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# 秋

文化祭⑤

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「そうこう言ってる間に着いたよ」

 戸部君が笑いながら指をさすと、大賑わいしているキャンパスが目の前に広がっていた。
 キャンパス前の広場では、縁日や模擬店やらで大盛り上がりをしている。
 
「じゃあ、まずは腹ごしらえからだね」

 空腹状態なことをすでに把握している戸部君が、美味しそうな香りを飛ばしている模擬店コーナーまで引っ張ってくれる。
 から揚げやホットドッグ、定番の焼きそばやお好み焼きまで、大好物なメニューが並んで目が回ってしまう。
 
「じゃあナオちゃんはここで待ってて。俺が何か買ってくるから」

「え、一緒に行こうよ」

「せっかくだしゲームしようよ。ナオちゃんの好物なものを買って来れたら、俺の勝ちね」

「何それ? 戸部君が負けたらどうなるのよ」

「うーん、じゃあ負けたら今日の分は全部払うよ。俺が勝ったら……ま、何でも言うことを聞いてくれるってことで」

「何それ!? 負けの罰の方が重くない?」

「決まりね! じゃあ行ってくる!」

「ちょ、ちょっと!」

 にこやかな顔で、人が混雑している模擬店コーナーに消えていった。
 勝手なゲームを作り出して、私を楽しませてくれようとしているのは伝わるけど、一人になるのは心細い。
 だけどこのゲーム、よく考えたら完全に私次第のゲームになっている。
 たとえ好物な食べ物を買ってきたとしても、私が違うと言えばそれが答えだ。
 相変わらず抜けている戸部君が、いじらしく思えてきた。
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