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第24話 どんな人が好き?
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「なるほど。カーラの母は娼婦、父は客か」
「はい。たぶんですが、そうだと思います。そして、その客がたまたま貴族だったんでしょう」
テレサの報告を聞いて、フランクは複雑そうな表情で頷いた。
「事情は分かった。だが、どうする?」
身長のわりに長い足を組んで、フランクがそっと息を吐く。テレサの中にも答えはまだなくて、口を開くことができなかった。
部屋の中に、気まずい沈黙が広がる。それを破ったのは、クルトさんの優しい声だった。
「二人とも、紅茶を入れました。とりあえず、紅茶でも飲んでゆっくりなさってはいかがですか?」
クルトが運んできたトレイの上には、紅茶だけでなくクッキーもおいてある。甘い匂いに、フランクの腹が音を立てて反応した。
「そうだな。とりあえず、休憩にするか」
フランクがそう言ったため、テレサもカップに手を伸ばした。クルトは紅茶を入れるのが上手で、同じ茶葉を使っても自分で入れると同じ味にはならない。
今日、オルタナシアは珍しく休みだ。そのため、昼過ぎから作戦会議を開いていたのである。
ちなみに、朝からではなく昼過ぎからになったのは、フランクが昨日も酔いつぶれてしまったからだ。
オルタナシアでの潜入捜査を開始してから、今日で約二週間。フランクは毎日店にきて、毎日酔っ払って帰る。
酔えばテレサに運んでもらえると学習したらしく、フランクの酒量は増える一方だ。
「カーラが異能を使っている証拠があれば、役所に訴えることもできる。俺たちがしなくても、依頼人にその事実を伝えればいい」
調べてきたことを依頼人に伝えれば、きっと依頼人はカーラの噂をすぐに流すだろう。証拠がなくても、今までの被害者がいる。
カーラはすぐに取り調べを受けることになるはずだ。
「どう思う、テレンス? この仕事、もう終わりにするか?」
「……それは」
異能を使って客を騙していた……そんな風に噂されたら、カーラはもうオルタナシアにはいられなくなる。
それどころか、罪人として投獄される可能性だってある。
無許可に異能を使うことは、法律で禁止されているのだから。
「カーラは、自分の意志で異能を使っているのでしょうか」
カーラとは数日間、一緒にいただけだ。友達、と呼ぶほど仲良くなれたわけじゃない。それでも、彼女が進んで他人を騙しているとは思えない。
「店に強要されて、彼女は異能を使っているのではないでしょうか。だとすれば、カーラは被害者です」
「それが、今回の依頼となにか関係あるのか?」
フランクは真顔でそう言ったが、すぐに笑い出した。立ち上がって、テレサの肩をバシバシと叩く。
「悪い。ちょっとお前をからかいたくなっただけだ。関係なくても、カーラを見捨てたくないんだろう?」
「……はい」
「まさかお前、あの女に惚れたのか? 異能は使われてないだろうな?」
「使われていないと思います。たぶん、ですけど」
カーラの能力を把握しているわけではないから、断言することはできない。
けれど我を忘れてカーラに貢いでいた客たちと比べると、自分はまともだと思えた。
「お前のやりたいようにやればいい。俺もできる限りの協力はしよう」
「どうしてです?」
「どうしても何も、俺とお前の仲だろう」
にやにやと笑いながら顔を覗き込んでくるフランクがどうしようもなく可愛く見えて、テレサは戸惑ってしまう。
私最近、この人のこと、可愛いって思いすぎじゃない……?
出会った当初は、顔がいいだけのどうしようもない男だと思っていた。しかし今では、そのどうしようもなさが可愛くなってきている。
「それにしても、お前がああいう女が好きとはな。おとなしそうな女がいいのか?」
「それは本当に誤解ですから!」
カーラに友情のようなものを感じ始めてはいるが、決して恋じゃない。そもそも、テレサは女なのだ。
しかしテレサを男だと思っているフランクは、照れなくていいのに、なんて言いながら笑っている。
「本当に違うんです」
必死になってそう言いながら、自分が必死になっていることを不思議に思った。
面倒くさいことになりそうだから、早めに誤解をときたいだけ?
それとも、好きな人がいるってフランク様に思われるのが嫌なの?
「じゃあ、お前はどんな奴が好みなんだ?」
「えっ……?」
「お前にも、好みくらいあるだろう」
当たり前のような顔で言われても、そんなこと、今まで考えたこともなかった。
妹やその母に虐げられ、使用人以下の暮らしをしてきたテレサには恋愛について考える余裕もなければ出会いもなかったのだから。
私、どんな人が好きなのかしら。
「……ちなみにフランク様は、どんな人が好きなんですか? 綺麗な人ですか?」
「世界一美しい人間を毎日鏡で見ているからな。美しさは自分以外に求めないようにしている」
「その台詞、フランク様にきゃあきゃあ言っている女の子たちに聞かせてやりたいですよ」
む、とフランクは少しだけ頬を膨らませた。子供みたいな仕草だが、妙に似合っている。
「それで、お美しいフランク様はどんな人が好きなんです?」
「そうだな……俺のことを好きな奴が一番いい。どんな俺も好きだと思ってくれるような奴だ」
恋に夢見る令嬢のようなことを言って、フランクはにっこりと笑った。
「はい。たぶんですが、そうだと思います。そして、その客がたまたま貴族だったんでしょう」
テレサの報告を聞いて、フランクは複雑そうな表情で頷いた。
「事情は分かった。だが、どうする?」
身長のわりに長い足を組んで、フランクがそっと息を吐く。テレサの中にも答えはまだなくて、口を開くことができなかった。
部屋の中に、気まずい沈黙が広がる。それを破ったのは、クルトさんの優しい声だった。
「二人とも、紅茶を入れました。とりあえず、紅茶でも飲んでゆっくりなさってはいかがですか?」
クルトが運んできたトレイの上には、紅茶だけでなくクッキーもおいてある。甘い匂いに、フランクの腹が音を立てて反応した。
「そうだな。とりあえず、休憩にするか」
フランクがそう言ったため、テレサもカップに手を伸ばした。クルトは紅茶を入れるのが上手で、同じ茶葉を使っても自分で入れると同じ味にはならない。
今日、オルタナシアは珍しく休みだ。そのため、昼過ぎから作戦会議を開いていたのである。
ちなみに、朝からではなく昼過ぎからになったのは、フランクが昨日も酔いつぶれてしまったからだ。
オルタナシアでの潜入捜査を開始してから、今日で約二週間。フランクは毎日店にきて、毎日酔っ払って帰る。
酔えばテレサに運んでもらえると学習したらしく、フランクの酒量は増える一方だ。
「カーラが異能を使っている証拠があれば、役所に訴えることもできる。俺たちがしなくても、依頼人にその事実を伝えればいい」
調べてきたことを依頼人に伝えれば、きっと依頼人はカーラの噂をすぐに流すだろう。証拠がなくても、今までの被害者がいる。
カーラはすぐに取り調べを受けることになるはずだ。
「どう思う、テレンス? この仕事、もう終わりにするか?」
「……それは」
異能を使って客を騙していた……そんな風に噂されたら、カーラはもうオルタナシアにはいられなくなる。
それどころか、罪人として投獄される可能性だってある。
無許可に異能を使うことは、法律で禁止されているのだから。
「カーラは、自分の意志で異能を使っているのでしょうか」
カーラとは数日間、一緒にいただけだ。友達、と呼ぶほど仲良くなれたわけじゃない。それでも、彼女が進んで他人を騙しているとは思えない。
「店に強要されて、彼女は異能を使っているのではないでしょうか。だとすれば、カーラは被害者です」
「それが、今回の依頼となにか関係あるのか?」
フランクは真顔でそう言ったが、すぐに笑い出した。立ち上がって、テレサの肩をバシバシと叩く。
「悪い。ちょっとお前をからかいたくなっただけだ。関係なくても、カーラを見捨てたくないんだろう?」
「……はい」
「まさかお前、あの女に惚れたのか? 異能は使われてないだろうな?」
「使われていないと思います。たぶん、ですけど」
カーラの能力を把握しているわけではないから、断言することはできない。
けれど我を忘れてカーラに貢いでいた客たちと比べると、自分はまともだと思えた。
「お前のやりたいようにやればいい。俺もできる限りの協力はしよう」
「どうしてです?」
「どうしても何も、俺とお前の仲だろう」
にやにやと笑いながら顔を覗き込んでくるフランクがどうしようもなく可愛く見えて、テレサは戸惑ってしまう。
私最近、この人のこと、可愛いって思いすぎじゃない……?
出会った当初は、顔がいいだけのどうしようもない男だと思っていた。しかし今では、そのどうしようもなさが可愛くなってきている。
「それにしても、お前がああいう女が好きとはな。おとなしそうな女がいいのか?」
「それは本当に誤解ですから!」
カーラに友情のようなものを感じ始めてはいるが、決して恋じゃない。そもそも、テレサは女なのだ。
しかしテレサを男だと思っているフランクは、照れなくていいのに、なんて言いながら笑っている。
「本当に違うんです」
必死になってそう言いながら、自分が必死になっていることを不思議に思った。
面倒くさいことになりそうだから、早めに誤解をときたいだけ?
それとも、好きな人がいるってフランク様に思われるのが嫌なの?
「じゃあ、お前はどんな奴が好みなんだ?」
「えっ……?」
「お前にも、好みくらいあるだろう」
当たり前のような顔で言われても、そんなこと、今まで考えたこともなかった。
妹やその母に虐げられ、使用人以下の暮らしをしてきたテレサには恋愛について考える余裕もなければ出会いもなかったのだから。
私、どんな人が好きなのかしら。
「……ちなみにフランク様は、どんな人が好きなんですか? 綺麗な人ですか?」
「世界一美しい人間を毎日鏡で見ているからな。美しさは自分以外に求めないようにしている」
「その台詞、フランク様にきゃあきゃあ言っている女の子たちに聞かせてやりたいですよ」
む、とフランクは少しだけ頬を膨らませた。子供みたいな仕草だが、妙に似合っている。
「それで、お美しいフランク様はどんな人が好きなんです?」
「そうだな……俺のことを好きな奴が一番いい。どんな俺も好きだと思ってくれるような奴だ」
恋に夢見る令嬢のようなことを言って、フランクはにっこりと笑った。
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