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# 秋

文化祭③

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「どうしてユウキが彼女を選んだかはわからないけど、大学生になって浮かれて彼女を作るような人じゃないことは知ってる。それなりの理由があるんだよ、きっと」

「そうだよね、ユウキ君が選んだんだよね。ナオちゃんが言われたことはムカつくけど、その彼女の全てを否定するのは違ったかも。どこか良いところがあるから、付き合っているわけだし」

「うん、だから気にするのはやめる。今まで通り、ユウキと会ったら話すし、別に好きになったりもしない。無意識に彼女と比較して、卑屈になっていた自分とはおさらばにするわ」

 入来ちゃんは私の宣言を聞いて、食後のコーヒーを全て飲み終えた。
 満足げなその表情は、私が前向きになっている証拠だろう。

 岸井さんに言われた内容がずっと気になって、日々の生活に支障が出るくらい悩んでいた。
 でも、そんなに難しいことではないのかもしれない。
 リフレクソロジストとして、ユウキと向き合うことは難しくなったけど、だったら友人として接するだけ。
 そこまで岸井さんに指摘される道理はない。
 とにかく、自分らしく生きられないと、人生がつまらなくなってしまう。

「じゃあ、千代大学の文化祭ではあるけど、ユウキ君たちのことは考えないこと。余計なことは忘れて、思いっきり戸部君と楽しんでおいで」

 入来ちゃんからの後押しで、千代大学に行くことが楽しみに変わった。
 ユウキたちのことを考えて、色々憂鬱に感じていたけど、シンプルに戸部君と文化祭を楽しめばいい。
 高ぶる感情に変わったまま日々を過ごしていると、時の流れの早さを疑うほど、あっさりと文化祭の日がやって来た。
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