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第二章

軍艦クルージング

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 グレンはマリンルーズの街の中でアリアとフィルネを探す。
 それは意外と難しい事ではなく、一件目に入った宿で直ぐに見付かった。

「ああ、グレンくん。丁度良かった、なかなか宿が見つからなくて。ここも一杯みたいなの」
「そ、そうなんだ。実は二人に話があるんだけど……」

 と海軍であった事を説明するグレンの言葉に、アリアとフィルネは何故か目を輝かせた。

「いいじゃん! 大きな船で部屋も用意してもらえるんだよね?」
「アリア様、やっぱり遊び気分じゃないですか。まあ、滅多に経験出来ない事だし。私は別にかまわないけど」
「僕には、二人とも遊び気分に見えるんだけど?」

 
 こうして、何故か海軍に協力する事になったグレン達は海軍用の港へと向かった。
 日が落ち始めて夕陽で赤く染まる桟橋を歩き、海兵に案内されながらマギロンの船へと乗船する。

 ルベリオン王国が保有する巨大な主力艦はかなり大きい。
 アリアやフィルネは楽しそうにアチコチを見回しており、まさに軍艦見学といった観光状態だ。
 やがて海兵に指示を飛ばしていたマギロンが、グレン達の所へ来て航海の予定を説明してくれた。

 とりあえず夜の海上は危険という事で、低速で移動を開始して日が昇る頃に目標海域に到着するように進むようだ。
 その間、グレン達は部屋で休んでいればよいと言われ。マギロンにより、豪華な船室に案内された。

 それは来客用に作られた部屋で、高めの宿屋と変わらぬ程の造りだった。
 船の中だという事を忘れてしまう程に、綺麗に飾られた室内には大きめのテーブルがあり。
 高そうなティーセットまで置かれている。
 

「そうか、お連れさんは女性だったか。悪いが客人用の部屋は一つしかなくてね。三人が同室になるけど構わないかね? 他には部屋が余ってないんだ」

 マギロンの言葉を聞いて、グレンは先ず一つしかない大人三人が余裕で寝れる程の大きなベッドを見た。
 そして、さすがに不味いのでは? といった感じでアリアとフィルネの二人に視線を送る。

「私は全然大丈夫だよ。グレンくんが、イヤじゃなければだけど」

 あっけらかんとしたアリアの態度とは逆に、フィルネは少し気まずい顔をして答えた。

「男性と同じ部屋だと、ほら。着替えとか……色々と」
「だ、だよね。フィルネの言う通りだよ。僕は別に貨物室とかでも大丈夫だから。この部屋は二人で使えばいいよ。どうせ七、八時間程の話だし」

 ギクシャクしたグレンとフィルネのやり取りを聞いていたアリアが、少し膨れっ面でフィルネに物申す。

「別にいいじゃない。着替えなんて何処でも出来るでしょ。どんだけ遊び気分なの? グレンくんはずっと魔法使ってて疲れてるんだから、ちゃんと休ませてあげなきゃ」
「あ、アリア様に言われたくありません。別に、一応言ってみただけですよ。簡単に男性と部屋を共にする女だと思われたくないんで」
「別に私だって、誰でも許すわけじゃないわよ」

 何やら熱を帯びる二人の会話を聞きながら、グレンはマギロンと顔を見合わせる。
 マギロンは静かにため息を吐いて、グレンの耳元で囁いた。

「貴殿もなかなかですな」
「は、はい? どういう意味です?」
「いや。わからなければ結構。では私の船室を使うといい。目標海域までの航路も知りたいですし、どうですかな?」
「そうですか。それは助かります……」
「では、行きましょう」

 グレンは言い争う二人を置いて、そっと特別室の扉を閉めて。苦笑いのマギロンと二人で船長室へと向かった。


 船長室に入ったグレンは、マギロンの出して来た海図で海賊船を見た場所を大まかに教えた。
 夜の海上では、光が無ければ全く見えない。

 下手に近付くと海賊船に接触してしまう可能性も無くはない。
 故に、明るくなるまではその付近には近付かないようだ。

 マギロンは寝ずに海上を警戒するというので、疲れていたグレンは遠慮なくベッドを使わせてもらい休む事にした。


 ────そして朝が訪れる。

 前日は魔法を使いっぱなしだった為か、かなり熟睡していたグレンを起こしたのは、アリアだった。
 彼女は、昨夜グレン達がいつの間にかいなくなった事に軽く不満を延べていたが。

 とりあえず既に船は海域に近付いていると教えられたグレンは、アリアに手をひかれ甲板に上がる。

 既に多くの海兵が慌ただしく動き回っており、船首の方ではマギロンと海兵が話していた。
 その横でフィルネが、自前の望遠鏡で海上を見渡している。

 グレン達に気付いたマギロンが、笑顔で迎えた。

「よく寝れたかね? 既に貴殿が記した海域に達しているが、まだ船は見付かっていない。夜のうちに移動したのだろうか?」
「いえ、どうですかね」

 グレンが見た限り、あの海賊船はかなり撃たれており。下手に移動すれば浸水して沈没しかねない状態だったはずだ。
 まして夜に移動は危険すぎるだろう、と思っていると望遠鏡を覗いていたフィルネが声をあげた。

「あそこに何か落ちてるよ」

 フィルネの指差す方へ軍艦は移動する。
 その辺りには木片が散乱していた。バラバラになった船体だと言われればそうかもしれない。

 だが、断定は出来ない。
 もう少し手掛かりが欲しい所だが、それから四時間程捜索をしたが結局、何も見つからなかった。

 戻ってきたマールーン公国の軍艦に沈められたのかもしれないし、その前に沈んだのかもしれない。
 どちらにせよ、移動出来たとは思えないので真実は海の底だと考えるのが妥当だとされた。

「もう数日捜索してみるかね?」
「あ、いえ。僕は正直仕事を休んでいるので、これ以上の滞在は出来ないんです。ねぇ、フィルネ」

 と、ここはナルシーの件も断り続けたフィルネに任せる。
 というのもグレン的には、ギルドの仕事の方が大事だし。それに関してはフィルネが一番理解してくれると思っていたのだが。
 
「まあ。私は別にもう少しくらいなら」
「ふ、フィルネ? ギルドを空けるなんて、もってのほかだって。ナルシーさんに噛み付いてたよね?」
「あ、ああ。そうだっけ……、うん。そうだったわね。ギルドをこれ以上空けるのは。やっぱりダメよね」

 意外にも煮え切らない返事のフィルネだったが、とりあえずグレン達はルウラに戻る事になった。
 
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