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第28話 私にそんな態度をとったら
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「いよいよ今日、オーナーが店にくるな」
「はい」
「任せたぞ、テレンス」
フランクの言葉に、はい、と力強く頷く。自信があるわけじゃないけれど、ここまできたらやるしかない。
「俺は依頼人を連れて、店の近くで待機しているから」
「分かりました」
フランクと一緒に考えた作戦は、いたってシンプルである。
オーナーに罪を自白させ、それを依頼人に聞かせる。そしてその後、フランクがオーナーを連れて治安維持隊の駐屯所へ行く。
オーナーの罪を訴えるためだ。
許可なく異能を使うこと、そして強制的に異能を使わせることは犯罪だ。誰が訴えてもいいが、王都相談員であるフランクからの訴えであれば、治安維持隊もちゃんと話を聞くだろう。
「問題は、どうやってオーナーに罪を自白させるかだが……正直、何の案も思い浮かばなかった」
はっきりとそう言われれば、いっそ清々しい。元々、フランクが素晴らしいアイディアをひらめくとは思っていないのだ。
それに、カーラさんを助けたいと思ったのは私。これは、私がやるべき仕事だわ。
「僕に任せてください」
「なにか考えがあるのか?」
「それはまあ……臨機応変に対処します」
テレサの言葉に、フランクは声を上げて笑った。
だって、しょうがないじゃない。私はオーナーに会ったこともないんだもの。
「失敗した時は、また考えればいい。あまり気負い過ぎるなよ」
「ありがとうございます」
頭を下げて、テレサは屋敷を出た。この姿で家を出るのは、今日が最後になるはずだ。
◆
「おはようございます」
いつも通り挨拶すると、カーラは緊張した顔で頷いた。詳細は伝えていないものの、今日オーナーと話をつけることは伝えてある。
しかし、まだテレサの正体は話していない。おそらく、フランクがやってきてくれるものだと思っているはずだ。
「カーラさん、オーナーはどのくらいにくると思いますか?」
「正確な時間は分かりませんが、お昼前後かと。こちらへきた際は、アイーダさんと昼食をとることが多いので」
今日は給料日だ。そして、給料はオーナーから手渡しされるらしい。つまり、テレサにもオーナーと接触する機会はあるということだ。
「一つだけ確認しておきたいことがあるんですけど、いいですか?」
「はい」
「派手にやっていいんですよね?」
はい、とカーラは力強く頷いた。
「大丈夫です。その方が私も、すっきりするというか、覚悟が決まるというか……」
オーナーがきちんと裁かれれば、カーラはオルタナシアで働く必要はなくなる。母親が遺したという借金を支払う義務もなくなるだろう。
そして、新しいカーラの人生が始まる。
カーラはオルタナシアで生まれ、オルタナシアで育った。外に頼れる人もいなければ、これといった特技もない。
そんな彼女が、働いて生きていくのは簡単じゃないはずだ。
「リリーさんは、どうするんですか? オルタナシアで働き続ける……わけじゃないですよね」
「はい。その……次の職場は、実はもう見つけてあるんです」
そもそも、ここには潜入捜査できただけなんだけど、それはまだ言えないわ。
「そうなんですね。私も、リリーさんを見習って頑張らないと」
そう言って笑ったカーラの顔は、不安そうながらも生気に満ちていた。
◆
廊下の掃除をしていると、店の扉が開いて、一人の男が入ってきた。恰幅のいい男で、派手な首飾りをつけている。
見るからに金持ちそうな男だ。
背が高く、目つきが鋭いせいでかなり威圧感がある。普通の少女なら、怖くて挨拶さえできないだろう。
目が合って、テレサはとっさに頭を下げた。
こいつがこの店のオーナー・ジョバンニよね。
どうするべきかしら? とりあえず、アイーダさんを呼ぶべき?
オーナーだけでなく、アイーダがカーラの異能について知っていたかどうかも調べる必要がある。
個別に話を聞くより、まとめて聞いた方がいいだろう。
「すぐ、アイーダさんをお呼びします」
そう言って立ち去ろうとしたのだが、おい、と低い声で呼び止められた。
「どうかしましたか?」
「見ない顔だな。お前が、新入りのリリーという奴か?」
「はい」
テレサが頷くと、なるほど……と呟いてジョバンニは笑った。値踏みするようにテレサをじっくり観察した後、一歩距離を詰めてくる。
「身体は貧相だが、顔は悪くない。お前なら稼げるだろう」
身体は貧相、は余計よ! と怒鳴ってやりたくなったが、さすがにこらえる。それに、男装するにあたっては、貧相な身体にかなり助けられたのだ。
「確か、まだ客はとっていないんだったな。どうだ? 試しに俺が買ってやろうか。金ならあるぞ」
笑いながら、ジョバンニがテレサに手を伸ばす。ぞわっと寒気がして、テレサはジョバンニの手を避けた。
なにこいつ。本当に気持ち悪いわ!
思わず睨みつけると、ジョバンニが不快そうに溜息を吐く。
「俺にそんな態度をとったらどうなるのか、聞いてないのか?」
下卑た笑みを浮かべつつ、再度ジョバンニが近づいてくる。当然、テレサは再びジョバンニから逃げた。
アイーダさんと二人揃うまでおとなしくしてようと思ってたけど、気が変わったわ。
「貴方こそ、私にそんな態度をとったらどうなるか分かってるの?」
そう口にした瞬間、身体が軽くなった。
最近は潜入捜査でずっと自分を偽っていたから、それなりにストレスがたまっていたのだ。
「なんだ、その口の利き方は」
ジョバンニが怒りで目を吊り上げ、大股で近づいてくる。今度は避けず、テレサは満面の笑みを返してやった。
「今から教えてあげるわ。私にそんな態度をとったら、こうなるのよ」
ぎゅ、と右手を強く握り締める。そして思いっきり、ジョバンニの頬を殴りつけた。
「はい」
「任せたぞ、テレンス」
フランクの言葉に、はい、と力強く頷く。自信があるわけじゃないけれど、ここまできたらやるしかない。
「俺は依頼人を連れて、店の近くで待機しているから」
「分かりました」
フランクと一緒に考えた作戦は、いたってシンプルである。
オーナーに罪を自白させ、それを依頼人に聞かせる。そしてその後、フランクがオーナーを連れて治安維持隊の駐屯所へ行く。
オーナーの罪を訴えるためだ。
許可なく異能を使うこと、そして強制的に異能を使わせることは犯罪だ。誰が訴えてもいいが、王都相談員であるフランクからの訴えであれば、治安維持隊もちゃんと話を聞くだろう。
「問題は、どうやってオーナーに罪を自白させるかだが……正直、何の案も思い浮かばなかった」
はっきりとそう言われれば、いっそ清々しい。元々、フランクが素晴らしいアイディアをひらめくとは思っていないのだ。
それに、カーラさんを助けたいと思ったのは私。これは、私がやるべき仕事だわ。
「僕に任せてください」
「なにか考えがあるのか?」
「それはまあ……臨機応変に対処します」
テレサの言葉に、フランクは声を上げて笑った。
だって、しょうがないじゃない。私はオーナーに会ったこともないんだもの。
「失敗した時は、また考えればいい。あまり気負い過ぎるなよ」
「ありがとうございます」
頭を下げて、テレサは屋敷を出た。この姿で家を出るのは、今日が最後になるはずだ。
◆
「おはようございます」
いつも通り挨拶すると、カーラは緊張した顔で頷いた。詳細は伝えていないものの、今日オーナーと話をつけることは伝えてある。
しかし、まだテレサの正体は話していない。おそらく、フランクがやってきてくれるものだと思っているはずだ。
「カーラさん、オーナーはどのくらいにくると思いますか?」
「正確な時間は分かりませんが、お昼前後かと。こちらへきた際は、アイーダさんと昼食をとることが多いので」
今日は給料日だ。そして、給料はオーナーから手渡しされるらしい。つまり、テレサにもオーナーと接触する機会はあるということだ。
「一つだけ確認しておきたいことがあるんですけど、いいですか?」
「はい」
「派手にやっていいんですよね?」
はい、とカーラは力強く頷いた。
「大丈夫です。その方が私も、すっきりするというか、覚悟が決まるというか……」
オーナーがきちんと裁かれれば、カーラはオルタナシアで働く必要はなくなる。母親が遺したという借金を支払う義務もなくなるだろう。
そして、新しいカーラの人生が始まる。
カーラはオルタナシアで生まれ、オルタナシアで育った。外に頼れる人もいなければ、これといった特技もない。
そんな彼女が、働いて生きていくのは簡単じゃないはずだ。
「リリーさんは、どうするんですか? オルタナシアで働き続ける……わけじゃないですよね」
「はい。その……次の職場は、実はもう見つけてあるんです」
そもそも、ここには潜入捜査できただけなんだけど、それはまだ言えないわ。
「そうなんですね。私も、リリーさんを見習って頑張らないと」
そう言って笑ったカーラの顔は、不安そうながらも生気に満ちていた。
◆
廊下の掃除をしていると、店の扉が開いて、一人の男が入ってきた。恰幅のいい男で、派手な首飾りをつけている。
見るからに金持ちそうな男だ。
背が高く、目つきが鋭いせいでかなり威圧感がある。普通の少女なら、怖くて挨拶さえできないだろう。
目が合って、テレサはとっさに頭を下げた。
こいつがこの店のオーナー・ジョバンニよね。
どうするべきかしら? とりあえず、アイーダさんを呼ぶべき?
オーナーだけでなく、アイーダがカーラの異能について知っていたかどうかも調べる必要がある。
個別に話を聞くより、まとめて聞いた方がいいだろう。
「すぐ、アイーダさんをお呼びします」
そう言って立ち去ろうとしたのだが、おい、と低い声で呼び止められた。
「どうかしましたか?」
「見ない顔だな。お前が、新入りのリリーという奴か?」
「はい」
テレサが頷くと、なるほど……と呟いてジョバンニは笑った。値踏みするようにテレサをじっくり観察した後、一歩距離を詰めてくる。
「身体は貧相だが、顔は悪くない。お前なら稼げるだろう」
身体は貧相、は余計よ! と怒鳴ってやりたくなったが、さすがにこらえる。それに、男装するにあたっては、貧相な身体にかなり助けられたのだ。
「確か、まだ客はとっていないんだったな。どうだ? 試しに俺が買ってやろうか。金ならあるぞ」
笑いながら、ジョバンニがテレサに手を伸ばす。ぞわっと寒気がして、テレサはジョバンニの手を避けた。
なにこいつ。本当に気持ち悪いわ!
思わず睨みつけると、ジョバンニが不快そうに溜息を吐く。
「俺にそんな態度をとったらどうなるのか、聞いてないのか?」
下卑た笑みを浮かべつつ、再度ジョバンニが近づいてくる。当然、テレサは再びジョバンニから逃げた。
アイーダさんと二人揃うまでおとなしくしてようと思ってたけど、気が変わったわ。
「貴方こそ、私にそんな態度をとったらどうなるか分かってるの?」
そう口にした瞬間、身体が軽くなった。
最近は潜入捜査でずっと自分を偽っていたから、それなりにストレスがたまっていたのだ。
「なんだ、その口の利き方は」
ジョバンニが怒りで目を吊り上げ、大股で近づいてくる。今度は避けず、テレサは満面の笑みを返してやった。
「今から教えてあげるわ。私にそんな態度をとったら、こうなるのよ」
ぎゅ、と右手を強く握り締める。そして思いっきり、ジョバンニの頬を殴りつけた。
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