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二章.サロン・ルポゼのクリスマス

二章 サロン・ルポゼのクリスマス③

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「まだ予約の時間までは結構あるから大丈夫ですけど……でもわかってるんです。私なんかが好きになってはいけないことくらい」

「どうして?」

「え、だって……スイさんには彼女さんがいるじゃないですか」

 これは、みなみが口に出したくはない現実だ。
 それは、スイには大事な彼女がいるということ。
 みなみが胸の中で、スイのことを思えば思うほど辛くなってしまう。
 施術前に受付まで優しく話をかけに来てくれる時も、スイからしたらただの同僚なのに、もしかしたらいつか振り向いてくれたり……なんて淡い期待を抱いてしまう。
 みなみは、そんな自分がもどかしくて、傲慢にも感じて、これ以上自分を嫌いになりたくない一心で、何とか気持ちを押し殺していた。

「私なんかって……そんなマイナス思考、井手っちには似合わないぞっ」

「あ、すいません! 暗くなっちゃいました」

「いいのよ。確かに、スイ君には大事な彼女がいるわよね。どんな人か知ってる?」

「あ、いいえ! 全く知らないです!」

 実は、スイに彼女がいるとみなみに教えたのは、江頭オーナーだった。
 江頭オーナーはみなみに教えたことを忘れているみたいだけど、その点をみなみが指摘することはない。
 ちょうどその時は、会話の流れでフワッと言っていただけだから、詳細までは聞くことができなかった。
 ただ、スイへ芽生えてしまった片思いの気持ちを、そっとしまっておこうと決意した、忘れられない瞬間だったのを、みなみは記憶している。

「スイ君の彼女はね、同じセラピストなの。歳は一個上だけど、セラピスト養成学校時代の同期の子よ。井手っちも今通っているでしょ?」

「養成学校ですか……。はい、施術を実際にするには、資格がなければいけませんからね。私も今、スイさんと同じ学校に通ってます」

「スイ君、最初このサロンにお客様として来たんだけどさ、ほら、お母様のこと、私言ったでしょ?」

 スイの母が、倒れてしまったこと。
 そして、このサロンに救われたこと。
 そのことは、今でもスイと江頭オーナーがいい思い出として語っている。
 いつも江頭オーナーが『私があなたを救ったんだからね』と、スイに厚かましく言っており、みなみは二人の笑い合っている姿を、何とも愛おしく感じていた。
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