放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく

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第7章 日常の魔法

第36話 始まり

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 教室の扉をゆっくりと開ける。既に一時間目が始まっていたから、一斉にみんなの視線が集まった。

「遅れてすいません」
「いや、珍しいことも……」

 喋りかけて、先生は固まった。他のみんなもだ。私の後ろに立っている姫乃が目に入ったからだろう。
 姫乃がこのクラスにきたことは一度もない。だから正直、誰? っていうのが、大半の子のリアクションだ。

「せ、席にいっていいから。天野も、如月も」

 先生の言葉に、教室がざわつく。

「あれが如月さんなんだ……」
「私、初めて見たかも」
「ていうか、なんで委員長と一緒なの?」

 小さな声が、教室中に広がっていく。私の後ろで、姫乃が俯いたのが分かった。

「おはよう、委員長、如月さん!」

 そんな中、びっくりするくらいの大声で挨拶してくれたのは早瀬くんだった。
 早瀬くんの大声に、みんながびっくりしている。
 早瀬くんなりに、如月さんを応援してくれたんだろうな。まあ、よけいにみんなの注目を集めることになっちゃってるけど。

「姫乃」

 名前をそっと呼んで、姫乃の手を握って教室へ入る。そしてそのまま、姫乃の席まで一緒に歩いた。

「大丈夫だよ」

 耳元で囁く。姫乃は青白い顔をしていたけれど、しっかり頷いた。
 私も自分の席に座ると、何事もなかったかのように授業が再開された。ちらちらとクラスメートの視線を感じるけれど、それだけだ。
 なんか、意外と呆気ないな。
 ちょっとだけ拍子抜けして、呼吸が楽になった。
 いつもと同じ授業。いつもと同じ教室。
 いつも通りの日常だ。そしてその日常に、今日は姫乃がいる。
 その事実が嬉しくてたまらなくて、にやけた顔を両手で覆った。





「大丈夫だった?」

 一時間目が終わってすぐ、姫乃の席へ行った。

「う、うん。まあ、なんとか……」

 周りの目を気にしてか、俯きながらだったけど、そう返事をしてくれた。
 姫乃の机の上には英語の教科書がある。二時間目は英語なのだ。
 よかった。姫乃、二時間目も教室で受けてくれるんだ。

「二人とも、おはよ」

 改めてそう挨拶をしながら、早瀬くんが近づいてきた。先程と同様、早瀬くんが如月さんに声をかけたことで教室がざわめく。
 それでもいつものように他の女子が会話に入ってこないのは、姫乃を気にしてのことだろう。
 変身部のことなんて知らないみんなは、私たち三人の共通点なんて知らないから。

「お、おはよう。……と、というかその、教室でも話しかけてくれるんだ……」
「当たり前じゃん。俺ら友達でしょ? 如月さんはいろいろ、気にしすぎ」
「……ありがとう」
「だから、お礼とかやめて。友達に話しかけただけなんだから。あ、まあ、感謝してるなら、優斗くんに俺のいいところでも言っておいてよ」

 早瀬くんの言葉に、姫乃が目を見開いた。

「……優斗、男だよ?」
「知ってるって。ある意味如月さんのおかげでそれも知れた。ありがとね」

 姫乃、びっくりしてるな。
 正体を知っても、早瀬くんの態度が今までと何も変わってないから。
 私だってまだびっくりしてるし、早瀬くんが心の中でどう考えているのかは分からない。
 でも、今まで通りの態度をとってくれていることに安心する。

「本当、早瀬くんってブレないよね」
「俺、一途さが取り柄だから」

 私たちの会話を聞いて、姫乃が控えめに笑う。姫乃の笑顔に安心した。
 三人で笑い合う空気は、部室にいる時と何も変わらない。穏やかな空気が伝わったからか、だんだんと姫乃に向けられる視線も柔らかくなっていく。
 もちろんまだ、急に現れたクラスメートへの好奇心はあるだろうけれど。
 今日は、始まりに過ぎない。姫乃の中にはまだいろんな不安があるはず。
 けれど確実に、如月さんは一歩踏み出した。そしてその背中を押したのは、私だ。
 それが嬉しくて、誇らしい。

「あ、あの、二人とも……」

 姫乃が遠慮気味に口を開いた。

「修学旅行の班も……二人と一緒になれたら、嬉しいな」
「もちろん!」
「俺はとっくにそのつもりだよ」

 私と早瀬くんが同時に答えると、姫乃が嬉しそうに笑ってくれた。私と早瀬くんも、同じように笑う。
 変身部は、私たちにとって大切な居場所だ。日常とは違う、なりたい自分になれる場所。
 だけどきっとこの教室だって、これからもっと素敵な居場所になる。根拠なんてないけれど、絶対そんな気がする。
 だって、この二人と、こうして一緒に笑ってるんだもん。
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