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一章.サロン・ルポゼでハミングを

一章 サロン・ルポゼでハミングを⑫

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 足裏全体を包むように。
 そして、手と足が最後のお別れをするように。

 時計の針がちょうど一周したと同時に、スイは芝野宮の名前を呼んだ。
 この瞬間は少し、緊張感が走る。
 急に起こされたら、ビクッとしてしまうお客様がほとんどだからだ。

「芝野宮様、お疲れ様でした」

「……ん? あぁ、もう終わり?」

「六十分経ちました」

「本当? ぐっすり眠ってしまったわ」

 びっくりはされなかったようで、スイは思わず胸を撫で下ろしてしまった。
 その様子に気づいていない芝野宮は、目を擦りながらのそっと起き上がる。
 この寝起きの瞬間は、頭がボーっとしてしまう人が多い。

「気持ち良かったわぁ。六十分なんてあっという間に感じるわね」

 天井に手がつくんじゃないかという勢いで、思いっきり伸びをする。
 追いかけるようにゆっくりと、リクライニングチェアの背もたれが直角に戻った。

「いかがでした?」

「気持ち良かったわ、特に踵周りが」

「踵周りですね」

 待ってましたというように、反応があった部分の振り返りが始まる。
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