脳筋男装令嬢は、虐げられるだけの家を飛び出して自由に生きる!~偽りの聖女を倒し、愛も名誉も金も、全て拳で手に入れます!~

八星 こはく

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第51話 来世も、その次も

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「お綺麗ですよ、テレサ様」

 そう言って、メイドがにっこりと笑う。四十代半ばのメイドは、モルグに屋敷を立ててすぐに雇った使用人だ。
 住み込みではなく通いで、家には娘と二人で暮らしている。

「……そうかしら」
「ええ、とっても」

 テレサ様と呼ばれることも、メイドに着替えを手伝ってもらうこともまだ慣れない。日頃は着替えくらい一人でやるのだが、今日の衣装に限っては無理だった。

 わざわざ仕立て屋に特注で作らせた純白のドレスは、裾が長すぎて動きにくい。ちょっとでも走れば、裾を踏んで転んでしまいそうだ。

 貧相な胸元を誤魔化すように、肩や胸元にフリルを大量にあしらっているのだが、それが自分に似合っている自信がない。

 結婚式に参列してくれる人だって、ほとんどは私の男装姿しか見たことがない人ばかりだもの。
 私の姿を見て、変だと思わないかしら。

 結婚式は花畑の前で行う。正式に招待した客以外にも、村の者なら全員が簡単に見ることのできる場所だ。
 村人たちに身近に感じてもらうために、花畑への出入りを規制しなかったのである。

「フランク様も、きっとそう言ってくれますよ」
「……だといいのだけど」

 そう答えた時、ちょうど部屋の扉が開いた。すぐに視線を向けると、純白のタキシードに身を包んだフランクが立っている。
 あちこちに色とりどりの宝石を縫い付けた派手な服だ。もちろん、フランクの美貌は華美な服にだって負けていない。

 この人が今日、最も美しい花だわ。

「お似合いですね、フランク様」
「だろう? お前の見立て通りだな」
「それは光栄です」

 フランクが笑いながら近づいてくる。いつも通り喋ろうと意識しているのに、顔が緊張で引きつってしまう。

 この人の婚約者になってしばらく経つのに、まだ慣れないなんてね。

「お前も、綺麗だな」
「ありがとうございます」

 俺には及ばないが、なんて軽口は言わず、フランクはじっとテレサを見つめた。
 その瞳にはテレサとお揃いの緊張が宿っていて、なんだかほっとしてしまう。

「やっぱり、ドレスにしてよかった」

 呟いて、フランクがそっとテレサの手を握る。細長くてすべらかな手だ。

 フランクと協力して、モルグに新しい村を作った。慣れないことを頑張ってこられたのは、フランクと一緒だったからだ。

 上手くいかない日だって、フランク様の笑顔を見れば癒されたもの。

 普通の夫婦みたいに、甘い恋愛から始まった関係じゃない。だからこそ未だにぎこちない部分はある。
 けれど、共に過ごすうちにどんどん、彼を手放したくない気持ちが強くなった。

「テレサ。式の前に、少し二人で話さないか」

 テレサが返事をするより先に、気を回したメイドが部屋を出ていった。

 二人きりになると、フランクが立ったまま話し始める。いつものように座らないのは、服にしわができてしまうのを気にしているからだろう。

「とうとう、結婚式だな」
「ええ」
「感慨深いか?」
「それはまあ……それなりに」

 式を挙げたからといって、何かが大きく変わるわけじゃない。
 今までだって一緒に暮らしていたし、引っ越すわけでもない。

 けれど、やっぱり今日は特別な日で、今日までと昨日はちょっと違う。そんな気がする。

「テレサ」
「はい」
「俺を選んでくれてありがとう」

 シンプルで真っ直ぐな言葉だ。だからこそ、胸の奥が温かくなる。

「これからは、もっと俺も頑張るから。なんか、こう……お前を幸せにできるように」
「前にも言いましたけど、いてくれるだけでいいんですよ」
「そうは言ってもな、俺だってなにかやりたくなるんだ」

 むっとした顔で見つめられると、可愛くてつい笑ってしまう。そんなテレサを見てフランクは少しだけ拗ねた表情を作るが、すぐに幸せそうに微笑むのだ。

「式の前に、一つだけ言っておこうと思ってな」
「なんです?」
「俺は、お前が思っている100倍はお前のことが好きだぞ」

 自分で言っておいて、フランクは顔を真っ赤にして目を逸らした。肌が白いから、赤くなった頬が分かりやすい。

「ありがとうございます。私は、フランク様が思っている1000倍、フランク様のことが大好きですよ」
「だから、毎回そうやって俺を越えようとするな!」

 フランクはわざとらしく頬を膨らませた後、軽く咳払いして目を閉じた。キスをしよう、という合図だ。

 可愛い人、と心の中で呟いて、テレサはそっと彼に口づけた。





 色とりどりの花が咲き誇る花畑の中で、白い衣装はよく映える。太陽の光に照らされたフランクは、花の精かと思ってしまうほどに美しい。

「テレサ」

 満面の笑みで、フランクが手を差し出してくる。そっとその手に自分の手のひらを重ねた。

 招待客や村人の拍手の中、花畑中央に設営された会場へ向かう。

 花の香りに包まれながら進む途中、花畑の端にある墓石が目に入った。母親の墓だ。その下に、母の遺体は眠っていないけれど。

 お母さん、見てる? 私、大好きな人と結婚式を挙げるの。
 本当は、お母さんにもこの場所にいてほしかったわ。

 母親を救ってやることも、守ってやることもできなかった。そのことを悔いてしまう日もある。

 だけど私はちゃんと、前を向いて歩いていけるから。

「フランク様」
「なんだ?」
「一生、貴方を守り抜きます」

 絶対にフランク様より長生きして、最期までフランク様を守ってみせる。それを今日、この場所で誓うわ。

「一生、だけじゃ足りないな」

 軽やかに笑いながら言うと、フランクはテレサの手を強く握った。

「来世もその次も、ずっと俺を守ってくれ」
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