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[ハマン視点] 本当の功労者は……銀髪の少年?
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◇◇◇◇◇◇◇◇
マルコが去り。レクセルの坊主達も去ってから二時間程が過ぎた。冒険者ギルドの中には誰一人いなくなり、珍しく仕事を求めて来る者もいない。
俺──ハマン・ラッセルが冒険者を辞め、バリアンテ王国の王都・ブルームの冒険者ギルドマスターになってから十年近く経つが。これだけ人がいない事はなかなかに珍しい。
そんな少し優雅な時間を堪能していると突如扉が開かれた。現れたのは短髪で細みの身体、背中には高い身長と同じくらい長いバスターソードを携えた男だ。
男はカウンターに真っ直ぐ向かって来ると、唐突に話を切り出した。
「おい、ハマン。あいつらがBランク冒険者だと? 悪い冗談だぜ。お前だってグレートバジリスクがどれだけの魔物か知ってるだろ」
この男はジクール・ミシガン──年齢は五十歳。
俺がまだ冒険者だった頃、一緒にパーティーを組んでいた古い友人の一人だった。
ただ、いくら長い付き合いと言えども俺には彼の言ってる意味がよくわからなかった。
全てにおいて無駄を省くのがジクールという男なのだが。主語を省くのは迷惑極まりない。
「なんだジクール。いきなり何の話だ。グレートバジリスクがなんだって? イザナイの洞窟の話か?」
何となく話の一端を拾い彼に問う。
するとカウンターにもたれ掛かりながら、葉巻に火を付けて彼は語り出した。
「ああ……そうだ。さすがの俺でも、アレと戦ってたのがBランク冒険者なら、加勢するくらいの人間味はあるぞ。さっき酒場で噂になってたぞ! Bランクの冒険者がアレを倒したってよ。それでお前、間違えてんじゃねえのか? って、事で再度確認に来たわけよ」
うむ。まだハッキリと伝わってはこないが、どうやら俺が王国に報告したグレートバジリスクの討伐者が彼の見た者達とは違う、とでも言いたげだった。
「そういう事か……なら間違えちゃいない。さっき本人達にも聞いたからな。そりゃあお前からパーティーの特徴を聞いた時は俺だって内心ビックリしたぞ」
そもそもジクールは昔から他人を助けるタイプではなかった。赤の他人の戦闘には、そいつらが苦戦していても加勢しない……そういう男だと俺は理解している。
今の話だと、彼に人助けという感性があった事になるので少々驚いた。
今日の朝だ。彼から「例の魔物は既に先客が倒していた……」と伝えられて、直ぐにそのパーティーの特徴とイザナイの洞窟に行ってそうな冒険者を調べ。ちゃんと本人にも確認した結果がマルコ達パーティーだ。
つまり俺は間違っていない。
だが、ジクールは納得していないようだ。
「では、なんだ。 あんな規格外剣士が、未だBランクの冒険者だっていうのか?」
「剣士? あぁ、マルコの事か。それは違う。あいつは元々Aランクの素質があった。だが、面倒見が良い奴でな……昔から下のランクの奴の面倒ばかり見て仕事を選んでいるから、いまだにBなのさ。でも、グレートバジリスクを倒せる程に成長してるとは俺も知らなかった。そこまで凄い戦いっぷりだったのか?」
話が見えてきた。
ジクールは〝Bランクがグレートバジリスクを倒した〟という事よりも〝自分の目で見たパーティーが実はBランクだった事〟に驚いていたのだ。
確かに彼なら戦闘を見ただけでおおよそランクの判断は出来るだろう……もちろん本来、グレートバジリスクはBランクが勝てる魔物ではない。
つまり、マルコの動きが相当に良かったのだろう。ジクールは興奮した感じで答えた。
「そりゃあ、あの一撃は凄かったぜ! マルコというのか……少し興味が湧いた。あんなに若いのにな……」
「若くはない。確か既に四十近いはずだが?」
「冗談だろ? どう見ても少年じゃないか」
「ジクール。お前、誰の事を言ってるんだ?」
「あの銀髪の剣士だよ」
銀髪か……それならレクセルの坊主しかいない。
しかし、坊主はまだランクも付いていない冒険者だ。確かに剣は持ってるが、ちまたの噂からはとても剣士と言えるレベルではないだろう。
どうやら彼は勘違いしているようだ。
「あの坊主は違う。マルコってのは、もう一人のベテランの方だよ」
「いやいや。俺が見た感じでは銀髪の少年の一撃でほとんど終わっていたぞ?」
やれやれ……
誰の一撃が決定的だったかを見間違えるとは、ジクールの視力もかなり落ちている証拠だ。やはり歳には勝てないのだ。俺も早めに引退しておいて良かった。
もしも、彼が先にグレートバジリスクと出会っていたら。そこで彼の人生は終わっていたかもしれない。
「まあとにかく。あいつらが総合的にBランクパーティーなのは間違いない。それよりお前はいつまでこの街にいるんだ? そろそろ一ヶ所に腰を据えた方がいいんじゃないか? いつまでも若いつもりでいると命を落とすぞ。レックスみたいに……」
「やめろ、ハマン。あいつはもはや伝説だ。勇者なんて周りに煽てられて頑張りすぎちまったけど、立派にやり遂げた男だ。無駄死にみたいに言うな……」
「そうだな。俺が言いたいのは無理するなって事だ」
「わかってるさ。いつかは、お前みたいに冒険者ギルドか、武器屋でもやりたいと考えている。今はまだ戦場にいたいがな。 今日はそれだけだ。明日にはこの街を出るが、また機会があれば寄る」
そう言うとジクールは振り向きもせずヒラヒラと手を振ってギルドを出て行った。
そして、ふたたびギルド内に静寂が訪れた────と、思っていると。
ガシャッ…… ガシャッ……
鉄の擦れる音を鳴らして重々しいフルプレートの鎧に身を包んだ男が入って来た。鎧にはバリアンテ王国の紋章が入っているので王国の騎士だろう。
少し若いその男性騎士は俺に向かってビシッと敬礼した。
「ハマン殿ですね! 王国騎士団長の使いで、一つご確認に参りました。グレートバジリスク討伐パーティーの件について、依頼した時もお伝えした通り『討伐参加者全員への金五万とSランクの称号付与』は問題ないのですが……報告に上がっている冒険者パーティーの現ランクについて伺いたく!」
「あんたらもかよ……」
「はい? と、言いますと?」
「いや。何でもない」
王国騎士の男が確認しにきたのは、ほとんどジクールと同じ内容だった。〝Bランク冒険者にグレートバジリスクの討伐は可能なのか?〟という疑問だ。
ただ。ジクールとは違い何も見ていない王国側としては疑うのも仕方ない事であろう。むしろ疑って当然だ。
と、いうのも──ギルドマスターが特定の冒険者を使い、実際に解決していない依頼を解決したと報告する『報酬詐欺事件』が過去にあったのだ。
その冒険者には王国からの報酬とランクアップが与えられ。そしてギルドマスターは、その冒険者から見返りとして金銭を貰う……という悪質なものだ。
故に今回の仕事は〝王国から認可されている一部の冒険者か、元々Sランクの冒険者〟のどちらかにしか紹介出来ない、所謂『王国案件』だった。
ところが、マルコ達がたまたま討伐してしまう……というイレギュラーが起きたので王国側が事件性を疑うのは当然なのだ。
「問題ない。この件はジクール・ミシガンも実際に現場を見て確認している事だと騎士団長に伝えてくれ。 どうせ俺を疑ったのだろうが、前ギルドマスターを処分して俺を推薦したのは王国側だろ? という事も伝えておけよ」
「承知いたしました!」
王国騎士は再び敬礼して、ギルドを出て行った。
やれやれ。マルコの奴、面倒な事をしてくれた。
しかし彼のパーティーは出世街道まっしぐらだ。王国案件は報酬の高い仕事がメインなのだから────
◇◇◇◇◇◇◇◇
マルコが去り。レクセルの坊主達も去ってから二時間程が過ぎた。冒険者ギルドの中には誰一人いなくなり、珍しく仕事を求めて来る者もいない。
俺──ハマン・ラッセルが冒険者を辞め、バリアンテ王国の王都・ブルームの冒険者ギルドマスターになってから十年近く経つが。これだけ人がいない事はなかなかに珍しい。
そんな少し優雅な時間を堪能していると突如扉が開かれた。現れたのは短髪で細みの身体、背中には高い身長と同じくらい長いバスターソードを携えた男だ。
男はカウンターに真っ直ぐ向かって来ると、唐突に話を切り出した。
「おい、ハマン。あいつらがBランク冒険者だと? 悪い冗談だぜ。お前だってグレートバジリスクがどれだけの魔物か知ってるだろ」
この男はジクール・ミシガン──年齢は五十歳。
俺がまだ冒険者だった頃、一緒にパーティーを組んでいた古い友人の一人だった。
ただ、いくら長い付き合いと言えども俺には彼の言ってる意味がよくわからなかった。
全てにおいて無駄を省くのがジクールという男なのだが。主語を省くのは迷惑極まりない。
「なんだジクール。いきなり何の話だ。グレートバジリスクがなんだって? イザナイの洞窟の話か?」
何となく話の一端を拾い彼に問う。
するとカウンターにもたれ掛かりながら、葉巻に火を付けて彼は語り出した。
「ああ……そうだ。さすがの俺でも、アレと戦ってたのがBランク冒険者なら、加勢するくらいの人間味はあるぞ。さっき酒場で噂になってたぞ! Bランクの冒険者がアレを倒したってよ。それでお前、間違えてんじゃねえのか? って、事で再度確認に来たわけよ」
うむ。まだハッキリと伝わってはこないが、どうやら俺が王国に報告したグレートバジリスクの討伐者が彼の見た者達とは違う、とでも言いたげだった。
「そういう事か……なら間違えちゃいない。さっき本人達にも聞いたからな。そりゃあお前からパーティーの特徴を聞いた時は俺だって内心ビックリしたぞ」
そもそもジクールは昔から他人を助けるタイプではなかった。赤の他人の戦闘には、そいつらが苦戦していても加勢しない……そういう男だと俺は理解している。
今の話だと、彼に人助けという感性があった事になるので少々驚いた。
今日の朝だ。彼から「例の魔物は既に先客が倒していた……」と伝えられて、直ぐにそのパーティーの特徴とイザナイの洞窟に行ってそうな冒険者を調べ。ちゃんと本人にも確認した結果がマルコ達パーティーだ。
つまり俺は間違っていない。
だが、ジクールは納得していないようだ。
「では、なんだ。 あんな規格外剣士が、未だBランクの冒険者だっていうのか?」
「剣士? あぁ、マルコの事か。それは違う。あいつは元々Aランクの素質があった。だが、面倒見が良い奴でな……昔から下のランクの奴の面倒ばかり見て仕事を選んでいるから、いまだにBなのさ。でも、グレートバジリスクを倒せる程に成長してるとは俺も知らなかった。そこまで凄い戦いっぷりだったのか?」
話が見えてきた。
ジクールは〝Bランクがグレートバジリスクを倒した〟という事よりも〝自分の目で見たパーティーが実はBランクだった事〟に驚いていたのだ。
確かに彼なら戦闘を見ただけでおおよそランクの判断は出来るだろう……もちろん本来、グレートバジリスクはBランクが勝てる魔物ではない。
つまり、マルコの動きが相当に良かったのだろう。ジクールは興奮した感じで答えた。
「そりゃあ、あの一撃は凄かったぜ! マルコというのか……少し興味が湧いた。あんなに若いのにな……」
「若くはない。確か既に四十近いはずだが?」
「冗談だろ? どう見ても少年じゃないか」
「ジクール。お前、誰の事を言ってるんだ?」
「あの銀髪の剣士だよ」
銀髪か……それならレクセルの坊主しかいない。
しかし、坊主はまだランクも付いていない冒険者だ。確かに剣は持ってるが、ちまたの噂からはとても剣士と言えるレベルではないだろう。
どうやら彼は勘違いしているようだ。
「あの坊主は違う。マルコってのは、もう一人のベテランの方だよ」
「いやいや。俺が見た感じでは銀髪の少年の一撃でほとんど終わっていたぞ?」
やれやれ……
誰の一撃が決定的だったかを見間違えるとは、ジクールの視力もかなり落ちている証拠だ。やはり歳には勝てないのだ。俺も早めに引退しておいて良かった。
もしも、彼が先にグレートバジリスクと出会っていたら。そこで彼の人生は終わっていたかもしれない。
「まあとにかく。あいつらが総合的にBランクパーティーなのは間違いない。それよりお前はいつまでこの街にいるんだ? そろそろ一ヶ所に腰を据えた方がいいんじゃないか? いつまでも若いつもりでいると命を落とすぞ。レックスみたいに……」
「やめろ、ハマン。あいつはもはや伝説だ。勇者なんて周りに煽てられて頑張りすぎちまったけど、立派にやり遂げた男だ。無駄死にみたいに言うな……」
「そうだな。俺が言いたいのは無理するなって事だ」
「わかってるさ。いつかは、お前みたいに冒険者ギルドか、武器屋でもやりたいと考えている。今はまだ戦場にいたいがな。 今日はそれだけだ。明日にはこの街を出るが、また機会があれば寄る」
そう言うとジクールは振り向きもせずヒラヒラと手を振ってギルドを出て行った。
そして、ふたたびギルド内に静寂が訪れた────と、思っていると。
ガシャッ…… ガシャッ……
鉄の擦れる音を鳴らして重々しいフルプレートの鎧に身を包んだ男が入って来た。鎧にはバリアンテ王国の紋章が入っているので王国の騎士だろう。
少し若いその男性騎士は俺に向かってビシッと敬礼した。
「ハマン殿ですね! 王国騎士団長の使いで、一つご確認に参りました。グレートバジリスク討伐パーティーの件について、依頼した時もお伝えした通り『討伐参加者全員への金五万とSランクの称号付与』は問題ないのですが……報告に上がっている冒険者パーティーの現ランクについて伺いたく!」
「あんたらもかよ……」
「はい? と、言いますと?」
「いや。何でもない」
王国騎士の男が確認しにきたのは、ほとんどジクールと同じ内容だった。〝Bランク冒険者にグレートバジリスクの討伐は可能なのか?〟という疑問だ。
ただ。ジクールとは違い何も見ていない王国側としては疑うのも仕方ない事であろう。むしろ疑って当然だ。
と、いうのも──ギルドマスターが特定の冒険者を使い、実際に解決していない依頼を解決したと報告する『報酬詐欺事件』が過去にあったのだ。
その冒険者には王国からの報酬とランクアップが与えられ。そしてギルドマスターは、その冒険者から見返りとして金銭を貰う……という悪質なものだ。
故に今回の仕事は〝王国から認可されている一部の冒険者か、元々Sランクの冒険者〟のどちらかにしか紹介出来ない、所謂『王国案件』だった。
ところが、マルコ達がたまたま討伐してしまう……というイレギュラーが起きたので王国側が事件性を疑うのは当然なのだ。
「問題ない。この件はジクール・ミシガンも実際に現場を見て確認している事だと騎士団長に伝えてくれ。 どうせ俺を疑ったのだろうが、前ギルドマスターを処分して俺を推薦したのは王国側だろ? という事も伝えておけよ」
「承知いたしました!」
王国騎士は再び敬礼して、ギルドを出て行った。
やれやれ。マルコの奴、面倒な事をしてくれた。
しかし彼のパーティーは出世街道まっしぐらだ。王国案件は報酬の高い仕事がメインなのだから────
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