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二章.サロン・ルポゼのクリスマス
二章 サロン・ルポゼのクリスマス⑭
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有森が両手で持っていたハーブティーからは、湯気が消えていた。
その熱気がスイに移ったかのように、我を忘れて熱弁している。
「でも……自分を大切にしてあげてください。誰かを思うことは素晴らしいことです。ですが自分を犠牲にして壊れてしまったら、元も子もありません。たまには誰のためでもなく、自らの身体を敬ってあげて欲しいと思いました。申し訳ありません、出過ぎたことを言って」
さっきまで一筋だった有森の涙が、大粒に変わっていった。
気づいていないフリはできないほどの量なので、スイがそっと箱ティッシュを渡す。
泣かせてしまったみたいで悪い気がしてきたスイは、頭を下げながら『すいません』を連呼した。
「いや、私……ここに来てよかったです。施術でこんなにも自分のことを言ってもらえるなんて、思わなかったので。なんか失恋したことも、今日がクリスマスイブだってことも、全部吹き飛びました。しばらくは一人で自分を見つめ直したいと思います」
涙を拭き取ったティッシュを手に握りながら、施術中は外していた黒縁眼鏡をかけなおす。
心なしか、スイの目に映る有森の顔色が、ほんのり明るくなって見えた。
プラスになったみたいで、スイは思わず安堵の表情をこぼしてしまった。
その表情に勘づくことなく、有森がチェアを立ってお辞儀をする。
「今日は本当に救われました。また来させていただきますね。その時はまた、新しい彼氏が出来てたらいいんですけど」
ーー救われました。
その言葉の響きが、スイの頭の中を駆け巡る。
最初、江頭オーナーのリフレクソロジーに救われて、スイもこうなりたいと思って始めたこの道。
今は、スイ自身が人の気持ちを救う立場になっている。
その現状に幸福感と不安を抱き、クリスマスの世界へ有森を送り出した。
その熱気がスイに移ったかのように、我を忘れて熱弁している。
「でも……自分を大切にしてあげてください。誰かを思うことは素晴らしいことです。ですが自分を犠牲にして壊れてしまったら、元も子もありません。たまには誰のためでもなく、自らの身体を敬ってあげて欲しいと思いました。申し訳ありません、出過ぎたことを言って」
さっきまで一筋だった有森の涙が、大粒に変わっていった。
気づいていないフリはできないほどの量なので、スイがそっと箱ティッシュを渡す。
泣かせてしまったみたいで悪い気がしてきたスイは、頭を下げながら『すいません』を連呼した。
「いや、私……ここに来てよかったです。施術でこんなにも自分のことを言ってもらえるなんて、思わなかったので。なんか失恋したことも、今日がクリスマスイブだってことも、全部吹き飛びました。しばらくは一人で自分を見つめ直したいと思います」
涙を拭き取ったティッシュを手に握りながら、施術中は外していた黒縁眼鏡をかけなおす。
心なしか、スイの目に映る有森の顔色が、ほんのり明るくなって見えた。
プラスになったみたいで、スイは思わず安堵の表情をこぼしてしまった。
その表情に勘づくことなく、有森がチェアを立ってお辞儀をする。
「今日は本当に救われました。また来させていただきますね。その時はまた、新しい彼氏が出来てたらいいんですけど」
ーー救われました。
その言葉の響きが、スイの頭の中を駆け巡る。
最初、江頭オーナーのリフレクソロジーに救われて、スイもこうなりたいと思って始めたこの道。
今は、スイ自身が人の気持ちを救う立場になっている。
その現状に幸福感と不安を抱き、クリスマスの世界へ有森を送り出した。
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