランプを中に入れられるようになった。
二十畳も満たないであろうこの部屋はどうやら物置部屋になっているようで、四段ぐらいの棚がこの部屋一体に張り巡らされている。
入ってすぐ右側に下り階段があるがそこは確認していない。
瑠璃がルナに掃除をさせると言ってくれたからだ。
その物置部屋の突き当たりには扉がある。
扉前の地面には簀子が敷かれてあり、その近くに靴箱と傘入れが置かれていた。
――たぶん、この上に部屋があるんだろうな。
上がりたいのは山々だが砂埃は残ったまま。
掃除はまだ終わっていない。
目の前にゴールがあるのに辿り着けないようなもどかしさに苛立ちが積み重なるばかりだった。
――次はどっから手をつければいいんだ……?
黒斗は悩んでいた。
何処から手をつけても掃除は今日中には終わらない。
本館には及ばないがここもそこそこ広い。
棚に置かれている物を全て掃除するだけでも数日かかるだろう。
「あ、あの……!」
突然呼びかけられ黒斗は驚き叫んでしまう。
声のする方へ視線を向けると碧がモジモジしながら立っていた。
彼女は中に入ろうとしていたので慌てて止めて外に出る。
初日に比べるとマシではあるが黒斗は既に埃まみれだ。
「どうした?」
「あの…私、自分の事終わったから…その…手伝いたいなと思って…。めっ、迷惑だったらごめんなさい…。」
終わりの見えない掃除に気が立っていた黒斗は、碧が助力すると言ってくれた事で少しだけ肩の力が抜けた。
よく見ると彼女は作業用エプロンを両手に抱えている。
――一人で何とかしなければと心のどこかで意地を張っていたのかもしれない。
本心は猫の手も借りたいほどだった。
「マジで!? めっちゃくちゃ助かる…。こんな広い家、一人で掃除やってたらマジで終わんねーよ…。」
「わっ、私に出来ることなら何でもするよ!」
――それじゃあ……。
黒斗は中を覗き頭の整理をしながら考える。
最初に床を掃除した事で奥に入れるようになった。
後は棚全体とのぼり階段付近だ。
最後にもう一度床の掃除をする流れが得策だろう。
「じゃあ、中の荷物を出してくからそれ綺麗にしてくんね?」
「了解であります!」
碧は意気込んだ様子でいる。
ここの棚の最上段は脚立がないと荷物を下ろす事も掃除をする事も出来ない程高い位置にあった。
どのみち荷物は自分にしか降ろせないのであれば、彼女には安全な場所で手伝ってもらった方がいいと踏んだのだ。
「…あ、そうだ。これ付けて鼻と口を守った方がいい。マジでヤバいから。」
黒斗は作業用エプロンの内ポケットから未開封のバンダナを取り出し彼女に渡す。
もしもの時の為に入れておいて正解だったと心の中で呟いていた。
バンダナを受け取った碧はどこか緊張した様子でそれを付けている。
「じゃ、よろしく!」
そう言って黒斗は中に入り奥の荷物から順番に出していった。
出てくる荷物は大小様々。ジャンルは特に分けられていないように伺える。
碧はそれらを玄関前に置かれていた手のひらより少し大きい小型の箒で埃を落とし濡らした雑巾で拭いていく。
そんな地道な作業が二日も続いた。
「あー、終わったぁ……。」
実際のところ掃除が終わったのは七割ほどではあるが、気兼ねなく通れるようになったのでここで終わらせる事にした。
黒斗にはまだ自室を決めて掃除をする作業が残っているのだ。
二人は簀子の上に座り休憩を取っている。
「やっと終わったね! お疲れ様。二階の汚れも酷いようなら私手伝うよ……?」
「……あ、そういやぁ確認してねぇな。見てくるわ。」
黒斗は重い腰を上げて二階へ上がる。
真後ろにある扉には鍵が掛かっていた。
二つある鍵のうちの一つを手に取り扉を開けると、二階へ続く階段があり、登った先には広い廊下が続いている。
右手側の手前側から小さなキッチンと洗面台にお風呂、奥に一つ扉がある。
反対の左手側には扉が三箇所あった。
階段横の扉からはベランダに出られるようだ。
黒斗は汚れを確かめながら全ての部屋を確認する。
――良かった。これなら今日中に終われそうだ。
階段を降り、そこで待っている碧にそんなに汚れていないから大丈夫だと話した。
「本当にありがとう。碧のおかげで掃除の闇から抜け出せるよ……。何かお礼しねぇとな。つっても今の俺じゃ何も出来ねぇけど……。」
「ふふっ、お役に立てて良かった。お互い目覚めたばかりなんだからお礼は気にしなくていいのに。」
「ダメ。俺の気が済まないから。……まぁ何か考えとくよ。」
話が終わると碧は本館へ帰っていく。
いくら魔導テントが快適とはいえ、いつまでもここで過ごすのは精神的に厳しい部分があった。
碧には助けてもらってばっかだな、と考えながら黒斗は荷物と掃除道具を持って二階へ上がる。
今は最小限、自分の部屋と廊下を何とかすればいい。
どの部屋を自室にするかを決めるべく、もう一度扉を開けて再確認した。
左側手前の部屋はおそらく応接室だろう。
廊下側の壁には棚が二つほど、部屋の中心にローテーブルとソファー二つが置かれていた。
内一つのソファーはL字の形をしている。
――来客がある時はこの部屋を使おう。来る事あんのか知らねぇけど。
黒斗は他の部屋も確認する。
応接室以外の内装はどの部屋も同じだった。
「ん――……、あの部屋にすっかぁ……。」
そう呟くと左奥の部屋の扉を開け荷物を置き最後の掃除を開始する。
ものの二、三時間で片付きようやっと解放された黒斗は、ベッドに倒れるように横になるのであった。
ルナがアトリエを空けて二日。
風魔法を発動させ一日も満たない間にあの場所に到着し、一日かけて必死に探し回った。
師匠と別れた場所だ。
瑠璃の推測通りであればこの場所の何処かにあるはず。
だがいくら探しても見つからない。
魔力感知能力を発動させてもそれらしいものは見当たらない。
いくら魔力を放出させていたとはいえ、一週間と少しの期間で魔力の残り香が消えてしまう程弱い魔力の持ち主ではない。
近辺を探し回っても見つからないのだ。
「どうしよう……。」
ルナは焦っていた。
魔力を全て見つけたとしても、師匠の石がなければどうやって会えばいいのかわからない。
――あの時、気付いていればこんなことには……。
自責の念に駆られる。
これだけ探しても見つからないのなら、魔獣か何かが持ち去った可能性が高い。
もしそうだとすれば無闇に探し回っても仕方がないのだ。
「……帰ろう。」
落ち込んだ様子でルナは帰路につく。
今の彼女には保護した皆を守る役目がある。
長期間アトリエを空けるわけにはいかないのだ。
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