機械少女と霞んだ宝石達~The Mechanical Girl and the hazy Gemstones~

綿飴ルナ

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Episode 4 【ミラーリング】

#31《藍凛の作業部屋を決めるお話》

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「……という事でっ!」

藍凛あいりです。……よろ」


時刻は十六時を過ぎた頃。
帰宅してそのまま本館のリビングに集まると、改めて新しい仲間である藍凛あいりを紹介する。
表情は乏しいがご機嫌な様子が伺えた。
一通り挨拶を済ませると、部屋決めをしようとルナに連れられ藍凛あいりは二階へと上がった。
空いている部屋ならどこでもいいと言われ、空き部屋全てを確認する。
藍凛あいりは右側真ん中の、ルナと瑠璃の間の部屋を選んだ。
空き部屋は全てあおと瑠璃が掃除をしてくれていたおかげですぐ使える状態となっている。
藍凛あいりは決めた部屋の扉を開けると、持っていたライフルをベッドの上へ放り投げた。


「待ったー! 流石に武器は部屋に置かないでっ!!」


ルナに慌てて止められ駄々をこねる藍凛あいりだったが、許しを得る事は叶わなかった。
置き場所を何処にしようかとブツブツ言っているルナを横目に、ライフルを抱きしめたまま一階へ降りると、エプロンを身に纏った瑠璃が皆と会話をしている姿があった。


「これから毎晩ここで夕飯を食べる事に決まったから、十八時にリビングに集まって欲しいの。……あ、はやてはここで食べる時は早めに教えてほしいな」


早速今晩から始めるからと言ってはやての予定を聞くと、瑠璃はキッチンへと向かい冷蔵庫の中を確認している。
後に続いてあおもカウンターの前でエプロンを着用し調理の準備を行っていた。
黒斗は二人の様子を眺めながらこれまでの事を振り返っている。
――俺、日課以外何もしてなくね……?
先程のはやてとのやり取りの件もあり少々罪悪感に苛まれていた。
それを言うのであればあおや瑠璃も同じで、日課以外は思い思いの時間を過ごしていたのだが、何分今この時から二人には役割が生まれている。


「あの……俺に出来る事あったら手伝……」

「ダメぇ!!」

「へっ!?」

「黒斗は夕飯の時間まで待っててっ!」


あおは両手をブンブン振りながら拒否するとキッチンの奥へと入ってしまった。
ショックのあまり一人しょんぼりしていると、瑠璃が片手間に布巾を持ってこちらへ向かってくる。


「じゃあテーブルだけ拭いてくれると嬉しいな。ごめんね、あおったら張り切ってるみたいだから……」


瑠璃は布巾を渡した後、そそくさとキッチンへ戻ってしまった。
――ぎ、逆に気を遣わせてしまった……。
黒斗は更に落ち込んでしまい、テーブルを拭いてカウンターに布巾を置くと、時間までする事がないので外へ出る事にした。


「ねぇ、黒斗。別館の一階の鍵を開けてもらっていい? 確か作業部屋があったと思うんだけど……」


二階から降りてきたばかりのルナが藍凛あいりを連れてやって来たので、そのまま別館の本来の玄関に向かい鍵を開ける。
目の前に大きなテーブルとたくさんの工具が置かれている棚が見えた。
近くで見るとテーブルは作業台として使われていたであろう傷跡が沢山残っている。
黒斗が部屋を確認して以来開けていないので、部屋一帯はそれなりに汚れたままだ。


藍凛あいりは物が作りたいんだよね? どんな物が作りたいの?」

「色々作れると嬉しいけど……強いて言うなら武器が作りたい。銃とか盾とか」

「じゃあ、道具がそれなりに揃ってるここなら……」

「ちょっと待て! 俺が安心して住めないから武器は止めて!!」


藍凛あいりは駄々をこねるが黒斗に拒否され頬を膨らませていた。
武器以外の製作ならと承諾を得る事は出来たものの、武器を作り保管する場所がない。


「そういやぁ、何があるのか聞かされていない倉庫が一個だけあったなぁ……」


ルナは外に出ると思い当たる倉庫を指差した。
畑の奥にある赤屋根の倉庫だ。
「いい機会だし確認しに行こうか」と言うと小走りで鍵を取りに行ったので、少しの間二人は待ちぼうけとなる。
黒斗はふと藍凛あいりの持つライフルが目に入った。


「それ、銃だよな? 大事なもんなのか?」

「……うん。私が初めて修理した作品……。次はこれと同じ物を作ってみたいの」

「そ、そっか。難しそうだけど作れんの?」

「私の能力があればきっと作れる」


藍凛あいりは得意気に親指を立ててみせた。
きっと何かの役に立てると意気揚々としている姿を横目に、何もしていない罪悪感により一層苛まれ、黒斗は静かにため息を吐いた。


「おっまたー! じゃ、行こうか!!」


ルナは止まることなくスキップをしながら倉庫へ向かったので、黒斗と藍凛あいりも後に続いた。
相変わらず本館から倉庫までの距離は長いので、畑の様子を眺めながら歩いて行く事になる。
現在栽培している野菜達はここの畑の一区画で育てている。
藍凛あいりが仲間になった事でもう少し畑を増やせそうだとルナは一人呟いていた。


「あれ? オマエら何処行くんだ?」


後ろからはやての声が聞こえたので、ルナ達は一度振り返って立ち止まる。
経緯を説明すると彼も興味を持ったようで、一緒に赤屋根倉庫へ向かう事になった。
夕飯を食べて帰ると言ってすぐに外へと出てしまった彼はいアトリエ周辺を走り回っていたらしい。
「走るの、好きなんだよな」とにっこり笑いながら言った。


藍凛あいりちゃんって何でも作れんの?」

「……わからない。やってみないと。でも、出来ると思う」

「スゲーな! 今度作ってる所見せてよ!!」

「……いいよ」


ご機嫌な様子の藍凛あいりを見つめはやては鼻の下を伸ばしている。
楽しみだなーと呟くと、ルナに続いて器用にスキップをしながら先へ進んでいった。
そうして数分ほど歩くとルナ達は赤屋根倉庫の前へ到着する。
ルナが解錠しシャッターを開けると、宙を舞っていた砂埃が一気に外へと流れ出る。
別館の物置部屋と比べれば格段にマシではあったが、それを差し引いても鼻と口を覆う物が必要だった。


「…………」


大きな倉庫の中で初めて見る光景にルナ達は思わず息を飲む。
目の前にある物……それは沢山の武器や乗り物、特定出来ないガラクタのような物で溢れかえっている。
床にある物の大半は乗り物のようで、車輪が二つある物からトラックのような小さめの車等が置かれていた。
右側には複数の棚の列があり、銃や剣等の武器が無造作に置かれている。
鉄製の物が多く置かれている倉庫だ。


「おおー!!」


ルナ達が呆然としている中、藍凛あいりだけは目を輝かせ両手を広げながら走って奥へ入っていく。
砂埃を気にする様子もなく端から順番に楽しそうに確認していた。
――どうしてこんな物が……?
藍凛あいりに続いてルナも倉庫の中へと入る。

――師匠はどうしてこんな物を集めているんだ……?
ルナの心の中で不審感が積もっていく。
――藍凛あいりがいる手前声に出しては言えないけど、出来る事なら、見たくなかった。
ルナは思わず目を背けた。


「……スゲーな。これ、全部使えんの?」


ルナの左側に居るはやてが物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回している。
「拾った雑誌で見た事ある!」と、こちらも目を輝かせて楽しんでいるようだ。


「なぁ黒斗、アレ見てみろよ……ってアレ? オマエそんな所で何してんだよ?」


はやてが後ろを振り向くと、シャッター越しの壁からチラッと覗いている黒斗の姿があった。
心做しかへっぴり腰になっているように見える。


「オマエ、そんな所に居ないでこっちに来いよ! 面白そうなもんいっぱいあるぜ?」

「やだ! 行きたくない!!」

「は!? 何でだよ!?」

「怖い! 無理っ!!」

「子供か!?」

「怖いもんは怖い! 帰っていい?」

「ハァ!? なっさけねぇなぁー。そんなんじゃいつまで経っても強くなれねぇぞ!」


言い合っている黒斗とはやてを横目に、ルナは遠くに見える本館を眺めため息を吐いた。

変身魔法で犬にされた理由も解らず仕舞い。
探せと命じられ見つけた魔力は全て穢れを纏い霞みがかっていた。
おおよそ二百年前に起きた大魔女による街の半壊。
そして、赤屋根倉庫に保管されている武器や乗り物については一切知らされていない。
隠していたという事、つまりはルナが見たくないものだと知っていた可能性があるという事だ。
――あのババア、一体何を隠してるんだ……?
嫌な予感がする。
不安が一気にルナを襲いかかった。
きっとそれはなんだろうと、察してしまった自分に嫌気が指していた。


「ルナ……ルナ!!」


呼ばれている事に気付き後ろを振り向くと、藍凛あいりが期待の眼差しでルナを見つめている。
ここで武器を作りたいのだろう。


「そうだなぁ……。そのライフルを置いておくには打って付けの場所だとは思うけど……」


もう一度辺りを見回し少しばかり考えると、「条件さえ守ってくれればいい」とルナは藍凛あいりに告げる。

一つ、作業や試し打ち等は赤屋根倉庫内だけで行う事。
二つ、周囲に被害が及ばないようにする事。
三つ、管理は全て藍凛あいりが行う事。


「これさえ守ってくれれば使っていいよ。あと、別館の作業部屋も合わせてだけど先に掃除してね」

「……わかった。必ず守る」


藍凛あいりは承諾を得られ嬉しそうだ。
ルナは藍凛あいりに鍵を渡すと、外に出てもう一度周囲を確認する。
――そうだ、今ならはやても居るし、二人の魔法を検証してみよっかなぁ……ってあれ?
はやてが本館側から勢いよくこちらへ走ってくる。
そして先程までそこに居た黒斗は何処にも見当たらない。


「ねぇ、黒斗は?」

「逃げた」

「あー……。流石に逃げるよなぁ……」


はやては平然とした顔でルナの元へ駆け寄り愚痴を零すと、前足を屈ませ大きく伸びをする。
つられて藍凛あいりも伸びをしなかまら欠伸をしていた。
夕飯までもう少し時間がある。


「ねぇ二人とも。ちょっと魔法の検証をしてみたいんだけど、時間あるかなぁ?」


ルナは黄色屋根の倉庫のシャッター前に移動すると座るように指示した。
検証したいのは《自分以外に魔法をかけられるのか》という事。


「えっとね、ボクに魔法をかけてみてくれないかな? 光をボクに注ぐイメージで……」

「……ルナ、能力的にちょっと無理がある。何を示せばいいの?」

「あ、オレのもだ。何のチャンスを掴むんだ?」

「……あ、そっかぁ。んーとねぇ……じゃあ、ボクが黒斗にイタズラ出来るように、どういうイタズラをどのタイミングで行動すればいいのか、アイデアとチャンスを与えて欲しいな!」


ちょっと面白そう、と二人はノリノリで魔法が発動出来るようにと祈った。
藍凛あいりは胸の前で手を組み、はやては目を瞑り何かを念じるような仕草をして試してくれている。
『これが成功したら失敗だらけのイタズラも上手くいくかも』と良からぬ事を企みながら暫しの間検証してみたが、成功するどころか身体が光る事すらなかった。


「うーん……。もしかするとキミ達の魔法は自身にしか効果がないのかもしれないねぇ……。現段階で判断するのはまだ早い気はするけど」


今日はここいらで終わらせた方が良さそうだなぁと、ルナは徐に何処からか取り出した懐中時計で時間を確認する。
時刻は十七時四十分を過ぎたばかり。
そろそろ戻ろうかと声をかけそのまま先頭を歩いていく。

「……ねぇ、はやて、だっけ。ふわふわ、気持ち良さそう……」

「そうかぁ? 確かあおちゃん達もふわふわって言ってくれてたな。触ってみる? なんなら本館まで乗ってく?」

「えっ、いいの……!?」

「いいぜ! 女の子なら大歓迎よっ!!」


はやては低くしゃがみ乗りやすいように体勢を整えると、鼻を高くし尻尾を振っている。
藍凛あいりが乗ったのを確認すると、ゆっくりと立ち上がり軽やかに走り出した。


「わぁ……! ここ掘れワンワン!!」

「えっ!? オレ犬なの!?」

「わんわーん!」


ご機嫌な二人はあっという間にルナを追い越していく。


「えっ!? 待ってよ! ボクも乗りたい! 乗せてったら!!」


一時的に犬の姿に変身し走って彼に近付くと、ジャンプと同時に藍凛あいりの後ろへ飛び乗った。
固さと重さの衝撃ではやては倒れそうになるが、何とか持ち堪えそのまま本館へと走り続ける。
無事到着しルナが玄関扉を開けると、食欲をそそるカレーの匂いが三人を包み込んでいったのだった。
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