機械少女と霞んだ宝石達~The Mechanical Girl and the hazy Gemstones~

綿飴ルナ

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Episode 3 【ツイステッド!!】

#16《宝石の元へ赴くお話》

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 あれから数日が経った晴天の午後。
 ルナは明日の準備をしていた。
 先日皆に話したを教える為だ。
 魔力を宿す者は大地から魔力を授かって生きている。
 貰ってばかりでは大地の魔力が減る一方で理に反してしまうからだ。
 等価交換を行うことでこの世界の魔力を平等に巡回させる事が出来るという考えだと師匠に教わっている。
 ルナ自身はロボットという少し特殊な存在ではあるが、アトリエに居る間の日課は欠かさず行っている。
 一人前の魔女になる為には必要不可欠なのだ。


「あ、あれ? は……。」


 皆の居場所を確認する為に発動させた魔力感知でを見つけた。
 ――あれは、師匠の魔力だ……!
 その魔力は敷地を離れた少し先にある。
 急いで向かわないと見失うかもしれない。
 そう考えながらも皆の居場所を再度確認する。


あおは……今日も黒斗と一緒かぁ。ま、アイツが一緒なら帰って来れるだろうけど……。瑠璃は本館だな!」


 畑横にある青屋根の倉庫にいたルナは急ぎ足で瑠璃の元へ向かった。
 移動速度に関しては犬の姿の方が速いのだ。
 玄関前に到着すると変身を解き中へ入る。
 奥のキッチンで料理の練習に没頭している瑠璃の姿があった。
 ――これは、「一緒に来て」って誘える空気じゃない……!
 心細かったルナの思惑は見事に打ち破られた。
 ――仕方がない。だけかけてもらおう……。
 ルナはゆっくりとキッチンへ向かう。
 どの道今から彼女のペースに合わせて探しに行けば帰りは夜遅くになるだろう。
 森の中にある敷地に灯りがあるのはアトリエ周辺だけだ。
 一人で風魔法ブリーズをかけて犬の姿で走った方が効率がいいのは確かなのだ。


「瑠璃ー、今から出かけるからボクに魔法をかけてくれない?」

「え、魔法? もしかして探しものが見つかったの?」

「うん。近いから一人で行ってくるよ。瑠璃の魔法は確実っぽいし、ちゃちゃっと終わらせてくる!」


 話が終わり瑠璃に幸運の魔法をかけてもらったルナは「今日中には帰る」と言いアトリエを出ていった。
 ――これから何度も遠出する事を考えるとが必要だし、黒斗の修行の件もあるし帰ったら試しに色々創ってみようかな。
 犬の姿で走りながら今後の事を考える。
 師匠が消えてからの生活は一変し、今日までルナはそれなりに忙しい毎日を送っていた。
 明日皆に教える日課の事もそうだが、ルナは宝石である彼女たちを浄化し保護した身だ。
 保護者として全員の得手不得手を見極め役割を与えなければならない。
 昔その師匠にこう言われたな、とルナは思い出す。
『魔女になるということはそれ相応の責任を担うという事。誰かの前に立ち導くという事だ』と。
 ――ボク、上手くやれてるかな……?
 ルナは不安で仕方がなかったが最終試験と言われている以上つべこべ言っていられない。
 今はこの先に視える師匠の魔力を宿す者の元へ向かうのだった。

 小休憩を挟みながら走り続け一時間半ほど。
 敷地の境界線であるのある場所から更に先へ進んだところまでやってきた。
 この辺りの何処かに目的の主がいる。
 ルナはクンクンと地面の匂いを嗅ぎながら師匠の魔力を探す。


「……あれ? 前より感知能力の幅が狭まった……?」


 ルナは自身の成長に驚いた。
 瑠璃の幸運魔法はあくまで幸運を引き寄せる魔法であり、魔力感知の正確さを高められるものではない。
 先日の、逃げ回る黒斗とあおを追いかけた時よりも明らかに違って視えていた。
 嬉しくなる反面自分はまだまだ未熟なんだと思い知り、表情が重くなる。
 ――探さなきゃ。ここで止まってちゃいけない。
 気持ちを切り替えようと頭を振りもう一度辺りを見回した。
 向こうに強い魔力を感じる。
 ルナはその魔力に向かってもう一度走り出した。

 それから五分ほどが経ち、前方に何者かの影を見つけた。
 ――間違いない、あれは師匠の魔力だ。
 スピードを落とす事なくそのまま突き進む。
 幸いにも相手は動く気配がない。
 近付く程くっきり浮かび上がるシルエットにルナは驚きを隠せなかった。


「え!? ま、魔獣!?」


 その魔力の持ち主はグレイッシュグリーンの体毛を持つ狼の魔獣だった。
 ルナは思わず叫んでしまい変身を解いてしまった。
 彼女の大声に反応したその魔獣は振り返ってこちらをまじまじと見つめている。
 ――ど、どうしよう……まさか魔獣の姿になるとは思ってなかった……。
 ルナは焦っていた。
 浄化を済ませたとしても相手は魔獣。
 種族によっては集団で暮らす魔獣もいる。
 何かが起こってからでは遅いという点で下手にアトリエには誘えないのだ。


「おっ……。」


 ルナがどうするべきか悩んでいると魔獣が口を開いた。


「女の子だー! に、ニンゲンの女の子!! 可愛い!!」

「えっ!?」


 魔獣は自らルナに近寄り、ふわふわな尻尾を振りながらルナの周りをぐるぐる回って観察している。
 そういう反応が来るとは思いもしなかったルナは少し拍子抜けしていた。


「拾った雑誌でニンゲンの姿は見た事あるけど、ホンモノに会うのは初めてだ! オレ、はやてって言うんだ! 君はなんて名前?こんな森で何してんの?」


 狼の魔獣……はやては興味津々な様子だ。
 ――そういえば喋る魔獣なんて初めて見るな…。魔獣について色々知れるチャンスなのかも。 
 そう思ったルナは胡座あぐらをかき、ほぼ同じ目線で質問に答えた。


「ボクはルナ! 探しものがあってここまで来たんだ。因みにボクは人間じゃなくて人型のロボットだよ。」

「……え!? ロボット!?」

「なんなら触ってみる? 人間の肉体はもっと柔らかいよ。」


 そう言ってルナははやてに右手を差し出して微笑んでみせた。
 はやては前足でチョンチョンと触れると「硬っ! 」と叫んで驚いていたが、「人型のロボットも初めてだ!」と更に目を輝かせてルナを見ている。
 犬みたいだなぁ、とルナは思いながらさりげなく魔獣について尋ねてみる。
 はやては言葉を話せる狼の姿をした魔狼族まろうぞくという種族の魔獣だ。
 普段は集団で生活しており、長に従い行動する上下関係の厳しい種族だそうだ。
 はやて自身もその集団の中で生活を始めて間もないという。


「でもなんつーか、オレは性にあわないんだよな。周りと違いすぎて居づらいというか。」

「……と言うと?」

「オレ、アイツらと違って魔法が使えねぇんだ。皆炎やら水やら出せるのに何にも出来なくてさ。あと皆は『腹減った』って言って毎日三回くらい食事してんだけど、そんなんオレにはねぇし、なんなら不味すぎて食えねぇんだよ。」

「そうなんだ……。魔狼族まろうぞくはいつも何食べてるの?」

「主食は肉だな……草とかキノコも食べるけど、生き物を狩って皮を剥いで食ってる。」

「フムフム……。」

「それ以外でも色々あってされてんだよ。毎日罵倒されて嫌になるし、食事の時間は今みたいに集落から離れて過ごしてんだ。」


「愚痴零しちゃってごめんな。」とはやては気が滅入りそうになりながら謝ってくる。
 彼にとって雄雌の判別も姿も違和感しかないらしい。
 ルナは少し考え込み情報を整理しながら自分の考えを話した。


「……きっとそれ、キミは魔狼族まろうぞくじゃないからだよ。」

「えっ?」

「キミは姿だ。ボクもこのパターンは初めて見たから驚いたけど、はやてはボクの仲間達と同じ種族なんだよ。」


 はやては困惑していた。
 いきなり「キミは魔石だ。」と言われても納得出来るハズがない。
 そんな彼の反応を気にする事もなくルナは話を続ける。


「ボクはね、一人前の魔女になる為に最終試練を受けてるの。を探してる。どうやら師匠の魔力は分散して飛んでいったみたいで、その魔力の一部がキミの体内に宿っているんだよ。」

「……え、どういう事!?」

「キミは魔獣じゃない。宿だ。……うーん、種族の名前を付けるとしたら……かな。思いつきだけど……。」

「魔石が擬態化って信じらんねぇんだけど……。」

「それもそうだろうね。宝石コアを視る事が出来る奴なんてそんなに居ないから。さっきって言ってたけど、目覚めたのもつい最近だよね? 人の姿だけど、はやてと同じ宝石達がボクが住むで暮らしているよ。」


 ――オレと同じ……。
 はやてはふとと期待していた。
 もしかしたら友達や恋人だって出来るかもしれない。
 きっと毎日が楽しくなるだろう。
 ――でも、許されねぇだろうな。
 はやては半分諦めていた。


「良かったら魔女のアトリエにおいでよ! ……って言いたいところだけど、魔狼族の一員になっている以上簡単にはいかなさそうだねぇ。ねぇ、はやてさえ良ければ今度待ち合わせしてボクの仲間と会わない?」

「……え、そんな……嬉しいけど、オレ魔獣だし……。マゼンタに知られたら尚更迷惑かけちまうよ。」

「マゼンタ? 魔狼族まろうぞくの長かな? ボクが居るから大丈夫だよ。それに同じ仲間なんだから迷惑なんかじゃない!」


 はやては少し考え込んでいる。
 ――人間ではないといえ、この事がマゼンタに知られたらヤバい。下手すりゃ殺される……。でも……。
 はやての心は恐怖よりも好奇心の方が上回っていた。
 自分に嘘をついてまで我慢したくない、同じ魔石族だという仲間に会ってみたい。
 はやてはルナの提案に乗る事にしたのだった。


「じゃあ、明後日のお昼頃とかどうかな? 向こうのルールは厳しそうだし、はやてが集落に居ないって言ってた食事の時間帯って何時頃かわかる?」


 二人は待ち合わせの時間と場所を決める。
 魔狼族まろうぞくの行動時間と集落の位置に合わせ、明後日の十三時頃にアトリエの敷地よりずっと西側にある小さい丘で待ち合わせる事となった。


「じゃあ決まりっ! 皆の反応が楽しみだなぁ。当日はよろしくね!」

「おう、よろしくな!」

「あと最後! はやて宝石コア、ちょっと穢れが溜まってるから浄化させて欲しいんだ。」

「えっ……? お、おう……。」


 はやての了承を得たルナは立ち上がり、「動かないでね。」と促した後、魔力感知能力を発動させる。
 彼の宝石コアも穢れた魔力のせいで霞みがかって視えていたが、あお、瑠璃、黒斗の時とは違い、はやて宝石コアはすぐに判断する事が出来た。
 目覚めた場所が瘴気のない場所だったのだろう。


「勝負運の石、タイガーアイよ。今からお前を浄化する!」


浄化魔法プリフィケーション」と叫んだと同時に風と光の粒子がはやてを包み込み、二十秒ほど時間をかけて浄化していく。
 風が収まり、はやては自身の身体を確認した後、「身体が軽くなった」と目を輝かせて驚いていた。
 彼の場合は肉体の面で不調が現れていたようだ。


「ねぇねぇ! 今の呪文、この前思いついたんだけどカッコよくない!? 魔女っぽいよねぇ?」


 ルナは目を輝かせながらはやてに言いよった。
 この呪文を魔法の名前にするか悩んでいると楽しそうに話している。


「今ので全部台無しになってるけど、可愛いからなんだっていいやー!」


 外見上は分かりづらいが、はやては鼻の下を伸ばしながらルナと別れ、約束の日を心待ちにするのであった。
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