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番外編1(新婚旅行編)
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「……旅行?」
「ええ。あなたさえよろしければ」
若夫婦のための寝台で、うっとりともたれかかった頭をよしよしと撫でられながら囁かれた誘いに、ジュゼは不思議そうに首を傾げた。見上げた夫の赤い瞳は柔らかく穏やかで、今の言葉が唐突な思い付きによるものではなく、よくよく計画を整えた上での発言であることを示していた。
美しい悪魔の花嫁に選ばれて、一人目の子を産んで。魔界に嫁いで、もう五年になるだろうか。一人でも多くの子を産んで欲しいらしい夢魔の一族は皆、ジュゼに大層優しい。何一つ不自由のないようにと、部屋はいつでも居心地よく、少しでも欲しいと思ったものは何でも揃えてくれる。
一向に成長しない体だけが気がかりで、ご飯を食べていないからだろうかと、余計な気を回したこともあったものの。夢魔の花嫁は、夢魔と同じ成長速度に変わるのだと教えられて、ジュゼは胸を撫で下ろした。いつまでも小柄なままでは、レーヴェと釣り合わないのではないかという不安はあるが、寿命を気にせずに一緒にいられるのはとても嬉しいことだったから。
(そういえば、外には)
結婚式以来出ていないかもしれない、と。ジュゼはふと考え込んだ。
確かに、振り返ってみれば、庭を散歩するくらいしか外の空気に触れる機会はなかったけれど。何しろ魔界のことだ、外は危ないと心配をされているのだろうと、特に気に留めてもいなかった。
それに、日々の半分以上をベッドの中で過ごすジュゼの興味の在処は――いつだって、傍らの美しい悪魔の側を向いていたから。
そんなことを意識して、何だか急に恥ずかしくなってしまったジュゼが赤くなった顔を隠すように俯けば、美しい指が優しくその頬を撫でた。
「まだまだ栄えているとは言い難いですが、夢魔の領地の中だけでも、ジュゼの好きそうな場所がありますよ。水に囲まれた別邸は少し小さめですが清潔で、近くには泳げる湖も、開けた草原も」
「レーヴェも一緒に?」
「ええ、もちろん」
ずっとお傍についていますよ、と。髪に口付けを落とされて、ジュゼはまた頬を赤らめた。つい先ほどまで、もっとすごいことをしていたはずなのに。彼に可愛がられていると自覚する度に、簡単にドキドキしてしまう心臓を宥めながら、ジュゼは甘い香りのするレーヴェの胸元にすりりと頬をすり寄せた。
旅行なんて、行ったこともなければ、行けると思ったこともなかった。遠い土地の話は、ジュゼには本の中に垣間見えるだけのお伽噺と同じで――今、そのお伽噺の中よりも遠い場所にいることが、何だか改めて不思議なことのように思えてしまう。
結婚式の日に、少しだけ垣間見た綺麗な景色を思い出しながら気持ちを明るくしたジュゼは、でも、と。ふと今日の日付を思い出して表情を戸惑わせた。
「あの……赤ちゃん、は」
いいの? と。口に出すだけでぶわりとおかしな汗が噴き出てしまったが、そんなジュゼをからかうこともなく、レーヴェは優しい声で小さく笑った。
今の時期はもう、いつも通りなら、あと一週間もすれば次の子を迎える準備が始まる頃合いだった。そんな周期に慣らされて、敏感になってしまった肌に絡んだ腕に、きゅう、と。腰を強く抱き寄せられながら薄い腹を優しく撫でられて、ジュゼの首に朱が走る。
「ふふ。この前の子が、双子でしたからね」
一度お休みにして、私とたくさん過ごしましょう、と。まるで甘えるような声でそう言われてしまえば、ジュゼにその誘いに乗ってはいけない理由は何もなかった。
子供を作るときは容赦なく、ジュゼの脳をぐちゃぐちゃに犯し尽くすようなハードセックスを強いるレーヴェは、その実ゆったりとしたセックスをするのが好きだった。体も心も粘膜も蕩けてしまうまでゆっくりと愛されて、理性を飛ばすこともできない状態で悶え善がるジュゼの耳に、可愛い可愛いと愛しいと、優しい囁きを流し込む。
産後の二ヵ月の休息の間は、そんな甘過ぎるセックスに身も心もとろとろにされてしまうジュゼだったが、日中は溜まった仕事の解決にも忙しいレーヴェは、四六時中一緒にいてくれるわけではない。
「一週間、くらい?」
旅行というのなら、彼もきっと仕事はお休みなのだろう。
そんなにずっと、朝から晩まで二人きりでいられるなら、どんなに幸せだろうかと。期待に頬を紅潮させながら期間を問えば、くすくすとさざめくような笑い声が降り注ぐ。
「百日までは、お休みをもらってありますよ」
「百……⁉」
一週間よりも長いといいな、と。そんな期待を持って問い掛けたジュゼが驚いてしまうような期間を返されて、ジュゼはぱちりと目を丸くした。そんなに長く、という困惑が、思わず頬も緩んでしまう幸福感に塗り潰されて喜びに変わっていく。
ゆっくりしましょうね、と。艶めかしい手つきに腰を撫でられながら脳裏に満ちた――淫らなばかりの想像に。全身が真っ赤になってしまいそうになったジュゼは、咄嗟に俯いて彼の胸に顔を埋め、表情を隠した。
「ええ。あなたさえよろしければ」
若夫婦のための寝台で、うっとりともたれかかった頭をよしよしと撫でられながら囁かれた誘いに、ジュゼは不思議そうに首を傾げた。見上げた夫の赤い瞳は柔らかく穏やかで、今の言葉が唐突な思い付きによるものではなく、よくよく計画を整えた上での発言であることを示していた。
美しい悪魔の花嫁に選ばれて、一人目の子を産んで。魔界に嫁いで、もう五年になるだろうか。一人でも多くの子を産んで欲しいらしい夢魔の一族は皆、ジュゼに大層優しい。何一つ不自由のないようにと、部屋はいつでも居心地よく、少しでも欲しいと思ったものは何でも揃えてくれる。
一向に成長しない体だけが気がかりで、ご飯を食べていないからだろうかと、余計な気を回したこともあったものの。夢魔の花嫁は、夢魔と同じ成長速度に変わるのだと教えられて、ジュゼは胸を撫で下ろした。いつまでも小柄なままでは、レーヴェと釣り合わないのではないかという不安はあるが、寿命を気にせずに一緒にいられるのはとても嬉しいことだったから。
(そういえば、外には)
結婚式以来出ていないかもしれない、と。ジュゼはふと考え込んだ。
確かに、振り返ってみれば、庭を散歩するくらいしか外の空気に触れる機会はなかったけれど。何しろ魔界のことだ、外は危ないと心配をされているのだろうと、特に気に留めてもいなかった。
それに、日々の半分以上をベッドの中で過ごすジュゼの興味の在処は――いつだって、傍らの美しい悪魔の側を向いていたから。
そんなことを意識して、何だか急に恥ずかしくなってしまったジュゼが赤くなった顔を隠すように俯けば、美しい指が優しくその頬を撫でた。
「まだまだ栄えているとは言い難いですが、夢魔の領地の中だけでも、ジュゼの好きそうな場所がありますよ。水に囲まれた別邸は少し小さめですが清潔で、近くには泳げる湖も、開けた草原も」
「レーヴェも一緒に?」
「ええ、もちろん」
ずっとお傍についていますよ、と。髪に口付けを落とされて、ジュゼはまた頬を赤らめた。つい先ほどまで、もっとすごいことをしていたはずなのに。彼に可愛がられていると自覚する度に、簡単にドキドキしてしまう心臓を宥めながら、ジュゼは甘い香りのするレーヴェの胸元にすりりと頬をすり寄せた。
旅行なんて、行ったこともなければ、行けると思ったこともなかった。遠い土地の話は、ジュゼには本の中に垣間見えるだけのお伽噺と同じで――今、そのお伽噺の中よりも遠い場所にいることが、何だか改めて不思議なことのように思えてしまう。
結婚式の日に、少しだけ垣間見た綺麗な景色を思い出しながら気持ちを明るくしたジュゼは、でも、と。ふと今日の日付を思い出して表情を戸惑わせた。
「あの……赤ちゃん、は」
いいの? と。口に出すだけでぶわりとおかしな汗が噴き出てしまったが、そんなジュゼをからかうこともなく、レーヴェは優しい声で小さく笑った。
今の時期はもう、いつも通りなら、あと一週間もすれば次の子を迎える準備が始まる頃合いだった。そんな周期に慣らされて、敏感になってしまった肌に絡んだ腕に、きゅう、と。腰を強く抱き寄せられながら薄い腹を優しく撫でられて、ジュゼの首に朱が走る。
「ふふ。この前の子が、双子でしたからね」
一度お休みにして、私とたくさん過ごしましょう、と。まるで甘えるような声でそう言われてしまえば、ジュゼにその誘いに乗ってはいけない理由は何もなかった。
子供を作るときは容赦なく、ジュゼの脳をぐちゃぐちゃに犯し尽くすようなハードセックスを強いるレーヴェは、その実ゆったりとしたセックスをするのが好きだった。体も心も粘膜も蕩けてしまうまでゆっくりと愛されて、理性を飛ばすこともできない状態で悶え善がるジュゼの耳に、可愛い可愛いと愛しいと、優しい囁きを流し込む。
産後の二ヵ月の休息の間は、そんな甘過ぎるセックスに身も心もとろとろにされてしまうジュゼだったが、日中は溜まった仕事の解決にも忙しいレーヴェは、四六時中一緒にいてくれるわけではない。
「一週間、くらい?」
旅行というのなら、彼もきっと仕事はお休みなのだろう。
そんなにずっと、朝から晩まで二人きりでいられるなら、どんなに幸せだろうかと。期待に頬を紅潮させながら期間を問えば、くすくすとさざめくような笑い声が降り注ぐ。
「百日までは、お休みをもらってありますよ」
「百……⁉」
一週間よりも長いといいな、と。そんな期待を持って問い掛けたジュゼが驚いてしまうような期間を返されて、ジュゼはぱちりと目を丸くした。そんなに長く、という困惑が、思わず頬も緩んでしまう幸福感に塗り潰されて喜びに変わっていく。
ゆっくりしましょうね、と。艶めかしい手つきに腰を撫でられながら脳裏に満ちた――淫らなばかりの想像に。全身が真っ赤になってしまいそうになったジュゼは、咄嗟に俯いて彼の胸に顔を埋め、表情を隠した。
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