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世界を越えて大婚活!-神様相手に婚活します-№2

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話し合いから三日後
ついに『婚活パーティー』の日が来た。
前日からそわそわしているせいか、葉月はアラームより1時間も前に目を覚ましてしまった。
落ち着かないものだから集合場所に30分前に着いて時計とにらめっこしていた。
「早く着すぎたけど、待っているのつらいー」
15分ほど経つと高坂が小走りして近づいてきた。
「崎山さん、早いですね
僕が一番かとおもったのに」
「いやー、目覚ましより1時間早く起きちゃったから支度も早くしちゃって」
決まり悪そうな顔をしている葉月に高坂はくすりっと笑い返した。
「人気のある崎山さんらしいな
そういう所が可愛いんだって男性社員の間で言われているんですよ」
「え!そうだったんだ
あはは・・・」
照れ笑いをして落ち着いてきていると「おーい」とかけ声をして歩いて来る安藤の姿を二人で見つけた。
「二人とも早いな、少し早いが『パーティー』の集合場所に向かうか」
「はい」
「わかりました」
三人揃って足並みを合わせて歩いていった。
これから向かう「月夜公園」は少し小高い傾斜地の住宅街の外れにあり、子供たちの遊び場である。
十五夜の時期にはお月見のイベントが行われるくらいの月や星の天体観測に向いてる場所なのである。
「公園が集合場所だからバスで会場に向かうんですかね?」
「普通に考えたらそうなんだよな
でも、腕輪と連絡の方法とかがあるから何がおきるがわかんないな」
葉月はある事を想って口を開いた。
「あの、二人は『結婚相談所』や『出会いバー』に行った事ってあります?」
「ない」
「ないです」
「やっぱり、私はそれを考える前に向こうから勧誘されたからなんかよく分からない所があって・・・」
安藤は葉月の言葉に考えを巡らせて目を上に向けている。
「俺は上司や親から見合いをさせられていたから相談所や婚活は消極的だったな
相手はみんな年下の体格がスリムか肉付きがちょっぴりいいだけの女で・・・」
思い出して顔をムッとしている安藤に同情していた高坂も口を開いた。
「僕は、新宿の二丁目に入った事すらないんだ」
「ええっ!一度も?」
「うん、一度も
ゲイが集まる界隈に近づこうとすると女性が押しかけて来るものだからいつも逃げ帰るしかできなかっただよな」
げんなりして深い溜息を出していた。
「俺とこいつが誰にも打ち明けられなかった事を話しあったのは女達から逃げている時に一緒になったのがきっかけでな
内容は違うけど同じ苦労をしあっているなと意気投合したんだ」
「なんか二人の話を聞いていると私の恋愛運が無いことが小さく感じるな」
「崎山さんはお見合いをした事は?」
「ないです。
弟は普通に彼女を作っているし、両親も結婚するのが30代の時だから私に慌ても仕方ないぞって言ってくるくらいで話にならないですね」
から笑顔で渋い笑い声を出す葉月だった。
「こうも同じような目にあっているとはな、俺達似た者同士なのかな?
・・・あっ、見えてきたな『月夜公園』」
坂の上にある門と名札が確認出来る所まで喋りながら着いた。
門の横にある柵の所で公園の中をのぞき込む少女が立っていた。
「あの子、どうしたんでしょう?」
「聞いてみるか」
少し早歩きをして近づいていった。
「おい、君
どうかしたのかい?
そんな所で」
「あ・・・・えっと、ここが集合場所だって言われて・・・」
振り返ったその子は中性的な顔立ちで服装も可愛らしいが体つきが細すぎる印象をしていた。
右の手首には銀色に輝く腕輪が嵌まっていた。
「君も『婚活』の参加者なの?」
「あ、はい
『婚活』・・・・それじゃあ・・・・」
「うん、僕達も参加者だよ」
ぱあっと明るい顔をして喜んでいる子の笑顔はほっこりとさせられた。
「よかったー、一人でここに来たから不安になっちゃたんです
他にワケ知っている人いなかったから」
「分かる、私も同じ想いしたわ
大丈夫なのかなーって不安だったもん
課長が『参加者』だってわかってすごく安心したもの」
うん、うんと頷き合う安藤と高坂だった。
「君の名前は?」
「あ、はい!
高良 樹です
大河高校の三年生です」
「大河高校・・・!僕の卒業校!」
「お前の後輩になるのか
高良君は」
「そうなんですけど、男子校なんですよ
母校(そこ)は」
葉月と安藤は一瞬、固まってしまった。
「へ・・・・?男の子・・・?」
「マジでか?」
高良は困った顔をしながらカラ笑いをした。
「よく、言われます
顔立ちが祖母に似ているから学ラン着ていても『女子でしょ』って間違われるんです
服装も見た目じゃなくて着心地で選んだらカワイイ系になっちゃて」
「あー、最近の若い子向けはカワイイ系ばっかりだもんね
弟もよく愚痴っているから」
「男物は当たりはずれの年がはっきりしていてワンパターンだからね」
「立ち話もなんだ
公園の中入って待ちながら話をしよう」
「あ、そうですね」
安藤が先頭で門を通っていき、葉月は後についていく。
高坂が高良を促して敷地に入っていくが周りに自分達以外の人物がいないのに気付く者は
いなかった。
公園から5kmほど離れている空に浮いているモノは悔しがる顔をしながら近づくことの
出来ない公園を見ていた。

「・・・で、高良君はどんな経緯があって参加になったの?」
公園の中央にある四阿のベンチにやってきた四人はさっそくと話し始めた。
「あ、はい・・・
実は、昨日の夕方学校帰りに同級生に追いかけられているのを助けてくれたのが
『パーティー』の開催役員さんだったんで参加させてもらう事になって・・・」
「同級生に?
いつもそんな目に遭うのかい?」
高良は首を横に振る。
「いえ、ここ数日急に強引に遊びに行こうだの、寄り道しようなど言ってくる様になって
変だとおもって避けようとしたら追いかけられる事に・・・」
「なんだろ、僕と似ているな
僕も二ヶ月前から急に強引な女性が寄って来るようになったんだよ
安藤さんも同じ頃ですよね?」
「ああ、女が声をかけてきて無理やりまではいかなかったがしつこかったな」
「でもそれって、腕輪をもらってからなくなったんですよね?」
「そう、一ヶ月半前に役員の人に会ってね
突然おかしくなったのが収まって安心して気付かなかったけど不思議な人だったのは
よく覚えているよ」
「気づいたらそこにいた、だったからな
助かったけどな」
安藤の言葉に高良も同意して頷く。
「助けてくれた役員さんに匿ってくれて『特定の相手』がいればこんな目に遭う事もなくなるって
言ってもらったから参加を決めてよかったですよ
僕みたいな未成年にどうなんだろうって思うけど背に腹は代えらません」
数日でその考えに至るほどの目に遭ったんだなと想う社会人3人だった。
「ご会談の所、失礼いたします」
突然声をかけられてビクりと驚く4人の目の前にテーラー服の男性が立っていた。
「会員の安藤様、高坂様、高崎様、そして高良様で宜しいでしょうか」
「はい、そうです」
4人の代表をして葉月が受け答えた。
「わたくし、皆様を会場にご案内いたします ”セルド”と申します
以後、皆様の担当を務めますので宜しくお願い致します」
長い青色の髪を背中で一つに束ねて、すらっと通った鼻筋と凛々しい眼つきがイケメンと
言っても文句がない程だった。
高坂がポーっとして見蕩れていたのを安藤が「おっ」と気付いた。
「それでは、これから会場へ向かいますので私についてきて来てください」
後ろに振り返って歩き始めたのを高良と葉月は続いていく。
安藤も歩いて行こうとする中、高坂の肩を叩いた。
「見蕩れる程のタイプなのはわかったから行くぞ
これからアッタクするチャンス、頑張って作れよ」
「あ・・・・、はい」
正気になって安藤の後を追って歩く高坂だった。
公園の中央辺りの広い場所に歩いていって立ち止まったセルドは右手を前に出すと、
手の平から淡い光が出てきた。
光は立てに広がるように輝いていき、そこに両開きの白い扉が現れた。
「え!どうなってるの?
夢・・・?、痛い!」
自分の頬を引っ張ってみる高良ににっこりと笑っているセルドは
ドアノブに手をかけて扉を開けて横に控えた。
「どうぞ、お入りください
お進みいただければ会場に着きます」
「わかりました
ほら、高良君行こう」
不安げな顔をしている高良の手を握って扉の中に入っていく葉月と
目を見合って入っていく安藤と高坂の後に扉を閉めながらセルドも入っていった。
閉じられた扉は淡い光を放ちながら消えていくのであった。

「―----ッ、キイイイイイー----!!!
悔しいー---!!邪魔しやがって!!
もう少しで捕まえられたのに!!
あたしの”花嫁ちゃん”!
こーなったら何が何でも”3人とも”手に入れてやるー---!!」
喚き立てている濃い髭を顔に生やしている、
ムチムチ筋肉の体格にフリル付きのレオタードを着ている大男が
空の上で暴れているのを鳥が避けている気付く人間はいなかった。

        2・了
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