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Episode 3 【ツイステッド!!】
#19《颯と親睦を深めるお話》
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ルナの予測通り、待ち合わせの一時間前に到着した一行は各々の時間を過ごしていた。
瑠璃はレジャーシートに座ってショルダーバッグに入れていた小説を読み、碧は黒斗が背負ってくれていたリュックの中身を確認していた。
リュックの中には先日作ったお菓子が入ったタッパー二つと大きな水筒が入っており、それらを衝撃から守る為にタオルで包むように側面に入れられている。
無事である事を確認すると、碧は丘全体を見回しながらゆっくりと立ち上がると大きく伸びをし、レジャーシートから離れようとする。
「森の中に入んなよー。」と言うルナの忠告に返事をしながら、少し離れた場所にいる黒斗の元へ向かっていった。
「何見てるの?」
黒斗は背後から聞こえた碧の声に驚いて叫んでいる。
「相変わらずのビビり具合だね」と笑われていた。
この一帯の丘は小さいとルナは話していたが、実際はそうでもなく、身近なもので例えるならアトリエから畑の端っこまでの距離と近しい。
景観を隔てるものはなく、雑草が生えているだけのこの丘を円状に森が囲っている不思議な空間だ。
特にこれと言ったものは見ていないと黒斗が答えると碧は不思議そうな顔をしていた。
「そういえば、今日は絵描かねぇの?」
「うん。持ってきてないし、そもそもこんなに時間があるとは思ってなかったから。」
「てっきりまたああいう絵を描くのかと期待してたんだけどなぁ。」
「もぉー、またそういう事言う! 皆には内緒だよ?」
「え、何で?」
「もぉー!! この前言ったじゃん!!」
「ごめん、ごめん。冗談だって。言わねぇから。」
他愛もない会話を挟みながら二人は宛もなく歩き回っている。
ルナはその様子をぼんやりと眺めながらレジャーシートの上に腰を下ろした。
彼女の口からは重いため息が吐き出される。
だんだんと複雑な気持ちになってきたのだ。
それに気付いた瑠璃は本を読むのを止め様子を伺いながら話しかけた。
「あの二人、本当に仲が良いよね。出会ってまだ一ヶ月しか経ってないのに。」
「……まぁアイツら境遇も性格も似てるからなぁ。てか、瑠璃と碧も仲良いよね。」
「そうかな? でも確かに一緒にいると居心地がいいかも。」
「もー、最初に出会ったのはボクなのにさぁ……。」
ルナは「黒斗に碧を取られた」といじけた様子で口を尖らせている。
心の中の嫉妬が徐々に大きくなっているのを感じていた。
心地よい風を肌と髪の揺れで感じながらも、色んな感情がルナの心の中に混ざっていく。
突然消えてしまった師匠の事。
魔女になる為の試練の事。
初めて出来た友達の事。
皆を招き入れ保護者という立場になった事。
黒斗を自分の弟子にした事。
ここに来るまでの間の事。
ルナは首を横に振り、考える事を辞めた。
考える度に湧き上がる感情は不安が多いからだ。
「ルナ、わたしも居るでしょ? 忘れないでね? 」
瑠璃はそう言うとルナを抱き寄せる。
体勢を崩した彼女の顔は思い切り瑠璃の胸にダイブした。
「うわーん!」と言いながら離してと言わんばかりの動きを取っている。
――やだー! お胸が大きい! ……気にしてるのにぃ!!
心の温かさと同時にルナの心に宿したのは恥じらいではなく劣等感だった。
そんな二人の元へ黒斗と碧が戻ってくる。
ルナは犬の姿になると瑠璃の腕をすり抜け、勢いよく碧の背中を目掛けて飛びかかった。
碧の身体は逆らう事も出来ずそのまま前に倒れ込んでしまう。
「碧のバカー!!」
「ふぇ!? な、何!?」
ルナは飛びかかった勢いで碧の背中に乗り、ポカポカと前足で叩き続けている。
何が起こっているのかわからぬまま、身体を強打した碧の目からは涙が溢れていた。
隣りで呆然としている黒斗は少々引き気味だ。
「……え、何してんの?」
「何って、お尻に敷いてあげてるのっ! なんなら黒斗も敷いてあげようか!?」
「それは遠慮しとくけど、何で怒ってんの……?」
「許さーん!」とルナはやけっぱちで黒斗に飛びかかる体勢を取るが、何かを感じ取りそれを辞めると碧の背中から飛び降りた。
黒斗の後ろをじっと見つめているので、碧と瑠璃は立ち上がり、全員で同じ方向を見つめる。
遠くの方から何かが勢いよくこちらへ向かってくるのが見えた。
「おーい、颯ー! こっちこっちー!!」
瞬時に人型に戻ったルナが手を振っている。
グレイッシュグリーンの魔獣……颯が猛スピードで走ってくる。
颯は皆の数歩前で急ブレーキをかけて立ち止まった後、真っ先に黒斗の姿を見ていた。
視線が合うとプイッと顔を横に振られ、黒斗は少し苛立った。
颯はそのまま女子三人を見るとみるみる表情が緩んでいく。
「わぁ! 女の子だ!! 可愛い!!」
そう言って三人の元へ駆け寄ると鼻の下を伸ばしながら犬のように飛び跳ねている。
――なんだよアイツ! ひょっとして女好きか!?
颯の露骨な態度に黒斗はますます不機嫌になる。
第一印象は最悪だ。
「最初に自己紹介だな! 改めまして、ボクはルナ! 一人前の魔女を目指しているロボットだよ!!」
「碧です。よ、よろしくお願いします。」
「瑠璃です。颯くん、よろしくね。」
「颯でいいよ! なんかこそばゆいしさ。」
「……で、キミの後ろに居るのが……」
「……黒斗です。よろしく。」
黒斗がぎこちない様子で挨拶をすると、颯は真顔になりながら会釈し再度女子達に顔を向けた。
困惑した空気が漂い出している。
黒斗の表情が引き攣っているのが目に見えてわかるほどだった。
「お、おやつ持ってきてるから皆で食べよ? 昨日私たち三人で作ったの。」
「え、マジで!! ……めちゃくちゃ嬉しいんだけど、ちゃんと食えるかわかんねぇんだよな。向こうのメシは不味くて食えなくてさ……。」
「ルナから聞いてるよ。もしかしたら私たちが食べているものだったらどうかなと思って。颯さえ良ければ……」
空気を和ませようと碧が慌てた様子で話題を切り出す。
颯の反応は案の定後ろ向きなものだった。
食べられなくて吐いてしまう方が失礼であり迷惑をかけてしまうと、申し訳なさそうにしている。
「……でも、オレの為に作ってくれたんだよな。うん、食べてみるよ! その……もしダメだったらごめんな。」
そうしてお菓子を食べることになり、広げっぱなしのレジャーシートに向かい、リュックを置いている位置から時計回りに瑠璃、颯、碧、黒斗、ルナの順に座っていく。
瑠璃はお菓子が入ったタッパーと水筒を取り出し、それらを中央に置いた。
更にリュックの内ポケットから紙皿とステンレス製の深い皿を取り出し、一人一人に渡していく。
ステンレス製の深皿は颯の飲み物入れだ。
タッパーを開けると先日作ったクッキーと一口サイズにカットされたパウンドケーキがそれいっぱいに詰まっている。
瑠璃は自分で取れない颯の為に箸でケーキ一切れとクッキー数枚を紙皿に入れて彼の前に置いた。
颯の表情はみるみる明るくなっていく。
「今日はジャスミンティーを入れてきたの。……はい。」
碧は微笑みながらコップにジャスミンティーを注いで黒斗と瑠璃に渡し、颯用の深皿に注いでいく。
ルナは全員に行き渡ったのを確認すると、何処からか取り出したでんきあめを右手に口を開いた。
「さぁさぁ食べよー! いただきまーす!!」
彼女はそう言って大きな口を開けでんきあめを美味しそうに頬張る。
不思議そうに見ている颯にルナの食事の話を瑠璃が教えていた。
「食べたい物からどうぞ」と瑠璃の手が紙皿を指している。
お菓子に鼻を近付けると甘い香りが漂った。
碧は美味しそうにパウンドケーキを頬張り、黒斗はクッキーを口に入れた後ジャスミンティーを飲みながら他愛のない会話を交わしている。
「…………。」
皆が美味しそうに食べているのを見ながら、颯は恐る恐るパウンドケーキを口に入れる。
程よい甘さと優しい食感が彼の口の中いっぱいに広がった。
「……えっ!? 美味い!! こんなに美味いもん初めて食ったぜ!!」
表情がばあっと明るくなる。
小さめのクッキーも器用に咥え頬張ると幸せそうにしているのを見てルナ達は安堵していた。
颯の口に合うものが人が食べる物……調理された物であるならば、和食や洋食も食べられるのではないか。
瑠璃は今後の食事も踏まえてじっくり考えようと、微笑みながら彼が食べ終わるのを見守っていた。
颯はもう一つ欲しいとおねだりし、皿に置いてもらっている間にジャスミンティーを飲む。
これも彼の口に合うものだった。
瑠璃にお礼を言い、どれから食べようかと楽しそうに悩んでいると、ふと左側にいる二人が彼の視界に入る。
仲良さそうな二人を、暖かい日差しと微かなそよ風を身体で受けながら、眺める彼の心の中に何かが芽生えていく。
その視線に気付いた碧は颯の方を振り向くと、「今お茶を入れるね」と水筒を手に取り器に注ぐと、颯の口がゆっくり開いたのだった。
「サンキュー! なんか碧ちゃんって笑顔が素敵というか、天使みたいだな!!」
「ふぇ!? そ、そうかな……?」
「わたしもそう思う。癒されるって言うのかな。一緒に居て心地良いんだよね。」
颯と瑠璃に唐突に褒められ碧は困惑した様子で返答するが、謙虚な所がまた良いんだよねと二人は意気投合したように笑い合っている。
そんなやり取りを横目に怪訝そうな顔をする黒斗の姿があった。
隣りに座るルナは少しの間だけその光景に目をやると、気に止める様子もなくでんきあめを食べ続けている。
視線を逸らし考え込んでいるその様子を、颯は見逃さなかった。
「……!?」
黒斗は嫌な視線を感じ取りその方向へと目を向けると、向かいに座っている颯が挑発しているかのような企み顔でこちらを見ている。
――なんだよあの獣……! さっきから俺にだけ態度悪りぃし!!
黒斗の表情は再度引き攣り、苛立ちもだんだんと悪化していく。
落ち着け、と自分に言い聞かせる事が精一杯だった。
瑠璃と碧はただ傍観する事しか出来ず困惑した表情で目を合わせる。
二人はアイコンタクトを取った後、瑠璃は颯の皿に追加のお菓子を、碧は黒斗のコップにジャスミンティーを注ぎそれぞれに渡したのだった。
「あ、ありがとう……。」
黒斗がぎこちない表情でそれを受け取ると碧は右手で手招きをする。
耳を近付けると彼女は右手で口を隠しながら小声で話し出した。
「このジャスミンティー、リラックス効果があるんだって。」
そう言って碧は微笑みかける。
「……なんか、ごめん。気を遣わせちゃって……。」
黒斗は申し訳ない気持ちになりながらジャスミンティーを飲む。
片やお菓子を貰った颯はご機嫌な様子でパウンドケーキを食べていた。
動じることなく皆の様子を見守っているルナは少し思い詰めた表情で考え込んでいたのだった。
瑠璃はレジャーシートに座ってショルダーバッグに入れていた小説を読み、碧は黒斗が背負ってくれていたリュックの中身を確認していた。
リュックの中には先日作ったお菓子が入ったタッパー二つと大きな水筒が入っており、それらを衝撃から守る為にタオルで包むように側面に入れられている。
無事である事を確認すると、碧は丘全体を見回しながらゆっくりと立ち上がると大きく伸びをし、レジャーシートから離れようとする。
「森の中に入んなよー。」と言うルナの忠告に返事をしながら、少し離れた場所にいる黒斗の元へ向かっていった。
「何見てるの?」
黒斗は背後から聞こえた碧の声に驚いて叫んでいる。
「相変わらずのビビり具合だね」と笑われていた。
この一帯の丘は小さいとルナは話していたが、実際はそうでもなく、身近なもので例えるならアトリエから畑の端っこまでの距離と近しい。
景観を隔てるものはなく、雑草が生えているだけのこの丘を円状に森が囲っている不思議な空間だ。
特にこれと言ったものは見ていないと黒斗が答えると碧は不思議そうな顔をしていた。
「そういえば、今日は絵描かねぇの?」
「うん。持ってきてないし、そもそもこんなに時間があるとは思ってなかったから。」
「てっきりまたああいう絵を描くのかと期待してたんだけどなぁ。」
「もぉー、またそういう事言う! 皆には内緒だよ?」
「え、何で?」
「もぉー!! この前言ったじゃん!!」
「ごめん、ごめん。冗談だって。言わねぇから。」
他愛もない会話を挟みながら二人は宛もなく歩き回っている。
ルナはその様子をぼんやりと眺めながらレジャーシートの上に腰を下ろした。
彼女の口からは重いため息が吐き出される。
だんだんと複雑な気持ちになってきたのだ。
それに気付いた瑠璃は本を読むのを止め様子を伺いながら話しかけた。
「あの二人、本当に仲が良いよね。出会ってまだ一ヶ月しか経ってないのに。」
「……まぁアイツら境遇も性格も似てるからなぁ。てか、瑠璃と碧も仲良いよね。」
「そうかな? でも確かに一緒にいると居心地がいいかも。」
「もー、最初に出会ったのはボクなのにさぁ……。」
ルナは「黒斗に碧を取られた」といじけた様子で口を尖らせている。
心の中の嫉妬が徐々に大きくなっているのを感じていた。
心地よい風を肌と髪の揺れで感じながらも、色んな感情がルナの心の中に混ざっていく。
突然消えてしまった師匠の事。
魔女になる為の試練の事。
初めて出来た友達の事。
皆を招き入れ保護者という立場になった事。
黒斗を自分の弟子にした事。
ここに来るまでの間の事。
ルナは首を横に振り、考える事を辞めた。
考える度に湧き上がる感情は不安が多いからだ。
「ルナ、わたしも居るでしょ? 忘れないでね? 」
瑠璃はそう言うとルナを抱き寄せる。
体勢を崩した彼女の顔は思い切り瑠璃の胸にダイブした。
「うわーん!」と言いながら離してと言わんばかりの動きを取っている。
――やだー! お胸が大きい! ……気にしてるのにぃ!!
心の温かさと同時にルナの心に宿したのは恥じらいではなく劣等感だった。
そんな二人の元へ黒斗と碧が戻ってくる。
ルナは犬の姿になると瑠璃の腕をすり抜け、勢いよく碧の背中を目掛けて飛びかかった。
碧の身体は逆らう事も出来ずそのまま前に倒れ込んでしまう。
「碧のバカー!!」
「ふぇ!? な、何!?」
ルナは飛びかかった勢いで碧の背中に乗り、ポカポカと前足で叩き続けている。
何が起こっているのかわからぬまま、身体を強打した碧の目からは涙が溢れていた。
隣りで呆然としている黒斗は少々引き気味だ。
「……え、何してんの?」
「何って、お尻に敷いてあげてるのっ! なんなら黒斗も敷いてあげようか!?」
「それは遠慮しとくけど、何で怒ってんの……?」
「許さーん!」とルナはやけっぱちで黒斗に飛びかかる体勢を取るが、何かを感じ取りそれを辞めると碧の背中から飛び降りた。
黒斗の後ろをじっと見つめているので、碧と瑠璃は立ち上がり、全員で同じ方向を見つめる。
遠くの方から何かが勢いよくこちらへ向かってくるのが見えた。
「おーい、颯ー! こっちこっちー!!」
瞬時に人型に戻ったルナが手を振っている。
グレイッシュグリーンの魔獣……颯が猛スピードで走ってくる。
颯は皆の数歩前で急ブレーキをかけて立ち止まった後、真っ先に黒斗の姿を見ていた。
視線が合うとプイッと顔を横に振られ、黒斗は少し苛立った。
颯はそのまま女子三人を見るとみるみる表情が緩んでいく。
「わぁ! 女の子だ!! 可愛い!!」
そう言って三人の元へ駆け寄ると鼻の下を伸ばしながら犬のように飛び跳ねている。
――なんだよアイツ! ひょっとして女好きか!?
颯の露骨な態度に黒斗はますます不機嫌になる。
第一印象は最悪だ。
「最初に自己紹介だな! 改めまして、ボクはルナ! 一人前の魔女を目指しているロボットだよ!!」
「碧です。よ、よろしくお願いします。」
「瑠璃です。颯くん、よろしくね。」
「颯でいいよ! なんかこそばゆいしさ。」
「……で、キミの後ろに居るのが……」
「……黒斗です。よろしく。」
黒斗がぎこちない様子で挨拶をすると、颯は真顔になりながら会釈し再度女子達に顔を向けた。
困惑した空気が漂い出している。
黒斗の表情が引き攣っているのが目に見えてわかるほどだった。
「お、おやつ持ってきてるから皆で食べよ? 昨日私たち三人で作ったの。」
「え、マジで!! ……めちゃくちゃ嬉しいんだけど、ちゃんと食えるかわかんねぇんだよな。向こうのメシは不味くて食えなくてさ……。」
「ルナから聞いてるよ。もしかしたら私たちが食べているものだったらどうかなと思って。颯さえ良ければ……」
空気を和ませようと碧が慌てた様子で話題を切り出す。
颯の反応は案の定後ろ向きなものだった。
食べられなくて吐いてしまう方が失礼であり迷惑をかけてしまうと、申し訳なさそうにしている。
「……でも、オレの為に作ってくれたんだよな。うん、食べてみるよ! その……もしダメだったらごめんな。」
そうしてお菓子を食べることになり、広げっぱなしのレジャーシートに向かい、リュックを置いている位置から時計回りに瑠璃、颯、碧、黒斗、ルナの順に座っていく。
瑠璃はお菓子が入ったタッパーと水筒を取り出し、それらを中央に置いた。
更にリュックの内ポケットから紙皿とステンレス製の深い皿を取り出し、一人一人に渡していく。
ステンレス製の深皿は颯の飲み物入れだ。
タッパーを開けると先日作ったクッキーと一口サイズにカットされたパウンドケーキがそれいっぱいに詰まっている。
瑠璃は自分で取れない颯の為に箸でケーキ一切れとクッキー数枚を紙皿に入れて彼の前に置いた。
颯の表情はみるみる明るくなっていく。
「今日はジャスミンティーを入れてきたの。……はい。」
碧は微笑みながらコップにジャスミンティーを注いで黒斗と瑠璃に渡し、颯用の深皿に注いでいく。
ルナは全員に行き渡ったのを確認すると、何処からか取り出したでんきあめを右手に口を開いた。
「さぁさぁ食べよー! いただきまーす!!」
彼女はそう言って大きな口を開けでんきあめを美味しそうに頬張る。
不思議そうに見ている颯にルナの食事の話を瑠璃が教えていた。
「食べたい物からどうぞ」と瑠璃の手が紙皿を指している。
お菓子に鼻を近付けると甘い香りが漂った。
碧は美味しそうにパウンドケーキを頬張り、黒斗はクッキーを口に入れた後ジャスミンティーを飲みながら他愛のない会話を交わしている。
「…………。」
皆が美味しそうに食べているのを見ながら、颯は恐る恐るパウンドケーキを口に入れる。
程よい甘さと優しい食感が彼の口の中いっぱいに広がった。
「……えっ!? 美味い!! こんなに美味いもん初めて食ったぜ!!」
表情がばあっと明るくなる。
小さめのクッキーも器用に咥え頬張ると幸せそうにしているのを見てルナ達は安堵していた。
颯の口に合うものが人が食べる物……調理された物であるならば、和食や洋食も食べられるのではないか。
瑠璃は今後の食事も踏まえてじっくり考えようと、微笑みながら彼が食べ終わるのを見守っていた。
颯はもう一つ欲しいとおねだりし、皿に置いてもらっている間にジャスミンティーを飲む。
これも彼の口に合うものだった。
瑠璃にお礼を言い、どれから食べようかと楽しそうに悩んでいると、ふと左側にいる二人が彼の視界に入る。
仲良さそうな二人を、暖かい日差しと微かなそよ風を身体で受けながら、眺める彼の心の中に何かが芽生えていく。
その視線に気付いた碧は颯の方を振り向くと、「今お茶を入れるね」と水筒を手に取り器に注ぐと、颯の口がゆっくり開いたのだった。
「サンキュー! なんか碧ちゃんって笑顔が素敵というか、天使みたいだな!!」
「ふぇ!? そ、そうかな……?」
「わたしもそう思う。癒されるって言うのかな。一緒に居て心地良いんだよね。」
颯と瑠璃に唐突に褒められ碧は困惑した様子で返答するが、謙虚な所がまた良いんだよねと二人は意気投合したように笑い合っている。
そんなやり取りを横目に怪訝そうな顔をする黒斗の姿があった。
隣りに座るルナは少しの間だけその光景に目をやると、気に止める様子もなくでんきあめを食べ続けている。
視線を逸らし考え込んでいるその様子を、颯は見逃さなかった。
「……!?」
黒斗は嫌な視線を感じ取りその方向へと目を向けると、向かいに座っている颯が挑発しているかのような企み顔でこちらを見ている。
――なんだよあの獣……! さっきから俺にだけ態度悪りぃし!!
黒斗の表情は再度引き攣り、苛立ちもだんだんと悪化していく。
落ち着け、と自分に言い聞かせる事が精一杯だった。
瑠璃と碧はただ傍観する事しか出来ず困惑した表情で目を合わせる。
二人はアイコンタクトを取った後、瑠璃は颯の皿に追加のお菓子を、碧は黒斗のコップにジャスミンティーを注ぎそれぞれに渡したのだった。
「あ、ありがとう……。」
黒斗がぎこちない表情でそれを受け取ると碧は右手で手招きをする。
耳を近付けると彼女は右手で口を隠しながら小声で話し出した。
「このジャスミンティー、リラックス効果があるんだって。」
そう言って碧は微笑みかける。
「……なんか、ごめん。気を遣わせちゃって……。」
黒斗は申し訳ない気持ちになりながらジャスミンティーを飲む。
片やお菓子を貰った颯はご機嫌な様子でパウンドケーキを食べていた。
動じることなく皆の様子を見守っているルナは少し思い詰めた表情で考え込んでいたのだった。
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