余命数日の公爵令嬢の影に転生した俺、毒を喰らって最強の影の大精霊になる

もふもふ隊

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偽聖女の来臨と、完璧なるカーテシー

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王宮の重厚な扉が開くと、そこには「聖女」を囲むように、若く美しい騎士たちが並んでいた。だが、その光景を目にした瞬間、セレナ側の男たちの反応は冷ややかだった。

「…ッ、なんだ。この。胃の底からせり上がるような不快感は」 アルトリウスが、騎士としての礼節を忘れて公然と舌打ちをする。彼の影が、主人の殺気を代弁するように鋭く逆立った。

「…アイアン、下がれ。お前の盾が汚れる」 エドワードは美しい顔を歪ませ、吐き捨てるように言った。彼の足元では、黒鉄の騎士がその盾を構えることすら拒否し、主を守るように背後へ引いている。

「セレナ様…私の後ろへ」 初対面のレオンハルトさえも、嫌悪感に眉を顰めて剣の柄を握りしめた。ペッパーのギザギザが、まるで腐肉を嗅いだ野良犬のように激しく震えている。

「まあまあ、殿下!それに他の二人も…」

――――食指が動きそう

今にもそんな声が聞こえてきそうだ。サクラは艶やかな黒髪と漆黒の瞳を持つ愛らしい顔の美少女だった。

「私はぁ、聖教皇国 ルミナリスから参りましたサクラと申しまあす。ご紹介いたしますぅ。彼らは私自ら厳選した盾ですわ」

偽聖女は、自分を囲む騎士たちの腕に指を絡ませながら、うっとりとエドワードたちを見つめた。

「どの方も、私のためなら命を投げ出す覚悟ができていますの」

(…盾、ねぇ。おいアイアン、お前の同類だってよ)

アイアンの影が、その言葉を侮辱と受け取ったのか、凄まじい密度の闇を放ちながら床に沈み込む。

 (不愉快だ。あれを盾と呼ぶな。あれはただの『搾りかす』だ)

ペッパーにいたっては、鼻をひくつかせた後、本気でえずきそうになっていた。 

(アニキ…あの『盾』の人たち、影の形が歪んでるっス。まるで見えない糸で無理やり立たされてるゾンビみたいで…気持ち悪いっス…)

偽聖女――サクラは、心の中でほくそ笑んでいた。

 (ふふん、やっぱりエドワード王子は超絶イケメン! レオンハルトもアルトリウスも、ゲームの攻略対象外だけどハイレベルじゃない。あそこにいる公爵令嬢(モブ)から奪い取って、私の逆ハーレムに加えてあげなきゃ!)

彼女にとって、この世界は自分の欲望を満たすための「ゲーム」に過ぎない。

(…あー、察したぜお嬢。あの女、俺と同じ『あっち側』から来たやつだ)

(前に言ってたカゲレナちゃんの故郷?)

(ああ、あの女は属性が最悪だけどな)

カゲレナが、偽聖女の足元に蠢く、どす黒いピンク色の粘着質なハートの形をした影を睨みつける。

(……ありゃあ『魅了(チャーム)』を聖なる力に偽装して、男たちの精力を吸い取ってるな…強者には逆効果らしいが。厳選した盾? 嘘をつけ。他人の人生をポテチ感覚で消費して、自分のステータスに変換してるだけじゃあのアマの『経験値』、全部俺がデトックスしてやるよ)

この時、乙女ゲームのヒロインに転生して、逆ハーレム(盾)を構築することしか考えていない脳内お花畑サクラは、カゲレナに目をつけられた。

セレナが一歩前に出る。

セレナは、サクラの不躾な視線や騎士たちとの淫らな接触を、まるで汚物を見るかのような冷ややかな、それでいて極めて礼儀正しい微笑みで受け流した。

そして、ふわりとドレスの裾を摘まむ。

「聖教皇国ルミナリスの聖女様、ようこそお越しくださいました。フォルテス公爵家が娘、セレナ・フォルテスにございます」

指先、背筋の角度、そして膝を折る深さ。 それは作法を極めた、非の打ち所がない完璧なカーテシーだった。清廉な姿に場にいた男の注目を一挙に浴びる。

(……ケッ、お嬢。あんな女相手に丁寧すぎるぜ。だが、いい。その『品格の暴力』であのアマの脳内お花畑を更地にしてやれ)

カゲレナが影の中でニヤリと笑う。 サクラは、セレナの圧倒的な令嬢オーラに一瞬だけ気圧されたが、すぐに顔を赤くして(自称)ヒロイン特有の厚顔無恥さを発揮した。

「…ッ、何よその気取った挨拶! 聖女である私に、もっとこう…親しみを持って跪くとかできないわけ!? だから悪役令嬢、モブはこれだから……!」

サクラの口から漏れた、この世界の人間には理解できない「言葉」。 だが、カゲレナの耳にははっきりと届いていた。

セレナが静かに頭(こうべ)を垂れた瞬間、宮殿内のざわめきが、まるで魔法で打ち消されたかのように消え去った。

偽聖女サクラが振り撒いていた、安っぽい香水のような魔力の残滓(ざんし)が、セレナの放つ清冽な空気によって押し流されていく。

「……美しい」

誰が漏らした声だったか。 欲望剥き出しでサクラに群がっていたはずの貴族や騎士たちが、泥酔から覚めたかのように背筋を正し、一様にセレナへ注視した。

彼女の足元には、深く、濃い影。 その闇すらも、彼女の白皙の肌を際立たせるための計算された宝石のように見えた。

(…おっと、お嬢。男たちの視線が「毒」みたいに突き刺さってんぜ。…まあ、あのアマの『偽物の光』よりは、こっちの方が健全な反応か)

アルトリウスとエドワードがヒソヒソと口を隠して話し合ってる。

やはり、私たちが守るべきは彼女だ

影の反響を使わずとも、俺の耳に届いた。レオンハルトは自分のことのように誇らしげに胸を張った。


----

ご拝読ありがとうございます。カゲレナだ。 お嬢(セレナ)の影に潜んで、あんたたちが届けてくれる「ポイント」を美味しくいただいてるぜ。

偽聖女サクラのピンク色の影は吐き気がするほど不味そうだったが、あんたたちの応援は……あー、悪くない味だ。もっと寄越せよ…なんてな。

次回、お嬢を「モブ」呼ばわりして見下したあのアマを、俺たちがどう料理するか……。影の中で特等席を用意して待ってるぜ。

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