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春の光の
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晴れた昼下がり。
木漏れ日が差し込む学園の中庭に、ユリウスとレオンハルトの姿があった。
「まさか、あなたが僕とエリシアの噂を真に受けていたなんて。」
ユリウスが笑いながら言うと、レオンハルトは少しばつが悪そうに目を逸らした。
「最初は疑っていた。けれどエリシアは、あの頃と何も変わっていなかった。
まっすぐで、優しくて、そして不器用なほど真剣だった。俺のほうこそ、信じることから逃げてたんだと思う」
「エリシアは、誰かに疑われても、その人のことを信じ続ける強さがある。
それはレオンハルト、あなたが彼女に与えたものかもしれないよ」
ふうと、レオンハルトが息を吐いた。
「あの頃、髪飾りを拾ったときに、こんな日が来るなんて思いもしなかったな」
ユリウスが目を細め、彼の肩を軽く叩いた。
「じゃあ、せっかくだしもう一度拾ってあげたら? エリシアは良く無くしものをするから。」
レオンハルトは小さく笑い、うなずいた。
中庭の反対側、桜の下ではエリシアとリリィ、そしてセドリックが並んで座っていた。
「ようやく、少し穏やかになってきたわね」
リリィがつぶやくと、セドリックが頷いた。
「そうだね。リリィ嬢の活躍で色々解決したようだし。」
「そうね。あなたもレオンハルト様を気にかけていらしたようだから安心なさったでしょう。エリシアもレオンハルト様と順調そうだし。」
「エリシアのおかげだよ。レオンハルトはずっと長く自分の殻に閉じこもり僕にでさえ本当には心を開いてはくれなかった。人を信じられず苦しんでいたんだ。」
「私はただ、側にいてお話していただけです。」
「みんなに誤解されて苦しい事もあったけど、こうしてまた笑える日が来て良かった。
ありがとうリリィ、いつもあなたが力になってくれていたから。」
「言ったでしょ、私はいつでもあなたの味方だって」
セドリックとリリィはお互いに視線を交わして、どちらからともなく微笑み合う。
この春、新しい何かが少しずつ芽吹いていくような、そんな空気が流れていた。
そこへ、遠くから声がした。
「エリシア!」
振り返ると、レオンハルトが、少し照れたように立っていた。
「少し、話せるか?」
エリシアは微笑み、すぐにうなずいて立ち上がる。
その姿を、少し離れた場所から誰かがそっと見つめていた。
──メリッサだった。
彼女はまだクラスに溶け込んではいなかったけれど、以前のような高慢さはない。
遠巻きに話すクラスメイトたちの視線を感じる。
その中の一人が、意を決したように声をかけた。
「あの、メリッサ。ちょっといい?」
彼女は一瞬戸惑ったように振り返り、それでも以前のような見下した目つきではなく、やわらかな声で答えた。
「ええ。なにかしら?」
「その、メリッサ、前より話しかけやすいっていうか最近、少し雰囲気が違うわね。前は、ちょっと壁があったようだけど。」
「そうね。私、自分でも気づいてなかったけどずいぶん意地悪で高慢だったみたい。少し反省したの」
「なんだか、メリッサが素直に話すの、不思議だけどちょっと嬉しいわ」
ぎこちないけれど、確かに向き合おうとする声。
そして、メリッサもまた、それをはねのけることはしなかった。
「私も、うまくは話せないけど少しずつでもいいかしら。友達って、そうやって始まるものよね?」
数人のクラスメイトが驚いたように見つめる。
でもその顔には、どこか安堵の色が浮かんでいた。
そのやり取りは、かすかだけど確かな「変化」の始まりだった。
──メリッサの中にある“なにか”が、確かに変わり始めていた。
風に揺れる桜の花びら。
新たな季節の匂いが、学園を包んでいた。
誰もが、それぞれの想いを抱きながら、未来へと歩き出す。
すれ違って、立ち止まって、それでもまた繋がっていく。
この春は、そんな始まりの光で満ちていた。
そして、少女の髪には、あの日拾われた小さな髪飾りがそっと輝いていた。
木漏れ日が差し込む学園の中庭に、ユリウスとレオンハルトの姿があった。
「まさか、あなたが僕とエリシアの噂を真に受けていたなんて。」
ユリウスが笑いながら言うと、レオンハルトは少しばつが悪そうに目を逸らした。
「最初は疑っていた。けれどエリシアは、あの頃と何も変わっていなかった。
まっすぐで、優しくて、そして不器用なほど真剣だった。俺のほうこそ、信じることから逃げてたんだと思う」
「エリシアは、誰かに疑われても、その人のことを信じ続ける強さがある。
それはレオンハルト、あなたが彼女に与えたものかもしれないよ」
ふうと、レオンハルトが息を吐いた。
「あの頃、髪飾りを拾ったときに、こんな日が来るなんて思いもしなかったな」
ユリウスが目を細め、彼の肩を軽く叩いた。
「じゃあ、せっかくだしもう一度拾ってあげたら? エリシアは良く無くしものをするから。」
レオンハルトは小さく笑い、うなずいた。
中庭の反対側、桜の下ではエリシアとリリィ、そしてセドリックが並んで座っていた。
「ようやく、少し穏やかになってきたわね」
リリィがつぶやくと、セドリックが頷いた。
「そうだね。リリィ嬢の活躍で色々解決したようだし。」
「そうね。あなたもレオンハルト様を気にかけていらしたようだから安心なさったでしょう。エリシアもレオンハルト様と順調そうだし。」
「エリシアのおかげだよ。レオンハルトはずっと長く自分の殻に閉じこもり僕にでさえ本当には心を開いてはくれなかった。人を信じられず苦しんでいたんだ。」
「私はただ、側にいてお話していただけです。」
「みんなに誤解されて苦しい事もあったけど、こうしてまた笑える日が来て良かった。
ありがとうリリィ、いつもあなたが力になってくれていたから。」
「言ったでしょ、私はいつでもあなたの味方だって」
セドリックとリリィはお互いに視線を交わして、どちらからともなく微笑み合う。
この春、新しい何かが少しずつ芽吹いていくような、そんな空気が流れていた。
そこへ、遠くから声がした。
「エリシア!」
振り返ると、レオンハルトが、少し照れたように立っていた。
「少し、話せるか?」
エリシアは微笑み、すぐにうなずいて立ち上がる。
その姿を、少し離れた場所から誰かがそっと見つめていた。
──メリッサだった。
彼女はまだクラスに溶け込んではいなかったけれど、以前のような高慢さはない。
遠巻きに話すクラスメイトたちの視線を感じる。
その中の一人が、意を決したように声をかけた。
「あの、メリッサ。ちょっといい?」
彼女は一瞬戸惑ったように振り返り、それでも以前のような見下した目つきではなく、やわらかな声で答えた。
「ええ。なにかしら?」
「その、メリッサ、前より話しかけやすいっていうか最近、少し雰囲気が違うわね。前は、ちょっと壁があったようだけど。」
「そうね。私、自分でも気づいてなかったけどずいぶん意地悪で高慢だったみたい。少し反省したの」
「なんだか、メリッサが素直に話すの、不思議だけどちょっと嬉しいわ」
ぎこちないけれど、確かに向き合おうとする声。
そして、メリッサもまた、それをはねのけることはしなかった。
「私も、うまくは話せないけど少しずつでもいいかしら。友達って、そうやって始まるものよね?」
数人のクラスメイトが驚いたように見つめる。
でもその顔には、どこか安堵の色が浮かんでいた。
そのやり取りは、かすかだけど確かな「変化」の始まりだった。
──メリッサの中にある“なにか”が、確かに変わり始めていた。
風に揺れる桜の花びら。
新たな季節の匂いが、学園を包んでいた。
誰もが、それぞれの想いを抱きながら、未来へと歩き出す。
すれ違って、立ち止まって、それでもまた繋がっていく。
この春は、そんな始まりの光で満ちていた。
そして、少女の髪には、あの日拾われた小さな髪飾りがそっと輝いていた。
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