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第二章
第二章第十節(海軍)
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十
河辺宛の電話は今村課長からで、総長の上奏に対して「陸軍省軍事課が絶対反対を唱えている」という内容だった。堀場の記録によれば、永田鉄山軍事課長が朝鮮軍独断出兵の件に関して、「軍務局長、軍事課長へ何ら相談もなく勝手に大臣へ報告し、総長から上奏するなど軍事課への不信任を意味するものだ」と憤慨して怒鳴り込んできたという。軍事課の体面などより、すでに動き出した朝鮮軍に対する奉勅命令の請願という重要な決断に水を差された今村は、怒りを抑えず「不信任云々とは心外だ、取り消せ」と逆ギレする。これまでうまく連携してきた陸軍中央のなかにも、亀裂が入った。
さらに甚だしいのは、陸・海軍の不統一である。
事変に際して海軍は一貫して陸軍への協力を拒んだ。
日露戦争後、陸軍は引き続きロシア=ソ連邦を仮想敵として作戦や軍備を整えてきた。一方の海軍は、アメリカ合衆国を仮想敵と定め艦隊編成を計画してきた。海軍の本音は、「とにかくアメリカを刺激したくない」の一言である。これには親英米派の西園寺公望、牧野伸顕と相通ずるものがある。事実、事変勃発後の両側近はしきりにアメリカの反応を気にした。
米国に気兼ねして海軍は満州を顧みないと悟った今村課長は二十一日午後、軍令部第一課に金澤正夫中佐を訪ね、「米国は本当に恐れるべき相手か」と尋ねる。金澤は今村に対し、細々と事由を挙げて「決して恐れるに足らない」と胸を張る。
「それなら貴官の意見を二宮参謀次長にも聞かせてもらえないか」
今村は何とか海軍を抱き込もうと、金澤の協力を求める。かてて加えて「海軍首脳部から牧野内府と西園寺公に説明してもらえると尚いいのだが」とも頼んでみた。すると金澤は、「それは自分一人の判断ではいかんともし難いので、上官に何らか進言してみよう」と約束して別れた。
これが実現すれば、宮中方面に対する工作への大きな布石となる。果たして同日、軍令部から永野修身次長が二宮次長を訪ねて来た。
「海軍として米国を恐れていないということは決してない」
永野次長は二重否定という持って回った言い回しで金澤中佐と真逆のことを話し始めた。いくら門外漢だからといってその様子があまりに白々しかったので、今村は「それは予算を確保するための方便ではないのか」と問い返す。すると次長は、「然り」と言って大笑いした。
今村からこの話を聞いた堀場は、日誌に「予算争奪のために恐米の心理を誇張して表明するなど、あまりに愚かしい。平時ですら許されるものではないのに、今回のような局面でなお尻込みするなど、まったく浅ましいとしか言いようがない」と怒りをぶちまけた。
河辺宛の電話は今村課長からで、総長の上奏に対して「陸軍省軍事課が絶対反対を唱えている」という内容だった。堀場の記録によれば、永田鉄山軍事課長が朝鮮軍独断出兵の件に関して、「軍務局長、軍事課長へ何ら相談もなく勝手に大臣へ報告し、総長から上奏するなど軍事課への不信任を意味するものだ」と憤慨して怒鳴り込んできたという。軍事課の体面などより、すでに動き出した朝鮮軍に対する奉勅命令の請願という重要な決断に水を差された今村は、怒りを抑えず「不信任云々とは心外だ、取り消せ」と逆ギレする。これまでうまく連携してきた陸軍中央のなかにも、亀裂が入った。
さらに甚だしいのは、陸・海軍の不統一である。
事変に際して海軍は一貫して陸軍への協力を拒んだ。
日露戦争後、陸軍は引き続きロシア=ソ連邦を仮想敵として作戦や軍備を整えてきた。一方の海軍は、アメリカ合衆国を仮想敵と定め艦隊編成を計画してきた。海軍の本音は、「とにかくアメリカを刺激したくない」の一言である。これには親英米派の西園寺公望、牧野伸顕と相通ずるものがある。事実、事変勃発後の両側近はしきりにアメリカの反応を気にした。
米国に気兼ねして海軍は満州を顧みないと悟った今村課長は二十一日午後、軍令部第一課に金澤正夫中佐を訪ね、「米国は本当に恐れるべき相手か」と尋ねる。金澤は今村に対し、細々と事由を挙げて「決して恐れるに足らない」と胸を張る。
「それなら貴官の意見を二宮参謀次長にも聞かせてもらえないか」
今村は何とか海軍を抱き込もうと、金澤の協力を求める。かてて加えて「海軍首脳部から牧野内府と西園寺公に説明してもらえると尚いいのだが」とも頼んでみた。すると金澤は、「それは自分一人の判断ではいかんともし難いので、上官に何らか進言してみよう」と約束して別れた。
これが実現すれば、宮中方面に対する工作への大きな布石となる。果たして同日、軍令部から永野修身次長が二宮次長を訪ねて来た。
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