36 / 37
第7章 日常の魔法
第36話 始まり
しおりを挟む
教室の扉をゆっくりと開ける。既に一時間目が始まっていたから、一斉にみんなの視線が集まった。
「遅れてすいません」
「いや、珍しいことも……」
喋りかけて、先生は固まった。他のみんなもだ。私の後ろに立っている姫乃が目に入ったからだろう。
姫乃がこのクラスにきたことは一度もない。だから正直、誰? っていうのが、大半の子のリアクションだ。
「せ、席にいっていいから。天野も、如月も」
先生の言葉に、教室がざわつく。
「あれが如月さんなんだ……」
「私、初めて見たかも」
「ていうか、なんで委員長と一緒なの?」
小さな声が、教室中に広がっていく。私の後ろで、姫乃が俯いたのが分かった。
「おはよう、委員長、如月さん!」
そんな中、びっくりするくらいの大声で挨拶してくれたのは早瀬くんだった。
早瀬くんの大声に、みんながびっくりしている。
早瀬くんなりに、如月さんを応援してくれたんだろうな。まあ、よけいにみんなの注目を集めることになっちゃってるけど。
「姫乃」
名前をそっと呼んで、姫乃の手を握って教室へ入る。そしてそのまま、姫乃の席まで一緒に歩いた。
「大丈夫だよ」
耳元で囁く。姫乃は青白い顔をしていたけれど、しっかり頷いた。
私も自分の席に座ると、何事もなかったかのように授業が再開された。ちらちらとクラスメートの視線を感じるけれど、それだけだ。
なんか、意外と呆気ないな。
ちょっとだけ拍子抜けして、呼吸が楽になった。
いつもと同じ授業。いつもと同じ教室。
いつも通りの日常だ。そしてその日常に、今日は姫乃がいる。
その事実が嬉しくてたまらなくて、にやけた顔を両手で覆った。
◆
「大丈夫だった?」
一時間目が終わってすぐ、姫乃の席へ行った。
「う、うん。まあ、なんとか……」
周りの目を気にしてか、俯きながらだったけど、そう返事をしてくれた。
姫乃の机の上には英語の教科書がある。二時間目は英語なのだ。
よかった。姫乃、二時間目も教室で受けてくれるんだ。
「二人とも、おはよ」
改めてそう挨拶をしながら、早瀬くんが近づいてきた。先程と同様、早瀬くんが如月さんに声をかけたことで教室がざわめく。
それでもいつものように他の女子が会話に入ってこないのは、姫乃を気にしてのことだろう。
変身部のことなんて知らないみんなは、私たち三人の共通点なんて知らないから。
「お、おはよう。……と、というかその、教室でも話しかけてくれるんだ……」
「当たり前じゃん。俺ら友達でしょ? 如月さんはいろいろ、気にしすぎ」
「……ありがとう」
「だから、お礼とかやめて。友達に話しかけただけなんだから。あ、まあ、感謝してるなら、優斗くんに俺のいいところでも言っておいてよ」
早瀬くんの言葉に、姫乃が目を見開いた。
「……優斗、男だよ?」
「知ってるって。ある意味如月さんのおかげでそれも知れた。ありがとね」
姫乃、びっくりしてるな。
正体を知っても、早瀬くんの態度が今までと何も変わってないから。
私だってまだびっくりしてるし、早瀬くんが心の中でどう考えているのかは分からない。
でも、今まで通りの態度をとってくれていることに安心する。
「本当、早瀬くんってブレないよね」
「俺、一途さが取り柄だから」
私たちの会話を聞いて、姫乃が控えめに笑う。姫乃の笑顔に安心した。
三人で笑い合う空気は、部室にいる時と何も変わらない。穏やかな空気が伝わったからか、だんだんと姫乃に向けられる視線も柔らかくなっていく。
もちろんまだ、急に現れたクラスメートへの好奇心はあるだろうけれど。
今日は、始まりに過ぎない。姫乃の中にはまだいろんな不安があるはず。
けれど確実に、如月さんは一歩踏み出した。そしてその背中を押したのは、私だ。
それが嬉しくて、誇らしい。
「あ、あの、二人とも……」
姫乃が遠慮気味に口を開いた。
「修学旅行の班も……二人と一緒になれたら、嬉しいな」
「もちろん!」
「俺はとっくにそのつもりだよ」
私と早瀬くんが同時に答えると、姫乃が嬉しそうに笑ってくれた。私と早瀬くんも、同じように笑う。
変身部は、私たちにとって大切な居場所だ。日常とは違う、なりたい自分になれる場所。
だけどきっとこの教室だって、これからもっと素敵な居場所になる。根拠なんてないけれど、絶対そんな気がする。
だって、この二人と、こうして一緒に笑ってるんだもん。
「遅れてすいません」
「いや、珍しいことも……」
喋りかけて、先生は固まった。他のみんなもだ。私の後ろに立っている姫乃が目に入ったからだろう。
姫乃がこのクラスにきたことは一度もない。だから正直、誰? っていうのが、大半の子のリアクションだ。
「せ、席にいっていいから。天野も、如月も」
先生の言葉に、教室がざわつく。
「あれが如月さんなんだ……」
「私、初めて見たかも」
「ていうか、なんで委員長と一緒なの?」
小さな声が、教室中に広がっていく。私の後ろで、姫乃が俯いたのが分かった。
「おはよう、委員長、如月さん!」
そんな中、びっくりするくらいの大声で挨拶してくれたのは早瀬くんだった。
早瀬くんの大声に、みんながびっくりしている。
早瀬くんなりに、如月さんを応援してくれたんだろうな。まあ、よけいにみんなの注目を集めることになっちゃってるけど。
「姫乃」
名前をそっと呼んで、姫乃の手を握って教室へ入る。そしてそのまま、姫乃の席まで一緒に歩いた。
「大丈夫だよ」
耳元で囁く。姫乃は青白い顔をしていたけれど、しっかり頷いた。
私も自分の席に座ると、何事もなかったかのように授業が再開された。ちらちらとクラスメートの視線を感じるけれど、それだけだ。
なんか、意外と呆気ないな。
ちょっとだけ拍子抜けして、呼吸が楽になった。
いつもと同じ授業。いつもと同じ教室。
いつも通りの日常だ。そしてその日常に、今日は姫乃がいる。
その事実が嬉しくてたまらなくて、にやけた顔を両手で覆った。
◆
「大丈夫だった?」
一時間目が終わってすぐ、姫乃の席へ行った。
「う、うん。まあ、なんとか……」
周りの目を気にしてか、俯きながらだったけど、そう返事をしてくれた。
姫乃の机の上には英語の教科書がある。二時間目は英語なのだ。
よかった。姫乃、二時間目も教室で受けてくれるんだ。
「二人とも、おはよ」
改めてそう挨拶をしながら、早瀬くんが近づいてきた。先程と同様、早瀬くんが如月さんに声をかけたことで教室がざわめく。
それでもいつものように他の女子が会話に入ってこないのは、姫乃を気にしてのことだろう。
変身部のことなんて知らないみんなは、私たち三人の共通点なんて知らないから。
「お、おはよう。……と、というかその、教室でも話しかけてくれるんだ……」
「当たり前じゃん。俺ら友達でしょ? 如月さんはいろいろ、気にしすぎ」
「……ありがとう」
「だから、お礼とかやめて。友達に話しかけただけなんだから。あ、まあ、感謝してるなら、優斗くんに俺のいいところでも言っておいてよ」
早瀬くんの言葉に、姫乃が目を見開いた。
「……優斗、男だよ?」
「知ってるって。ある意味如月さんのおかげでそれも知れた。ありがとね」
姫乃、びっくりしてるな。
正体を知っても、早瀬くんの態度が今までと何も変わってないから。
私だってまだびっくりしてるし、早瀬くんが心の中でどう考えているのかは分からない。
でも、今まで通りの態度をとってくれていることに安心する。
「本当、早瀬くんってブレないよね」
「俺、一途さが取り柄だから」
私たちの会話を聞いて、姫乃が控えめに笑う。姫乃の笑顔に安心した。
三人で笑い合う空気は、部室にいる時と何も変わらない。穏やかな空気が伝わったからか、だんだんと姫乃に向けられる視線も柔らかくなっていく。
もちろんまだ、急に現れたクラスメートへの好奇心はあるだろうけれど。
今日は、始まりに過ぎない。姫乃の中にはまだいろんな不安があるはず。
けれど確実に、如月さんは一歩踏み出した。そしてその背中を押したのは、私だ。
それが嬉しくて、誇らしい。
「あ、あの、二人とも……」
姫乃が遠慮気味に口を開いた。
「修学旅行の班も……二人と一緒になれたら、嬉しいな」
「もちろん!」
「俺はとっくにそのつもりだよ」
私と早瀬くんが同時に答えると、姫乃が嬉しそうに笑ってくれた。私と早瀬くんも、同じように笑う。
変身部は、私たちにとって大切な居場所だ。日常とは違う、なりたい自分になれる場所。
だけどきっとこの教室だって、これからもっと素敵な居場所になる。根拠なんてないけれど、絶対そんな気がする。
だって、この二人と、こうして一緒に笑ってるんだもん。
20
あなたにおすすめの小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
この町ってなんなんだ!
朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。
【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。
※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。
※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。
※2026.1.5に完結しました! 修正中です。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる