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後日談②
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次の遠征の予定があればついて行きたい、と。そう申し出たリオに、アルトは驚いた顔をしたものの。少なくとも一度は断られることを予想して緊張していたリオの様子を慮ってか、優しいため息と共に是の返事をくれたのだった。
『ですが何故、突然そのようなことを?』
あなたが心配なさるようなことは何もないのに、と。微笑むアルトの身体から、血の気配はしなかった。そのことにほっとしながらも、リオの顔は晴れない。
アルトが、治癒魔法も使えることは知っている。――彼は、傷を負って、血を流すことがあっても。それを治癒して、何でもなかったような顔でリオの元へ戻ることができるのだ。
(アルトくんが、とっても強いことは知っているけれど)
彼が、魔法使いばかりのこの国でも、目を見張るほどの力を持っているということ。その事実を、リオは実際にこの目でも見た。
強く、気高く、強い意志を持った彼には。リオの心配も、応援も、本当は不要なのだろう。目的さえ達することができるなら、己の血などいくら流れようとも構わないと思っている節のある彼だ。
邪魔になると解っていても、それでも傍にいたくてついて行きたいと願うのは、リオの身勝手だ。そう思っていることをアルトに告げれば、そんなことはありませんよ、と。そう言ってくれることが解っていたリオは、お礼の他は何も口にしなかったけれど。
しかし。
(やっぱり邪魔だったかもしれない……!)
忙しそうに指示を出しては、緊迫した雰囲気で走り回る魔法使いたちの中にあって。どこに身を置いたらいいのかも解らないリオは、早速とても後悔していた。どう考えても場違いだ。
大型化した魔獣たちが、群れを成して王都の街を襲う兆しを見せているという知らせの元。王家の精鋭たちによる討伐隊が組まれ、ただ一人の王太子が指揮を執るとあらば、リオの出る幕ではないということくらい解り切っていたことだったのに。
じっとしていられない、という。自分の気持ちだけでここまで来てしまったリオは震えたが、ここで尻尾を巻いて帰るようでは、こんな自分の護衛のために割かれた人員が気の毒過ぎる。
「ええと。何か、お手伝いできることが……」
あればいいんだけど、と。足を向ける先をうろうろと惑わせたリオに、何処へ? と。焦ったような声が掛けられる。
「今、妃殿下のお越しを、殿下にお伝えしておりますので」
しばしお待ちを、と。リオを引き留める護衛兵のその声に、知らせなくていいよぉ! と。取り乱して答えそうになったリオだったが、その言葉よりも早く、涼やかなアルトの声が響いた。
「リオ!」
騎士の装いをした、この国では珍しい男性の魔法使いたちを率いたアルトが、リオの元へ駆け寄ってくる。途端に周囲から向けられる視線を感じて、リオは居心地悪く身を捩った。
「あ、アルトくん。あの」
「先触れを出してくだされば、出迎えたというのに。ここまで、危ないことはありませんでしたか?」
「う、あの、はい。エヴァ様が、護衛の方をつけてくれ、ださいましたので……」
四方八方から、痛いほどの視線を感じる衆人環視の中。どこまで淑女の物言いをすればいいのか解らなくなってしまったリオは、どうにもみっともない中途半端な態度を取ってしまう。
それを気にした風ではないアルトは、しかしそっと苦笑しながらリオの背を押し、この場所から少しでも離れるようにと促した。
「この辺りでは、魔獣たちに鉢合わせる可能性があるからと、陣を移動しようとしていたところです。今の内に合流できてよかった」
その発言に、ドキリとしたリオは足を震わせて、たたらを踏んでしまう。
淑女らしく振る舞えないならせめて毅然としなければと気を引き締めたタイミングでの醜態に、リオは思わず頬を赤らめた。
「……す、すみません、少し気圧されてしまって」
自分からついて行きたいとお願いしておきながら、と。顔を赤くしたリオを見つめて、いいえ、と。アルトは優しい声で囁いた。
「ご実家では、魔獣の害など感じなかったことでしょう。我が王家の怠慢の皺寄せをお見せするのは恥ずかしいことですが……あなたが知りたいと思ってくださったことは、とても嬉しかったのです」
ですからどうか、ご無理はなさらないでください、と。労わるように頬を撫で、アルトはリオを他の兵たちの目から隠すように抱き締める。ヒュウ、と。軽快に響いた口笛の囃すような音色に胸を跳ねさせ、ますます真っ赤になれば、果たしてその口笛の主は騎士の装いに身を包んだテオドールで。お前は何を、と。周囲の騎士たちに罵られて引き離されながら、リオにウインクを一つくれた。
優しく温かいアルトの体温と、顔見知りの気安い態度で、リオは幾分落ち着きを取り戻す。その様子に、アルトもまた安堵したように柔らかく微笑んだ。
「さあ、行きましょうか。討伐が本格化すれば、あなたには天幕に籠っていただくことになりますが」
それまではどうか私の隣に、と。言ってくれたアルトの傍らに寄り添って、はい、と。リオは素直に頷いた。
『ですが何故、突然そのようなことを?』
あなたが心配なさるようなことは何もないのに、と。微笑むアルトの身体から、血の気配はしなかった。そのことにほっとしながらも、リオの顔は晴れない。
アルトが、治癒魔法も使えることは知っている。――彼は、傷を負って、血を流すことがあっても。それを治癒して、何でもなかったような顔でリオの元へ戻ることができるのだ。
(アルトくんが、とっても強いことは知っているけれど)
彼が、魔法使いばかりのこの国でも、目を見張るほどの力を持っているということ。その事実を、リオは実際にこの目でも見た。
強く、気高く、強い意志を持った彼には。リオの心配も、応援も、本当は不要なのだろう。目的さえ達することができるなら、己の血などいくら流れようとも構わないと思っている節のある彼だ。
邪魔になると解っていても、それでも傍にいたくてついて行きたいと願うのは、リオの身勝手だ。そう思っていることをアルトに告げれば、そんなことはありませんよ、と。そう言ってくれることが解っていたリオは、お礼の他は何も口にしなかったけれど。
しかし。
(やっぱり邪魔だったかもしれない……!)
忙しそうに指示を出しては、緊迫した雰囲気で走り回る魔法使いたちの中にあって。どこに身を置いたらいいのかも解らないリオは、早速とても後悔していた。どう考えても場違いだ。
大型化した魔獣たちが、群れを成して王都の街を襲う兆しを見せているという知らせの元。王家の精鋭たちによる討伐隊が組まれ、ただ一人の王太子が指揮を執るとあらば、リオの出る幕ではないということくらい解り切っていたことだったのに。
じっとしていられない、という。自分の気持ちだけでここまで来てしまったリオは震えたが、ここで尻尾を巻いて帰るようでは、こんな自分の護衛のために割かれた人員が気の毒過ぎる。
「ええと。何か、お手伝いできることが……」
あればいいんだけど、と。足を向ける先をうろうろと惑わせたリオに、何処へ? と。焦ったような声が掛けられる。
「今、妃殿下のお越しを、殿下にお伝えしておりますので」
しばしお待ちを、と。リオを引き留める護衛兵のその声に、知らせなくていいよぉ! と。取り乱して答えそうになったリオだったが、その言葉よりも早く、涼やかなアルトの声が響いた。
「リオ!」
騎士の装いをした、この国では珍しい男性の魔法使いたちを率いたアルトが、リオの元へ駆け寄ってくる。途端に周囲から向けられる視線を感じて、リオは居心地悪く身を捩った。
「あ、アルトくん。あの」
「先触れを出してくだされば、出迎えたというのに。ここまで、危ないことはありませんでしたか?」
「う、あの、はい。エヴァ様が、護衛の方をつけてくれ、ださいましたので……」
四方八方から、痛いほどの視線を感じる衆人環視の中。どこまで淑女の物言いをすればいいのか解らなくなってしまったリオは、どうにもみっともない中途半端な態度を取ってしまう。
それを気にした風ではないアルトは、しかしそっと苦笑しながらリオの背を押し、この場所から少しでも離れるようにと促した。
「この辺りでは、魔獣たちに鉢合わせる可能性があるからと、陣を移動しようとしていたところです。今の内に合流できてよかった」
その発言に、ドキリとしたリオは足を震わせて、たたらを踏んでしまう。
淑女らしく振る舞えないならせめて毅然としなければと気を引き締めたタイミングでの醜態に、リオは思わず頬を赤らめた。
「……す、すみません、少し気圧されてしまって」
自分からついて行きたいとお願いしておきながら、と。顔を赤くしたリオを見つめて、いいえ、と。アルトは優しい声で囁いた。
「ご実家では、魔獣の害など感じなかったことでしょう。我が王家の怠慢の皺寄せをお見せするのは恥ずかしいことですが……あなたが知りたいと思ってくださったことは、とても嬉しかったのです」
ですからどうか、ご無理はなさらないでください、と。労わるように頬を撫で、アルトはリオを他の兵たちの目から隠すように抱き締める。ヒュウ、と。軽快に響いた口笛の囃すような音色に胸を跳ねさせ、ますます真っ赤になれば、果たしてその口笛の主は騎士の装いに身を包んだテオドールで。お前は何を、と。周囲の騎士たちに罵られて引き離されながら、リオにウインクを一つくれた。
優しく温かいアルトの体温と、顔見知りの気安い態度で、リオは幾分落ち着きを取り戻す。その様子に、アルトもまた安堵したように柔らかく微笑んだ。
「さあ、行きましょうか。討伐が本格化すれば、あなたには天幕に籠っていただくことになりますが」
それまではどうか私の隣に、と。言ってくれたアルトの傍らに寄り添って、はい、と。リオは素直に頷いた。
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