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第十六章・成都
第十六章第十五節(鬼神)
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十五
暴徒に身ぐるみ剥がされ半裸のまま旅館の外へと引き出された田中は、路上で再び殴る蹴るの暴行を加えられた。意識が次第に遠のいた--。
しばらくして正気付くと、横倒れになった田中の顔を覗き込んだ男が「こいつ、まだ生きてるぞ」といって、蹴り上げてきた。田中は頭を抱え、身を丸くしてふたたび暴徒のなすがままになった。
ズタボロになって再び気を失いかけたところに、再びおっとり刀で公安局員がやってきて田中を抱き起した。公安局員は自分が乗ってきた人力車に田中を乗せ、ようやく病院へ運んでくれた。
「助かった」--。
安堵したのも束の間、群衆は病院へも押しかけズカズカ病室へ上がり込んだ。しかも仰臥する田中の顔を覗き込み、口々に何やら言ってきた。幸いとくに手出しまではしてこなかったが、いつまた狂暴化するかもしれない気運だった。
さすがに医師も心配になったようで、田中を担架に乗せて督弁公署へ搬送させた。公署に着くと、ベッドの上には毛布にくるまったまま呻いている者がいた。
瀬戸だった--。
独り旅館に残った渡邉洸三郎は、暴徒から奪い取った、二尺あまりの棍棒を振り回しながら暴徒と格闘していた。服はすでにボロボロに破れ、全身血みどろとなった彼は鬼の形相で旅館の入り口に仁王立ちした。鬼人のようなその姿に、群衆は後ずさりした。
ひるんだ群衆の中から「まだ日本人が生きているぞっ」という声がして、勢いを得た者たちが再び洸三郎へ襲いかかった。
孤軍奮闘する洸三郎の腕はすでに疲れ果て、意識は朦朧としてきた。最後の力を振り絞って襲いかかる暴徒に抵抗した。何人かをその場に倒しながら血路を求めて瀬戸と反対の方角、つまり騾馬市街を右へ折れる方へ一目散に駆け出した。それが運命の別れ道となった。
先刻外へ飛び出した瀬戸は、路地を左へ左へと向かった。そちらの群衆は比較的少なかったので、いくつかの一団とは遭遇したものの何とか逃げおおせられた。
ところが、右の街路には続々と集まった群衆が十重二十重に陣をなしていた。洸三郎はその真っただ中へ飛び込むこととなった。
暴徒に身ぐるみ剥がされ半裸のまま旅館の外へと引き出された田中は、路上で再び殴る蹴るの暴行を加えられた。意識が次第に遠のいた--。
しばらくして正気付くと、横倒れになった田中の顔を覗き込んだ男が「こいつ、まだ生きてるぞ」といって、蹴り上げてきた。田中は頭を抱え、身を丸くしてふたたび暴徒のなすがままになった。
ズタボロになって再び気を失いかけたところに、再びおっとり刀で公安局員がやってきて田中を抱き起した。公安局員は自分が乗ってきた人力車に田中を乗せ、ようやく病院へ運んでくれた。
「助かった」--。
安堵したのも束の間、群衆は病院へも押しかけズカズカ病室へ上がり込んだ。しかも仰臥する田中の顔を覗き込み、口々に何やら言ってきた。幸いとくに手出しまではしてこなかったが、いつまた狂暴化するかもしれない気運だった。
さすがに医師も心配になったようで、田中を担架に乗せて督弁公署へ搬送させた。公署に着くと、ベッドの上には毛布にくるまったまま呻いている者がいた。
瀬戸だった--。
独り旅館に残った渡邉洸三郎は、暴徒から奪い取った、二尺あまりの棍棒を振り回しながら暴徒と格闘していた。服はすでにボロボロに破れ、全身血みどろとなった彼は鬼の形相で旅館の入り口に仁王立ちした。鬼人のようなその姿に、群衆は後ずさりした。
ひるんだ群衆の中から「まだ日本人が生きているぞっ」という声がして、勢いを得た者たちが再び洸三郎へ襲いかかった。
孤軍奮闘する洸三郎の腕はすでに疲れ果て、意識は朦朧としてきた。最後の力を振り絞って襲いかかる暴徒に抵抗した。何人かをその場に倒しながら血路を求めて瀬戸と反対の方角、つまり騾馬市街を右へ折れる方へ一目散に駆け出した。それが運命の別れ道となった。
先刻外へ飛び出した瀬戸は、路地を左へ左へと向かった。そちらの群衆は比較的少なかったので、いくつかの一団とは遭遇したものの何とか逃げおおせられた。
ところが、右の街路には続々と集まった群衆が十重二十重に陣をなしていた。洸三郎はその真っただ中へ飛び込むこととなった。
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