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第35話 ちょっとずつ
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真っ赤になったり真っ青になったりしながら、フランクが部屋中を歩き回り始めた。意味の分からない行動が面白くて、つい笑ってしまう。
何を言われるかと緊張してたけど、真っ先に出るのがこの反応なのね。
「フランク様」
「な、なんだ?」
「驚かせてしまって申し訳ありません」
「そんなことより! お前は俺のことをどう思っていたんだ? 情けない男だと思ってたか?」
「はい。そりゃあ情けないですし」
テレサが素直に答えると、ああ……と呻きながらフランクはその場に座り込んでしまった。
大丈夫ですか、と肩に手をおくと、涙目で軽く睨まれる。
「というか、なんでずっと黙ってたんだ」
「それはその……バウマン家には、死んだものとして扱われたかったので」
「そうじゃなくて、俺に黙っていた理由だ。そんなに俺が信用できなかったか?」
拗ねたような顔で責められたら、ごめんなさい、と頭を下げるしかない。
「いえ。ただ……怖かっただけです。フランク様の態度が変わってしまうのが」
テレサにはテレサの事情があったとはいえ、長い間性別を偽っていたのは事実だ。
信用されていなかった、とフランクが考えるのも無理はない。
「お願いです。これからも、ここにおいてくれませんか。今まで通り働きますから」
「お前……」
フランクは立ち上がると、その場で軽く深呼吸をした。
そして、わざとらしく咳払いをしてから、テレサの目をじっと見つめる。
「そんなに、俺のことが好きだったのか」
「はい?」
「俺が好きで、俺に嫌われるのが怖くて言えなかった、ってことだろう?」
「……なんていうか、ずいぶんと調子に乗った解釈ですね?」
「照れなくていい。お前の気持ちは伝わった」
伝わったって言われても、ねじれて伝わっている気がするんだけど。
テレサがどうしようかと考えていると、唐突にフランクが大笑いした。
「テレンス……いや、テレサか?」
「それはどっちでもいいです」
「分かった。とにかく、今さらお前が女だと分かったところで、特に何も変わらないだろ。まあ、お前が俺に恋をしていて、関係を発展させたいという気持ちは分かったが」
「だから、それは言ってませんって!」
気を遣って、冗談っぽく話してくれているだけ?
それとも、本気で言ってるの?
フランクの意図は分からない。だがなんにせよ、いつもと変わらない雰囲気になったのは事実だ。
心の中にあった不安が、いつの間にか消えている。
「それにしても驚いたな。あの聖女が、姉の悪口を言いふらすような性悪女だったとは」
「え?」
「聞き込み調査をしたが、姉に関する噂は悪いものばかりだった。妹を虐めていただの、我儘でやりたい放題だっただの……使用人への悪口や暴力も日常だった、とな」
どれも嘘だ。妹には虐められていたし、使用人たちにだって軽んじられていた。
「お前がそんなことをしていたとは思えない。全部、あの聖女の嘘なんだろう?」
何の躊躇いもなくフランクがそう言ってくれたことが嬉しくて、とっさに言葉が出てこない。
「……信じてくれるんですか?」
「当たり前だろう。なんでお前じゃなく、たいして知りもしない奴を信じるんだ?」
メリナは美少女で、その上聖女だ。周りからはいつも愛されて、ちやほやされていた。
だから、メリナではなくテレサのことを信じてくれる人なんて、母親以外には誰もいなかった。
じわ、と瞳が潤む。泣きそうになるのを我慢していると、フランクが不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたか?」
「……いえ」
「これでもう、隠していることはないな?」
「……はい」
そうか、と頷いて、フランクはテレサの頭を軽く撫でた。撫でたというより、叩いたという表現の方が適切かもしれない。
誰かに頭を撫でられたのなんて、いつぶりかしら?
「依頼をどうするかはこれから考えるとして……とりあえず、飯にするぞ。歩き回ったせいで腹が減ったんだ」
「はい。私……えっと、僕もお腹が空きました」
「もう男のふりをする必要はないぞ」
「でもなんか、それはそれで慣れないっていうか」
フランクの前ではずっと男として振る舞ってきたのだ。今さら女として振る舞えと言われても、ちょっと戸惑ってしまう。
「好きなようにしたらいい。俺も、好きなようにする。行くぞ、テレンス」
「はい」
今すぐに態度を変えるのは難しい。それに、その必要も感じない。
でも、ちょっとずつ、素の私も出せたらいいな。
きっとフランク様は、受け入れてくれる気がするから。
何を言われるかと緊張してたけど、真っ先に出るのがこの反応なのね。
「フランク様」
「な、なんだ?」
「驚かせてしまって申し訳ありません」
「そんなことより! お前は俺のことをどう思っていたんだ? 情けない男だと思ってたか?」
「はい。そりゃあ情けないですし」
テレサが素直に答えると、ああ……と呻きながらフランクはその場に座り込んでしまった。
大丈夫ですか、と肩に手をおくと、涙目で軽く睨まれる。
「というか、なんでずっと黙ってたんだ」
「それはその……バウマン家には、死んだものとして扱われたかったので」
「そうじゃなくて、俺に黙っていた理由だ。そんなに俺が信用できなかったか?」
拗ねたような顔で責められたら、ごめんなさい、と頭を下げるしかない。
「いえ。ただ……怖かっただけです。フランク様の態度が変わってしまうのが」
テレサにはテレサの事情があったとはいえ、長い間性別を偽っていたのは事実だ。
信用されていなかった、とフランクが考えるのも無理はない。
「お願いです。これからも、ここにおいてくれませんか。今まで通り働きますから」
「お前……」
フランクは立ち上がると、その場で軽く深呼吸をした。
そして、わざとらしく咳払いをしてから、テレサの目をじっと見つめる。
「そんなに、俺のことが好きだったのか」
「はい?」
「俺が好きで、俺に嫌われるのが怖くて言えなかった、ってことだろう?」
「……なんていうか、ずいぶんと調子に乗った解釈ですね?」
「照れなくていい。お前の気持ちは伝わった」
伝わったって言われても、ねじれて伝わっている気がするんだけど。
テレサがどうしようかと考えていると、唐突にフランクが大笑いした。
「テレンス……いや、テレサか?」
「それはどっちでもいいです」
「分かった。とにかく、今さらお前が女だと分かったところで、特に何も変わらないだろ。まあ、お前が俺に恋をしていて、関係を発展させたいという気持ちは分かったが」
「だから、それは言ってませんって!」
気を遣って、冗談っぽく話してくれているだけ?
それとも、本気で言ってるの?
フランクの意図は分からない。だがなんにせよ、いつもと変わらない雰囲気になったのは事実だ。
心の中にあった不安が、いつの間にか消えている。
「それにしても驚いたな。あの聖女が、姉の悪口を言いふらすような性悪女だったとは」
「え?」
「聞き込み調査をしたが、姉に関する噂は悪いものばかりだった。妹を虐めていただの、我儘でやりたい放題だっただの……使用人への悪口や暴力も日常だった、とな」
どれも嘘だ。妹には虐められていたし、使用人たちにだって軽んじられていた。
「お前がそんなことをしていたとは思えない。全部、あの聖女の嘘なんだろう?」
何の躊躇いもなくフランクがそう言ってくれたことが嬉しくて、とっさに言葉が出てこない。
「……信じてくれるんですか?」
「当たり前だろう。なんでお前じゃなく、たいして知りもしない奴を信じるんだ?」
メリナは美少女で、その上聖女だ。周りからはいつも愛されて、ちやほやされていた。
だから、メリナではなくテレサのことを信じてくれる人なんて、母親以外には誰もいなかった。
じわ、と瞳が潤む。泣きそうになるのを我慢していると、フランクが不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたか?」
「……いえ」
「これでもう、隠していることはないな?」
「……はい」
そうか、と頷いて、フランクはテレサの頭を軽く撫でた。撫でたというより、叩いたという表現の方が適切かもしれない。
誰かに頭を撫でられたのなんて、いつぶりかしら?
「依頼をどうするかはこれから考えるとして……とりあえず、飯にするぞ。歩き回ったせいで腹が減ったんだ」
「はい。私……えっと、僕もお腹が空きました」
「もう男のふりをする必要はないぞ」
「でもなんか、それはそれで慣れないっていうか」
フランクの前ではずっと男として振る舞ってきたのだ。今さら女として振る舞えと言われても、ちょっと戸惑ってしまう。
「好きなようにしたらいい。俺も、好きなようにする。行くぞ、テレンス」
「はい」
今すぐに態度を変えるのは難しい。それに、その必要も感じない。
でも、ちょっとずつ、素の私も出せたらいいな。
きっとフランク様は、受け入れてくれる気がするから。
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