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第1章 王子様との出逢い
第4話 保健室の共感
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「じゃあ私、ちょっと如月さんのところに行ってくるね」
「了解。それにしても、マメだよね。先生に言われてるとはいえ」
琴音が感心したように笑う。曖昧に頷いて、私は席を立った。
如月さんは今日、保健室にきているらしい。昼休みになる直前に、先生が教えてくれた。
確かに最初のきっかけは、先生に言われたから。それだけだ。クラスメートとして声をかけてやってほしいと言われて、プリントを届けたり、様子を見に行くようになった。
回数を重ねるうちに、ちょっとずつだけど、如月さんも話してくれるようになった。それでも、友達と呼べるほど近い距離には、まだなれていないけど。
「じゃあ、また後でね」
琴音に手を振って教室を出る。自然と、廊下を歩くペースが速くなってしまう。
私、今、すごく如月さんに会いたい。会って、如月さんの話を聞きたい。
放課後に会ったあの日から、私の頭の中は如月さんでいっぱいだ。
保健室の扉を開け、失礼します、と言ってから中に入る。
「いらっしゃい」
金城先生が穏やかに微笑んだ。金城先生は、30代前半の、丸眼鏡をかけた優しそうな女性である。
金城先生に話を聞いてほしくて、保健室にくる子も多い……って、聞いたことあるな。
「如月さんよね?」
「はい。今日、きてるって聞いて」
「ええ。こっちよ」
保健室はカーテンで二つに区切られている。手前が治療スペースで、奥が事務スペース。如月さんはいつも奥にいて、勉強や読書をしている。
そっとカーテンを開け、事務スペースに入る。如月さんは勉強の手を止めて、じっと私を見つめた。
「……い、委員長、きてくれたんだ」
「うん」
最初は、私の顔を見ると怯えていた。でも、だんだん変わっていって、最近はちょっと嬉しそうな顔で私を出迎えてくれる。
きっと如月さんは、人と関わりたくない、ってわけじゃないんだろうな。
「ねえ、如月さん。ちょっと、聞いてもいい?」
「えっ、あ、な、なにを?」
戸惑っている如月さんの隣に座る。
今の如月さんからは、月城蓮さんの姿は想像できないな。
普段の如月さんは、なんというか……言い方は悪いけれど、かなり地味だ。前髪が長くてほとんど目が見えないし、黒髪ショートで黒い瞳。
猫背気味なせいで、身長は私よりも低く感じる。
王子様みたいな華やかさなんて、今はどこにもない。
「放課後変身部のこと」
「……こ、小声でなら」
「分かってる。じゃあまず……変身部を始めたきっかけって、なんだったの?」
あの日から、如月さんのことも、放課後変身部のことも気になってしょうがない。だから、知りたい。
こんな風に誰かを強く知りたいと思えたのは、初めてだ。
「……わ、私、私ね……」
如月さんの声は震えていた。でも、何度も深呼吸をして、ちゃんと話をしてくれようとしているのが分かる。
如月さんは、ちゃんと私に向き合おうとしてくれてるんだ。
「ず、ずっと、変わりたかったの。ほら、私って、上手く人と話せないし、それどころか、人の目もちゃんと見れなくて……見た目を思いっきり変えたら、違う自分になれるんじゃないかなって」
「如月さん……」
「……私、自分のこと、好きじゃないの」
如月さんの声があまりにも辛そうで、私はそっと如月さんの手を握った。
「でもね。ずっと、好きになりたいなって、自分を認めてあげたいなって、思ってて……だから、変わりたかったの」
「……男装にしたのは、どうして?」
「あ、それは単純に、私は男装の麗人っていうのが好きで……」
如月さんが一瞬だけ早口になった。どうやら月城蓮さんは男性ではなく、男装の麗人、という設定だったらしい。
ちょっとややこしいけど、なんか、いいな。
「やってみたら、他人になるって感覚が気持ちよくて。なんていうのかな……普段の自分から解放されるっていうか……自分の気持ちに、素直になれるっていうか……」
うーん、と何度も唸りながら、如月さんが必死に言葉を紡いでくれる。それだけで、なんだか泣きそうになった。
「それにね、放課後の、ちょっとの間だけっていうのもよくて。ほら、その……ずっとなら、たぶん無理だと思って……見た目だけじゃなくて、口調とかも変えるし……」
「……確かに」
月城蓮さんは、きらきらの王子様だった。四六時中きらきらでいるのは、きっと不可能だろう。
でも、月城蓮さんになるのは放課後だけ。ならきっと、月城蓮さんでいる間だけは、如月さんは理想の人でいられるのだ。
「……と、というか、委員長はどうして、そんなに変身部に興味を持ってくれたの?」
「え?」
「ご、ごめん。気になっちゃって」
「謝らないで。教えてもらってるの、私だし」
「……うん」
「私はただ、なんていうか……」
深呼吸をして、如月さんの顔をじっと見つめる。
私と如月さんは、きっとまだ友達じゃない。私たちはまだ、お互いに知らないことがありすぎるから。
でも、どうしてだろう。如月さんには、本音を話せる気がする。ううん、私、如月さんと本音で話したいんだ。
「変わりたいって、私もずっと思ってたから」
「委員長が?」
如月さんが目を丸くする。
如月さん、私のことをどんな風に思ってたんだろう。
「うん」
「……委員長でも、そんなこと思うんだ……」
「思うよ。私も、如月さんと一緒」
「そうなんだ……」
うん、と頷いて、私たちの会話は終わってしまった。でも不思議と今は、この沈黙も悪くないと思える。
変わりたい、なんて人に言えたのは初めて。
本音を口にするって、こんなに気持ちいいことだったんだ。
「了解。それにしても、マメだよね。先生に言われてるとはいえ」
琴音が感心したように笑う。曖昧に頷いて、私は席を立った。
如月さんは今日、保健室にきているらしい。昼休みになる直前に、先生が教えてくれた。
確かに最初のきっかけは、先生に言われたから。それだけだ。クラスメートとして声をかけてやってほしいと言われて、プリントを届けたり、様子を見に行くようになった。
回数を重ねるうちに、ちょっとずつだけど、如月さんも話してくれるようになった。それでも、友達と呼べるほど近い距離には、まだなれていないけど。
「じゃあ、また後でね」
琴音に手を振って教室を出る。自然と、廊下を歩くペースが速くなってしまう。
私、今、すごく如月さんに会いたい。会って、如月さんの話を聞きたい。
放課後に会ったあの日から、私の頭の中は如月さんでいっぱいだ。
保健室の扉を開け、失礼します、と言ってから中に入る。
「いらっしゃい」
金城先生が穏やかに微笑んだ。金城先生は、30代前半の、丸眼鏡をかけた優しそうな女性である。
金城先生に話を聞いてほしくて、保健室にくる子も多い……って、聞いたことあるな。
「如月さんよね?」
「はい。今日、きてるって聞いて」
「ええ。こっちよ」
保健室はカーテンで二つに区切られている。手前が治療スペースで、奥が事務スペース。如月さんはいつも奥にいて、勉強や読書をしている。
そっとカーテンを開け、事務スペースに入る。如月さんは勉強の手を止めて、じっと私を見つめた。
「……い、委員長、きてくれたんだ」
「うん」
最初は、私の顔を見ると怯えていた。でも、だんだん変わっていって、最近はちょっと嬉しそうな顔で私を出迎えてくれる。
きっと如月さんは、人と関わりたくない、ってわけじゃないんだろうな。
「ねえ、如月さん。ちょっと、聞いてもいい?」
「えっ、あ、な、なにを?」
戸惑っている如月さんの隣に座る。
今の如月さんからは、月城蓮さんの姿は想像できないな。
普段の如月さんは、なんというか……言い方は悪いけれど、かなり地味だ。前髪が長くてほとんど目が見えないし、黒髪ショートで黒い瞳。
猫背気味なせいで、身長は私よりも低く感じる。
王子様みたいな華やかさなんて、今はどこにもない。
「放課後変身部のこと」
「……こ、小声でなら」
「分かってる。じゃあまず……変身部を始めたきっかけって、なんだったの?」
あの日から、如月さんのことも、放課後変身部のことも気になってしょうがない。だから、知りたい。
こんな風に誰かを強く知りたいと思えたのは、初めてだ。
「……わ、私、私ね……」
如月さんの声は震えていた。でも、何度も深呼吸をして、ちゃんと話をしてくれようとしているのが分かる。
如月さんは、ちゃんと私に向き合おうとしてくれてるんだ。
「ず、ずっと、変わりたかったの。ほら、私って、上手く人と話せないし、それどころか、人の目もちゃんと見れなくて……見た目を思いっきり変えたら、違う自分になれるんじゃないかなって」
「如月さん……」
「……私、自分のこと、好きじゃないの」
如月さんの声があまりにも辛そうで、私はそっと如月さんの手を握った。
「でもね。ずっと、好きになりたいなって、自分を認めてあげたいなって、思ってて……だから、変わりたかったの」
「……男装にしたのは、どうして?」
「あ、それは単純に、私は男装の麗人っていうのが好きで……」
如月さんが一瞬だけ早口になった。どうやら月城蓮さんは男性ではなく、男装の麗人、という設定だったらしい。
ちょっとややこしいけど、なんか、いいな。
「やってみたら、他人になるって感覚が気持ちよくて。なんていうのかな……普段の自分から解放されるっていうか……自分の気持ちに、素直になれるっていうか……」
うーん、と何度も唸りながら、如月さんが必死に言葉を紡いでくれる。それだけで、なんだか泣きそうになった。
「それにね、放課後の、ちょっとの間だけっていうのもよくて。ほら、その……ずっとなら、たぶん無理だと思って……見た目だけじゃなくて、口調とかも変えるし……」
「……確かに」
月城蓮さんは、きらきらの王子様だった。四六時中きらきらでいるのは、きっと不可能だろう。
でも、月城蓮さんになるのは放課後だけ。ならきっと、月城蓮さんでいる間だけは、如月さんは理想の人でいられるのだ。
「……と、というか、委員長はどうして、そんなに変身部に興味を持ってくれたの?」
「え?」
「ご、ごめん。気になっちゃって」
「謝らないで。教えてもらってるの、私だし」
「……うん」
「私はただ、なんていうか……」
深呼吸をして、如月さんの顔をじっと見つめる。
私と如月さんは、きっとまだ友達じゃない。私たちはまだ、お互いに知らないことがありすぎるから。
でも、どうしてだろう。如月さんには、本音を話せる気がする。ううん、私、如月さんと本音で話したいんだ。
「変わりたいって、私もずっと思ってたから」
「委員長が?」
如月さんが目を丸くする。
如月さん、私のことをどんな風に思ってたんだろう。
「うん」
「……委員長でも、そんなこと思うんだ……」
「思うよ。私も、如月さんと一緒」
「そうなんだ……」
うん、と頷いて、私たちの会話は終わってしまった。でも不思議と今は、この沈黙も悪くないと思える。
変わりたい、なんて人に言えたのは初めて。
本音を口にするって、こんなに気持ちいいことだったんだ。
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