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一章.サロン・ルポゼでハミングを

一章 サロン・ルポゼでハミングを⑨

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「いっ……」

 芝野宮がビクッと反応する。
 だが、すぐにまた目を瞑り、寝息を立て始めた。
 中指から小指にかけての付け根のライン。ここにグッと優しく圧をかけていった際に見られた反応。
 このラインは、目や耳と反射していると言われている。

 スイは、さっき芝野宮が言っていたことを思い出した。
 新人の子……。

 やはり、この感覚器官に反応があるということは、相当敏感になっているということだ。
 目と耳で新人の子の動きを感知してしまう。
 そしてその行動がいちいち癪に障ってしまい、イライラが募る。

 何でそこまでイライラするのだろうか。
 最初から仕事ができないのは、ごく当たり前なはずなのに。
 言われたことをガムシャラにこなそうとして、結果的にできなかっただけじゃないのか? それとも、男にはわかり得ない感情なのか……。
 指を動かしながら、スイは頭の隅の方で、芝野宮の発言の意図を考え込んでいる。

 思えば、芝野宮は息子に対してもイライラが募っていた。
 期待通りの道を歩かなかったからか。
 でもその新人の子と似ていて、男らしくないと言っていた。

 何がイライラの原因の根本なのか、スイは自分なりに整理をしてみた……。
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