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八章.サヨナラ

八章 サヨナラ③

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 自分の弱い部分は必死に隠して、周りに迷惑をかけないように明るく接する。
 これが、みなみの特技になってしまった。
 自分が傷つくよりも、相手に傷つけたと思ってほしくない。
 みなみ自身も、我ながら損をしている性格だと実感している。

”カランコロン”

 濃い話に一区切りがついたところで、思わぬ来客者が現れた。

「今日は空いているのね」

「ユア!? どうしたんだよ急に?」

 外は暑いはずなのに、汗を一つもかいていない。
 日傘をゆっくりとたたみ、ユアは涼しい顔で挨拶を始めた。

「お久しぶり。今日は休みって言ったでしょ? たまたま近くを通ったから来てみたのよ」

「休みとは聞いていたけど、また飛び込みで来ちゃってさ」

「今日は平日でしょ? どうせそんな混んでいないと思ってね」

「何だよそれ」

 前よりもスムーズな会話が目の前で展開されて、みなみは少しホッとできた。
 お通夜の時から、二人が上手くいっているか密かに心配していたけど、ちゃんと進んでいるみたいだ。
 みなみも、何で応援しているかはわからないけど、スイの母の死をきっかけに関係が壊れるのは、どうにも居た堪れないと思っていた。
 そんな感情が、みなみの中に存在しているのだ。

「みなみさん、こないだはありがとう。施術は慣れてきた?」

「はい! 施術回数も増えてきたので、徐々に慣れてきました」

「それは良かった。これから繁忙期だからね、頑張りましょうね!」

 ユアが丁寧に話を振ってくれて、みなみも清々しく答えられる。
 ユアのその余裕を、みなみは何度羨ましいと思ったことか。
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