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第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第八節(肩透かし)
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八
ところでスチムソン国務長官は、自分の発した声明がすぐさま各国の同調を得られるものと決め込んでいたようだ。
彼の著書、『極東の危機』には国際輿論の力で日本の動きを封じ込められる--とのご高説が出てくる。
「他の世界各国がわれわれの行動に参加してこの教理を確立するならば、その教理の可能性はさらに大きいだろうということを討議し始めていたのである。侵略の成果に対する不承認通告の威力は全世界が協力を与える場合には単に一国の手によって行われるよりもはるかに有力な妨害的影響を侵略者に与えるであろうことは明白である」
ではその通告に、実際の国際輿論はどう呼応したかと言えば……。
頼りの英国は自らも揚子江流域に勢力圏を抱え、なおかつ宗主国としてオーストラリアやインドの離反を招くような話には加担したくない--との“お家事情”があって、スチムソン長官の提唱にはなびかなかった。
『ロンドン・タイムス』などの新聞輿論も、「中国の行政的保全は理想であって現実ではない」と、政府の態度を支持した。
片やフランスは鼻から自国の意思を示すつもりはなく、イギリス政府の判断に便乗する腹だったし、イタリア、オランダ、ベルギーも相次ぎ対日抗議の表明を見送った。
一月六日付の新聞に「政府はこれからすごい声明を出すゾ!」--と予告して、鳴り物入りで公表したはずだった「スチムソン・ドクトリン」だったが、蓋を開けたら各国の肩透かしにあった。
史実に照らすならば、「ドクトリン」を公表した長官は、ただ独りぽつねんと取り残されたのである。
昭和七年一月の初旬と言えば、一月後にジュネーブで開かれる「一般軍縮会議」を前にした極めて微妙な時期に当たる。そんなタイミングでわざわざ日本の国論を硬化させるような声明を発するなど、やはりこの人物の政治センスを疑わざるを得ない。
そうした事情も踏まえて清澤は、国務省の覚悟の程を喝破して見せた。
「対日抗議には国務省として『輿論を動員する』以上に出でないであろうことは、米国の東洋政策に注目するものの疑えないところだ」
ところでスチムソン国務長官は、自分の発した声明がすぐさま各国の同調を得られるものと決め込んでいたようだ。
彼の著書、『極東の危機』には国際輿論の力で日本の動きを封じ込められる--とのご高説が出てくる。
「他の世界各国がわれわれの行動に参加してこの教理を確立するならば、その教理の可能性はさらに大きいだろうということを討議し始めていたのである。侵略の成果に対する不承認通告の威力は全世界が協力を与える場合には単に一国の手によって行われるよりもはるかに有力な妨害的影響を侵略者に与えるであろうことは明白である」
ではその通告に、実際の国際輿論はどう呼応したかと言えば……。
頼りの英国は自らも揚子江流域に勢力圏を抱え、なおかつ宗主国としてオーストラリアやインドの離反を招くような話には加担したくない--との“お家事情”があって、スチムソン長官の提唱にはなびかなかった。
『ロンドン・タイムス』などの新聞輿論も、「中国の行政的保全は理想であって現実ではない」と、政府の態度を支持した。
片やフランスは鼻から自国の意思を示すつもりはなく、イギリス政府の判断に便乗する腹だったし、イタリア、オランダ、ベルギーも相次ぎ対日抗議の表明を見送った。
一月六日付の新聞に「政府はこれからすごい声明を出すゾ!」--と予告して、鳴り物入りで公表したはずだった「スチムソン・ドクトリン」だったが、蓋を開けたら各国の肩透かしにあった。
史実に照らすならば、「ドクトリン」を公表した長官は、ただ独りぽつねんと取り残されたのである。
昭和七年一月の初旬と言えば、一月後にジュネーブで開かれる「一般軍縮会議」を前にした極めて微妙な時期に当たる。そんなタイミングでわざわざ日本の国論を硬化させるような声明を発するなど、やはりこの人物の政治センスを疑わざるを得ない。
そうした事情も踏まえて清澤は、国務省の覚悟の程を喝破して見せた。
「対日抗議には国務省として『輿論を動員する』以上に出でないであろうことは、米国の東洋政策に注目するものの疑えないところだ」
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