婚約破棄され悪役令嬢にされました

綾取

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第1話 婚約破棄と孤独

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 きらびやかなシャンデリアが照らす、王城の大広間。
 貴族たちの華やかな笑い声と音楽が重なり合い、豪奢な夜会が今まさに最高潮を迎えようとしていた。

 中央には、純白の軍服を身にまとった王太子・セドリックが立っている。
 その隣には、鮮やかな深紅のドレスを纏った一人の令嬢、公爵令嬢リディア・エヴァレットが静かに立っていた。

 場の視線は自然とその美しい二人に集まっていた。
 誰もが、そろそろ正式な結婚日取り発表があるのではと予想していた。

リディア自身、公爵令嬢として育ち、しかるべき相手との結婚を何よりも大切に思っていた。
 ──王太子との正式な結婚発表。
 それは、名誉でもあり、家を背負う責任でもあり、そして彼女の人生の始まりのはずだった。

けれど——

「本日、皆様にお伝えしなければならないことがあります」

 セドリックの澄んだ声が、会場に響いた。

 一瞬の沈黙。リディアはわずかに眉をひそめた。
 これは、想定していた流れではない。

「私は、公爵令嬢リディア・エヴァレットとの婚約を、ここに破棄いたします」

 言葉が落ちた瞬間、大広間は水を打ったように静まり返った。
 続いて、ざわりと波のような動揺が人々の間に広がる。

「えっ……?」
「なんてことを……この場で?」
「リディア様が何か……?」

 ひそひそと交わされる声が、剣のようにリディアの心を突き刺す。
 だが彼女は、口元に微笑を浮かべたまま、動じなかった。

「理由は……?」
 やがて、誰かが尋ねる。代わりに答えたのは、セドリックのすぐ背後から姿を現した一人の少女だった。

「わたくしの名前は、ミレイユ・ランフォードと申します」
 小さな、でも通る声で名乗ったのは、男爵家の令嬢ミレイユ。
 肩までの柔らかな栗色の髪、あどけない笑顔。だがその瞳の奥には、何か計算めいたものがちらりと覗いた。


「殿下が頼りになる方なので色々ご相談する私を、リディア様が誤解され、嫉妬や嫌がらせを受けてしまって。でも誤解される私が未熟なのだと我慢していたのですが……それはあまりにも執拗で……殿下が私の異変にお気づきになり、ついお話してしまったのです。」

計算された泣き声に、会場の視線は一斉にリディアへと向かう。
 リディアの手が、そっと握られた。
全て嘘。けれど、それを否定したところで、今この場では誰の耳にも届かないだろう。

 リディアは一歩前に出て、静かに礼をした。

「王太子殿下のご判断、確かに承りました」

怒りも悲しみも滲ませぬ声音。ただ、公爵令嬢としての品位だけがあった。

 だがその背後で、彼女の付き人である執事、オスカー・グレイが、心底悔しげに歯を食いしばる姿を見逃した者は少なかった。

「リディア様、こちらへ」

 オスカーは黙って手を差し出し、リディアを人混みからそっと守るように歩き出す。

 そしてその一部始終を、会場の隅から見つめていた一人の青年がいた。

 淡い銀髪に、冷静な琥珀の瞳を持つ、ジュリアン・アルヴァイン。
 王太子の腹違いの弟であり、リディアとは幼い頃に短い交流があったその青年は、小さく呟いた。

「兄さん、愚かだな」

 彼は確信していた。この婚約破棄が、間違いであることを。
 そして、あの誰よりも美しく気高い令嬢が、真実を語らぬまま孤独へと歩き出したことを。

 リディアはこれまで父の教え通り、家を背負い、完璧を求め、自分に厳しく、勉強にも行いにも常に気を配り過ごして来た。
 それは近寄り難く友人と呼べる者も寄せ付けなかった。


 今夜、リディア・エヴァレットは「悪役令嬢」としてのレッテルを貼られた。
 けれど——それはまだ、物語の“始まり”に過ぎなかった。、
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