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第45話 覚悟は決めた
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「これ、本物ですよね?」
受け取ったばかりの書類を見て、テレサが呟く。背後から覗き込んできたフランクが、ああ、と上擦った声で頷いた。
「確かにこれは本物の王家の印だな。実家にも同じ物がある」
「……そうなんですね」
受け取ったのは、土地の権利書だ。テレサの希望通り、オットーが手を回して母親の故郷であるモルグの所有権をくれたのである。
そして気を回して、かなりの額の金も受け取っている。オットーいわく、取り潰しになったバウマン家から没収した金の一部、ということらしい。
「どうする? 早速モルグに行ってみるか?」
「……そうですね。せっかくですし」
「俺なら、花を咲かせられるぞ」
「ありがとうございます」
フランクの異能なら、枯れた花を咲かせられる。母が大好きだった花畑を復活させることができるのだ。
お母さんもきっと、喜んでくれるわ。
母の遺体を花畑の傍に埋めてあげることはできなかった。でも、近くに墓を作ってあげよう。そこに遺体はなくても、きっと、分かってくれるだろうから。
「だが、すぐに移住というわけにはいかないな。あそこには家もない。買い物に行くとしても、いちいち王都まで戻るのも大変だな……」
神妙な顔で考え始めたフランクを見ながら、クルトがくすっと笑った。
「フランク様。テレンスさんと一緒に、モルグへ移住するつもりなんですか? 私はテレンスさんとはお別れかと思って、悲しんでいましたのに」
「別れ? なんでだ?」
「土地の権利書をもらい、多額のお金ももらい……テレンスさんはこれから、モルグに豊かな村を作ろうとするでしょう? フランク様の部下を続ける必要はないかと」
クルトの言葉に、フランクは驚いたように目を見開いた。そして、テレサをじっと見つめる。
「お前、俺の部下を辞めるつもりなのか!?」
「……まだ、あんまり考えてなかったですけど」
考えてみれば、元々、フランクの下で働くと決めたのは他に選択肢がなかったからだ。もちろん、悪くないと思ったからというのもあるが。
お金もあるし、モルグはもう手に入れたし、花畑を復活させてもらったら、もうフランク様と一緒にいる理由はなくなっちゃうのね。
「フランク様は、私に部下を辞めてほしくないんですか?」
「当たり前だろ!」
即答されると、さすがに嬉しくなってしまう。
まあ、私がいなくなったら、依頼が減るからとか、そういう理由も少なからずあるかもしれないけど。
「今さらお前にいなくなられたら、困る」
「どう困るんです?」
「俺もお前も寂しいだろう」
お前も、なんて言ってくるあたりかなりの自信家だが、悔しいことに事実だ。
今さら、フランク様と離れて一人になるなんて考えられないわ。それに、他に頼れる人だっていないし。
フランクが頼れる人間かどうかは疑わしいが、少なくとも、信頼できる相手だ。
信頼できる相手が一人いるかどうかは重要である。
でもかといって、今までのように働き続ける、っていうのもどうなのかしら。
王都相談員であるフランクの部下として働くことはやり甲斐もあった。感謝されれば嬉しかったし、達成感だってある。
しかし、モルグの所有権をもらい、金をもらい、可能性が広がった今もその仕事をすべきかと問われると、自信を持って頷くこともできない。
「フランク様」
「なんだ?」
「今後のことなんですけど、ちょっといろいろ考えてもいいですか?」
「考えるのは構わないが」
そう言うと、フランクは不貞腐れたような顔でそっぽを向いた。
◆
「実際のところ、テレンスさんはどうするおつもりなのですか?」
夜、テレサが居間で水を飲んでいると、クルトが近づいてきた。
「まだ起きてたんですか」
「ええ。フランク様も、つい先程寝たんです。あのフランク様が、眠れないとぎゃあぎゃあ騒いでいましたので」
言葉に反し、クルトの口調は柔らかい。分かりやすい主人が可愛くて仕方ないのだろう。
「クルトさん。僕は、約束を破るつもりはないんです」
フランクを守ると約束した。これからだって、彼のことを守ってあげたい。
というか、もし離れてしまったら、心配のしすぎで疲れてしまいそうだ。
いろいろ考えてみたって、私の中にフランク様と離れる選択肢はないもの。
「その上で、これからのことを考えていて……いえ、正直なことを言うと、不安なだけなんです」
フランクに伝えたい言葉はもう、テレサの中でかなり明確になっている。
ただ、受け入れられるかどうかが不安なのだ。
「不安になる必要なんて、全くないと思いますけどね」
クルトがくすっと笑う。きっと、この人は全てお見通しなのだろう。
「ありがとうございます。そろそろ、僕だって……いえ、私だって、覚悟を決めますよ」
グラスに残っていた水を一気に飲み干す。もう一杯飲んでもいいが、今日はもう眠ってしまおう。
そして明日、朝一番にフランクと話そう。
どんな返事をもらえるかは分からない。だけどもう、覚悟は決めたわ。
受け取ったばかりの書類を見て、テレサが呟く。背後から覗き込んできたフランクが、ああ、と上擦った声で頷いた。
「確かにこれは本物の王家の印だな。実家にも同じ物がある」
「……そうなんですね」
受け取ったのは、土地の権利書だ。テレサの希望通り、オットーが手を回して母親の故郷であるモルグの所有権をくれたのである。
そして気を回して、かなりの額の金も受け取っている。オットーいわく、取り潰しになったバウマン家から没収した金の一部、ということらしい。
「どうする? 早速モルグに行ってみるか?」
「……そうですね。せっかくですし」
「俺なら、花を咲かせられるぞ」
「ありがとうございます」
フランクの異能なら、枯れた花を咲かせられる。母が大好きだった花畑を復活させることができるのだ。
お母さんもきっと、喜んでくれるわ。
母の遺体を花畑の傍に埋めてあげることはできなかった。でも、近くに墓を作ってあげよう。そこに遺体はなくても、きっと、分かってくれるだろうから。
「だが、すぐに移住というわけにはいかないな。あそこには家もない。買い物に行くとしても、いちいち王都まで戻るのも大変だな……」
神妙な顔で考え始めたフランクを見ながら、クルトがくすっと笑った。
「フランク様。テレンスさんと一緒に、モルグへ移住するつもりなんですか? 私はテレンスさんとはお別れかと思って、悲しんでいましたのに」
「別れ? なんでだ?」
「土地の権利書をもらい、多額のお金ももらい……テレンスさんはこれから、モルグに豊かな村を作ろうとするでしょう? フランク様の部下を続ける必要はないかと」
クルトの言葉に、フランクは驚いたように目を見開いた。そして、テレサをじっと見つめる。
「お前、俺の部下を辞めるつもりなのか!?」
「……まだ、あんまり考えてなかったですけど」
考えてみれば、元々、フランクの下で働くと決めたのは他に選択肢がなかったからだ。もちろん、悪くないと思ったからというのもあるが。
お金もあるし、モルグはもう手に入れたし、花畑を復活させてもらったら、もうフランク様と一緒にいる理由はなくなっちゃうのね。
「フランク様は、私に部下を辞めてほしくないんですか?」
「当たり前だろ!」
即答されると、さすがに嬉しくなってしまう。
まあ、私がいなくなったら、依頼が減るからとか、そういう理由も少なからずあるかもしれないけど。
「今さらお前にいなくなられたら、困る」
「どう困るんです?」
「俺もお前も寂しいだろう」
お前も、なんて言ってくるあたりかなりの自信家だが、悔しいことに事実だ。
今さら、フランク様と離れて一人になるなんて考えられないわ。それに、他に頼れる人だっていないし。
フランクが頼れる人間かどうかは疑わしいが、少なくとも、信頼できる相手だ。
信頼できる相手が一人いるかどうかは重要である。
でもかといって、今までのように働き続ける、っていうのもどうなのかしら。
王都相談員であるフランクの部下として働くことはやり甲斐もあった。感謝されれば嬉しかったし、達成感だってある。
しかし、モルグの所有権をもらい、金をもらい、可能性が広がった今もその仕事をすべきかと問われると、自信を持って頷くこともできない。
「フランク様」
「なんだ?」
「今後のことなんですけど、ちょっといろいろ考えてもいいですか?」
「考えるのは構わないが」
そう言うと、フランクは不貞腐れたような顔でそっぽを向いた。
◆
「実際のところ、テレンスさんはどうするおつもりなのですか?」
夜、テレサが居間で水を飲んでいると、クルトが近づいてきた。
「まだ起きてたんですか」
「ええ。フランク様も、つい先程寝たんです。あのフランク様が、眠れないとぎゃあぎゃあ騒いでいましたので」
言葉に反し、クルトの口調は柔らかい。分かりやすい主人が可愛くて仕方ないのだろう。
「クルトさん。僕は、約束を破るつもりはないんです」
フランクを守ると約束した。これからだって、彼のことを守ってあげたい。
というか、もし離れてしまったら、心配のしすぎで疲れてしまいそうだ。
いろいろ考えてみたって、私の中にフランク様と離れる選択肢はないもの。
「その上で、これからのことを考えていて……いえ、正直なことを言うと、不安なだけなんです」
フランクに伝えたい言葉はもう、テレサの中でかなり明確になっている。
ただ、受け入れられるかどうかが不安なのだ。
「不安になる必要なんて、全くないと思いますけどね」
クルトがくすっと笑う。きっと、この人は全てお見通しなのだろう。
「ありがとうございます。そろそろ、僕だって……いえ、私だって、覚悟を決めますよ」
グラスに残っていた水を一気に飲み干す。もう一杯飲んでもいいが、今日はもう眠ってしまおう。
そして明日、朝一番にフランクと話そう。
どんな返事をもらえるかは分からない。だけどもう、覚悟は決めたわ。
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