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第1章 誕生

子供のあるべき姿

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〈母親視点〉

この子は生まれて一ヶ月で文字を読んでいた。
いや、ただ眺めているだけなのかも知れないが、
確かにあの子は自分の生年月日や名前を見ていた。

最初は別に気にも留めなかったが、それからというもの
私の目を見て何かを言おうとしたり、
別の子の名前を見ていたり、
外を眺めて指差したり、
何かを考えて行動している様だった。

そして、ある日、神核は本に目を付けた。それもかなり分厚い。
神核はまるで貸してくれと言っているかのように、指を指して唸った。
直ぐに飽きるでしょと言って、その本を貸してくれた。
私も、そうねと言って笑った。

しかし、彼は一ヶ月もその本を読んでいた。時々私の腕を摘んで指を指す。

これはどういう意味?と言っているかのように。
その都度私は細かく教えた。すると納得した様に頷いてまた本を読む。

さらに驚く事に、発音の練習も同時に行っていた。
神核は次々に身の回りの物を言えるようになった。
まだ「さしすせそ」が言えなかったり、鈍ったりはするものの、大したものだった。

私はこの子を、文字どうり天才だと確信した。




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〈神核視点〉
本を読んでいるうちに分かった事は多かった。
その内、自分と関係のある事を頭でピックアップしてみる。

まず、何故自分が上手く話せないのか。
歯がないからだ。自分には歯がないから上手く舌が使えないのだ。

次に、僕が今まで学んでいたのは「日本語」と言う言語だそうだ。
他にも言語は沢山あるのだそうが、その国の言葉だけ話していれば問題無いらしい。

最後に、これが一番謎だ。
赤ん坊が物事を考え始めるのは、物心と言うものがついてからだそうだ。
その本の一文を引用すると、

『物心ついた時には既に、ラケットを持たされていた』

とある。
これはきっと、『自分がラケットを持ってスポーツをしている。』
という単純な考えであって、それ以上の事は考えられていないのだろう。
だから3、4歳くらいの年齢だと推測した。

だが、他の本にはこれとは違う書き方をされていた。

『物心というのは、何時もと少し違う事をしている。
きっと事情があるのだろう。まぁいいや。』

とい風に前者より細かく考えられている。
これは小学生くらいの年齢だという事が推測される。

つまり、その情報が確実に正しいという事はないという事なのだ。それを身を以て知った。
なんてったって僕は今、物心がつく年齢ではないのに、こうしてごちゃごちゃと考えているのだから。




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〈サタン視点〉異世界にて〉〉

俺は彼女を殺してから数週間で、消されてしまっていた魔物を復活させた。
生憎彼女の仲間三人を殺し損ねたが、まぁ良い。
仲間を置いて逃げる奴等など所詮雑魚である。戦ってみてもそうだった。

この魔王城も彼女によって崩壊していたが、
魔物達が責任を持って建て直してくれた。前よりも立派になった。
と、思いたい。
今はまだ完全に立て直ったというわけではないらしく、
厚い土の壁で覆われている。
この壁が取れるまで俺は空中で静止し続ける。

力を完全に取り戻すには、城の内部にある魔結晶で回復するか、
根気良く待つ他ない。

「と言うわけで、トミナ。お前があの子供とやらの偵察に行って来い」

「はい。かしこまりました。私(わたくし)が全身全霊をかけて、魔王様をお守り致します。」

トミナというのは、ヴァンパイアの血を持つ魔物だ。
彼は無駄に言葉使いが丁寧だが、声とトーンの所為で挑発しているように聞こえてしまう。
それが敵を集めてしまう要因であるが、信頼は出来る。

常にニヤニヤしていて、その表情には、

自分はこれから起こる事全てを把握している。

そう読み取れない事もない。
とにかく彼は不思議なのだ。

で、彼が偵察に行ったのは、彼女の生まれ変わりとなる子だ。
最後に言ったあのセリフには、何か不安を感じさせる。
魔王たる者、堂々としているべきだが、何かが引っかかる。

もし、彼女が呪文で魂だけの存在となり、
その子を支えているとしたら……事態は大変悪い方向へと進んでしまう。

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