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九章.タビダチ

九章 タビダチ⑭

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 ユアの後押しに救われて、協会へと続く青山通りを駆け抜ける。
 スイに何て言おうかなんて、いちいち纏めてはいられない。
 とにかく、今すぐにでもスイに会いたい……。
 会って想いを伝えたい……。
 そんなことを考えながら全力で走っている中で、みなみは今、通勤途中であったことを思い出した。
 ポケットからスマホを取り出すと、そこには江頭オーナーからのメールが。

 『今すぐ協会に向かいなさい。サロンに来ても中に入れないからね』

 江頭オーナーにはそぐわない、高圧的な内容だった。
 状況は、すでに把握しているみたいだ。
 こうでもしないと、スイのもとへ行かないと思ったのだろう。
 だけど……みなみにもう迷いはない。右往左往していた気持ちにも、ようやく正直になれたのだ。
 早く動けと、みなみは自らの足に念力を送る。

 十五分くらい走ると、まだ記憶に新しいオフィス街に到着した。
 コンペティションの日にも一度迷い込んだ、超高層ビル群だ。
 みなみは、あの時の記憶を頼りに、東京セラピー協会が入っているビルに突入した。

「お疲れ様でーす」

 涼しい顔を装いながら、白々しく受付の前を通過する。
 慣れた手つきで三十階のボタンを押すと、誰もみなみを部外者だとは疑わない。
 三十階に到着すると、みなみは理事長室の前まで足を運んだ。

「この中に、スイさんがいるんだ」

 勢いよく入り込もうとした時、中から声が聞こえてきた。
 みなみの耳に入った聞き覚えのある声は、間違いなくスイの声だ。そして、おそらく理事長であろう男の声も聞こえる。
 そーっと扉に耳をあて、みなみは聞こえてくる会話に耳を澄ました。
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