19 / 25
偽聖女の来臨と、完璧なるカーテシー
しおりを挟む
王宮の重厚な扉が開くと、そこには「聖女」を囲むように、若く美しい騎士たちが並んでいた。だが、その光景を目にした瞬間、セレナ側の男たちの反応は冷ややかだった。
「…ッ、なんだ。この。胃の底からせり上がるような不快感は」 アルトリウスが、騎士としての礼節を忘れて公然と舌打ちをする。彼の影が、主人の殺気を代弁するように鋭く逆立った。
「…アイアン、下がれ。お前の盾が汚れる」 エドワードは美しい顔を歪ませ、吐き捨てるように言った。彼の足元では、黒鉄の騎士がその盾を構えることすら拒否し、主を守るように背後へ引いている。
「セレナ様…私の後ろへ」 初対面のレオンハルトさえも、嫌悪感に眉を顰めて剣の柄を握りしめた。ペッパーのギザギザが、まるで腐肉を嗅いだ野良犬のように激しく震えている。
「まあまあ、殿下!それに他の二人も…」
――――食指が動きそう
今にもそんな声が聞こえてきそうだ。サクラは艶やかな黒髪と漆黒の瞳を持つ愛らしい顔の美少女だった。
「私はぁ、聖教皇国 ルミナリスから参りましたサクラと申しまあす。ご紹介いたしますぅ。彼らは私自ら厳選した盾ですわ」
偽聖女は、自分を囲む騎士たちの腕に指を絡ませながら、うっとりとエドワードたちを見つめた。
「どの方も、私のためなら命を投げ出す覚悟ができていますの」
(…盾、ねぇ。おいアイアン、お前の同類だってよ)
アイアンの影が、その言葉を侮辱と受け取ったのか、凄まじい密度の闇を放ちながら床に沈み込む。
(不愉快だ。あれを盾と呼ぶな。あれはただの『搾りかす』だ)
ペッパーにいたっては、鼻をひくつかせた後、本気でえずきそうになっていた。
(アニキ…あの『盾』の人たち、影の形が歪んでるっス。まるで見えない糸で無理やり立たされてるゾンビみたいで…気持ち悪いっス…)
偽聖女――サクラは、心の中でほくそ笑んでいた。
(ふふん、やっぱりエドワード王子は超絶イケメン! レオンハルトもアルトリウスも、ゲームの攻略対象外だけどハイレベルじゃない。あそこにいる公爵令嬢(モブ)から奪い取って、私の逆ハーレムに加えてあげなきゃ!)
彼女にとって、この世界は自分の欲望を満たすための「ゲーム」に過ぎない。
(…あー、察したぜお嬢。あの女、俺と同じ『あっち側』から来たやつだ)
(前に言ってたカゲレナちゃんの故郷?)
(ああ、あの女は属性が最悪だけどな)
カゲレナが、偽聖女の足元に蠢く、どす黒いピンク色の粘着質なハートの形をした影を睨みつける。
(……ありゃあ『魅了(チャーム)』を聖なる力に偽装して、男たちの精力を吸い取ってるな…強者には逆効果らしいが。厳選した盾? 嘘をつけ。他人の人生をポテチ感覚で消費して、自分のステータスに変換してるだけじゃあのアマの『経験値』、全部俺がデトックスしてやるよ)
この時、乙女ゲームのヒロインに転生して、逆ハーレム(盾)を構築することしか考えていない脳内お花畑サクラは、カゲレナに目をつけられた。
セレナが一歩前に出る。
セレナは、サクラの不躾な視線や騎士たちとの淫らな接触を、まるで汚物を見るかのような冷ややかな、それでいて極めて礼儀正しい微笑みで受け流した。
そして、ふわりとドレスの裾を摘まむ。
「聖教皇国ルミナリスの聖女様、ようこそお越しくださいました。フォルテス公爵家が娘、セレナ・フォルテスにございます」
指先、背筋の角度、そして膝を折る深さ。 それは作法を極めた、非の打ち所がない完璧なカーテシーだった。清廉な姿に場にいた男の注目を一挙に浴びる。
(……ケッ、お嬢。あんな女相手に丁寧すぎるぜ。だが、いい。その『品格の暴力』であのアマの脳内お花畑を更地にしてやれ)
カゲレナが影の中でニヤリと笑う。 サクラは、セレナの圧倒的な令嬢オーラに一瞬だけ気圧されたが、すぐに顔を赤くして(自称)ヒロイン特有の厚顔無恥さを発揮した。
「…ッ、何よその気取った挨拶! 聖女である私に、もっとこう…親しみを持って跪くとかできないわけ!? だから悪役令嬢、モブはこれだから……!」
サクラの口から漏れた、この世界の人間には理解できない「言葉」。 だが、カゲレナの耳にははっきりと届いていた。
セレナが静かに頭(こうべ)を垂れた瞬間、宮殿内のざわめきが、まるで魔法で打ち消されたかのように消え去った。
偽聖女サクラが振り撒いていた、安っぽい香水のような魔力の残滓(ざんし)が、セレナの放つ清冽な空気によって押し流されていく。
「……美しい」
誰が漏らした声だったか。 欲望剥き出しでサクラに群がっていたはずの貴族や騎士たちが、泥酔から覚めたかのように背筋を正し、一様にセレナへ注視した。
彼女の足元には、深く、濃い影。 その闇すらも、彼女の白皙の肌を際立たせるための計算された宝石のように見えた。
(…おっと、お嬢。男たちの視線が「毒」みたいに突き刺さってんぜ。…まあ、あのアマの『偽物の光』よりは、こっちの方が健全な反応か)
アルトリウスとエドワードがヒソヒソと口を隠して話し合ってる。
やはり、私たちが守るべきは彼女だ
影の反響を使わずとも、俺の耳に届いた。レオンハルトは自分のことのように誇らしげに胸を張った。
----
ご拝読ありがとうございます。カゲレナだ。 お嬢(セレナ)の影に潜んで、あんたたちが届けてくれる「ポイント」を美味しくいただいてるぜ。
偽聖女サクラのピンク色の影は吐き気がするほど不味そうだったが、あんたたちの応援は……あー、悪くない味だ。もっと寄越せよ…なんてな。
次回、お嬢を「モブ」呼ばわりして見下したあのアマを、俺たちがどう料理するか……。影の中で特等席を用意して待ってるぜ。
面白いと思ったら、お気に入り登録して更新を逃さないようにしてくれな!
「…ッ、なんだ。この。胃の底からせり上がるような不快感は」 アルトリウスが、騎士としての礼節を忘れて公然と舌打ちをする。彼の影が、主人の殺気を代弁するように鋭く逆立った。
「…アイアン、下がれ。お前の盾が汚れる」 エドワードは美しい顔を歪ませ、吐き捨てるように言った。彼の足元では、黒鉄の騎士がその盾を構えることすら拒否し、主を守るように背後へ引いている。
「セレナ様…私の後ろへ」 初対面のレオンハルトさえも、嫌悪感に眉を顰めて剣の柄を握りしめた。ペッパーのギザギザが、まるで腐肉を嗅いだ野良犬のように激しく震えている。
「まあまあ、殿下!それに他の二人も…」
――――食指が動きそう
今にもそんな声が聞こえてきそうだ。サクラは艶やかな黒髪と漆黒の瞳を持つ愛らしい顔の美少女だった。
「私はぁ、聖教皇国 ルミナリスから参りましたサクラと申しまあす。ご紹介いたしますぅ。彼らは私自ら厳選した盾ですわ」
偽聖女は、自分を囲む騎士たちの腕に指を絡ませながら、うっとりとエドワードたちを見つめた。
「どの方も、私のためなら命を投げ出す覚悟ができていますの」
(…盾、ねぇ。おいアイアン、お前の同類だってよ)
アイアンの影が、その言葉を侮辱と受け取ったのか、凄まじい密度の闇を放ちながら床に沈み込む。
(不愉快だ。あれを盾と呼ぶな。あれはただの『搾りかす』だ)
ペッパーにいたっては、鼻をひくつかせた後、本気でえずきそうになっていた。
(アニキ…あの『盾』の人たち、影の形が歪んでるっス。まるで見えない糸で無理やり立たされてるゾンビみたいで…気持ち悪いっス…)
偽聖女――サクラは、心の中でほくそ笑んでいた。
(ふふん、やっぱりエドワード王子は超絶イケメン! レオンハルトもアルトリウスも、ゲームの攻略対象外だけどハイレベルじゃない。あそこにいる公爵令嬢(モブ)から奪い取って、私の逆ハーレムに加えてあげなきゃ!)
彼女にとって、この世界は自分の欲望を満たすための「ゲーム」に過ぎない。
(…あー、察したぜお嬢。あの女、俺と同じ『あっち側』から来たやつだ)
(前に言ってたカゲレナちゃんの故郷?)
(ああ、あの女は属性が最悪だけどな)
カゲレナが、偽聖女の足元に蠢く、どす黒いピンク色の粘着質なハートの形をした影を睨みつける。
(……ありゃあ『魅了(チャーム)』を聖なる力に偽装して、男たちの精力を吸い取ってるな…強者には逆効果らしいが。厳選した盾? 嘘をつけ。他人の人生をポテチ感覚で消費して、自分のステータスに変換してるだけじゃあのアマの『経験値』、全部俺がデトックスしてやるよ)
この時、乙女ゲームのヒロインに転生して、逆ハーレム(盾)を構築することしか考えていない脳内お花畑サクラは、カゲレナに目をつけられた。
セレナが一歩前に出る。
セレナは、サクラの不躾な視線や騎士たちとの淫らな接触を、まるで汚物を見るかのような冷ややかな、それでいて極めて礼儀正しい微笑みで受け流した。
そして、ふわりとドレスの裾を摘まむ。
「聖教皇国ルミナリスの聖女様、ようこそお越しくださいました。フォルテス公爵家が娘、セレナ・フォルテスにございます」
指先、背筋の角度、そして膝を折る深さ。 それは作法を極めた、非の打ち所がない完璧なカーテシーだった。清廉な姿に場にいた男の注目を一挙に浴びる。
(……ケッ、お嬢。あんな女相手に丁寧すぎるぜ。だが、いい。その『品格の暴力』であのアマの脳内お花畑を更地にしてやれ)
カゲレナが影の中でニヤリと笑う。 サクラは、セレナの圧倒的な令嬢オーラに一瞬だけ気圧されたが、すぐに顔を赤くして(自称)ヒロイン特有の厚顔無恥さを発揮した。
「…ッ、何よその気取った挨拶! 聖女である私に、もっとこう…親しみを持って跪くとかできないわけ!? だから悪役令嬢、モブはこれだから……!」
サクラの口から漏れた、この世界の人間には理解できない「言葉」。 だが、カゲレナの耳にははっきりと届いていた。
セレナが静かに頭(こうべ)を垂れた瞬間、宮殿内のざわめきが、まるで魔法で打ち消されたかのように消え去った。
偽聖女サクラが振り撒いていた、安っぽい香水のような魔力の残滓(ざんし)が、セレナの放つ清冽な空気によって押し流されていく。
「……美しい」
誰が漏らした声だったか。 欲望剥き出しでサクラに群がっていたはずの貴族や騎士たちが、泥酔から覚めたかのように背筋を正し、一様にセレナへ注視した。
彼女の足元には、深く、濃い影。 その闇すらも、彼女の白皙の肌を際立たせるための計算された宝石のように見えた。
(…おっと、お嬢。男たちの視線が「毒」みたいに突き刺さってんぜ。…まあ、あのアマの『偽物の光』よりは、こっちの方が健全な反応か)
アルトリウスとエドワードがヒソヒソと口を隠して話し合ってる。
やはり、私たちが守るべきは彼女だ
影の反響を使わずとも、俺の耳に届いた。レオンハルトは自分のことのように誇らしげに胸を張った。
----
ご拝読ありがとうございます。カゲレナだ。 お嬢(セレナ)の影に潜んで、あんたたちが届けてくれる「ポイント」を美味しくいただいてるぜ。
偽聖女サクラのピンク色の影は吐き気がするほど不味そうだったが、あんたたちの応援は……あー、悪くない味だ。もっと寄越せよ…なんてな。
次回、お嬢を「モブ」呼ばわりして見下したあのアマを、俺たちがどう料理するか……。影の中で特等席を用意して待ってるぜ。
面白いと思ったら、お気に入り登録して更新を逃さないようにしてくれな!
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる