機械少女と霞んだ宝石達~The Mechanical Girl and the hazy Gemstones~

綿飴ルナ

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Episode 5 【コンパスの示す先へ】

#33《アトリエにある遊具のお話》

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 藍凛あいりが魔女のアトリエの仲間となって数週間が経った頃。
 ルナは本館一階にあるワーキングスペースで準備を行っていた。
 玄関から入って左側にあるワーキングスペースの奥にはコの字型の本棚が天井まで伸びており、分厚い本がぎっしりと詰まっている。
 本棚に収まりきらない本達は手前のテーブルに何段も積み重なっていた。
 ルナはその本棚の前で風魔法ブリーズと唱え身体を宙に浮かせると、その状態のまま目当ての本を探している。


「えーっと、何処に置いてあったっけなぁ……あ、あった!」


 本を探しておおよそ三分、梯子がないと取れない場所にある分厚い本を一冊取り出し、ゆっくり降りてくるとそれを作業台の上に置いた。


「うーん……こんなもんかなぁ。……あっ! 来た来た!!」


 皆が時間差でリビングに集まってくる。
 ルナがここに集まるように指示したのだ。
 はやては来る気配がないので、彼以外の全員が揃ったのを確認すると皆の元へ向かうと話を始めた。


「えっとね、今日は伝え忘れていた事があって集まってもらったんだけど……」


 そう言ってソファーの前に置かれているテレビの前に移動すると、しゃがみこんでテレビ台の中をゴソゴソと探っている。
 そこから取り出したいくつもの機械と箱のような物を目の前のローテーブルに並べていった。


「これ、人間が作ったっていうやつなんだけど、いつでも使ってくれていいから遊びたくなったらテレビに繋げて使ってね!」


 テレビゲーム。
 それは画面の中に存在する、人間が作り出した架空のセカイ。
 画面内に登場するキャラクターを操作しクリアへと導く、あっという間に時間が過ぎていく娯楽玩具のひとつだ。
 ルナはそれぞれの機械……コンシューマーゲームのハードウェアとソフトを一通り説明し、それともう一つ、人が作った映像が見れる機械もあると皆に見せびらかした。
 ハードウェアは黄ばみのある古そうな物から新品のように綺麗な物まで、テレビ台によく収まったなと思わせる程の種類が並んでいる。


「ババアの趣味で恋愛モノがやたらと多いけど、色んなジャンルの物があるから色々試しちゃって! ちなみにボクは戦略系のゲームが好き!!」

「……銃を撃つやつ、ある?」

「あるよー! 確かこのゲーム! ボクも好きなんだよね」

「おぉぉ……! やりたい!」

藍凛あいりちゃんの後でいいからわたしもやってみたいな。恋愛モノのゲームが気になるの」


 瑠璃は藍凛あいりの頭を撫でながらニッコリと微笑んだ。
 アトリエは物で溢れかえっているとはいえそれぞれやる事が限られていたので、新たな暇つぶしが出来た事でこの場にいる全員がテレビゲームに興味津々だ。


「つーか、電源を付けても真っ暗なまんまだからスルーしてたけどこれ用だったんだな」

「うん。本来は人が作った映像を専用の電波を通して見る事が出来る機械なんだけど、こんな森の奥にそんなモノないからさ」

「へぇ……」


 黒斗がルナと会話をしている横で皆はそれぞれゲームソフトを取り上げ、ゲームの内容を確認している。
 パッケージのある物から裸ソフトまで、たくさんのジャンルのゲームが隣の棚全てに埋まる程……というより既に溢れかえっているので、全てを確認するのは時間がかかりそうだ。
 裸ソフトは竹籠の中にたんまりと無造作に入れられている。
 映像ソフトはゲームソフトと比べて枚数は少なく、恋愛系とアクション系の二種類が複数枚棚に入れられてはいたが、皆の興味はゲームに向いているおかげで見向きもされていない。


「私、これが気になる!」


 あおは一本のゲームソフトを取り出した。
 パッケージの中にソフトが入っている、そこそこ新しいハードの物だ。


「へぇ、育成シミュレーション……ってなんだろう? 育てる以外にも何かあるのかな?」


 瑠璃も興味津々でそのゲームソフトを覗き込んだ。
 架空の動物が沢山描かれているこのパッケージによると、その動物と交流・育成し、コンテストに参加して優勝を目指すというものだと記載されている。
 その動物達の最終進化する内の一種類はこのゲーム限定のシークレットキャラクターと書かれており、二人は今度一緒に遊ぼうと約束を交わしていた。


「へぇ……、アクションかぁ。面白そうだな」


 一方、黒斗が手に取ったのはカセット式のゲームソフト。
 所謂レトロゲームと呼ばれる物だ。
 ボロ付き具合が垣間見える紙製の箱の中にはソフトと説明書が入っており、少し折り目が付き劣化している説明書を広げて内容を確認する。 
 移動とジャンプと攻撃だけのシンプルな操作で行う物らしい。


「ディフェンダーがファイターなゲームするの? 黒斗は逃げ足が速いんだからホラーゲームでもすればいいのに」


 ルナにからかわれ、黒斗は少々不機嫌になる。
 ニシシと笑う企み顔が怪しさを全開にさせているので、黒斗は益々不安になり、近くにいる瑠璃へ助けを求めるかのように視線を送った。


「瑠璃、ホラーって何?」

「怖いやつだよ。恐怖を楽しむものなの。小説にもそういうのあるよ」


 怖がりな黒斗は全力で拒否したのだった。


 まずは藍凛あいりが遊びたがっているFPSゲームが遊べる最新ハードウェアをテレビに接続し起動させる。
 現実に近いグラフィックにルナ以外の全員が驚きを隠せずにいた。
 藍凛あいりが魔法を発動させながらゲームを始めるのを見届けたルナは「話は以上だよ!」と言って解散させると、今度はワーキングスペースの作業台の前に向かいあおの名を呼んだ。
 あおは私もゲームが見たいと言わんばかりの不満顔でワーキングスペースへ向かう。
 作業台の上は先程置いた分厚い本と共に複数の素材とすくい網とすり鉢、少し大きめの壺とヘラのような物、そしてガラス製の水差しとピンク色のノートが置かれている。


「あのね、あおにはこれからで色んな物を作って欲しいんだ。このノートに書いてある物がメインなんだけど……」


 あおは差し出されたノートを広げ内容を確認する。
 道具の絵と共にメモ書きがされているが、初めて見る言葉や名前が多く表記されている。
 錬金術とは数百年前から人間の世界に存在しているものだと伝えられているが、今から説明される錬金術は魔力を扱う者によって創り出せる特殊なもの。
 《エンチャント》という特殊効果を合成品に付加する事により、効果の発揮を促進する事が出来るとルナは言う。
 ここで言う特殊効果は宝石達の効能もとい魔法が関係しているのだろう。
 人の扱う錬金術とは全くの別物らしい。
 ルナが本棚から取り出していた分厚い本は、専門用語の横にその意味や素材の名前が書かれた、図鑑のような錬金術の専門書だった。
 人のセカイの錬金術は素材名が専門用語で書かれており、専門書がなければ解読する事さえ難しい。
 その反面、隣に置かれているピンク色のノートにはご丁寧にも専門用語と素材の名前の両方が書かれているので、素材を用意する手間が省けるのが幸いだ。
 それほど合成する頻度が高いアイテムなのだろう。


「……何してんの?」


 あおは背後から話しかけられ「ひゃあ!」と大声で叫ぶ。
 視線を向けた先には悪戯な笑みを浮かべる黒斗の姿があった。
 彼は「人の事言えねぇよな」とからかうと、そのまま右隣に座り、作業台に腕を置いて彼女を覗き込む。
 あおは「むぅー」と言いながら頬を膨らましていた。


「ちょっと! ボク達の間に割り込んで勝手にイチャイチャしないでよっ!!」

「いっ!? し、してねぇよ!」

「してるじゃん! ……で、なんでこっち来たの? 向こうにゲームがあるでしょ?」


 ルナはムスッとした顔で黒斗を睨みつけている。
 あおとの時間に割り込まれた事がよほど不満だったようで、いつもより少しだけ声が低い。


「や……その……なんつーか、だったから……」


 黒斗が指を差した先にはゲームに夢中になっている藍凛あいりと、その様子を幸せそうに見つめている瑠璃の姿があり、二人はすぐに納得したのだった。


「ここにはやてが居たらあの空気の中に居座っているか、こっちに来るかだろうけど、おそらくこっちに来てるだろうねぇ。アイツ、あおが大好きみたいだし?」


「わかりやすいよねぇ」と視線を黒斗へ向けとてつもなくいやらしい笑みを浮かべている。
 黒斗が怪訝そうな顔をする隣りであおは少し困惑した表情を見せていた。
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