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二章.サロン・ルポゼのクリスマス

二章 サロン・ルポゼのクリスマス⑨

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「肩こりが酷いとありますね。こちらはやはりお仕事柄ですか?」

「そうなんですよ。子供を抱えたりすることが多いので、肩は凝っちゃいますね。でももう慣れたので、ちょっと気になる程度です」

 気になる程度……核心に迫れた感触はないけど、一応チェックをつけておく。おそらく、本題はこれじゃない。
 そうなると……気になる点は一つだけだ。その他の欄に書かれた、異彩を放っている文字。
 『精神的にショックを受けています』という一文に、触れないわけにはいかない。
 スイは満を持して聞き出してみた。

「精神的にショックを受けているとありますが、差し支えなければお聞きしてもいいですか?」

「その、実は昨日……五年付き合った彼と別れたんです」

 彼氏との別れ……スイも心の片隅で、もしかしたら恋愛関係が原因なのではないかと、若干勘づいてはいた。
 黒縁眼鏡でごまかしてはいるが、目がはっきりと腫れている。
 昨日は一晩中泣き腫らしたのであろう。
 深く聞き出すのはスイも胸が痛いが、スムーズに施術を行うため、慎重に会話を進めた。

「昨日ですか……あの、どうして」

「浮気されたんです。クリスマスだっていうのに。街で彼氏と知らない女が歩いているところを見たって友達に聞いて、問いただしたら白状しました」

 今にも泣き出しそうな顔をしている。
 一日経ってもまだ、怒りや虚しさは消えていないみたいだ。
 五年という月日が、たった一日で壊れるなんて。
 同情したら、余計に悲しませてしまうかもしれない……スイもそれがわかってはいるけど、合わせるように神妙な面持ちを作ってしまった。

「彼、年下だったんですけど、すごい仕事熱心だし頼りがいがありました。結婚もこの人とするんだって思ってました。でも浮気相手、その彼よりもさらに年下で。なんか惨めになっちゃって……ご飯作ったり肩揉んであげたり、散々尽くしてきたのに、結局若い子が良いのかって……」
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