余命数日の公爵令嬢の影に転生した俺、毒を喰らって最強の影の大精霊になる

もふもふ隊

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公爵令嬢セレナ・フォルテスには、誰にも言えない悩みがあった。 それは、「この世の可愛い生き物すべてに、激しいアレルギーがある」ということだ。

「……ふわふわ……。あぁ、なんて素敵なの……」

学院の中庭で執事のジークが野良猫を(無愛想に)追い払おうとしているのを見て、セレナは窓に顔を押し付けて悶絶していた。だが、もし猫に近づけば、彼女の美しい紫紺の瞳は真っ赤に腫れ、喉は喘息でヒューヒューと鳴り始める。

(お嬢…そんなに悲しそうな顔すんなよ。ただの動く毛玉だろ?)

影の中で、俺は呆れていた。

「違うのよカゲレナちゃん。あの『ふわふわ』の中に顔を埋めるのが、私の、一生に一度でいいから叶えたい夢なの…」

(一生に一度が大げさなんだよ…ちっ、分かったよ。しょうがねーな)

その日の夜。 俺は【影の分身(パペット)】を総動員した。 さらには、セレナがいつも抱きしめているぬいぐるみの綿を少しだけ影の中に引きずり込み、【影操(ぬいぐるみ)】の技術を応用して「質感」を捏造(ねつぞう)する。

「…あれ? カゲレナちゃん、何してるの?」

ベッドの上。セレナの足元から、黒い霧のようなものがモコモコと盛り上がった。 それは次第に形を成し、ピンと立った耳、しなやかな尻尾、そして——。

「猫……? 影の、猫さん……?」

(……アレルギーは出ねーはずだ。毛じゃなくて俺の魔力だからな。ほら、触ってみろ)

セレナがおそるおそる指を伸ばす。 その指先が影に触れた瞬間。

「……っ! ふわふわ……じゃないけれど、とっても滑らかで……温かい」

俺は【魔力還流】を逆流させ、影の表面にセレナの体温と同じ「熱」を持たせた。 さらに影を細かく振動させ、猫が喉を鳴らす「ゴロゴロ」という音まで再現する。

「あぁ……幸せ……」

セレナは、俺が作った「影猫」を抱きしめ、頬ずりをした。 影だから、鼻がムズムズすることもない。涙が出ることもない。

(…へっ、チョロいもんだぜ)

調子に乗った俺は、次に窓の外を飛んでいた小鳥の形を模して、部屋の中に「影の鳥」を何羽も羽ばたかせた。 漆黒の翼が月光を遮り、部屋中を舞う。セレナは子供のようにそれらを追いかけ、笑った。

だが、この「遊び」が、俺にあるインスピレーションを与えた。

(…待てよ。影で動物を模倣して、動かせるってことは…これ、お嬢の体に直接「纏わせる」こともできるんじゃねーか?)

影を「抱きしめる」のではなく、影を「着る」もし、影で作った野獣の脚をセレナの脚に重ねれば? 影で作った猛禽の動体視力をセレナの瞳に上書きすれば?

「ねえ、カゲレナちゃん。今度は…もっと大きな、格好いい狼さんになって!」

セレナの無邪気なリクエストに応え、俺は彼女の体全体を覆うような、巨大な影の獣を形作った。 その瞬間、セレナの華奢な体が、影の筋力と直結する。

(……これだ。これなら、病弱なお嬢でも、世界中を駆け回れる)

これが、後に王子を壁に叩き込み、戦場を蹂躙することになる禁忌のスキル——【影装・獣化(シャドウ・ビースト)】が誕生した瞬間だった。

「ふふ、私、なんだかすごく力が湧いてくるわ! どこまでも走れそう!」

(おうよ、お嬢。あんたが望むなら、猫にでも猛獣にでも化けさせてやる…その代わり、あとでジークの『特選・毒スープ』、半分俺に回せよな?)

月明かりの下、令嬢と影の獣は、夜の部屋で静かにダンスを踊った。 翌朝、セレナは猛烈な筋肉痛で起き上がれなくなったが、その顔には満足げな笑みが浮かんでいたという。
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