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八章.サヨナラ

八章 サヨナラ⑩

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 そう……スイはわかっていた。好きで付き合ってくれていたわけじゃない。
 そんな自暴自棄なスイを、放っておくことができなかっただけ。
 わかっていたけど、それを愛情と捉えることで、スイの心が安定していたのも事実。
 スイは、そんなスイを支えてくれるユアを、心から愛していた。
 だけど年月が経って、セラピストとしてお互いが成長するうちに、遠慮し始めたのだろう。

「ユア、いつもは照れるから言わないけど……これからもよろしくな」

 今まで伝えられなかった愛情は、ただ恥ずかしかったからではなくて、そんなユアの心情を察していたから。
 お互いに本人には伝えられない本音があるはずだけど、たとえ成り行きがそうさせたとしても、今はその気持ちを伝えたかったのだ。

「うん……」

 歯切れの悪い返事に疑問が浮かぶけど、改まってこういうことを言うのは慣れていないスイは、切り替えるようにして最後のリラックステクニックを施した。
 時間はちょうど六十分。
 もちろんユアは、そのリラックステクニックが終了の合図なことを把握している。
 静かにユアの足からスイの指先が離れると、ユアは口を小さく動かして『ありがとう』と言った。
 
「そのままで待ってて、今奥からハーブティー持ってくるから」

「ちょうどいい温度で作ってね」

「わかってるよ」

 ユアは、スイがハーブティーを作るのが、上手でないことを知っている。
 つい熱過ぎるように作ってしまうところを、何回も見ているからだ。
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